34 / 50
32.王宮での対戦試合
しおりを挟む朝食を食べていると、急にガヤガヤと王宮内が騒がしくなったので、クラウスは不思議に思って窓の外を見た。
「今日、何かあるんですか?」
「うむ、言い忘れておった」
王がぽんと手を叩いた。
「今日は毎年恒例の、騎士団の対戦試合があるのだ。そうだ!良ければ、クラウスくんも見学していかないか?ギルバートも参加するだろう?」
「ああ」
確かに、窓から見える中庭には騎士然とした男たちが集まってきている。
「対戦試合といっても、お遊びのようなものだ。宮廷内での交流もかね、騎士団以外の者や私たち王族も時々参加しておる」
「俺も一発、腕試しするかな~」
アーサーが軽い感じで言う。そういえば、この王太子が戦う姿は見たことがなかった。
「毎年、俺とギルバートの兄弟対決を見ようと、王宮内からも、街からもみんなが見にくるんだよね~。今年もかわい子ちゃんの黄色い声援をたくさん浴びちゃうかなぁ」
3属性もの魔法を操るギルバートに、きっと引けを取らない兄の対決。それは、きっとすごい戦いになるだろう。
「み、見たい…」
俺は、合同大会で見たギルバートの美しい戦う姿を思い出す。クラウスは目を輝かせた。
*
王城の前、とても広い広場には大勢の人が集まっていた。ガヤガヤと活気がすごい。対戦試合に参加する人々は、中央に集まって談笑している。多くが筋肉質で一目で騎士だと分かる者たちだが、中には文官らしいすらりとした人もいる。騎士団の訓練試合といっても魔法を使ったもののため、腕力はあまり関係ないのかもしれない。
ギルバートが、昨日も見た騎士団長と話しているのが見えた。騎士団長は、いかにも厳しそうな強面の大柄な男だ。よくギルバートはあんなに堂々と話せるなあと思う。王族として育ち、すでに多くのことを経験している彼の技量からくるものか。騎士団長も、ギルバートのことを王族に対してでもなく、学生に対してでもない1人の騎士候補生に対するような態度で接しているのが遠目からでも分かった。
一方で、アーサーは見にきている群衆の中から手を振る可愛い娘たちにファンサをしている。完全にアイドルだ。こんなにカリスマ性がある次期国王はいるだろうか。しかし彼はただプレイボーイなだけではなく、周りの騎士や文官とさりげなく会話しており、王太子としての顔も見せていた。
「では皆さん!対戦試合を始めます!参加者は中央に集まってください」
号令があがり、参加者たちは次々にペアを組んで、対戦を始めた。
学生ではない、大人たちの戦いを見るのは、夏合宿での先生たちの戦いを見た時以来だ。
1人が手をかざした。
バンッ!
初っ端からものすごい炎が空中を埋めるほどあがった。それを風魔法が切り裂く。
…ひえ。
俺はその凄さにびっくりしてしまった。
大人の洗練された魔法、しかも力も魔力もどちらも最高峰といえる騎士団の者たちの魔法は凄いとしか言えなかった。文官であろう者たちも、負けてはいない。それぞれの特技を活かした戦い方で、膨大な魔力を使っているにも関わらず全く疲れていなさそうだ。
クラウスはこっそり自分の胸元にある赤水晶に触れた。
…俺は、たった少しの生活魔法を使うだけでフラフラになるのに、この世界の人々はこんなに魔法が使えるのか?!学園を卒業したら、どこに行ってもこのぐらい凄い人たちのいる環境で働かなくてはならないなんて…一瞬前世の社畜時代を思い出す。俺は周りに比べ、特に仕事ができるわけでもなかった。そのため人より無理して社畜になり、ボロボロになったわけだが…今世でも、そうなる気がしてならない。
同い年、いや、とっくに自分の方が年を越しているだろう者たちとの魔力の差をまざまざと感じてしまい、クラウスは衝撃を受けてしまった。
「見て見て!ついにアーサー様とギルバート様の対決よ!去年は見れなかったから超楽しみなんだけど!」
周りの子の黄色い声にハッとして広場を見ると、兄弟が向かい合って立っていた。それはもう完全に絵になる光景で、一瞬アニメでも見てるのかな?と錯覚してしまう。似ているようで、似ていないイケメンが2人。黄金の髪を靡かせてニコやかに笑うアーサーと、銀がかった髪を煌めかせて真っ直ぐ兄を見つめるギルバート。
…?
