5 / 39
わけありのローマ
4
しおりを挟む「捜査の為に全生徒の身上書を確認させていただきます」
野々村が1人で壁新聞を貼り替えていた頃、武藤とまどかは朝礼前の校長室へ訪れていた。
本来は職員室で作業を行いたかったのだが、武藤ら警察の潜入捜査は一般の教師には知らされていない。下手な騒ぎを誘発するくらいなら、と校長が校長室の使用を許可したのだ。
今日の2人の服装は昨日までの学校指定の制服ではなく、動きやすさを重視した黒のスーツだった。
武藤は小脇にノートパソコンを抱え、少しでも動きやすくする為か長い髪をひっつめていた。
まどかの方はあまり変化は無いが、改造制服を着ていた時よりは若干だが大人っぽく見えるかも知れない。
やがて学校側から渡された分厚い紙のデータ。500人以上の写真の中から武藤は正確にマジボラの面々の写真だけを選り抜いていく。
『名前』『学年』『学級』『住所』を慣れた手付きでノートPCに入力していくまどか。
その先の行程は警察のデータに紐付けて本人達の補導歴はもちろん、彼女らの家族構成、そして家族の職業等を精査していく。
武藤が一番懸念としていたのは、魔法少女とヤクザやテロリストといった「反社会的勢力」との結び付きであった。
武藤自身、普段から暴力団相手の商売をしている為に、彼らの真っ当とは言えないやり口はある程度理解している。
もし魔法少女らの活動が反社会的思想の元に行われているのであれば、たとえ人助け等の行動にも必ず裏があるはずだ。
それらを突き止めずに無批判に魔法少女に飛び付く訳にもいかなかったのである。
「ふーん、今ん所ヤバい繋がりは無さそうですねぇ。どの家庭も円満そうな… あ、増田って子は事故で両親を亡くしてるんスねぇ、可愛そう…」
蘭の身上に同情し、悲しそうな顔をするまどか。そしてしんみりムードを堪能する間もなく、
「ガーン!! あの御影って女の子なのぉ?! ショックぅ~。あ、でもお兄さんがいるみたい! イケメン女子の兄貴ならイケメンですよねぇ、先輩?」
まどかの失望の嘆きと淡い希望が校長室に響き渡る。
「知らないわよ、真面目に仕事しなさいよ! …んで、あの殺人スケバンのデータは出たの?」
「えー? ちょっと待ってくださいよぉ… あれ? この『近藤睦美』って生徒と『土方久子』って生徒は… 変ですねぇ。16年前に地域に転入してきた形跡はありますが、その前の記録が転出元からも出ていません。これは不法入国の外国人の可能性がありますよ…」
『不法入国の外国人か… 最悪そっち方面で任意同行を求めて話を聞いても良い。拒否するようなら逮捕も止む無しだ…』
「そんな事よりこの2人、マジヤベーっすよ! 入学年が15年前と8年前ッス!」
まどかの驚きに武藤も同調する。とても信じられないが、あのスケバンは15年も高校生をやっていると言うのだ。
「まさか?! どういう事…?」
「事情はわかんねーッスけど、普通に留年を繰り返しているみたいッス。後見人としてアンドレ・カンドレというここの教師の名前が出てます。そしてその教師は魔法奉仕同好会の顧問だそうです。『魔法少女』に『魔法奉仕同好会』… これ私らかなーり真相に近付いてきたんじゃないスか?」
捜査の着実な手応えにニヤリとするまどか。武藤もわずかに口元が緩んでいた。
「…しかもこのアンドレとかいう教師も出生国不明ですねぇ。もぉこれまとめて入管(入国管理局)に回した方が良い案件じゃないスか?」
「バカね。国外退去にしちゃったら私らの仕事が終わらないでしょ? まずはその確実に『何かを知っている』カンドレ教諭と話をしないとね… まどか、あんたは芹沢つばめをマークしなさい。昨日みたいな事件が起きると厄介だわ」
武藤の命令だが、まどかは顔をしかめていた。
「えー? 今日学校の制服持ってきてないッスよぉ? 今から寮に行って服取って帰ってくるまで2時間かかるじゃないですかー」
「そんな事だろうと思って、乗ってきた車にあんたの部屋から持って来た制服積んでるから。さっさと行ってきな」
「ちょっ、あーしのクローゼット勝手に開けたんスか? ドロボーッスよドロボー!」
「うるっさい。マル暴のガサ入れ能力ナメんな。ほらほら行った行った。またつばめに何かあったらお前の責任だよ?」
「ううっ、国家権力のオーボーっス…」
「いや、あんたもその権力側だからね?」
漫才バトルに負けたまどかはトボトボと駐車場へと向かって行った。
☆
「イっケメン、イっケメ~ン♪」
着替えたまどかが始めに行ったのは「御影詣で」であった。
これは単に己の欲望を満たしているだけでは無い。御影とつばめは同じクラスであり、御影の近くにいればつばめの監視も困難では無い。
更に御影の取り巻きの一人としてなら他学級の生徒でも1年C組にいて怪しまれない、という利点もあった。
角倉円、バカっぽく見えても奸智の働く女である。
やがて放課後になり、つばめが蘭や野々村と合流し、マジボラ部室に入って出てきて更にサッカー見物しながら女子3人でダベって、また揃ってどこかへ行こうとしている。
「会話が聞き取れる位置を取れれば最高だったんだけどねぇ、まぁ尾行ならお手の物だよ…」
完全に気配を消す事に成功していたまどかは、ひとり密かにほくそ笑んでいた。
野々村が1人で壁新聞を貼り替えていた頃、武藤とまどかは朝礼前の校長室へ訪れていた。
本来は職員室で作業を行いたかったのだが、武藤ら警察の潜入捜査は一般の教師には知らされていない。下手な騒ぎを誘発するくらいなら、と校長が校長室の使用を許可したのだ。
今日の2人の服装は昨日までの学校指定の制服ではなく、動きやすさを重視した黒のスーツだった。
武藤は小脇にノートパソコンを抱え、少しでも動きやすくする為か長い髪をひっつめていた。
まどかの方はあまり変化は無いが、改造制服を着ていた時よりは若干だが大人っぽく見えるかも知れない。
やがて学校側から渡された分厚い紙のデータ。500人以上の写真の中から武藤は正確にマジボラの面々の写真だけを選り抜いていく。
『名前』『学年』『学級』『住所』を慣れた手付きでノートPCに入力していくまどか。
その先の行程は警察のデータに紐付けて本人達の補導歴はもちろん、彼女らの家族構成、そして家族の職業等を精査していく。
武藤が一番懸念としていたのは、魔法少女とヤクザやテロリストといった「反社会的勢力」との結び付きであった。
武藤自身、普段から暴力団相手の商売をしている為に、彼らの真っ当とは言えないやり口はある程度理解している。
もし魔法少女らの活動が反社会的思想の元に行われているのであれば、たとえ人助け等の行動にも必ず裏があるはずだ。
それらを突き止めずに無批判に魔法少女に飛び付く訳にもいかなかったのである。
「ふーん、今ん所ヤバい繋がりは無さそうですねぇ。どの家庭も円満そうな… あ、増田って子は事故で両親を亡くしてるんスねぇ、可愛そう…」
蘭の身上に同情し、悲しそうな顔をするまどか。そしてしんみりムードを堪能する間もなく、
「ガーン!! あの御影って女の子なのぉ?! ショックぅ~。あ、でもお兄さんがいるみたい! イケメン女子の兄貴ならイケメンですよねぇ、先輩?」
まどかの失望の嘆きと淡い希望が校長室に響き渡る。
「知らないわよ、真面目に仕事しなさいよ! …んで、あの殺人スケバンのデータは出たの?」
「えー? ちょっと待ってくださいよぉ… あれ? この『近藤睦美』って生徒と『土方久子』って生徒は… 変ですねぇ。16年前に地域に転入してきた形跡はありますが、その前の記録が転出元からも出ていません。これは不法入国の外国人の可能性がありますよ…」
『不法入国の外国人か… 最悪そっち方面で任意同行を求めて話を聞いても良い。拒否するようなら逮捕も止む無しだ…』
「そんな事よりこの2人、マジヤベーっすよ! 入学年が15年前と8年前ッス!」
まどかの驚きに武藤も同調する。とても信じられないが、あのスケバンは15年も高校生をやっていると言うのだ。
「まさか?! どういう事…?」
「事情はわかんねーッスけど、普通に留年を繰り返しているみたいッス。後見人としてアンドレ・カンドレというここの教師の名前が出てます。そしてその教師は魔法奉仕同好会の顧問だそうです。『魔法少女』に『魔法奉仕同好会』… これ私らかなーり真相に近付いてきたんじゃないスか?」
捜査の着実な手応えにニヤリとするまどか。武藤もわずかに口元が緩んでいた。
「…しかもこのアンドレとかいう教師も出生国不明ですねぇ。もぉこれまとめて入管(入国管理局)に回した方が良い案件じゃないスか?」
「バカね。国外退去にしちゃったら私らの仕事が終わらないでしょ? まずはその確実に『何かを知っている』カンドレ教諭と話をしないとね… まどか、あんたは芹沢つばめをマークしなさい。昨日みたいな事件が起きると厄介だわ」
武藤の命令だが、まどかは顔をしかめていた。
「えー? 今日学校の制服持ってきてないッスよぉ? 今から寮に行って服取って帰ってくるまで2時間かかるじゃないですかー」
「そんな事だろうと思って、乗ってきた車にあんたの部屋から持って来た制服積んでるから。さっさと行ってきな」
「ちょっ、あーしのクローゼット勝手に開けたんスか? ドロボーッスよドロボー!」
「うるっさい。マル暴のガサ入れ能力ナメんな。ほらほら行った行った。またつばめに何かあったらお前の責任だよ?」
「ううっ、国家権力のオーボーっス…」
「いや、あんたもその権力側だからね?」
漫才バトルに負けたまどかはトボトボと駐車場へと向かって行った。
☆
「イっケメン、イっケメ~ン♪」
着替えたまどかが始めに行ったのは「御影詣で」であった。
これは単に己の欲望を満たしているだけでは無い。御影とつばめは同じクラスであり、御影の近くにいればつばめの監視も困難では無い。
更に御影の取り巻きの一人としてなら他学級の生徒でも1年C組にいて怪しまれない、という利点もあった。
角倉円、バカっぽく見えても奸智の働く女である。
やがて放課後になり、つばめが蘭や野々村と合流し、マジボラ部室に入って出てきて更にサッカー見物しながら女子3人でダベって、また揃ってどこかへ行こうとしている。
「会話が聞き取れる位置を取れれば最高だったんだけどねぇ、まぁ尾行ならお手の物だよ…」
完全に気配を消す事に成功していたまどかは、ひとり密かにほくそ笑んでいた。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる