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44.事件の結末1

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しかし、男は最後までしゃべることができなかった。

何か凄い力が、クラウスの目の前にいた男を一瞬で消す。


魔法だ…。強力な。ここまでの魔法を使えるのは…

クラウスは、心の奥底で、あの深く響く声が聞こえてくるのを期待するのを止められなかった。

ッギルバート…

──しかし、聞こえてきたのは、予想していない声だった。

「──やめるんだ!クラウスくん、こっちへ!」

クラウスは、自身を助けてくれた人物を驚いて見つめた。

「…なぜ、──」

背後で倒れていた男が、驚きの声をあげたが、男が言い終わらないうちに、彼めがけてさらなる魔法の閃光が走り、周囲の爆発で崩れかけた建物の一部が、男を覆う。

クラウスは一瞬の出来事に何もできずに見ていた。
ただ、たった今助けてくれた人物の背中を…。

…クラウスを助けた人物、ブラッド伯爵は、いっそ冷酷なまでに瓦礫に押しつぶされた男を魔法で攻撃し、断末魔が瓦礫の奥へ消えていった。

ダリルが崩れ落ちるのと同時に、クラウスもへたり込む。
心は混乱したままだったが、体は恐怖から解かれ、安堵で力が勝手に抜ける。

ハッと未だ血を流すモーリス先生の方を見るが、足が震えて立ち上がれそうになかった。

「…ブラッド伯爵…モーリス先生が…」

助けてくれた彼に、何とか治癒魔法をかけてくれないかと願う気持ちで呼びかける。

「!クラウスくん、平気か?」

ブラッド伯爵は男の消えた瓦礫から慌てて戻ってくると、モーリス先生を見つけて息を飲む。そしてそのまま、治癒魔法をかけてくれた。

「…とりあえずは止血したが、私だけの力では先生は助からん!今すぐ応援を呼ばねば」

先生がまだ命があると知ってほっとする。

「…ダリルは、彼は、大丈夫でしょうか…」

ブラッド伯爵はダリルにも治癒をかけながら、頷いた。

「…彼も命に別状はないが…」

言い淀む姿に、その言葉に先ほどの男の言葉が蘇り、ドキリとする。

「クラウス君は大丈夫かね?怪我は」

ブラッド伯爵は未だ立ち上がれずにいるクラウスの肩に手を置くと、その体が震えていることに気づき、顔を曇らせた。

「…ああ、大丈夫だ。もう、大丈夫だよ。君は頑張った」

そう言い、ブラッド伯爵の手が背に回る。
緩やかな治癒魔法を感じて、クラウスは目を閉じた。緊張が解けていくのを感じる。…あのまま、ブラッド伯爵が来なかったらどうなっていたか。モーリス先生もダリルも…もしかしたら、殺されていたかもしれない。

(…この人のことは、どこか信用できなかったけど…さっきの行動に迷いはなかった。あの男の仲間──『ゼト信仰者』ではないのかもしれない)

極度の緊張から解放されたクラウスは、自分を救ってくれたブラッド伯爵のことを素直にそう思った。

(…信用しても…いいのではないか)



「──おーい!大丈夫か!」

その時、大きな声が背後からして、広間に居た人たちが駆けてきた。

目を開けてそちらを見ると、その中に、アーサーやギルバートの姿を見つける。

彼らが無事であったことにホッとすると同時に、目は吸い寄せられるようにギルバートを見た。

ギルバートも、クラウスを見ていた。彼の碧眼は、驚いたように見開かれ、動揺したようにその瞳が揺れた気がした。
その目には最初、確かにクラウスを見つけ安堵したような感情を見れたが、次第に困惑したものに変わった。

クラウスは、未だブラッド伯爵に半ば抱きしめられている状況を思い出し、ハッとしてよろよろ立ち上がった。

「な、何があったんです?!…?!モーリス先生!」
「横の生徒は?!…もしかして、ダリルか!」

先生や、警備兵たちが慌てて倒れている二人を囲み、治癒魔法を使って救護活動を始める。

「今、外の壁を爆破して侵入してきた者たちは、何とか追い払いました。捕らえようとしましたが、逃げられてしまって…」
「ギルバート殿下、アーサー殿下の指示でパニックがすぐ治まり、我々も会場入り口を守ることができました。…しかし、会場の外にいた警備兵はほぼ全員重傷です…」
「襲撃者──いや、もうはっきり断言するが、『ゼト信仰者』たちは、どうやらギルバート殿下を狙っていたようです。会場に入ってきた黒尽くめの集団は、まず殿下を狙った」
「…やはりな」

集まった警備兵、パーティ参加者たちは、口々に何があったかを警備隊長へ報告している。どうやら、倒れていた警備兵も命に別条はないという話が聞こえ、ホッとする。

「ブラッド伯爵。無事でしたか」

その時、学園長が歩み出てくる。

「何があったんです?」

その場にいた人々が、全員注目して場は静まった。

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