ふと、ギルバートがコチラをチラリと見た気がした。その顔を見て、試合が始まる前、「見ていてくれ」とポンと肩を叩かれて話しかけられたことを思い出す。俺はそれまで、練習で魔法を出す参加者たちを呆けたように見つめていたが、そのセリフ一つで、すっかりギルバートばかり見るようになってしまった。
試合が始まったのは、一瞬だった。
アーサーはどんな魔法を使うのだろう。そう思った時には、アーサーの仕掛けた火魔法が、巨大な竜の形を表して会場の空全体を滑空した。
クラウスは口をあんぐり開けた。
その火竜を、ギルバートの氷の剣が貫く。火魔法は消えたが、次から次へとアーサーは魔法を繰り出し、ギルバートはそれを軽々といなしていった。
それはもう、目を見張る戦いだった。アーサーは、やはりかなりの魔法の使い手で、今まで見た騎士団の精鋭たちよりも強そうだった。素早く、そして力強い。しかし、それに引けを取らないギルバートの凄さも実感する。いや、もしや彼の方が底のないほど膨大な魔力を持っているのでは?
…ギルバート、いつの間にか凄く強くなっていないか…?
彼は見るからに、火水光属性の他に、地や風も駆使している。使える属性が増えているのだ。一方のアーサーも、どうやら複数属性使えるようで、特に火魔法が段違いに上手い。周りの人々も試合に魅入っているのか、感嘆の声がそこかしこで聞こえた。
勝負は五分五分、といったところだが、少しギルバートの方が優勢のような気がする。
「…あれは、たまげたなぁ。ギルバート殿下、もしかすると全属性を習得するんじゃねえか?」
「…ああ。彼は確実に歴史に残る魔法騎士になるな…」
そしてついにその時が来た。
ギルバートが放った光の矢は、アーサーの炎を弾き飛ばし、彼は膝をついた。
「ッ!!……はは、強くなったな」
どちらか片方がとっさに反撃できなくなったら、終了だ。アーサーは負けたが悔しそうではなく、むしろ嬉しそうだ。そんな兄と握手したギルバートは、兄から称賛の言葉をもらって頬を緩めた。最近、こうしてギルバートの柔らかい表情が増えた気がする。
大きな歓声が上がり、その場にいる皆が立ち上がって拍手した。
クラウスも興奮が冷めないまま、2人を見つめた。
…すごいとしか言いようがない。…かっこいい。
こんなに凄い2人が、この国の未来を担う存在なのか。
今たくさんの歓声を受け堂々と立つ2人。クラウスのとっては、まるで手の届かない存在に思える。今は学園でギルバートと会うことができているが、彼が卒業したら全く会うこともなくなってしまうんじゃないか。そんな漠然とした不安が徐々に湧いてしまった。
ワァ!
試合が終わり、人々は思い思いに動き始めた。ある者は王子たちを近くで見ようと、ある者は参加者を労おうと。
クラウスもすっかり人の海にもまれ、ギルバートたちが見えなくなる。
その時だった。
クラウスは、ぐいっと何者かに強く腕を掴まれた。
「下手に動くなよ。動いたら、背中に魔法ぶち込むぞ」
耳元で男の声がして、背中に手を置かれる。俺は魔力の気配はさっぱり分からないが、その手から尋常じゃない熱が背中に伝わってきて、冷や汗が出た。この至近距離で魔法を放たれたら、ひとたまりもないだろう。
クラウスは、咄嗟に走り出そうとしていた体の力を抜いた。
「分かったなら、俺の指示に従って動け」
背後の男はそう言い、クラウスと男は人混みの中、誰にも気に留められずに歩き出したのだった。
クラウスがどこに消えたのか、誰も見ていなかった。
89
お気に入りに追加
2,842
あなたにおすすめの小説
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
美形×平凡のBLゲームに転生した平凡騎士の俺?!
元森
BL
「嘘…俺、平凡受け…?!」
ある日、ソーシード王国の騎士であるアレク・シールド 28歳は、前世の記憶を思い出す。それはここがBLゲーム『ナイトオブナイト』で美形×平凡しか存在しない世界であること―――。そして自分は主人公の友人であるモブであるということを。そしてゲームのマスコットキャラクター:セーブたんが出てきて『キミを最強の受けにする』と言い出して―――?!
隠し攻略キャラ(俺様ヤンデレ美形攻め)×気高い平凡騎士受けのハチャメチャ転生騎士ライフ!
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
スキルも魔力もないけど異世界転移しました
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!!
入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。
死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。
そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。
「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」
「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」
チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。
「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。
6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる