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45.事件の結末2

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「私は、『ゼト信仰者』と思わしき黒尽くめの男とクラウスくんが見えた後、その足元に先生とその生徒が倒れているのが見えて急いで駆けつけたのです。…それまでは何があったのやら…──クラウスくんは、あの男が二人を攻撃したのを見たのかね?」

クラウスはハッと顔をあげた。

「…あ。…え、ええ。男は確かに俺たちを攻撃しようとはしていましたが…」

その時、頭の中では必死に考えが巡った。

(ダリルが先生を襲ったことを知られてはならない。知られたら…彼は罪に問われる可能性が高い。それに本人の意識が戻っても、まともに受け答えできなければ、また『ゼト信仰者』によって、彼が犯人に仕立て上げられるかもしれない。…なら、俺はどうすればいいんだ…?)

「…俺が来た時には、ダリルは倒れていました」

クラウスはそう言った。

「じゃあ、モーリス先生は?」

誰かが鋭い声で言うのが聞こえた。

(…まずい。モーリス先生は、ダリルを見ている。誰かは分かっていなかったけど、生徒らしき誰か、に攻撃されたことは覚えているだろう。先生が目を覚ました時、そう言われてしまったら…)

「…お、俺がダリルや警備兵が倒れているのを見つけて駆け寄った時、モーリス先生が来たんです。先生は俺のことが誰か分からなかったみたいですが…その後、なぜか先生は倒れてしまって…きっと、その『ゼト信仰者』の男が何か魔法を先生に当てたんです」

クラウスは声が震えないよう気をつけて、なるべく平然と答えた。

しん…とクラウスの声が空気に溶け込むほど、皆何も言わず聞いている。

「…嘘つけ」

その時、低い声が周りでした。

「お前がやったんじゃないか?さっき先生の怪我を見た時、使われた魔法の種類がわかった。…古い風魔法。お前も、それを使ったことがあると、噂で聞いた。おい、お前は先生に魔法を放ってないと断言できるのか?魔法鑑識官に見てもらえば、お前が風魔法を使ったかどうかも、わかるからな。嘘はつくなよ」

一人が鋭く言う。

クラウスはゴクリと喉を鳴らした。

「少し…突然駆けてきた先生を止めるために、風魔法を使ったかもしれません。でも、それだけです!」

「はっ、さっきから発言が一転二転してるぞ。信じられるわけないだろう!」
「それに、なぜ先に会場を出た?俺は最初の爆発が起きた後、会場を真っ先に出ていくお前を見たぞ!」

ざわり、とする。

「やっぱり!そんな髪に目をしていて、『ゼト信仰者』と繋がりがないなんておかしいわ!」

一気に怒りが爆発するように、皆口々にクラウスを責め始めた。

クラウスは頭が真っ白になっていくのを感じた。だが、決して狼狽えないよう口をきつく結んだ。

「待て!」

その時、低く鋭い声が場を一瞬で沈めた。

「彼の話を聞きたい」

ギルバート…。

彼は薄青色の目でしっかりとクラウスを見据えた。

「…本当なのか?少しでも知っていることがあれば、今ここでなくても、言ってくれ」

お願いだ。俺に嘘をつかないでくれ。まっすぐな瞳から、そんな思いがひしひしと伝わってきた。

「──本当だ。…他に、特に言うことはない」

(…ごめん)

「俺は嘘は言っていない。ダリルは最初から倒れていたし、先生には少し魔法が当たっただけで、重傷を負わせたのはアイツだ」

(…すまない、ギルバート。君には嘘を言いたくなかった。…だけど…)

何秒にも感じるほどの間俺の目をじっと見た後、ギルバートに目に失望の色が広がった。表情が強張り、クラウスと隣にいるブラッド伯爵に目を滑らせたあと、その瞳が再びクラウスに戻ることはなかった。

「ッ……」

クラウスは唇を噛んだ。どんなに周りから罵られても、平然としていられたが、今のが1番心に堪えた。

…ギルバートに、失望された。当然だ。彼には、1番誠実でありたかったのに、俺はうまくできなかった。彼の言うように、後から彼だけにでも真実を言い、ダリルを助けてもらえたかもしれない。最も、今の流れだと俺の言うことは全員には信じてもらえない可能性が高いが…でも、ギルバートなら…俺のことを信じてくれる。そう確信していたのに、結局俺は自分で解決しようとして、彼を頼れなかった。…いつも、俺はそうだ。前世でも、助けてくれようとした同僚にも、咄嗟に助けを求められなくて…結局、色んなことに雁字搦めになって、気づいたら動けなくなっている。

「…疑わしいことがある限り、そのまま帰すわけにはいきません」

警備隊長が厳しい声で言った。反対する声はもう聞こえず、ここにいる全員がクラウスに疑いの目を向けているのをひしひしと感じた。

「今回の事件の重要参考人、また目撃者は、全員この後王都留置所へ来てもらいます。怪我人は一刻も早く、王立病院へ。学園長、生徒たちと保護者のことは任せます」
「分かりました」

呆けて立つクラウスは、両端から強い力で警備兵に腕を掴まれた。
よろけて上手く歩けないのを、急き立てられるようにぐいっと引っ張られながら歩く。

「ま、待ってください」
「さっさと歩け」

有無を言わさず、クラウスだけ強制的に建物から連れ出されてしまった。

その場を離れる前、クラウスは何とか首をひねってギルバートの方を見た。銀の髪が輝く彼はすぐに見つかったが、その顔はクラウスの方を見ておらず、下に向けられていた。

クラウスはぐわりと地面が歪んだように感じながら、警備兵に追い立てられるまま、その場を後にした。




クラウスが視界から消える直前、ギルバートはクラウスを遠くから見つめた。彼は最後の瞬間、こちらを見ることなく下を向いたまま連行されていった。
ギルバートの下ろした両手は、固く爪跡がつくほど握られていた。


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