18 / 27
18
しおりを挟むワイバーンが連れてきたのは、なんとアランの妹、アンナだった。
「生きていたのか!」
「お兄ちゃんも…!」
2人がひとしきり抱き合って再会を噛み締めた後、アランがとても気になっていたことを質問する。
「アンナがなぜワイバーンの所に?」
「…私、今までワイバーンのこの住処で暮らしてたの。村が襲われた時、お兄ちゃん助けに来てくれたでしょ?そのあと、お兄ちゃんが村の人を探しに行って1人でいたら、誰かがやってくる音がして、遠くに白い怖い雰囲気の男の人が見えたの。…見つかるのが怖くなって、そしたら、突然目の前にこのワイバーンが現れたの。それで、気づいたらこの洞穴にいて…ワイバーンは今までずっと私を助けてくれたの」
なんという巡り合わせだろうか。
早く言ってくれればいいのに、とワイバーンに思うが、多分彼も知らなかったのだろう。
どちらにせよ、アランがずっと探していた家族であるアンナと再会できたことに、カイも安堵した。
「…そうか。ありがとう、ワイバーン」
「アンナは良い子ガオ。あの時はイーブルに殺されないよう助けたが、まさか、勇者の妹だとは思わなかったガオ…早く会わせてあげれば良かったガオ」
「今再会できただけで嬉しいよ…でも、ずっと気になってたんだ。アンナは俺が行くまで、どうやってあの村で耐えていたんだ?実は、アンナを発見した時、アンナの周りに水があった跡があって…まるでアンナを守るように。"誰"が、守ってくれたんだ?」
水の跡。
静かに話を聞いていたカイは、急に飛び込んできた単語にハッとした。
え。
「そう!その人は私の命の恩人なの!…あのね、お父さんもお母さんも居なくなって…それで家が崩れてきた時、私、最初は柱の下敷きになりそうだったの。でも、その時、お兄ちゃんくらいの男の子が来て、私を守ってくれたの。周りに水の魔法を出して…お兄ちゃんみたいに強い力があって、すごくカッコよかった。私、それですごく安心して、助けられたの──」
──柱に下敷き。水の魔法を出して。
『お兄ちゃん、助けて』
頭の中に幼い声が響き、カイは目を見開いて目の前の美しい少女を見つめた。
確かに、あの子はアランにそっくりな美しいブロンドの髪で、溢れそうな水色の瞳をしていた。
黙り込んだ異様な雰囲気のカイに、アランとアンナがふと目を向ける。
「──その人は、そう、黒髪で、瞳も黒かったわ──」
アンナがカイをじっと見つめながら、段々と目を見開く。
「あ、の、もしかして、昔会ったことありますか…?すごく…あの人に雰囲気が似てて。…私の命の恩人に──」
「…俺も、君に会ったことがある」
カイは言うと、まっすぐアンナを見つめ返した。
様々な記憶が巡って、胸が苦しくなった。
「…あの時、君といたのは…俺だ。…ごめんな、1人で置いて行ってしまって。君がお兄さんに会えるまで一緒にいようと思ったのに、できなかった」
ずっと気がかりだった。この子は死んでしまったかと、自責の念が、カイに何年も悪夢を見させた。
「…生きていてくれて良かった」
アンナの目から一粒の涙がこぼれた。
ありがとうございます、と涙ながらに言う彼女を、カイは抱きしめて心底ほっとした。
良かった。俺は、この子を助けることができたんだ。
皆、突然の事実にぽかんとしたまま2人を見ていたが、段々理解できてきて、騒然となった。
「…カイ。君ってやつは…本当に」
アランが何やら言うと、泣きそうな顔でカイを見つめる。
「カイは村を襲ってなんかいなかった。むしろ、俺の大事な家族を助けてくれていたんじゃないか…。どうしてもっと早く言ってくれなかったの…?俺、君に辛い思いを散々させた──」
「いや!そんなことはない。…このことは、実は今まではっきり覚えてなかったんだ。さっき死にそうになって思い出した。──俺、君の大事な人を助けられたってことが分かって、嬉しいよ。俺は、君の大事なものを奪ったとばかり思ってたから…」
ぎゅっとまた抱きしめられた。
う、アランに抱きしめられると心臓がバクバクしてしまうので、音が伝わっていそうで恥ずかしい。
「お兄ちゃんとカイさん、とっても仲良しなのね!」
アンナが綺麗に笑って言うので、カイは居た堪れなくなった。
「──ね、私、さっきも言った通り、ワイバーンたちと育って、ドラゴンの言葉が分かるようになったの。お兄ちゃんや家族と離れちゃったのは寂しかったけど…でも、私には大事な存在もできて、新しい力も持てて、今すごく幸せなの」
アンナの言葉に、アランは微笑んだ。
「…良かった。ずっとお前を残してたことに後悔してたから」
「…私は、今こうして出会えて良かったわ。今度こそ、お兄ちゃんたちを助けられるもの。ね、私がドラゴンたちと話すから、一緒に魔王の所へ行こう!」
「そうだな。今度こそ、本当の悪と決着をつけよう!」
こうして、カイたちは最後の戦いに向けて、出発することとなった。
18
お気に入りに追加
431
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームのモブに転生したようですが、何故かBLの世界になってます~逆ハーなんて狙ってないのに攻略対象達が僕を溺愛してきます
syouki
BL
学校の階段から落ちていく瞬間、走馬灯のように僕の知らない記憶が流れ込んできた。そして、ここが乙女ゲーム「ハイスクールメモリー~あなたと過ごすスクールライフ」通称「ハイメモ」の世界だということに気が付いた。前世の僕は、色々なゲームの攻略を紹介する会社に勤めていてこの「ハイメモ」を攻略中だったが、帰宅途中で事故に遇い、はやりの異世界転生をしてしまったようだ。と言っても、僕は攻略対象でもなければ、対象者とは何の接点も無い一般人。いわゆるモブキャラだ。なので、ヒロインと攻略対象の恋愛を見届けようとしていたのだが、何故か攻略対象が僕に絡んでくる。待って!ここって乙女ゲームの世界ですよね???
※設定はゆるゆるです。
※主人公は流されやすいです。
※R15は念のため
※不定期更新です。
※BL小説大賞エントリーしてます。よろしくお願いしますm(_ _)m
異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)
ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに
ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子
天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。
可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている
天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。
水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。
イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする
好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた
自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い
そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
【完結】《BL》拗らせ貴公子はついに愛を買いました!
白雨 音
BL
ウイル・ダウェル伯爵子息は、十二歳の時に事故に遭い、足を引き摺る様になった。
それと共に、前世を思い出し、自分がゲイであり、隠して生きてきた事を知る。
転生してもやはり同性が好きで、好みも変わっていなかった。
令息たちに揶揄われた際、庇ってくれたオースティンに一目惚れしてしまう。
以降、何とか彼とお近付きになりたいウイルだったが、前世からのトラウマで積極的になれなかった。
時は流れ、祖父の遺産で悠々自適に暮らしていたウイルの元に、
オースティンが金策に奔走しているという話が聞こえてきた。
ウイルは取引を持ち掛ける事に。それは、援助と引き換えに、オースティンを自分の使用人にする事だった___
異世界転生:恋愛:BL(両視点あり) 全17話+エピローグ
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる