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2.図書館

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──〇〇くーん、これいつになったら出来るの?本当、君は仕事が遅いね!



はっ!

クラウスは飛び起きた。

な、なんだ。夢か。
嫌な夢だ…。えっと、今日も仕事か…

クラウスは起き上がろうと周りを見回し、自分が寮にいることに気がついた。

そうだった。俺、異世界転移したんだったな。

ひとまず…朝ごはんを食べに行くか。







クラウスは食堂に降りて行った。大きなホールに入った途端、たくさんそこかそこで話していた学生たちが、一瞬クラウスを見た気がした。

…?
妙な視線を感じる。ひそひそと、よくないことを囁く声もする。

クラウスは居心地が悪くなって、小さくなりながら食堂の隅の席に座った。
もらってきたプレートの中の食事は、流石王立学園というべきか、美味しそうな洋食風の朝ごはんで、居心地が悪いのはすぐに忘れて黙々と食べる。

朝は即カロリー摂取できる携帯食だった俺には、久しぶりに食べる超豪華なご飯だ。ああ、なんて美味いんだろう。

「…あれが編入生?うわ。ほんとに黒い目に黒い髪だな」
「…不気味。見ないようにしましょ」

その時、近くでまたひそひそと敵意のこもった声が聞こえ、クラウスはドキっと心臓を跳ねさせた。

「アイツ魔力が無いらしいぞ」
「まじか。本当に…あの…っていう、アイツの再来なんじゃ…」
「よせ!アイツの名は口に出すな。聞くのもおぞましい…」

…いや、

…薄々感じてたけど、

──なんで俺は避けられているんだ…?

俺はこの学園に来たばかり、そもそもこの世界にも来たばかりなのに、皆は話す前に避けていく…なんか、どうやら、俺の持つ特徴を嫌っている…?

…黒い髪に黒い瞳という。

クラウスはすっかり萎縮してしまって、そそくさとその空間から抜け出した。

…今朝は前世の嫌な夢を見るし、ここでも避けられてるし…全くついてない。
異世界転移なんてすごいことをしたんだから、もっと、こう、前世よりも楽しいものになるんじゃないのか。


これは、思っていたよりも大変な生活になるぞ。







それからも、クラウスはすぐに一人孤立してしまって、全く生徒と友達になるどころか、話しかけられもしなかった。授業もモーリス先生と話すばかりで、魔法も相変わらずからっきし使えない。

ふと最初に話しかけてきた高身長イケメン、シリルが目に入るが、こちらを見とめた瞬間すぐに目を逸らされてしまって、話しかけることすらできなかった。唯一話せそうな相手だったのにな。
シリルの隣にはよく天使みたいな美少年のノアがいて、二人は仲が良いのだろうと思ったが、彼には鋭く睨まれてしまって、クラウスは声をかけようと開けた口をとうとう閉じた。

そんなクラウスは、必然的に人の少なく静かな図書館に入り浸ることになった。

ここでは周りの鋭い視線も感じなくて、ほっとする。
それに、この世界のこともここに居たら知れるしな。


…そうしてクラウスは、皆がクラウスを避ける理由を知ってしまうのだった。



さて、まず手に取ったのは、『フィルヘイム王国の歴史全集』。

「フィルヘイム王国」の現国王は、オスカー・フィルヘイム。第一王子:アーサー・フィルヘイム、第二王子:ギルバート・フィルヘイム…つらつら

なるほど。パラパラ読んだだけだが、大体この世界は前世と変わらない発展をしてきたようだ。もっとも、「魔法」の存在により、前世より世界は豊かなようだった。

「フィルヘイム王国」は、現在、比較的平和な状態ではあるが、一つ懸念がある。それは、隣国の「スオール王国」が近年、「フィルヘイム王国」の領土を侵害したり貿易を妨害していることだ。
すでに小さな小競り合いから、戦争にまで発展する勢いだという。

…これはまずい。
こんな戦争に戦争奴隷として駆り出されたらたまったもんじゃない!

…絶対に魔法を取得せねば。

ふむふむ。
大体どんな国かわかったぞ。次は…

クラウスは『魔法』のコーナーに移る。

この世界の人が皆魔法が使えることはもう知っているな。属性が6種あることも。

しかしまだ知らないことがあった。

一つは『魔石』のこと。
よくゲームとかでもあったアイテムだけど、この世界では、魔力を貯めておく石のようだ。それを日常生活で使っている。電池みたいなものかな?これで照明からお風呂を沸かすのまで色々できてしまう。
しかも、使うのにそんなに魔力を使わず、自分がちょっと魔力を込めれば年単位で使える代物だ。

便利すぎだろ。
しかし魔力のない俺には、人に頼らない限り今のところ使えない。コックがこれでは生活できないと心配していたのも頷ける。

さて、こうして魔法の歴史を見た時、俺はついに知ってしまったのだ。

──どうして俺がこの学園で避けられているのかを。

魔法の起源についての神話を読んだ時、それはわかった。



──魔法は、昔いたとされる精霊から伝わったとされる。精霊たちは、美しい都を作ってとても栄えていた。
──しかし、一人の精霊によって精霊は全滅寸前まで追い込まれる。その精霊の名は、ゼト。

ゼトは、邪悪な心を持ち、支配者になろうとして禁忌魔法を使って多くの精霊を殺した。それに怒った精霊の長が、彼から魔力を奪い、地の底に堕としたのだ。
その時、ゼトの容姿は、魔力を失って漆黒のような黒い瞳と髪に変化したという。

その時から、魔力のない者は、黒い目と黒い髪を持つと言われた。
そして、大昔から、それらの特徴を持つ者は、ゼトの再来と恐れられていた。──



なるほど。
魔力のある者は、必ず色のある目や髪色をしているんだな。だから黒い瞳と髪の俺は、この世界で忌み嫌われる存在ということだ。

…だがなぁ。これはあくまで神話の話だ。今もこの神話が信じられているのだろうか。

とはいえ、確かに俺が今まで見た限りでは黒い瞳を持つ者はいなかった。しかし、暗い髪色の子はこの学園にも普通にいる。もしかしたら、瞳の色に魔力のあるなしが現れるのは本当なのかもしれない。

しかしここで、俺はさらに興味深いことを知る。

『ゼトを崇め、強大な禁忌魔法による支配を目指す組織が現れる!!』

古い記事だ。およそ50年前か。

どうやら、ゼトに心酔し、新たなゼトの再来を謳って犯罪行為などを行う組織がここ数十年前に現れたらしい。
それにより、近年、ゼトの存在そのものを嫌う傾向が強くなってきたと。

段々、ことの重大さがわかって、俺は薄寒くなるのを感じた。
そして、この組織が行った行為を知って戦慄する。


──今から10年前。ゼトの生まれ変わりだというアイザックという男が指揮し、王宮の名だたる官職者たちを殺害するという事件が起こる。
それは王から貴族まで集まる会合での出来事で、殺された中には当時の騎士団長や宰相をはじめ、有名な公爵も多くいた。

アイザックもその公爵家の一人だったが、禁忌魔法の使用を禁じ平安を守ろうとする王に反発して、ゼトに心酔し、この事件を起こすこととなる。

この事件と同時に、街でも禁忌魔法によるテロ行為が起こり、この事件は史上最悪の禁忌魔法による事件となった。

その後、アイザックは戦闘で死亡し、組織は解体されたというが…まだ10年しか経っていないため、その組織に心酔する者も残っているかもしれない。

また、この事件により、人々の中ではゼト、または魔力のなく、黒い髪や瞳を持つ者に対しての警戒心が強くなったという──


…つまり、当時の官職者たちはほぼ亡くなってしまったのか…!当時の王でまだ現役のオスカー・フィルヘイム陛下も大きな怪我を負ったとか。
現在の官職者は、皆若い者だという。

──そして、この学園の生徒の親は、多くがこの時亡くなった貴族や官職者だ。

…俺が避けられている理由がやっとわかった。
親をこの事件で亡くした者たちは、ゼトやゼト信仰者を嫌うようになったのだ。
…そして、俺はゼトに似ている。

崇められているゼトは「魔力がなく黒い目で黒い瞳」の姿であり、10年前の事件の首謀者アイザックもわざわざ目や髪の色を変えてまでゼトに似せていた。
それだけ、「黒い目と髪」はゼトを連想させるのだ。

おまけに俺は魔力がないときてる……終わった。これは嫌われるわけだ。
しかも、歴史を読むと、完全に魔力のない者は今までたったの1人もいなかったという。

──俺だけが、この世界で初めて現れた、「魔力がない黒髪黒目」の人なのである。

…しかし、俺は当然、ゼトの生まれ変わりではない。

俺はただの日本人で、転移者だ。俺のいた世界では俺の容姿なんて当たり前で、魔法なんて誰も使えなかった。

なら、自分のためにも、転移者であることを早く誰かに打ち明けた方がいいのだろうか?

しかし、どんなに調べても、今までこの世界で転移者や転生者がいたという記録はどこにもなく、言ったとしても信じてもらえないのは簡単に予想できた。俺が逆の立場でも絶対信じないもんな。

やはり、転移者であることは黙っていた方がいいだろう…

──この時こう判断したことで、クラウスは思いもよらない事態に巻き込まれていくのだが…



クラウスはため息をつくと、誰もいない図書室の壁にぐったり背を預けた。

…どうやら俺の転移生活は、想像以上の難易度のようだった。

誰にも頼れない中で、どう生きていけばいいのか?

もしかしたら、最初助けてくれたコックは俺の容姿を見ても嫌悪していなかったから、助けてくれるかもしれない。しかし、この世界の多くの人は俺を助けてはくれないだろう。


やはり、魔法を使うところを見せて、俺がゼトとなんの関わりもないことをわかってもらうしかない…!




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