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48.リリーとの再会

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「…久しぶり、クラウス」

クラウスは目を見開いて彼女を見た。

久しぶりに聞く彼女の落ち着いた声と、親愛を感じる言葉に一気に気持ちが明るくなるのを感じる。

「ひ、久しぶりだな!リリー」

よほど嬉しそうな顔をしていたのだろう。リリーは俺の顔を見ると、ふっと口元を緩めた。

「会いたかったわ」

リリーはしっかりと俺の目を見つめて、どこか真剣そうにそう言った。
俺は感極まっていて、それに頷くのが精一杯だった。

そうやってクラウスとリリーが親しげに話し始めたのを、遠くにそれぞれいたシリルやノア、マシューがこっそり見ていたのを、誰も気づかなかった。




あれから、リリーだけは俺と前と変わらず接してくれ、いつも気付けばそばに居てくれるようになった。

「リリー、ありがとうな、俺とまだ友達でいてくれて」

しばらく再会を喜んだ後、俺はリリーに改めて礼を言った。

「シリルたちが俺を避けてるのは分かるし、そうなってしまってもしょうがないことは、俺もよく分かるんだ…」
「……」
「でも、正直言うと結構寂しくてさ…いや……すごく。だから君が変わらず接してくれて嬉しかったよ」
「…私は…ただあなたに平穏に過ごしてほしいだけ。シリルたちがどうか知らないけど、皆何かトラブルを起こしたくないだけだと思うわ。…だから、そう深刻に受け止めなくて大丈夫」

それは…無理な話だが…リリーが俺を案じての発言だと分かったため、頷いた。

「ところで」

リリーが急に張り詰めたような静かな声で話し始めた。

「気になっていたことがあるのだけど…あの卒業パーティーでの…モーリス先生たちを襲った事件の犯人ついては、あなたは知っているの?」

事件の犯人…世間では、俺が爆弾を会場に仕掛けて『ゼト信仰者』を侵入させ、それを知ったモーリス先生を殺そうとした、と思われている。
実際は…ゼト信仰者の男に長年の虐待の末操られたダリルが爆弾を仕掛け、モーリス先生に魔法を放った。

だが、ダリルが犯人だということはまだ言えない…。たとえリリーにさえ。

というのも、ダリルはまだ目を覚ましていないからだ。ダリル自身が自分の言葉で証言できなければ、彼が虐待に遭っていた証明ができず、場合によっては彼が罰せられてしまうかもしれない。それがクラウスの恐れていることだった。

『…ゼト信仰者は、宮廷にも、騎士団にも、商会にも潜んでいるかもしれない』

いつか聞いたアーサーの言葉が蘇ってくる。


もし、ゼト信仰者が法官の中にも潜んでいたとしたら。ダリルが彼らに消されてしまう可能性が高い。
そのため、クラウスはダリルが目を覚ますまでは、事件の真実を誰にも打ち明けないと決めた。

問題はダリルが目を覚まし、さらに話せる状態に戻ることができるのか、ということだ。

クラウスは、目の前にいる魔法オタクの才女──リリーのことをチラリと見た。

(彼女ならば、『支配』の影響を受けた者を元に戻せる方法を見つけられるかもしれない)

…いつか、リリーには真実を伝え、そしてダリルを助ける方法を一緒に探してもらおう。…でも、まだ伝えることはできない。伝えたことでリリーにも何かしらの危険が及んだらと思うと、臆病なクラウスには決心することができなかった。

「…犯人?…俺も何も知らないんだ。モーリス先生とダリルを攻撃したのは、きっとあのゼト信仰者だった。でも、俺が駆けつけた時には…2人が倒れてるのしか分からなくて」

リリーはじっとこちらの言葉に耳を傾けていた。話し終えると、俺の目を見据えてしばらく沈黙した。

俺はその目が全てを見透かそうとしているように感じ怖かったが、あえて真っ直ぐに見返した。

「…分かったわ」

リリーはふと目を逸らすと、静かに言った。
嘘を突き通したことにチクリと胸の奥が痛んだが、クラウスはその痛みを見て見ぬ振りをした。

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感想 23

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みんなの感想(23件)

はてな
2025.01.22 はてな

普段からかなり感情移入して小説を読む派なんですが、クラウスの境遇が可哀想すぎて少しずつでもいいので幸せになってほしいです😭この先の展開も楽しみにしております!

解除
Mizumo
2025.01.21 Mizumo

更新がとっても嬉しくて早く読みたい気持ちと、クラウス君がきっともっと苦しい状況になってるんだろうなという気持ちでビクビクしながら最新話を読みました…。うううやっぱりしんどい状況で胸がぎゅっとなりました…。

主人公モンペになっているので「どうして本人に直接確認もしないで存在無視なんてひどいことするんだ!そんなことできるなら仲良くなってほしくなかった…!」と言う激しい気持ちと、「クラウス君のことちゃんと見て中身を知ってるんだからきっとわかってくれてるよね…。なにか理由があるんだよね…?」とういう信じたい気持ち(クラウス君救われてほしい)と、「もういっそここに連れてきた神様が天界に連れて行くでもいい、新キャラでもいいからクラウス君に優しくして…救われて…」という逃避の気持ちが三つ巴しています。

石の力で無理して魔法使ってた頃もハラハラして、「早く誰か気づいて…そんなことしなくてもいいんだって安心させて認めてあげて…」と思っていましたが(それと同時に、限界になって倒れて真実を知って周りが後悔する展開も好き)、あげて落とされた余計に針の筵の学園生活で今後もハラハラしそうですね…。
一読者の自分にはクラウス君の心身の安寧をただ祈るしかできませんが、次回更新も楽しみにお待ちしています…!

解除
ぽりりん
2025.01.20 ぽりりん

うぅ、またもやドン底に😭
いや、むしろさらに落ちているような😭😭
クラウス負けないで〜〜

解除

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