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 カイたちは、帰路につきながら、行く先々の村で物凄い歓迎をされて、戸惑っていた。

「ありがとう!」

 『水の都』まで戻った時、道を走ってきた子供に大きな声で言われた。
 結局、魔王と力を合わせてイーブルを倒したという結果だったので、カイたちやアラン自身も世界を救ったという感覚はなかったのだが、やはり人々が平穏を取り戻しているのを見るのは嬉しかった。
 特に、子供たちが平和に駆け回っている姿を見てホッとした。

「ぜひ、また今夜のお祭りを楽しんで!」

 どうやら、『水の都』の人々は、お祭りが好きらしい。今夜も、勇者たちが世界に平和をもたらしてくれた記念、ということで、盛大に街は活気付いていた。

 カイは懐かしい景色を眺めながら、やっと冒険の終わりを実感していた。
 
 大変だったけど、俺にとっては、とても大事な旅だった。大切な存在が何なのかを知ることができたのだから。

 俺はこれからどうしよう。

 皆、やりたいことが決まっている。

 ジャックとクララは、しばらく『水の都』で過ごすようだ。この先、王位を継ぐかもしれないクララを、ジャックが側で支えるのかもしれない。もう2人が惹かれあっているのは明らかで、恐らく、ジャックはクララにプロポーズするだろう。…告白が先かな。
 シナリオ通りではないけど、2人が幸せそうで俺は心底良かったと思っている。
 
 アランの妹のアンナは、ドラゴン使いとしての道を極めるようだ。アンナはとても美しく、強い女性に育った。強いドラゴンと一緒だし、もう兄と離れていても、泣くことはないと思うと安心する。ワイバーンもアンナについていくようで、アンナにはいつものツンデレを発揮せず、常にデレていた。

 アランは……多分、この先も勇者として人々を助けるだろう。そして、世界を飛び回りながらも、いずれ彼自身の幸せを見つける。アランのように素敵な人なら、きっと将来素晴らしい人と幸せな家庭を築くだろう…。…そこに、俺はいない。

 俺には、何もない。
 イーブルに裏切り者として育てられ、勇者を倒すために訓練を重ね、記憶を取り戻す前はそれだけを考えて生きてきた。…それだけしか俺にはなかったのだ。
 唯一できたやりたいこと、それは「裏切らない」ことだった。それは達成できたし、大事な人を守ることもできた。

 この世界で生き残ってやる、と思って今まで進んできたが、いざ生き残ってみると、どうしていいか分からなくなる。

 ──いや、本当は、やってみたいことはある。
 アランに、想いを伝えることだ。
 アランが俺と仲良くしようとしてくれているのはずっと感じていた。物凄く優しい顔で見てくるし、目の奥に謎の熱が灯る時があるのも知っている。
 だが、自信がなかった。関係が崩れるのなら、このまま、何も伝えずにアランを遠くで眺めながら生きていきたかった。

 俺は、最後まで臆病なのだ。

「──カイ。ちょっといい?」

 物思いに耽っていると、急にアランに声をかけられてドキッとする。

「んえ、だ、大丈夫だぞ」

 変な声が出た。
 アランはふっと微笑むと、着いてきて、と色づく街の中を通って行く。
 喧騒が遠のき、カイたちは、いつの間にか街を見下ろせる大きな木の下にやってきた。

 …ん?ここ、前も来たな。

「みんな、お祭り楽しんでるみたいだね」
「…そうだな」

 今夜は、前と同じように、ジャックとクララが仲良く街に繰り出し、アンナもワイバーンを連れ回しながら久しぶりの街を楽しんでいるらしい。
 必然的に、カイはアランと共に過ごしていた。

 頭上で巨大な木がサワサワ揺れている。ここは、静かで街の美しい景色が一望できる素敵な所だ。

 ふと、カイは片手を温かな何かに包まれた。
 アランに、手を握られている。恐る恐る、壊れ物を触るかのように、アランは手を重ねた。

 カイは妙に黙ってしまったアランを驚いて見つめた。
 だが、アランの顔を見た途端、息を呑む。
 
 アランは顔を赤くしながら、カイをまっすぐ見つめていたのだ。

「…どうし──」

 言い終わらないうちに、アランの手が頬に触れた。優しく、顔を向き合わされる。

「カイ。君に伝えたいことがあるんだ」

 アランの目は熱っぽくカイを捉えて離さない。

「ずっと言おうと思ってた。──カイ、君のことが好きだ」

 ……。
 ……す、…え?

「ずっと好きだった。旅が終わったら、絶対落とすつもりで口説こうと思ってたんだ。俺は、君に救われた。庇ってくれた時に命を救われたし、その前からずっと、君は俺の支えだったんだ」

 アランの言葉は、真摯だった。
 カイは驚いたが、嘘だろ、と否定する言葉を口にすることはできなかった。なぜなら、アランの熱の灯るまっすぐな目も、強く握る手も、震える声も、全てがカイのことを好きだと全力で伝えていたからだ。

 カイは今起こったことが信じられなかった。
 夢を見ているのだろうか。
 こんな都合の良い夢…。

 俺は怖かったのだ。
 誰かに想いを伝えたことなんか無くて、それを受け取ってもらえたことも無かった。
 
 ──でも、今度こそ、俺は伝えたい。

 もう、答えは決まっていた。

「俺も、君が好きだ」




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