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42.事件
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──その時、耳をつんざくような爆発音がした。
ドォン!!
あたりが一瞬で真っ暗になり、会場全体が揺れた気がした。唯一、光がちらついた方角を見ると、大広間の入り口の扉の隙間から、真っ赤な炎が目に飛び込んでくる。
爆発だ!広間の外で爆発があった!火が出てるぞ!
大きな声で誰かが叫んでいる。
全てが真っ暗になり、暖かかった背中のギルバートの手がいつの間にか無くなっていることに気づく。人々がパニックになり逃げようとしてぶつかってきて、クラウスはギルバートとはぐれてしまった。
混乱の中、冷静な者たちが光魔法を出して懸命に人々を誘導し出している中、クラウスは呆然としたまま、はたと足を止めた。
正面には、外の炎がちらつく広間の扉がある。そこを見た時、クラウスはそこをフラフラと通って出て行った少年のことを思い出したのだ。
「っダリル」
クラウスは咄嗟に扉へ向かって走り出した。
外に出て行った彼はどうなった?!今ならまだ間に合うかもしれない。
クラウスの頭には、彼への心配だけがあった。だから、自分が単独行動をしてしまったことなど、気づいていなかったのだ。
*
扉付近には、いたはずの警備兵がいなくなっていた。
大広間から廊下に出た瞬間、熱気を感じた。火の気配を感じて一瞬足がすくんだが、見ると炎は廊下の先、玄関の方であがっているようだった。そこは煙に包まれまだ小さく爆発しているような音がしており、水魔法を使えないクラウスには近づけそうになかった。
(…ダリルは…一体どこに…)
その時、その炎の中に立つ人影を見て、あっと声をあげそうになる。
警備兵の1人だろうか?爆発に巻き込まれたのか、足を引きずりながらも、大広間の方へ応援を求めて歩いてこようとしているようだ。
「ッ」
クラウスは咄嗟に声をかけようとして、次の瞬間起きたことに驚きのあまり固まった。
その警備兵の背後に、突然少年が姿を表した。──いや、あれは…あの少年は、ダリル…だ。
ダリルが、ぬっと警備兵の背後から現れ、唐突に手をかざして彼に魔法を放つ。
そして、警備兵はくずおれた。
クラウスは、目の前で起きたことを理解できなかった。ダリルにどうしたんだ、と声をかけようとしたが、フードを目深に被って異様ないで立ちの彼を前に、恐怖が湧いて口を開くことさえできなかった。
「──何をしているんじゃ!」
その時、鋭く響いた声に、クラウスはようやくハッとした。
この声は…モーリス先生?
廊下の方から来たモーリス先生は、同時にダリルの行為を目にしたのだろう。
先生は、なおも警備兵に攻撃しようとしているダリルを止めようと、彼と揉み合いになった。
「君は…何者じゃ!なぜ…っ」
「……」
クラウスは、何がなんだか分からなかったが、一つだけ確かなことは…
どんな理由があれ、ダリルが警備兵を倒したことは確かだ。このままではモーリス先生も危ない!
「っ!」
クラウスは『二人を引き離すこと』を考え、咄嗟に魔法を放った。クラウスの魔力的に、小さな突風にもならない風魔法だっただろう。
しかし、クラウスの魔法が届いたと思った時、突然モーリス先生の体が不自然に痙攣して崩れ落ちた。先生の体を掴んでいたダリルが、ボタっとその手を離す。…手からは、シュワリと煙が出た。
──ダリルがモーリス先生に直に魔法を放ったのだ。
そのことに気がついて、クラウスは目を見張った。
…しかも、一瞬で先生が倒れるほどの魔法だ。…そんな魔法を、1年生のダリルが使ったというのか?
クラウスはハッとしてモーリス先生の方に目を向けると、今度こそ体が凍りついた。
人形のようにダラリとした先生の体から、とめどなく真っ赤な血が流れ出ていく。それは見たこともない光景で…俺は情けないが、ショックで動けなかった。
前世でも経験したことがなく、今世でもここまでの血を見たことがなかった。それは、今世では防御魔法や治癒魔法のおかげで、人がここまで怪我を負うのを見たことがなかったからだ。
「モーリス先生…だ、大丈夫ですか」
俺は震える声で呼びかけたが、先生はピクリとも反応しなかった。
とりあえず、早く救助を読んで先生を治療しなくては…!そのためには、いまだ先生の側に立って異様な雰囲気を出しているダリルをどうにかしなくてはならない。
「…ダリル?聞こえているか。落ち着くんだ。落ち着いて…」
この隙に走って救助を呼ぶか?それとも、ダリルを先生から引き離した方がいいか。…でも、そんなことしたら、俺が今度は攻撃されるんじゃ…。
思考ばかりが動いて、体は怯えて動かない。その時。
背後で新たな声がした。
ドォン!!
