最凶婚! ~災禍の女王と怯まぬ花婿~

麻倉とわ

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すべてのはじまり①

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(天使だ――)

 心の中の声は、そのまま口から飛び出してしまった。なにしろ、まだ九歳だったのだから。

「天使が……いる」

 すると横に立っていた少年が、すぐさま「違うよ」とかぶりを振った。

「あれはクレメンティ―ナ様さ。確かに天使みたいにおきれいだけど、ヴィチェランテの王女様だよ」

 その日訪れた王宮の庭園は色とりどりの花が咲き誇り、見たこともないほど美しい場所だった。

 けれども今、ロレンツォの視線をとらえて離さないのは、ひとりの可憐な少女だ。

 ふわふわしたプラチナブロンド、菫の花と同じ色をした瞳、えくぼが浮かぶピンクの頬――とてもかわいらしいのに気品ある顔立ちは、確かに高貴な血筋を感じさせる。

 背丈はちょうどロレンツォと同じくらいだろう。
 ふんわりした水色のドレスがよく似合い、どこか妖精のようにはかなげで、翼を持っていないのが不思議に思えるほどだった。

「……王女」

 ロレンツォは大きく目を見開いた。

 それでは王様の子ども――つまり彼女は自分と同じ身分なのだ。
 一瞬だけロレンツォは励まされたような気がしたが、すぐに勘違いを悟った。

(違い過ぎる……何もかも)

 ここと母国のメリエーレとでは国土の広さも人口も、それ以前に国の豊かさがまず違う。
 そもそもヴィチェランテ王国は三百年近く前に建国されたため、歴史や文化の厚みにもずいぶんと差があった。

 ――よく聞きなさい、ロレンツォ。ヴィチェランテこそ真の大国だ。

 国を出る前に父王から繰り返し聞かされた話は、残酷なほど正確だった。

 王都のマルラナは隅々まで整備されて活気に溢れ、小高い丘にそびえ立つ大きな宮殿はまばゆいばかりに壮麗だ。
 洗練された貴族たち、最新鋭の装備を備えた国軍と鍛え抜かれたつわもの揃いの騎士団――ヴィチェランテに来てからというもの、ロレンツォは何を見てもただ圧倒されるばかりだったのだ。

(そうさ。勝てるわけがなかったんだ、初めから)

 メリエーレが王国となったのは、ちょうど百年と少し前。
 当時の王は権力争いに勝って高揚していたのか、無謀にもヴィチェランテに侵攻しようとした。

 しかし両国の国力は比較にならないほどかけ離れていたため、メリエーレはたちまち制圧され、以後はヴィチェランテの属国となることで、なんとか存続を許されたのである。

 とはいえ、もともとたいして重きを置かれていなかったためか、属国ではあってもメリエーレでは比較的自由な統治が許されていた。
 ロレンツォ自身も、第一王子としてのびのびと育ってきたのだが――。
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