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30.自覚、その後

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「──ウス……クラウス……どうした?」

ガタガタと馬車に揺られる中、隣に座るギルバートの声が耳に飛び込んできた。

「ぁ…ごめん、ぼーっとしてた」

さきほど聞いた話の衝撃が未だに抜けず、クラウスは心ここに在らずだった。

「…少し顔色が悪いな。大丈夫か?」

この男は、こういう風にすぐ気がつく。そんな所も、好きなんだよな…。そう考えている自分に気がつき、クラウスはハッとして慌てて思考を振り払った。

…まずいぞ!好きなのかも知れないと自覚してから、何もかも意識してしまう。

「外が寒いだろう…ほら、もう少しそばに」

そう言って、ギルバートが肩に手を回して俺を引き寄せてきた。ギルバートの逞しい体が近くなって、外の寒気から守るように温かさが伝わってくる。いや、温かく感じたのは、クラウスの体が熱くなったせいか。クラウスはさっき恋心を自覚したばかりの相手とくっつき、心臓がバクバクいい出すのを感じた。

そう、こういう所だ。この男はすぐ、俺がまるでどこぞの姫君にでもなったのかと錯覚するくらい紳士的に接してくる。自分でも驚きだが、そうされて嬉しく感じるんだ。彼の…特別になれたような気がしてくるからだ。そんなわけないのにな。

大体、彼も悪い男ではないか?気のない相手にここまで優しくしたら、惚れられても仕方ない。
好きな子がいるくせに、どうして俺なんかに構ってるんだ…と言いたくなるが、彼はそういう人だ。冷たい表情の裏には、案外情に厚くて曲がったことが嫌いで…心優しい内面がある。困った人がいれば、彼は誰でも助けるだろう。それに何度も助けられたのが自分だ。そんな所を、好きになったのも…。

「…クラウス?」

ハッ!あぶない…また考えこんでいた…

「…ん、いや…だいじょうぶ」

それにしても、なんだか眠くなってきてしまった。まるで、酒を飲んだ後のようだ。今日は変にふわふわした気分になって、それで今眠くなってくるなんて、本当にあの始まる前に飲んだ『元気もりもりドリンク』は何か変な作用のものだったんじゃないか?全く、あのお爺さん、やっぱり変な物ばっかり売ってるんじゃ…ないか…。

クラウスはとうとう眠気に耐えられず、隣のギルバートの丁度良い高さにある肩に頭を乗せてしまった。薄れゆく意識の中で、ギルバートが一瞬ビクッとしたのが分かったが、申し訳ないと思いつつそのままその温かい存在に身を預けた。最後に、夢の中で、何かが頭を優しく撫でた気がした。







ふわ。

クラウスは、ううーんと寝返りを打って、自分が恐ろしくふわふわな場所に寝ていることに気がついた。これは高級なベッドだろうな。それに、何だかすごく落ち着く匂いがする。すごく、好きな匂いだ。

「起きたか?」

っ!!
間近で落ち着いた低音が聞こえ、バッとクラウスは飛び起きた。

すぐ頭上に、ギルバートの端正な顔がある。彼は慌てて起きたクラウスを見てクスリと笑うと、背を支えてくれた。

「もっと寝ていてもいいぞ」
「あ、い、いやもう十分だ。…ていうか、ここってもしかして、君の部屋か?」

見渡した部屋は、美しい装飾がそこかしこに施されており明らかに王族の部屋だと分かるものだが、あまり物が多くなくて簡素にも感じる。ギルバートらしい部屋だった。

「ああ、俺の部屋だ。帰りの馬車で眠ってしまったから、君を離宮より近いここに運んだ」
「う…とんでもない迷惑を…重かっただろ?」
「君は驚くほど軽い。もっと食え。…それに、きっと慣れない舞踏会で疲れたんだろう。気にすることはない。…俺としては、君が部屋にいることは新鮮で……いや、何でもない」

最後はごにょごにょと何やら呟いたギルバート。耳が少し赤い。

「今って…朝か」

差し込んできた日の光で、目の前のギルバートのブロンドが輝いていた。

「…運ばせたうえに、君のベッドを占領して寝こけるなんて…すまない」
「なぜ謝る?…安心して眠っている姿を見れて良かったが。最近、君があんまり眠っていないんじゃないかと思っていたから」

彼の手が優しく目元を撫でて、そして離れていく。たったそれだけの仕草で、俺の心臓はダメになった。
大体、ギルバートのベッドの上にいて、彼に見下ろされるようなシチュエーションから良くない。徐々に赤くなっているだろう顔を隠せずにいると、コンコン、と扉が叩かれて、近衛兵くんが朝食の時間を知らせる。

…助かった。

妙にじっとクラウスを見つめるギルバートから逃れるように、クラウスは元気に立ち上がった。

…この想いは、バレないようにしないと。
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