魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される

ぶんぐ

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25.舞踏会2

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それから、少し日が暮れて来た頃、俺は舞踏会の会場に着いた。
雪が積もる美しい小さな城は、蝋燭や魔電球で幻想的な光に照らされていた。

その入り口に、こちらを見て立っている人がいる。
ギルバートだ。
彼を見て、ハッとした。

彼は王族のマークが付いた正装で、さりげなく美しい刺繍が多いタキシード型の衣装を、それはもう立派に着こなしていた。脚は悔しいほどに長い…それに、出会った頃より更に逞しくなった身体には、カッチリした衣装が驚くほど似合う。銀っぽい金髪を整え、氷色の瞳を鋭くさせた姿は、ちょっと近寄りがたいほど別世界の人に見えた。

しかし、そんな彼は、クラウスの姿を見とめるとパッと目に見えて目を輝かせた。
クラウスはそんな様子を見て、胸がむず痒い気持ちになる。
クラウスが近づいて行くと、ギルバートは釘付けになったかのようにクラウスを見つめた後、ふっと目を細めた。

「こんばんは。…その衣装、すごく似合ってる」
「こんばんは…あ、ありがとう。こんな良いものを俺にくれて嬉しいよ」

…君も、すごく似合っていてカッコいいな。

「…君も似合っていてカッコいい」

と、その時、口からするりと言葉が出てきて、クラウスはハッと口を押さえた。

…な、なぜ思ったことが。

ギルバートがポカンとすると、眉を寄せて俯いてしまう。

お、怒ったか…?
しかし、頬がほんのり赤いのを見るとどうやら照れているようだ。

…意外だ。
イケメンな王子である彼は、こんな褒め言葉言われ慣れているだろうに。
しかし、彼の今まで1度くらいしか見てない超レアな照れ顔を見れて、悪い気はしなかった。いや、俺も何だか照れ臭くなってくる。この舞踏会のロマンチックな雰囲気に流されてるのか、何だか今日はふわふわしてしまってダメだ。

「…緊張するなぁ」
「大丈夫だ。…君は無理に話したりしなくていい。俺のそばにいてくれ」

そのまま、俺はギルバートに案内されるように舞踏会の会場へと入っていった。

中は、煌びやかな世界だった。1番大きな大広間には、ビッフェ形式で美味しそうな食事が並ぶ中、何十人かの人たちが思い思いに立って話したり、音楽に合わせてダンスしてたりする。
確かに、こぢんまりしていて、社交パーティーというより親族だけでのパーティーに近い。

クラウスがギルバートと共に中に入ると、皆が一瞬こちらを見た気がした。
近くの人たちは軽く挨拶してくる。全員の顔は知らないが、確か宮廷内でも有名な偉い人や、王族関係の人が何人かいるのが分かった。

…俺、浮いてないかな?

クラウスは恐る恐る皆の顔を見たが、皆笑顔で会釈してくれる。少なくとも、その目にはあからさまな嫌悪の色はない。
クラウスは少し安心して、ふわりと微笑み返した。…なぜかそれを見て数人が目をパチパチさせていた。

ふと、部屋の奥の方で、オスカー王が隣の灰色の髪の聡明そうな男性と話しているのが見えた。きっと、その聡明そうな人は宰相だろう。
と、その時、オスカー王がこちらに気がついて、手招きした。

「こんばんは、ギルバートとクラウスくん。クラウスくん、ようこそ舞踏会へ」

オスカー王は今夜も只者ではないオーラと渋さを出していた。
隣の宰相が、息子のシリルと同じ灰色の目をじっとクラウスに向けながら、挨拶してくる。そんな彼、グレイ宰相も、細身なイケオジだ。
クラウスが挨拶すると、グレイ宰相は俺の目を見たまま微笑んだ。

「…君には会ってみたかったんだ。今夜は楽しんで」

なんだか観察されているようで、クラウスは早くその目から逃れたいような気がした。丁度よく、ギルバートがクラウスに声をかける。

「まずは食事をしないか?」

美味しそうな料理を手に、ギルバートと共に座り心地の良いソファで休んでいると、宮廷関係者たちが続々とギルバートに挨拶しに来た。

「…あなたがギルバート殿下の……これはこれは、ようこそ『冬の舞踏会』へ」

「まぁ!隣の彼が、ギルバート殿下が初めて舞踏会に誘った方ですね?」

「いやぁ、初めてお目にかかります。…まさか、ギルバート殿下が誰かを舞踏会に誘うとは…」

…気になるのは、挨拶に来る皆がまるで珍しいものを見るかのように俺を見てくることだ。
よく見ると、周りで談笑する人々も皆、時折チラチラとこちらに視線を向けているのが分かる。

「…驚きね。まさかギルバート殿下が…」
「…これは、社交界を揺るがす出来事ね。だって、舞踏会に誘うってことは……ってことでしょう?」

周りで談笑しているご婦人方が何やら話しているが、肝心の所は聞き取れない。

…でも、この感じを見ると、舞踏会に誘われることは相当レアなことらしい。しかもギルバートに至っては、招待した人は俺が初めてということか…。その事実に、どうしても特別感を感じてしまって自分でも驚いた。

…ギルバートは、思った以上に俺のことを…親しい友人だと思っているのかもしれない。
…嬉しいなぁ。

それにしても。

偉い人たち相手に、難しい話も堂々と話すギルバートは流石王子だ。年下とは思えない。
隣にただ座るクラウスの方が緊張してしまって、すっかり仕事モードでいつもの冷静沈着な雰囲気で話している彼の姿に、ただただ圧倒されるばかりだ。

…これが、王子としてのギルバートか。

今まで普通に友達として接してきたが、やっぱり彼は生粋の王族で、住む世界が全く違うのだと痛感させられる。前世でも今世でも平凡なクラウスが、到底隣に居られるような存在ではないのだ。
そう思うと、隣に座っているはずなのに、1番遠くに行ってしまったような気がしてきて、浮いていた心が少し沈むのを感じる。

「──そういえば」

その時、今ちょうどギルバートと挨拶をしていた外交官だという男が話す言葉が耳に飛び込んできた。

「ギルバート殿下は、最近の『黒い集団』についてはどう思われますか?」

外交官の男は、薄い笑いを浮かべながら、明らかに俺にチラリと目を向けて言った。
…どうやら、わざと今この話題を出したようだ。

「つい先月は学園でも事件が起きましたよね。幼い初等部の生徒が攻撃されるなんて…なんと卑怯なんでしょうな」
「…そうですね。宮廷でも、調査が進められています」
「どうやら、黒髪黒目の男が、『黒い集団』事件の首謀者らしいと噂ですよ」

外交官の男は、ニヤついたまま言った。俺をチラリと見たその目には、はっきりと侮蔑の色が浮かんでいた。

「…そう言われていますね。……まさか、さっきから彼のことを見ていますが、クラウスの容姿のことを言っているんですか?」

その時、ギルバートが一段と低い声で鋭く言った。ピリ、と空気が凍ったような気がする。

「…い、いやいや!とんでもない!ちょっと、噂話をしただけですよっ」

すると、外交官の男は焦ったように早口で言うと、「それじゃあ、失礼します」とそそくさと去っていった。

「…はぁ」

イラついたようなため息を吐いたギルバートにギクリとする。
すると、それにハッとしたギルバートが、俺の方に向き直った。

「彼にイラついたんだ。彼は外交官長で地位の高い人だが…噂に流されやすい。舞踏会では君に嫌な思いをしてもらいたくなかったんだが、すまない」
「君が謝ることじゃないよ。ありがとうな」