あたりが一瞬で真っ暗になり、会場全体が揺れた気がした。唯一、光がちらついた方角を見ると、大広間の入り口の扉の隙間から、真っ赤な炎が目に飛び込んでくる。
爆発だ!広間の外で爆発があった!火が出てるぞ!
大きな声で誰かが叫んでいる。
全てが真っ暗になり、暖かかった背中のギルバートの手がいつの間にか無くなっていることに気づく。人々がパニックになり逃げようとしてぶつかってきて、クラウスはギルバートとはぐれてしまった。
混乱の中、冷静な者たちが光魔法を出して懸命に人々を誘導し出している中、クラウスは呆然としたまま、はたと足を止めた。
正面には、外の炎がちらつく広間の扉がある。そこを見た時、クラウスはそこをフラフラと通って出て行った少年のことを思い出したのだ。
「っダリル」
クラウスは咄嗟に扉へ向かって走り出した。
外に出て行った彼はどうなった?!今ならまだ間に合うかもしれない。
クラウスの頭には、彼への心配だけがあった。だから、自分が単独行動をしてしまったことなど、気づいていなかったのだ。
*
扉付近には、いたはずの警備兵がいなくなっていた。
大広間から廊下に出た瞬間、熱気を感じた。火の気配を感じて一瞬足がすくんだが、見ると炎は廊下の先、玄関の方であがっているようだった。そこは煙に包まれまだ小さく爆発しているような音がしており、水魔法を使えないクラウスには近づけそうになかった。
(…ダリルは…一体どこに…)
その時、その炎の中に立つ人影を見て、あっと声をあげそうになる。
警備兵の1人だろうか?爆発に巻き込まれたのか、足を引きずりながらも、大広間の方へ応援を求めて歩いてこようとしているようだ。
「ッ」
クラウスは咄嗟に声をかけようとして、次の瞬間起きたことに驚きのあまり固まった。
その警備兵の背後に、突然少年が姿を表した。──いや、あれは…あの少年は、ダリル…だ。
ダリルが、ぬっと警備兵の背後から現れ、唐突に手をかざして彼に魔法を放つ。
そして、警備兵はくずおれた。
クラウスは、目の前で起きたことを理解できなかった。ダリルにどうしたんだ、と声をかけようとしたが、フードを目深に被って異様ないで立ちの彼を前に、恐怖が湧いて口を開くことさえできなかった。
「──何をしているんじゃ!」
その時、鋭く響いた声に、クラウスはようやくハッとした。
この声は…モーリス先生?
廊下の方から来たモーリス先生は、同時にダリルの行為を目にしたのだろう。
先生は、なおも警備兵に攻撃しようとしているダリルを止めようと、彼と揉み合いになった。
「君は…何者じゃ!なぜ…っ」
「……」
クラウスは、何がなんだか分からなかったが、一つだけ確かなことは…
どんな理由があれ、ダリルが警備兵を倒したことは確かだ。このままではモーリス先生も危ない!
「っ!」
クラウスは『二人を引き離すこと』を考え、咄嗟に魔法を放った。クラウスの魔力的に、小さな突風にもならない風魔法だっただろう。
しかし、クラウスの魔法が届いたと思った時、突然モーリス先生の体が不自然に痙攣して崩れ落ちた。先生の体を掴んでいたダリルが、ボタっとその手を離す。…手からは、シュワリと煙が出た。
──ダリルがモーリス先生に直に魔法を放ったのだ。
そのことに気がついて、クラウスは目を見張った。
…しかも、一瞬で先生が倒れるほどの魔法だ。…そんな魔法を、1年生のダリルが使ったというのか?
クラウスはハッとしてモーリス先生の方に目を向けると、今度こそ体が凍りついた。
人形のようにダラリとした先生の体から、とめどなく真っ赤な血が流れ出ていく。それは見たこともない光景で…俺は情けないが、ショックで動けなかった。
前世でも経験したことがなく、今世でもここまでの血を見たことがなかった。それは、今世では防御魔法や治癒魔法のおかげで、人がここまで怪我を負うのを見たことがなかったからだ。
「モーリス先生…だ、大丈夫ですか」
俺は震える声で呼びかけたが、先生はピクリとも反応しなかった。
とりあえず、早く救助を読んで先生を治療しなくては…!そのためには、いまだ先生の側に立って異様な雰囲気を出しているダリルをどうにかしなくてはならない。
「…ダリル?聞こえているか。落ち着くんだ。落ち着いて…」
この隙に走って救助を呼ぶか?それとも、ダリルを先生から引き離した方がいいか。…でも、そんなことしたら、俺が今度は攻撃されるんじゃ…。
思考ばかりが動いて、体は怯えて動かない。その時。
背後で新たな声がした。
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