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9.赤い水晶1
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クラウスが翌日目を覚ますと、体はまだギシギシと鈍痛がしていた。まだ痣が残っているからだろう。しかし、ギルバートが治してくれたおかげで、少し転んだ程度の痛みだ。
やはり医務室に行った方がいいか。
どうやら昨日のことは学園に知られているようで、医務室に行くとおばさんが色々教えてくれた。
昨日の数人の生徒は、今までも平民の学生に嫌がらせをするなどの問題行動が多く、結局この学園から去ることとなったらしい。皆貴族の子で後ろ盾があったが、この国の王子であるギルバートの証言が大きな一手となったのだ。
ギルバートはかなり怒っていたという。昨日助けてくれた時のことを思い出してぐっと来るものがあるが、最後に言われたことも思い出して落ち込んだ。
『君も魔法が使えないなんて嘘つく愚かな行為は今すぐ辞めて、魔法を習得することだ』
…魔力がないのは嘘ではないが…この世界の人がそれを信じられないのも分かる。だって住んでた世界が違うのだ。
だからこそ、俺は”どんな手を使ってでも”魔法を習得しなければならない。
クラウスは、この時相当焦っていた。
あまりにも魔法が使えなさすぎる。クラウスだって、最初は初級魔法くらい使えるだろうと思っていたが、そんな期待は早くも打ち砕かれた。所詮、俺がただ転移してきただけの平凡な地球人だということを痛感する。
──でも、このままでは、俺は”ゼトの生まれ変わり”だと言われて、いつか国に捕まったりしそうで怖い。すでにこんなに嫌われてる。
「なあ、リリー、魔力を高める方法ってどんなのがある?」
リリーと2人、いつものように図書館で勉強している時に聞いてみた。
リリーは、魔法オタクで、魔法に関する本をたくさん読み漁っていた。
「…そうね。昔は、全国の大魔法使いたちは精霊の山に登って、魔力を高めたと言われているわ。今じゃ、そんなことする人いないけど。今は、そんなに魔力量を必要としなくても生きていける時代だし、その大魔法使いの話も御伽噺みたいなものだから」
「ふうん。…その精霊の山って、今もある?」
「あるわよ。フィルへイムにあるのは、クルツ山。ここから近いのよ。ほら、この学園からも見えるあの尖った山よ。通称、”魔石山”とも言われているの」
リリーに言われて窓から見ると、確かに、学園の割とすぐ近くに山が見える。
「まぁ、魔石山に行く人は滅多にいないわね。行くのはそれこそ魔石を取りに行く魔石商人くらいかしら。行っても、魔石がたくさんあるだけで、特に魔力が高まるとは思えないけど…」
行きたいの?とリリーが若干心配そうに聞いてくる。
「どんな所なのか見るだけだよ…魔法を使えるなら、全部の方法を試してみたいんだ」
「…行くのは止めないけど…気をつけてね。ちなみに、毎週日曜日に商人の馬車が魔石山に向かうから、それに乗せてもらえるわよ」
「リリー、ありがとう!」
リリーが博識で助かる。
さっそく、クラウスは魔石山に行ってみることにした。
*
「これが、魔石山…」
クラウスは、目の前に聳える鋭利な三角形の山を見上げていた。裾野の方はなだらかだが、山頂は尖っているように見える。こんなの登れるのか?!
「おーい、兄ちゃん」
その時、一緒に馬車に乗せてくれた商人のおっちゃんが声をかけてくる。この商人は、クラウスの容姿を見ても何の反応も示さず、快く馬車に乗せてくれて良い人そうだった。
「見惚れてねえで、ホレ、さっさと行くぞー」
「え?」
「魔石見に来たんだろ?魔石は、この山ん中にあるんだぜ。山道もあるが急すぎて登れねえから、俺たちゃ山ん中の坑道を行くんだよ」
なるほど。魔石山の内部は坑道が張り巡らされているらしい。
商人に続いて魔石山の中に入って行くと、すごい景色が広がっていた。至る所に魔石がキラキラ光っており、坑道内を淡く照らしている。幻想的で綺麗だ。こういうダンジョンありそう。
魔石とは、見た目がクリスタルのようなものや、その辺の石みたいなものなど様々あるが、一様に色とりどりに光るのが特徴だ。ここは、クリスタルのような綺麗なものが多い。
「俺たちはこういう山で魔石を採って売るのと、使い切られた魔石をまた山に戻す仕事をしてんだ。そうすると、魔石はまた時間をかけて魔力を溜める」
道中、商人と話しながら歩く。
「魔石がある山ってのは、元々魔力が多いところって言われてる。この魔石山なんて、精霊の山だから特にそうだろ。だから、大昔の魔法使いや魔女はここで修行したんでねえのかね」
「ここで修行するだけで、魔力が強くなるんですかね?」
「…んー、いや、正直場所はあんま関係ねえと思うんだ。過酷な山で修行することで、精神を鍛えるんじゃないかね」
「…そうですか」
