上 下
25 / 27

25.エピローグ

しおりを挟む
 ここからの話は、前世のカイの話です。

 転生したカイとは、別の世界線のお話という感じです。
 転生したカイは別の世界線で幸せに暮らしています。

──前世のカイは一体どうなったのか?







「──、──?──ですか?大丈夫ですか?」

 ハッと目を開けた。

 一体、何が起こった?

 周りは真っ白な部屋で、段々はっきりしてくる視界に、病院、という文字が頭に浮かぶ。

 目の前にいる人は、看護婦だろうか。目を開けた俺に気づいて、誰かを呼びにいく。


 ──なんだか、夢を見ていたようだ。
 何の夢だったかは忘れたが、大変な思いをしながらも、最後には愛おしい人と共にいる、幸せな夢だった。
 
 夢から覚めて、心にポッカリ穴が空いたみたいに感じる。…まるで、忘れている誰かが来てくれたら、その穴にぴったりピースがはまるような。

「目が覚めましたね」

 その時、医者であろう男性が来た。

「名前分かりますか?」

 名前…。

 えっと…。

「──か、甲斐かい平助へいすけです」

「そうですね。甲斐かいさん、年齢は言えますか?」
「…30歳です」
「住所は?」
「○△です…」
「なるほど、記憶は大丈夫そうですね」
「…あの、何があったんですか?」

 何なら書いていた医者は、甲斐を見ると穏やかに言った。だが、その内容はとんでもないことだった。

「…あー、そうですね。色々ありました。まず、貴方は昨夜、道路の真ん中で怪我をした猫を助けようと、道路に飛び出しました──」

 そこで轢かれたのか?!

「──しかし、そこで轢かれたわけではなく、車は遠かったので、貴方は助かりました。しかし、その時、突然近くの建物の工事現場に落雷し──」

 落雷で…?

「──たのですが、その時点では被害はなかったものの、直撃した工事現場の資材を吊り下げていたロープが千切れ、資材が貴方の上に降り注いだのです。でも、すんでのところで、1人の男性が貴方を引っ張って猫ごと助けました。その男性も、一応病院にいます。貴方が目覚めるまで、居るようですので、後で呼んできます」
「…そ、そうだったんですね…ありがとうございます…すみません」
「貴方が目覚めて良かったです。ちなみに、貴方が意識を失った直接の原因は、過労です」
「か、過労?」
「はい。過労と栄養失調です」

 そこで、段々先生の顔が怖くなってくる。

「失礼ながら、貴方は労働環境を見直した方が良いと思います。これ以上無理をしたら、本当に命に関わりますよ」

 甲斐は身を縮める。

「…はい。すみません…」

 最近、ずっと連勤で徹夜もしまくっていた自覚はある。

「…それについては、また後で話しましょう。何か力になれると思います。では、先程言った男性を連れてきますね。とても心配なさって、お会いしたいと言っていました。あ、ちなみに貴方の助けた猫ちゃんも近くの動物病院にいるので、もし良かったら後でお教えします」

 甲斐はペコリとすると、やってくる人物を待つ。

 …過労の原因は分かってる。
 もう俺を大事に思ってくれる人が周りにいなくなってしまって、俺も自分を大事にしなくていいんじゃないかと、社畜のように働いた。
 ずっと寂しかった。
 誰か、俺を見つけて欲しかった。
 俺を助けてくれたという人。一体、どんな人なんだろう?

 パタン。

 その時、扉が開いて、ハッと目を向けた。

 その人を見た瞬間、俺は何かが全身を駆け巡るのを感じた。

 ──俺は、この人に……。

 その人は、綺麗な金髪に恐ろしく美しい顔立ちの、モデルみたいな美形の男性だった。外国人かな?こちらを見て目を丸くしている。まだ若そうで、もしかしたら大学生かも知れないと思った。

 ──そして、なぜか彼の顔に見覚えがあった。

 いや。会ったことはないはずだ。

 俺にはこんな美形の知り合いはいない。

「甲斐さん、目が覚めたんですね…!」

 外国人かと思った彼は、流暢な日本語で嬉しそうに言うと、駆け寄ってくる。なんだか犬っぽくて、可愛いと思ってしまった。
 近くで見ると、更にイケメンだと分かる。目は灰色がかっているが、光の反射で青くも見える、綺麗な瞳だった。

「あの、俺、勇理ゆうり・アランって言います!…本当、無事で良かったです」
 
 アラン…何か懐かしい響きだ。ハーフだろうか。
 
「あ、俺、甲斐平助って言います。アランさん、俺を助けてくれたんですよね…本当、ありがとうございました」

 甲斐は頭を下げた。

「いえいえ!…あの、なんか変なこと言いますけど、俺、甲斐さんと初めて会った気がしなくて…。甲斐さんを助けられた時も、何かに呼ばれた気がしたら、資材が落ちてくるのが見えたんで…。甲斐さんが無事で、これ以上ないくらい嬉しいんです」

 美形の彼は、優しく微笑みながら、照れたように言う。

 いや、可愛いな。

 甲斐は、初めて感じる感情に戸惑った。

「…あの、実は、俺も貴方に初めて会った気がしないんです。すごく、懐かしいような気がして…。あの、良かったら、連絡先交換しませんか?今回のお礼もしたいですし…」

 こんな大胆な誘い、今までしたことなかったが、アランさん相手にはスラスラ言葉が出てきた。

「…!もちろんです!嬉しいです…これからも、連絡取り合いましょう!」

 目の前の美形の彼も、若干食い気味で嬉しそうに言う。

 この人と、何だかとても仲良くなれそうで、甲斐はこの奇妙な出会いに感謝したくなった。

 それから、2人は医者が止めに入るまで、今まで会えなかった時を埋めるように会話を続けた。

「アランさんは、まだ学生なんですか?」
「そうなんです、大学生で──」

「え!アランさん、モデルの仕事してるんですか?!道理で…──」

「──猫ちゃんのこと、一緒に見に行きませんか?」
「そうしましょう!」

「俺ゲーム好きで…あ、この『光と闇のクエスト』ってのにハマってるんです。…あれ、今見ると、この主人公、なんだかアランさんに似てますね!」
「本当だ!…あれ、このカイってキャラも甲斐さんに似てません?──」




  

──こうして、彼に出会って、甲斐の人生は一変することとなる。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)

ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子 天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。 可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている 天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。 水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。 イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする 好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた 自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語

前世から俺の事好きだという犬系イケメンに迫られた結果

はかまる
BL
突然好きですと告白してきた年下の美形の後輩。話を聞くと前世から好きだったと話され「????」状態の平凡男子高校生がなんだかんだと丸め込まれていく話。

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

俺をハーレムに組み込むな!!!!〜モテモテハーレムの勇者様が平凡ゴリラの俺に惚れているとか冗談だろ?〜

嶋紀之/サークル「黒薔薇。」
BL
無自覚モテモテ勇者×平凡地味顔ゴリラ系男子の、コメディー要素強めなラブコメBLのつもり。 勇者ユウリと共に旅する仲間の一人である青年、アレクには悩みがあった。それは自分を除くパーティーメンバーが勇者にベタ惚れかつ、鈍感な勇者がさっぱりそれに気づいていないことだ。イケメン勇者が女の子にチヤホヤされているさまは、相手がイケメンすぎて嫉妬の対象でこそないものの、モテない男子にとっては目に毒なのである。 しかしある日、アレクはユウリに二人きりで呼び出され、告白されてしまい……!? たまには健全な全年齢向けBLを書いてみたくてできた話です。一応、付き合い出す前の両片思いカップルコメディー仕立て……のつもり。他の仲間たちが勇者に言い寄る描写があります。

音楽の神と呼ばれた俺。なんか殺されて気づいたら転生してたんだけど⁉(完)

柿の妖精
BL
俺、牧原甲はもうすぐ二年生になる予定の大学一年生。牧原家は代々超音楽家系で、小さいころからずっと音楽をさせられ、今まで音楽の道を進んできた。そのおかげで楽器でも歌でも音楽に関することは何でもできるようになり、まわりからは、音楽の神と呼ばれていた。そんなある日、大学の友達からバンドのスケットを頼まれてライブハウスへとつながる階段を下りていたら後ろから背中を思いっきり押されて死んでしまった。そして気づいたら代々超芸術家系のメローディア公爵家のリトモに転生していた!?まぁ音楽が出来るなら別にいっか! そんな音楽の神リトモと呪いにかけられた第二王子クオレの恋のお話。 完全処女作です。温かく見守っていただけると嬉しいです。<(_ _)>

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

処理中です...