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しおりを挟むワイバーンが連れてきたのは、なんとアランの妹、アンナだった。
「生きていたのか!」
「お兄ちゃんも…!」
2人がひとしきり抱き合って再会を噛み締めた後、アランがとても気になっていたことを質問する。
「アンナがなぜワイバーンの所に?」
「…私、今までワイバーンのこの住処で暮らしてたの。村が襲われた時、お兄ちゃん助けに来てくれたでしょ?そのあと、お兄ちゃんが村の人を探しに行って1人でいたら、誰かがやってくる音がして、遠くに白い怖い雰囲気の男の人が見えたの。…見つかるのが怖くなって、そしたら、突然目の前にこのワイバーンが現れたの。それで、気づいたらこの洞穴にいて…ワイバーンは今までずっと私を助けてくれたの」
なんという巡り合わせだろうか。
早く言ってくれればいいのに、とワイバーンに思うが、多分彼も知らなかったのだろう。
どちらにせよ、アランがずっと探していた家族であるアンナと再会できたことに、カイも安堵した。
「…そうか。ありがとう、ワイバーン」
「アンナは良い子ガオ。あの時はイーブルに殺されないよう助けたが、まさか、勇者の妹だとは思わなかったガオ…早く会わせてあげれば良かったガオ」
「今再会できただけで嬉しいよ…でも、ずっと気になってたんだ。アンナは俺が行くまで、どうやってあの村で耐えていたんだ?実は、アンナを発見した時、アンナの周りに水があった跡があって…まるでアンナを守るように。"誰"が、守ってくれたんだ?」
水の跡。
静かに話を聞いていたカイは、急に飛び込んできた単語にハッとした。
え。
「そう!その人は私の命の恩人なの!…あのね、お父さんもお母さんも居なくなって…それで家が崩れてきた時、私、最初は柱の下敷きになりそうだったの。でも、その時、お兄ちゃんくらいの男の子が来て、私を守ってくれたの。周りに水の魔法を出して…お兄ちゃんみたいに強い力があって、すごくカッコよかった。私、それですごく安心して、助けられたの──」
──柱に下敷き。水の魔法を出して。
『お兄ちゃん、助けて』
頭の中に幼い声が響き、カイは目を見開いて目の前の美しい少女を見つめた。
確かに、あの子はアランにそっくりな美しいブロンドの髪で、溢れそうな水色の瞳をしていた。
黙り込んだ異様な雰囲気のカイに、アランとアンナがふと目を向ける。
「──その人は、そう、黒髪で、瞳も黒かったわ──」
アンナがカイをじっと見つめながら、段々と目を見開く。
「あ、の、もしかして、昔会ったことありますか…?すごく…あの人に雰囲気が似てて。…私の命の恩人に──」
「…俺も、君に会ったことがある」
カイは言うと、まっすぐアンナを見つめ返した。
様々な記憶が巡って、胸が苦しくなった。
「…あの時、君といたのは…俺だ。…ごめんな、1人で置いて行ってしまって。君がお兄さんに会えるまで一緒にいようと思ったのに、できなかった」
ずっと気がかりだった。この子は死んでしまったかと、自責の念が、カイに何年も悪夢を見させた。
「…生きていてくれて良かった」
アンナの目から一粒の涙がこぼれた。
ありがとうございます、と涙ながらに言う彼女を、カイは抱きしめて心底ほっとした。
良かった。俺は、この子を助けることができたんだ。
皆、突然の事実にぽかんとしたまま2人を見ていたが、段々理解できてきて、騒然となった。
「…カイ。君ってやつは…本当に」
アランが何やら言うと、泣きそうな顔でカイを見つめる。
「カイは村を襲ってなんかいなかった。むしろ、俺の大事な家族を助けてくれていたんじゃないか…。どうしてもっと早く言ってくれなかったの…?俺、君に辛い思いを散々させた──」
「いや!そんなことはない。…このことは、実は今まではっきり覚えてなかったんだ。さっき死にそうになって思い出した。──俺、君の大事な人を助けられたってことが分かって、嬉しいよ。俺は、君の大事なものを奪ったとばかり思ってたから…」
ぎゅっとまた抱きしめられた。
う、アランに抱きしめられると心臓がバクバクしてしまうので、音が伝わっていそうで恥ずかしい。
「お兄ちゃんとカイさん、とっても仲良しなのね!」
アンナが綺麗に笑って言うので、カイは居た堪れなくなった。
「──ね、私、さっきも言った通り、ワイバーンたちと育って、ドラゴンの言葉が分かるようになったの。お兄ちゃんや家族と離れちゃったのは寂しかったけど…でも、私には大事な存在もできて、新しい力も持てて、今すごく幸せなの」
アンナの言葉に、アランは微笑んだ。
「…良かった。ずっとお前を残してたことに後悔してたから」
「…私は、今こうして出会えて良かったわ。今度こそ、お兄ちゃんたちを助けられるもの。ね、私がドラゴンたちと話すから、一緒に魔王の所へ行こう!」
「そうだな。今度こそ、本当の悪と決着をつけよう!」
こうして、カイたちは最後の戦いに向けて、出発することとなった。
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