「あー!そんなしょげんなって!…そうだ、特別にこの山の噂を教えてやるよ。どうも、この山には特別なクリスタルがあるらしい。俺もまだ見つけちゃいねえが、この山に詳しい者ならあるいは知ってるかもしれんな。そのクリスタルは、”魔力を高める”って噂だぜ」
なんと、魔力を高めるクリスタルか。
「ところで、俺はここらの魔石を集めるが、兄ちゃんはどうするね?上まで行けるけど、その先は魔石もねえから誰も行かんがね。この坑道は灯もあって分かりやすいから、先に行きたけりゃ1人で行って戻れるだろう。夜までに馬車の所に戻ってくれれば一緒にまた街まで連れてってやるよ」
「わかりました。俺はちょっと先まで行ってみます」
そこで、クラウスは商人と別れ、先に進んだ。
魔石山は、坑道を通って上の方までいける。クラウスは、とりあえず上まで登ってみることにした。途中、木製エレベーターみたいなのがあって、楽に上まで行けた。そうすると、次第に魔石が減少し、最後には薄暗い水晶だった石に囲まれた空間になる。誰もここに来ないというのは本当なのか、道も古くなっていた。
なんか雰囲気が変わったな。古びているのに、誰かが使った形跡のある坑道。ここに人は滅多に来ないはずなのに、なんで?
そんなことを考え油断していたのか。
ズボッ
と突然、クラウスが古びた木製の道を踏んだ瞬間に足が落ちた。
まずい!落ちる!
と思った時には、クラウスは道を突き抜け、水晶の隙間に落ちていた。
ッ!
クラウスは硬い石に当たることを予想しギュッと目を閉じるが、思ったより衝撃は少なかった。それでもドスッとどこかに落ちたようだ。イテテ…
どこに落ちた…?
クラウスがうっすら目を開けて辺りを見ると、自分が水晶に囲まれた空間にいることが分かる。
薄暗い空間だが、ぼんやりと赤い光に照らされていた。
なんだろう…この赤い光。
光源を辿り、クラウスは目を滑らせると、水晶の隙間に何か赤く光り輝くものが見えた。
どうしても気になり、クラウスはヨロヨロ立ち上がって近づく。見ると、それは赤く光るクリスタルだった。小さくて、透き通った赤色だ。
クラウスは魅せられたように無意識にそれに手を伸ばした。
「それは危険じゃ!」
やはり医務室に行った方がいいか。
どうやら昨日のことは学園に知られているようで、医務室に行くとおばさんが色々教えてくれた。
昨日の数人の生徒は、今までも平民の学生に嫌がらせをするなどの問題行動が多く、結局この学園から去ることとなったらしい。皆貴族の子で後ろ盾があったが、この国の王子であるギルバートの証言が大きな一手となったのだ。
ギルバートはかなり怒っていたという。昨日助けてくれた時のことを思い出してぐっと来るものがあるが、最後に言われたことも思い出して落ち込んだ。
『君も魔法が使えないなんて嘘つく愚かな行為は今すぐ辞めて、魔法を習得することだ』
…魔力がないのは嘘ではないが…この世界の人がそれを信じられないのも分かる。だって住んでた世界が違うのだ。
だからこそ、俺は”どんな手を使ってでも”魔法を習得しなければならない。
クラウスは、この時相当焦っていた。
あまりにも魔法が使えなさすぎる。クラウスだって、最初は初級魔法くらい使えるだろうと思っていたが、そんな期待は早くも打ち砕かれた。所詮、俺がただ転移してきただけの平凡な地球人だということを痛感する。
──でも、このままでは、俺は”ゼトの生まれ変わり”だと言われて、いつか国に捕まったりしそうで怖い。すでにこんなに嫌われてる。
「なあ、リリー、魔力を高める方法ってどんなのがある?」
リリーと2人、いつものように図書館で勉強している時に聞いてみた。
リリーは、魔法オタクで、魔法に関する本をたくさん読み漁っていた。
「…そうね。昔は、全国の大魔法使いたちは精霊の山に登って、魔力を高めたと言われているわ。今じゃ、そんなことする人いないけど。今は、そんなに魔力量を必要としなくても生きていける時代だし、その大魔法使いの話も御伽噺みたいなものだから」
「ふうん。…その精霊の山って、今もある?」
「あるわよ。フィルへイムにあるのは、クルツ山。ここから近いのよ。ほら、この学園からも見えるあの尖った山よ。通称、”魔石山”とも言われているの」
リリーに言われて窓から見ると、確かに、学園の割とすぐ近くに山が見える。
「まぁ、魔石山に行く人は滅多にいないわね。行くのはそれこそ魔石を取りに行く魔石商人くらいかしら。行っても、魔石がたくさんあるだけで、特に魔力が高まるとは思えないけど…」
行きたいの?とリリーが若干心配そうに聞いてくる。
「どんな所なのか見るだけだよ…魔法を使えるなら、全部の方法を試してみたいんだ」
「…行くのは止めないけど…気をつけてね。ちなみに、毎週日曜日に商人の馬車が魔石山に向かうから、それに乗せてもらえるわよ」
「リリー、ありがとう!」
リリーが博識で助かる。
さっそく、クラウスは魔石山に行ってみることにした。
*
「これが、魔石山…」
クラウスは、目の前に聳える鋭利な三角形の山を見上げていた。裾野の方はなだらかだが、山頂は尖っているように見える。こんなの登れるのか?!
「おーい、兄ちゃん」
その時、一緒に馬車に乗せてくれた商人のおっちゃんが声をかけてくる。この商人は、クラウスの容姿を見ても何の反応も示さず、快く馬車に乗せてくれて良い人そうだった。
「見惚れてねえで、ホレ、さっさと行くぞー」
「え?」
「魔石見に来たんだろ?魔石は、この山ん中にあるんだぜ。山道もあるが急すぎて登れねえから、俺たちゃ山ん中の坑道を行くんだよ」
なるほど。魔石山の内部は坑道が張り巡らされているらしい。
商人に続いて魔石山の中に入って行くと、すごい景色が広がっていた。至る所に魔石がキラキラ光っており、坑道内を淡く照らしている。幻想的で綺麗だ。こういうダンジョンありそう。
魔石とは、見た目がクリスタルのようなものや、その辺の石みたいなものなど様々あるが、一様に色とりどりに光るのが特徴だ。ここは、クリスタルのような綺麗なものが多い。
「俺たちはこういう山で魔石を採って売るのと、使い切られた魔石をまた山に戻す仕事をしてんだ。そうすると、魔石はまた時間をかけて魔力を溜める」
道中、商人と話しながら歩く。
「魔石がある山ってのは、元々魔力が多いところって言われてる。この魔石山なんて、精霊の山だから特にそうだろ。だから、大昔の魔法使いや魔女はここで修行したんでねえのかね」
「ここで修行するだけで、魔力が強くなるんですかね?」
「…んー、いや、正直場所はあんま関係ねえと思うんだ。過酷な山で修行することで、精神を鍛えるんじゃないかね」
「…そうですか」
「あー!そんなしょげんなって!…そうだ、特別にこの山の噂を教えてやるよ。どうも、この山には特別なクリスタルがあるらしい。俺もまだ見つけちゃいねえが、この山に詳しい者ならあるいは知ってるかもしれんな。そのクリスタルは、”魔力を高める”って噂だぜ」
なんと、魔力を高めるクリスタルか。
「ところで、俺はここらの魔石を集めるが、兄ちゃんはどうするね?上まで行けるけど、その先は魔石もねえから誰も行かんがね。この坑道は灯もあって分かりやすいから、先に行きたけりゃ1人で行って戻れるだろう。夜までに馬車の所に戻ってくれれば一緒にまた街まで連れてってやるよ」
「わかりました。俺はちょっと先まで行ってみます」
そこで、クラウスは商人と別れ、先に進んだ。
魔石山は、坑道を通って上の方までいける。クラウスは、とりあえず上まで登ってみることにした。途中、木製エレベーターみたいなのがあって、楽に上まで行けた。そうすると、次第に魔石が減少し、最後には薄暗い水晶だった石に囲まれた空間になる。誰もここに来ないというのは本当なのか、道も古くなっていた。
なんか雰囲気が変わったな。古びているのに、誰かが使った形跡のある坑道。ここに人は滅多に来ないはずなのに、なんで?
そんなことを考え油断していたのか。
ズボッ
と突然、クラウスが古びた木製の道を踏んだ瞬間に足が落ちた。
まずい!落ちる!
と思った時には、クラウスは道を突き抜け、水晶の隙間に落ちていた。
ッ!
クラウスは硬い石に当たることを予想しギュッと目を閉じるが、思ったより衝撃は少なかった。それでもドスッとどこかに落ちたようだ。イテテ…
どこに落ちた…?
クラウスがうっすら目を開けて辺りを見ると、自分が水晶に囲まれた空間にいることが分かる。
薄暗い空間だが、ぼんやりと赤い光に照らされていた。
なんだろう…この赤い光。
光源を辿り、クラウスは目を滑らせると、水晶の隙間に何か赤く光り輝くものが見えた。
どうしても気になり、クラウスはヨロヨロ立ち上がって近づく。見ると、それは赤く光るクリスタルだった。小さくて、透き通った赤色だ。
クラウスは魅せられたように無意識にそれに手を伸ばした。
「それは危険じゃ!」
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