ギルバートは気にしているが、俺はこの舞踏会でそんな嫌な思いをしていない。むしろ、舞踏会の参加者たちはほとんど、クラウスを好意的に見ている気がする。

「もう挨拶は済んだし、少し夜風にでも当たりに行こう」

ギルバートがそう言って、俺を連れてバルコニーに向かう。
外に出ると、魔石や蝋燭で美しく木々が光っており、思わず見惚れた。うっすら積もった雪がキラキラと闇夜に輝く。

ギルバートと、言葉少なに景色を眺める。

「…舞踏会は緊張するだろう。無理に付き合わせてしまったな。少々強引に招待したのは…君を、家族や親しい者たちに紹介したかったのもあるんだ」

おもむろにギルバートが口を開いた。

…紹介したかったって、つまり。

「俺、そんなに君の親しい友人になれていたんだなぁ。すごく嬉しいよ」
「………ああ。……大事な存在だよ」

その言葉に、クラウスは少しドキッとした。…まぁ、あれだ、異国風のストレートな好意の言葉だろう。

「…緊張したけど、すごく楽しいよ。君が王子として立派に頑張っている姿を見れたしな」

ギルバートと2人きり、落ち着いた夜空の空気にクラウスも気持ちがリラックスしてくる。

「それにしても、ギルバートは凄いなぁ。偉い人たちと立派に話し合ってるのを見て、尊敬したよ。俺なんて、この歳でも偉い人と話す時緊張しちゃうのになぁ」

ふわりと笑って言う。
何だか今夜はふわふわした気持ちになるし、いつも照れて言えないようなことも素直に言ってしまいたくなるなぁ。

「俺、君のことを尊敬しているんだ。その完璧な姿の裏には相当な努力があったことも、君の平民と貴族を分けない考え方も強い信念も好きだ」

(本当は、君がどんなものを抱えてそこまで懸命になるのかを、もっと知りたい)

「…ッ」

ギルバートが目を見開いて俺を凝視すると、しばらく言葉を失った。そして、心配気に顔を覗き込んできた。

「…君、間違って酒でも飲んだか?…確か君、さっき苦手だからってお酒を断ってたよな…」

…ん?大丈夫だぞ。俺はさっきジュースしか飲んでない。とっても美味しい生搾りのな。

「本当か?」

ギルバートがそっと手を伸ばし俺の頬に触れる。

…あれ、なんだかドキドキするなぁ。ギルバートがじっと見つめてくるからか?…やっぱり近くで見ても恐ろしく整った顔だ…。

その美しい顔は、突然かっと赤くなると慌てて逸らされてしまった。

「…危ない、俺は…なにを…」

どうした?

「カッコいい顔が赤いよ」

俺は妙に楽しい気分になって、ニマニマとギルバートの頬を触ると、さらに赤くなってて面白い。

「っ!な、……本当に今日の君はどうしたんだ……俺を殺す気か…」
「んー、どういうことだ?まぁ、でも今日おかしいのは本当だ。何か飲んだかな~」

頭に『元気もりもりドリンク』の存在がよぎるが無視する。あのお爺さん、やっぱり変なものを俺にくれたんじゃ?

「…心配だな。あんまり俺から離れるな。…あと、あんまり無防備に他人に笑いかけてはいけない」
「…んー?うん」
「よく分かってないだろ…」

ギルバートがふっと笑ってくしゃりと俺の髪を撫でた。

…ん?

笑った?

クラウスは目を見開いて彼を見つめた。その顔は、いつもの冷徹な仮面を取り攫っていた。
ギルバートは、クラウスを見つめたまま、さらに笑った。氷色の目は優しげに細まり、夜空に彼の銀の髪が輝く。その美しさに、思わずクラウスは息を呑んだ。

「俺だって、君と出会って君に惹かれるばかりだ」

ギルバートのボソリと呟いた言葉は、しっかり俺の耳に届いた。

──ッ。

…そんなことを言われたら…嬉しくならないわけない。どうしてくれるんだ、この色男め。
…もうすでに、俺の心は確実に彼に引き寄せられている。気づかないフリをしていたけれど…。同性とかは関係なく、俺は君のことを…。



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