10 / 17
すべてのはじまり③
しおりを挟む
かわいらしい王女はお付きらしい黒髪の少女に話しかけては、楽しそうに笑っている。なんだかそこだけ淡い光に包まれているような気がした。
(……クレメンティ―ナ)
リカルドに教えられた名前が心にしっかり刻み込まれ、ロレンツォは思わず目をしばたたく。こんなことは生まれて初めてだった。
庭園には王女を取り巻く女官たちの他に、貴族の子弟らしい十数人の少年が集まっていた。
みなロレンツォより身体が大きく、少し年上に見える。リカルドは十四歳だから、たぶんそれくらいなのだろう。
「さてと、そろそろ始まるころだな。おいで、ロレンツォ」
ふいにリカルドが歩きだしたので、ロレンツォも慌てて後に続いた。
「少し遠いから、もっとよく見えるところに行くぞ」
「あ、はい」
大国の宰相の息子であるにもかかわらず、リカルドは大らかな性格で、気取ったところがない。
王子とはいえ属国から来たロレンツォにも自分を呼び捨てにさせ、弟のようにかわいがってくれていた。
「よし。ここがいい」
彼が足を止めた場所は、白い花に彩られたジャスミンの木のそばだ。
先ほどより王女との距離がずっと近くなり、なぜだかロレンツォの鼓動が少し速まった。
「おもしろい催しって何ですか?」
クレメンティ―ナに視線を奪われたまま、ロレンツォはとこかうわの空で問いかける。
「今日、この中からクレメンティ―ナ様付きの従者が決まるんだ」
「……従者?」
「そう。王女様が先月で十二歳になられたから、同じ年ごろの貴族の男子が集められたのさ。誰が選ばれるか見ものだぞ」
ロレンツォは首をかしげた。
王女に付き従うのは侍女の役目だし、身の回りの世話は大勢の女官がしてくれるはずだ。
どうしてわざわざ従者を選ぶのだろう? それに選ばれた者はいったい何をするのだろう?
「リカルドは参加しないのですか?」
「あいにく私は騎士団への入隊が決まっているから、従者になることはできない。それに」
リカルドは声を低めて、「婚約者もいるから」と頬を染めた。
「えっ、婚約者?」
「あ、おいこら! 静かに!」
慌てふためいたリカルドに口を塞がれ、ロレンツォは苦しくて手足をバタつかせる。
「ん、んん~っ!」
すると気配を感じたのか、まず黒髪の少女が、続いてクレメンティ―ナもこちらの方を見た。
「まあ、リカルドじゃないの」
二人が驚いた様子で足早に近づいてきて、ロレンツォはようやくリカルドから解放された。
「リカルド!」
ごく親しい間柄なのか、クレメンティ―ナは腕組みをして、自分よりずっと背が高いリカルドをにらんでいる。
「こんなところでいったい何しているの? それに小さな子をいじめるなんて、あなたらしくなくてよ。かわいそうに、この子ったら口もきけないで固まっているじゃないの」
「ク、クレメンティ―ナ様! いや、私は決していじめていたわけではなく――」
ロレンツォはいじめられてなどいないし、凍りついたように動けなくなったのも、もちろんリカルドのせいではない。
しかしそう伝えたくても声が出なかった。それどころか、どういうわけか呼吸さえうまくできない。
(……クレメンティ―ナ)
リカルドに教えられた名前が心にしっかり刻み込まれ、ロレンツォは思わず目をしばたたく。こんなことは生まれて初めてだった。
庭園には王女を取り巻く女官たちの他に、貴族の子弟らしい十数人の少年が集まっていた。
みなロレンツォより身体が大きく、少し年上に見える。リカルドは十四歳だから、たぶんそれくらいなのだろう。
「さてと、そろそろ始まるころだな。おいで、ロレンツォ」
ふいにリカルドが歩きだしたので、ロレンツォも慌てて後に続いた。
「少し遠いから、もっとよく見えるところに行くぞ」
「あ、はい」
大国の宰相の息子であるにもかかわらず、リカルドは大らかな性格で、気取ったところがない。
王子とはいえ属国から来たロレンツォにも自分を呼び捨てにさせ、弟のようにかわいがってくれていた。
「よし。ここがいい」
彼が足を止めた場所は、白い花に彩られたジャスミンの木のそばだ。
先ほどより王女との距離がずっと近くなり、なぜだかロレンツォの鼓動が少し速まった。
「おもしろい催しって何ですか?」
クレメンティ―ナに視線を奪われたまま、ロレンツォはとこかうわの空で問いかける。
「今日、この中からクレメンティ―ナ様付きの従者が決まるんだ」
「……従者?」
「そう。王女様が先月で十二歳になられたから、同じ年ごろの貴族の男子が集められたのさ。誰が選ばれるか見ものだぞ」
ロレンツォは首をかしげた。
王女に付き従うのは侍女の役目だし、身の回りの世話は大勢の女官がしてくれるはずだ。
どうしてわざわざ従者を選ぶのだろう? それに選ばれた者はいったい何をするのだろう?
「リカルドは参加しないのですか?」
「あいにく私は騎士団への入隊が決まっているから、従者になることはできない。それに」
リカルドは声を低めて、「婚約者もいるから」と頬を染めた。
「えっ、婚約者?」
「あ、おいこら! 静かに!」
慌てふためいたリカルドに口を塞がれ、ロレンツォは苦しくて手足をバタつかせる。
「ん、んん~っ!」
すると気配を感じたのか、まず黒髪の少女が、続いてクレメンティ―ナもこちらの方を見た。
「まあ、リカルドじゃないの」
二人が驚いた様子で足早に近づいてきて、ロレンツォはようやくリカルドから解放された。
「リカルド!」
ごく親しい間柄なのか、クレメンティ―ナは腕組みをして、自分よりずっと背が高いリカルドをにらんでいる。
「こんなところでいったい何しているの? それに小さな子をいじめるなんて、あなたらしくなくてよ。かわいそうに、この子ったら口もきけないで固まっているじゃないの」
「ク、クレメンティ―ナ様! いや、私は決していじめていたわけではなく――」
ロレンツォはいじめられてなどいないし、凍りついたように動けなくなったのも、もちろんリカルドのせいではない。
しかしそう伝えたくても声が出なかった。それどころか、どういうわけか呼吸さえうまくできない。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
(R18)灰かぶり姫の公爵夫人の華麗なる変身
青空一夏
恋愛
Hotランキング16位までいった作品です。
レイラは灰色の髪と目の痩せぎすな背ばかり高い少女だった。
13歳になった日に、レイモンド公爵から突然、プロポーズされた。
その理由は奇妙なものだった。
幼い頃に飼っていたシャム猫に似ているから‥‥
レイラは社交界でもばかにされ、不釣り合いだと噂された。
せめて、旦那様に人間としてみてほしい!
レイラは隣国にある寄宿舎付きの貴族学校に留学し、洗練された淑女を目指すのだった。
☆マーク性描写あり、苦手な方はとばしてくださいませ。

はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる