42 / 50
40.卒業パーティ3
しおりを挟む
「あら。花を貰ったのね。ギルバート殿下でしょ?」
ギルバートと別れ皆のところに戻ると、リリーが胸元の花を見て少し面白そうな目をした。
「うん、よく分かったね。…あのさ、この花って何か意味があるのかい?さっきから色んな人が見てくるんだけど」
「え?意味を知らないまま受け取ったの?」
リリーが目を見開くと、フッと笑う。
「…相変わらず、殿下も苦労しているのね」
「ん?」
「いえ、何でも。その花を渡す行為は、この卒業パーティの伝統のようなものよ。卒業する時、お世話になった人や親愛のある人に渡したのが始まりで、今は──」
「えっ!うそ?!…クラウスの付けてるあの花、あの色、ギルバート殿下のじゃない?」
「まさか!そんなはずないじゃない。だって花を渡すって、『あなたのことが気になってます』って意味で、カップルを作る伝統でしょ?ギルバート殿下がクラウスに…?…み、見間違いよ!」
リリーの言葉が言い終わらないうちに、近くを通った人の声が耳に飛び込んでくる。
その瞬間、意味を理解してじわじわ顔に熱が集まるのを感じた。
「はは…、なんか、勘違いされちゃってるな。多分、親愛の証で渡してくれたんだろ?光栄なことだけど…ちょっと恥ずかしいな」
心の中は一瞬歓喜で満ちたが、慌ててそんなわけないと自制する。
ギルバートには想い人がいるんだ。あの娘がこの場にいないから、渡す人が俺になっただけだろう。間違っても、『あなたのことが気になってます』って意味じゃない。
…それでも、その相手を俺にしてくれたことが嬉しい。彼には、沢山の友人がいるのに、俺に渡してくれたのだ。
「…これは重症ね」
リリーが遠い目をした。
妙に会場がザワッとして周りを見ると、ギルバートが姿を見せたところだった。
「…え…。本当に胸元に花がないんだけど…?」
そばにいた女の子が唖然として呟く。
「誰…誰にあげたの…?!」
その子たちがハッとしたように俺の方を見たので、俺はビクッとした。
「…まさか、ね。違う人の青い花を貰ったのよ」
「…うん、きっとそう」
ふと視線を感じ、ギルバートが遠くからクラウスを見つめていることに気づいた。その真っ直ぐで力強い目を見て、俺は胸が熱くなった。
…ギルバートが恋愛的な意味でこの花をくれたわけじゃなくてもいいじゃないか。彼からの友愛の気持ちは本物だ。それが本当に嬉しい。
クラウスが微笑み返すと、なぜかギルバートが口元を押さえてそっぽを向いた。
ギルバートの花が無くなったことに会場の若い子たちが一様に動揺した後、一気に談笑する声は活気を帯びた。噂話の好きなみんなは目を輝かせてギルバートのいるはずのない恋人について話す。
しばらくすると、突然、楽団が奏でる音楽が軽快に響き出した。大広間の方が薄暗くなり、天井の煌びやかな照明魔石がロマンチックに光出す。
人々は、わくわくしたように大広間へ集まり始めた。
「な、何が始まるんだ?」
「ダンスだよ!恒例なんだ」
ノアはわくわくした様子だ。
ダンス?!またダンスか…。この世界の人はどんだけダンスが好きなんだ?『冬の舞踏会』では、ギルバートが手取り足取りリードしてくれたけど、今回はそれもできない。俺は果たして踊れるのだろうか…。
「クラウス大丈夫?なんだか顔が青いけど」
「いや…ダンスが不安でな」
「ああ!大丈夫だよ。形式ばってないし、踊らない人もいるし。ホラ、学生以外の大人たちは周りで談笑してる」
「私は踊らないつもりよ」
そう言ったリリーは、確かにダンスに興味がなさそうにしている。
「私と一緒に見てる?」
「ああ、そうさせてもらおうかな…」
俺は正直ホッとした。
「え~楽しいのに~。じゃ、僕らは踊ってくるね。シリル、いくよ!」
「ああ。今度こそコケるなよ」
「そ、それは前回の話でしょ!僕も成長してるから!」
そんなことを仲良く言い合いながら、ノアとシリルは照明がゆらゆら煌めく中に歩み去っていった。
…改めて思うけど、ノアとシリルっていつも一緒だよな。ダンスの相手には特に決まりはないようだが、カップルで踊っている者が多いから、ノアとシリルもお互い特別な存在なんだろうな、というのは流石のクラウスでも分かってきた。何より、ノアのあの天使のような笑みは、シリルに向けられる時が多い。そんなノアを、シリルが穏やかに微笑んで見ていることはよくあった。
ノア達と離れてしまうが、少しの間なら大丈夫だろう。何より、ダンスの時間となった大広間は扉が閉まり、警備が外にいて外部からの侵入を確実に防いでいた。
リリーと共に、ほのかに輝く照明の下楽しそうに踊る皆を眺める。会場の明るさは近づけばギリギリ顔が分かる程度で、誰がどこにいるか探すのは大変だ。でもその分、人の目を気に踊れる雰囲気だった。
…ギルバートも誰かと踊っているのだろうか。
さっきから気になってずっと目で探してしまう。あのスラリとした気品ある王子が踊る姿は、さぞ美しいだろう。今度こそ、第三者として踊る姿を見れるのでは、と思いながらも、彼が相手に選んだパートナーがいるかもしれないと思うと、胸にズキリと痛みが走った。
そんなふうに会場を見渡していると、ふと、ある人物がふらふらと視界を横切ったのに気づいた。それだけなら、この薄暗い中誰かも分からず、気に止めなかっただろう。
しかし、クラウスにはその人物に見覚えがあった。在学生のローブを頭から被り、おぼつかない足取りの小柄な青年。その姿は、今朝寮の前でぶつかったダリルと酷似していた。そう思ってじっと見ていると、フードの隙間から少し顔が見えて確信する。
相変わらず、正気のない顔をしていて、どこか顔色も悪い。大丈夫なのだろうか?
声をかけた方がいいか迷っていると、ダリルは警備の人のそばを通り、大広間から出て行ってしまった。具合が悪そうだから、新鮮な空気を吸いにいったのかもしれない。…戻らなかったら、様子を見に行こう。
ギルバートと別れ皆のところに戻ると、リリーが胸元の花を見て少し面白そうな目をした。
「うん、よく分かったね。…あのさ、この花って何か意味があるのかい?さっきから色んな人が見てくるんだけど」
「え?意味を知らないまま受け取ったの?」
リリーが目を見開くと、フッと笑う。
「…相変わらず、殿下も苦労しているのね」
「ん?」
「いえ、何でも。その花を渡す行為は、この卒業パーティの伝統のようなものよ。卒業する時、お世話になった人や親愛のある人に渡したのが始まりで、今は──」
「えっ!うそ?!…クラウスの付けてるあの花、あの色、ギルバート殿下のじゃない?」
「まさか!そんなはずないじゃない。だって花を渡すって、『あなたのことが気になってます』って意味で、カップルを作る伝統でしょ?ギルバート殿下がクラウスに…?…み、見間違いよ!」
リリーの言葉が言い終わらないうちに、近くを通った人の声が耳に飛び込んでくる。
その瞬間、意味を理解してじわじわ顔に熱が集まるのを感じた。
「はは…、なんか、勘違いされちゃってるな。多分、親愛の証で渡してくれたんだろ?光栄なことだけど…ちょっと恥ずかしいな」
心の中は一瞬歓喜で満ちたが、慌ててそんなわけないと自制する。
ギルバートには想い人がいるんだ。あの娘がこの場にいないから、渡す人が俺になっただけだろう。間違っても、『あなたのことが気になってます』って意味じゃない。
…それでも、その相手を俺にしてくれたことが嬉しい。彼には、沢山の友人がいるのに、俺に渡してくれたのだ。
「…これは重症ね」
リリーが遠い目をした。
妙に会場がザワッとして周りを見ると、ギルバートが姿を見せたところだった。
「…え…。本当に胸元に花がないんだけど…?」
そばにいた女の子が唖然として呟く。
「誰…誰にあげたの…?!」
その子たちがハッとしたように俺の方を見たので、俺はビクッとした。
「…まさか、ね。違う人の青い花を貰ったのよ」
「…うん、きっとそう」
ふと視線を感じ、ギルバートが遠くからクラウスを見つめていることに気づいた。その真っ直ぐで力強い目を見て、俺は胸が熱くなった。
…ギルバートが恋愛的な意味でこの花をくれたわけじゃなくてもいいじゃないか。彼からの友愛の気持ちは本物だ。それが本当に嬉しい。
クラウスが微笑み返すと、なぜかギルバートが口元を押さえてそっぽを向いた。
ギルバートの花が無くなったことに会場の若い子たちが一様に動揺した後、一気に談笑する声は活気を帯びた。噂話の好きなみんなは目を輝かせてギルバートのいるはずのない恋人について話す。
しばらくすると、突然、楽団が奏でる音楽が軽快に響き出した。大広間の方が薄暗くなり、天井の煌びやかな照明魔石がロマンチックに光出す。
人々は、わくわくしたように大広間へ集まり始めた。
「な、何が始まるんだ?」
「ダンスだよ!恒例なんだ」
ノアはわくわくした様子だ。
ダンス?!またダンスか…。この世界の人はどんだけダンスが好きなんだ?『冬の舞踏会』では、ギルバートが手取り足取りリードしてくれたけど、今回はそれもできない。俺は果たして踊れるのだろうか…。
「クラウス大丈夫?なんだか顔が青いけど」
「いや…ダンスが不安でな」
「ああ!大丈夫だよ。形式ばってないし、踊らない人もいるし。ホラ、学生以外の大人たちは周りで談笑してる」
「私は踊らないつもりよ」
そう言ったリリーは、確かにダンスに興味がなさそうにしている。
「私と一緒に見てる?」
「ああ、そうさせてもらおうかな…」
俺は正直ホッとした。
「え~楽しいのに~。じゃ、僕らは踊ってくるね。シリル、いくよ!」
「ああ。今度こそコケるなよ」
「そ、それは前回の話でしょ!僕も成長してるから!」
そんなことを仲良く言い合いながら、ノアとシリルは照明がゆらゆら煌めく中に歩み去っていった。
…改めて思うけど、ノアとシリルっていつも一緒だよな。ダンスの相手には特に決まりはないようだが、カップルで踊っている者が多いから、ノアとシリルもお互い特別な存在なんだろうな、というのは流石のクラウスでも分かってきた。何より、ノアのあの天使のような笑みは、シリルに向けられる時が多い。そんなノアを、シリルが穏やかに微笑んで見ていることはよくあった。
ノア達と離れてしまうが、少しの間なら大丈夫だろう。何より、ダンスの時間となった大広間は扉が閉まり、警備が外にいて外部からの侵入を確実に防いでいた。
リリーと共に、ほのかに輝く照明の下楽しそうに踊る皆を眺める。会場の明るさは近づけばギリギリ顔が分かる程度で、誰がどこにいるか探すのは大変だ。でもその分、人の目を気に踊れる雰囲気だった。
…ギルバートも誰かと踊っているのだろうか。
さっきから気になってずっと目で探してしまう。あのスラリとした気品ある王子が踊る姿は、さぞ美しいだろう。今度こそ、第三者として踊る姿を見れるのでは、と思いながらも、彼が相手に選んだパートナーがいるかもしれないと思うと、胸にズキリと痛みが走った。
そんなふうに会場を見渡していると、ふと、ある人物がふらふらと視界を横切ったのに気づいた。それだけなら、この薄暗い中誰かも分からず、気に止めなかっただろう。
しかし、クラウスにはその人物に見覚えがあった。在学生のローブを頭から被り、おぼつかない足取りの小柄な青年。その姿は、今朝寮の前でぶつかったダリルと酷似していた。そう思ってじっと見ていると、フードの隙間から少し顔が見えて確信する。
相変わらず、正気のない顔をしていて、どこか顔色も悪い。大丈夫なのだろうか?
声をかけた方がいいか迷っていると、ダリルは警備の人のそばを通り、大広間から出て行ってしまった。具合が悪そうだから、新鮮な空気を吸いにいったのかもしれない。…戻らなかったら、様子を見に行こう。
268
お気に入りに追加
2,840
あなたにおすすめの小説
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた
しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される???
家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。
R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。
現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。
(第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)
(第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)
美形×平凡のBLゲームに転生した平凡騎士の俺?!
元森
BL
「嘘…俺、平凡受け…?!」
ある日、ソーシード王国の騎士であるアレク・シールド 28歳は、前世の記憶を思い出す。それはここがBLゲーム『ナイトオブナイト』で美形×平凡しか存在しない世界であること―――。そして自分は主人公の友人であるモブであるということを。そしてゲームのマスコットキャラクター:セーブたんが出てきて『キミを最強の受けにする』と言い出して―――?!
隠し攻略キャラ(俺様ヤンデレ美形攻め)×気高い平凡騎士受けのハチャメチャ転生騎士ライフ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる