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【短編1】ツンデレを直すぞ!2
しおりを挟む《アラン視点》
最近、カイが変だ。悪い意味ではなくて…良い意味でだ。いや、俺の理性にとっては悪いかもしれない。
俺はカイのツンデレをとても可愛いと思っているのだが、最近のカイはツンがなくなってデレしかないのだ。それはそれで物凄く可愛い。ちょっと恥じらうように甘えてくるその姿に毎回撃沈している気がする。前なんて、初めてカイの方からキスしてくれたのだ!心臓が止まるほど可愛かった。別に、いつも俺からふいを突いてすると真っ赤になるカイが可愛いので、俺は自分からするのがお気に入りなんだが、カイからされるのはそれはそれで格別だった。正直もう理性の限界だ。
昨日もそうだ。
「カイ、今日も素敵だよ。本当に好きだ」
俺はいつも言葉にすることを大事にしている。多分恥ずかしくなるくらい毎日カイに甘い言葉を投げかけている。すると、カイは決まって照れたようにそっけない返事をするのだが、その黒い髪から覗く耳が真っ赤になっているのを見て毎回胸がきゅんとくるのだ。
しかし、最近は違う。
「…お、俺も愛してる」
そっぽを向いて顔を赤くして言う彼に、俺は完全に心を掴まれた。
…は?なに?天使かな?
いつもは反応できるのに、この時は俺は口籠もって下を向いてしまった。顔が熱すぎる。
そんな俺を見てカイは嬉しそうに笑っていた。
別の日にはくつろいでいちゃいちゃしていると急に膝に乗り上げてきたり…朝、腕のなかでもぞもぞしていたから寝ているふりをして静観していたら、キスをして起こそうとしてきたり…
これは理性を試されているのだろうか?まぁ簡単に流されているんだけど。
そんな日々が続いて俺にとっては大変癒しなわけだが…カイが急に素直になったのには何か理由があるのだろうか。もし悩みがあるのなら聞きたいと俺は思っていた。
*
カイはツンデレ克服作戦が成功しているようで、最近は楽しむ余裕も出てきた。やっぱりアランが照れて慌てているのを見るのは楽しい。強くて、優しい皆の勇者であるアランが、いつもの爽やかな顔を崩して赤くなって固まっているのを見ると可愛いしかない。
そんな中、カイとアランは今滞在している町で人々を助ける活動をしていた。まだ残っていた暴走したモンスターを捕獲する仕事だ。暴走したモンスターは以前は倒してしまっていたが、捕獲して魔王の元に届けることで、暴走を解いて穏やかなモンスターに戻るのだ。カイとアランはそういう活動をしながら、旅を続けていた。
この町でも、ある家がモンスターに襲われて怪我人も出ていたため、アランの光の魔法で治癒魔法をしたり、カイの闇魔法でモンスターを捕まえたりして無事に騒動は治った。
「勇者様、カイ様、ありがとうございます」
襲われた家族が涙ながらに感謝を述べる。一人の美しい女性がぱっとアランの手をとって礼をしている。どうやら、彼女が襲われた張本人で、怪我はもう治ったようだった。
女性は手を握ったままぽおっと見惚れたようにアランを見つめており、その姿は恋する乙女そのものだった。
カイはなんだか居た堪れない気持ちになって、俯く。
アランはとてもモテる。カイと恋仲であることはあまり知られていないため、行く先々の町でアランのことを好きだという人が寄ってくることは多々あった。その度にアランは丁寧に断って恋人がいることを伝えているのだが…それでも目の当たりにすると、カイの中で良くない考えが出てくることもある。
やっぱり、美しいアランの隣に綺麗な女性が並ぶ姿は絵画のようで、急にその中に入っていくことができなくなる。
それと同時に、なんか近くないかな、とか、アランは自分だけを見てほしい、とか、どろどろした黒い感情も出てきて、そんな自分にも嫌になるのだ。
アランは必ずカイを忘れずに対応し、はっきりと恋人はカイなのだと言ってくれる。いつも大事にしてくれるとわかっているのに、そういう不安が湧いてくることにもうんざりするのだ。まるで、アランのことを信じていないみたいで…だからアランに不安を話すことも躊躇していた。
…でも、これからは話そう。最近素直に振る舞ってみて、やっと自分を曝け出しても、全てをアランは受け入れてくれるって再認識したから…。
*
「なあ、アラン」
二人きりの夜。カイは改めてアランに向き直った。
「俺、アランが毎日、その…あ、愛してるって伝えてくれるのが嬉しいんだ」
「急にどうしたの。ふふ、また素直になってくれる時間ってこと?」
「…う、うん。でも、アランがこんなに俺を大事にしてくれるのに…俺はすぐ良くないことを考えてしまうんだ。…今日もあの綺麗な子がアランのことを好いているのを見て…アランにはやっぱりああいう子が似合うんじゃないかとか、それと反対にあの子と離れて俺の方に来てほしいとか…すぐ不安になってしまうんだ。はは、こんなおっさんの嫉妬なんて見苦しいよな…でも、アランのことになると俺変で。最近もアランにそっけなくしちゃうの直そうと思って、素直になってみたりして…そうじゃないと、アランがいつか俺に愛想尽かしちゃうかなって不安で…」
アランは目を見開いて俺の話を最後まで聞いていた。言い終わるとすぐに、ふわりと全身がアランの腕に包まれる。
「…そうか。不安にさせちゃってたんだね。ごめんね、気づかなくて」
「っいや、アランは充分色々気遣ってくれてる。俺が勝手に不安になっちゃうだけで…!」
「不安になることは悪いことじゃないんだよ」
その言葉に、俺ははっとする。
「そういうものなんだ。俺だって、すぐ不安になって嫉妬する。俺の方が多分ひどいよ。カイは気づいてないかもだけど…カイすごくモテるから。前の街であった若い兵士さんなんてカイのこと見て顔赤くしてたし…その前助けた少女は完全にカイに恋してたし…もう家に閉じ込めておきたいって何度思ったか」
耳元のアランの声が段々低くなって、抱き締める腕に力がこもる。
…また今なんか怖いこと言ったな?
「…でも、俺はカイが嫉妬してくれるのも、不安になるのも、むしろ嬉しいよ。だって、それだけ俺のこと好きってことなんでしょ?…俺のことで頭いっぱいになってるの、すごく可愛い」
アランの目の奥がどろりと光る。
「…でも、そうか。最近やけに素直だったのは、ツンデレを直そうとしてたんだね。なにか誰かに言われたの?」
鋭いやつだな…。
カイは、とあるバーで聞いた女の子たちの話を話した。
「…なるほど。そのカップルは、あんまり話し合うことができないまま別れちゃったんだね。でも、俺はカイがどんなカイになっても別れるつもりないよ」
アランはとんでもないことをさらっと言う。…ああ、このきっぱり言う君のことを、俺はカッコいいなと思うんだ。
「それに、カイはちゃんと愛情表現してくれてるよ?ツンデレの時も、伝わってくるもん。俺はツンデレのカイも、素直なカイもどっちもすごく好きだよ」
んんっ。あんまりイケメンな顔でイケメンなことを言わないでくれ。
カイは赤くなる顔を隠そうともじもじするが、アランが顎を捉えて強制的に顔を向かせる。
「ほら、こうやってすぐ赤くなっちゃうの、本当可愛い」
…うう、やっぱりアランには敵わないな。
「…アランだって、赤くなってたの可愛かったぞ」
悔しくて言い返すと、アランは目をぱちくりさせて嬉しそうに微笑む。
「へぇ、カイ、俺が照れてるのも好きなんだ。ねぇ、じゃあもっと俺のこと夢中にさせてよ」
そんなことを楽しそうに言いながらぐいっと押し倒してくるので、カイは慌てる。
──ちょっと待て。なんで毎回こうなるんだ!
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