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「し、椎名くん。ちょっと痛い」
「あ、ご、ごめんなさい。すみません」
すぐに謝りはした。
だが、どうしても腕から力を抜くことができない。これまで数えきれないくらいたくさんの女の子に同じ行為をしてきたはずなのに。
「真山さん」
華奢な顎を支えながら哲朗はゆっくり顔を寄せていく。
どうしてこんなにためらってしまうのか、そのくせ痛みを感じてしまいそうなくらい胸が高鳴るのか、さっぱりわからなかった。
「ん……」
口づけをした瞬間、調の体が小さく跳ねた。
あたたかくて柔らかい感触と、かすかな梅のリキュールの香り。その唇の意外な甘さに、哲朗はたじろいでしまう。
「し、椎名……くん?」
「真山さん、俺に任せてください。大丈夫ですから」
一度の軽いキスで終わらせるはずだった。それで充分だし。
それなのに哲朗は調を解放してやれずにいる。
まず唇の中央に、続いて右に、左に、小刻みに優しく口づけてから、舌先で合わせ目をなぞっていった。
「あ……ん」
くすぐったいらしく調は身をよじりながら、かすかに口を開ける。その狭間に、哲朗はそっと舌を挿し込んだ。
奥で怯えたように縮こまっている舌をつついてやると、腕の中で細い体が震える。哲朗は優しく調の舌を絡め取った。
いったい何が起きているのだろう?
ちゃんとわかっているはずだった。ここには調から頼まれたから来たのだし、これは英会話スクールの初回限定無料お試しレッスンみたいなものだ。
そう理解しているはずなのに、哲朗はさらに調を追いつめてみたくなった。
彼女は困惑しながらも、それなりに反応し始めている。
その鼻にかかった甘い声を聞き、とまどいに揺れる瞳をもっと見てみたかった。
「真山さん、もう少し先に進んでもいいですか?」
「えっ? あ、あの」
哲朗は答えを待たずに調の肩と腰に手を回し、ほっそりした体を抱き上げた。
頭のどこかで警告音が大音量で鳴り響いている。それでも自分を止められなかった。
さらにはいつもは感じない照れくささのせいか、とんでもなく陳腐なセリフがこぼれてしまう。
「あなたに人生の春を教えてあげます」
そのまますべすべした頬に唇を寄せようとした時だ。
「人生の……春?」
とろんとしていた調が、ふいに気難しげに眉を寄せたのだ。
「あの、私は春だけじゃなく、夏も秋も冬もそれぞれにすばらしいと思うわよ。だってほら、ヴィヴァルディの『四季』だって――」
「ああ、はいはい。わかった、わかりました!」
さすがに音楽バカは手強い。
だが、なぜかそんなところさえもかわいく思えて、哲朗は苦笑いしながら言い直した。
「訂正。春みたいに、うっとりした気持ちにさせてあげます」
「ち、ちょっと、椎名くん?」
「俺を信じください、真山さん」
それは調にというよりも、むしろ自分への叱咤だった。
「優しくしますから」
一方の調は唇を噛みしめていたが、やがて哲朗の肩におずおずと腕を回してきた。
「わ、わかったわ。私も……教えてほしい」
ため息にも似た、か細い声。
返事の代わりにその鼻先にキスをして、哲朗は調の体をそっとベッドに下ろした。
自分でも信じられなかったが、彼女への欲望がはっきりした形を取り始めていたのだ。
「あ、ご、ごめんなさい。すみません」
すぐに謝りはした。
だが、どうしても腕から力を抜くことができない。これまで数えきれないくらいたくさんの女の子に同じ行為をしてきたはずなのに。
「真山さん」
華奢な顎を支えながら哲朗はゆっくり顔を寄せていく。
どうしてこんなにためらってしまうのか、そのくせ痛みを感じてしまいそうなくらい胸が高鳴るのか、さっぱりわからなかった。
「ん……」
口づけをした瞬間、調の体が小さく跳ねた。
あたたかくて柔らかい感触と、かすかな梅のリキュールの香り。その唇の意外な甘さに、哲朗はたじろいでしまう。
「し、椎名……くん?」
「真山さん、俺に任せてください。大丈夫ですから」
一度の軽いキスで終わらせるはずだった。それで充分だし。
それなのに哲朗は調を解放してやれずにいる。
まず唇の中央に、続いて右に、左に、小刻みに優しく口づけてから、舌先で合わせ目をなぞっていった。
「あ……ん」
くすぐったいらしく調は身をよじりながら、かすかに口を開ける。その狭間に、哲朗はそっと舌を挿し込んだ。
奥で怯えたように縮こまっている舌をつついてやると、腕の中で細い体が震える。哲朗は優しく調の舌を絡め取った。
いったい何が起きているのだろう?
ちゃんとわかっているはずだった。ここには調から頼まれたから来たのだし、これは英会話スクールの初回限定無料お試しレッスンみたいなものだ。
そう理解しているはずなのに、哲朗はさらに調を追いつめてみたくなった。
彼女は困惑しながらも、それなりに反応し始めている。
その鼻にかかった甘い声を聞き、とまどいに揺れる瞳をもっと見てみたかった。
「真山さん、もう少し先に進んでもいいですか?」
「えっ? あ、あの」
哲朗は答えを待たずに調の肩と腰に手を回し、ほっそりした体を抱き上げた。
頭のどこかで警告音が大音量で鳴り響いている。それでも自分を止められなかった。
さらにはいつもは感じない照れくささのせいか、とんでもなく陳腐なセリフがこぼれてしまう。
「あなたに人生の春を教えてあげます」
そのまますべすべした頬に唇を寄せようとした時だ。
「人生の……春?」
とろんとしていた調が、ふいに気難しげに眉を寄せたのだ。
「あの、私は春だけじゃなく、夏も秋も冬もそれぞれにすばらしいと思うわよ。だってほら、ヴィヴァルディの『四季』だって――」
「ああ、はいはい。わかった、わかりました!」
さすがに音楽バカは手強い。
だが、なぜかそんなところさえもかわいく思えて、哲朗は苦笑いしながら言い直した。
「訂正。春みたいに、うっとりした気持ちにさせてあげます」
「ち、ちょっと、椎名くん?」
「俺を信じください、真山さん」
それは調にというよりも、むしろ自分への叱咤だった。
「優しくしますから」
一方の調は唇を噛みしめていたが、やがて哲朗の肩におずおずと腕を回してきた。
「わ、わかったわ。私も……教えてほしい」
ため息にも似た、か細い声。
返事の代わりにその鼻先にキスをして、哲朗は調の体をそっとベッドに下ろした。
自分でも信じられなかったが、彼女への欲望がはっきりした形を取り始めていたのだ。
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