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「……なるほど、イーブル。嘘つきがいるようだな。ついにワシが動く時が来たようだ」

 魔王はそう言い放つと、カイたちに向かって大きな手を振りかざす。その手に強大なエネルギーが溜まるのを見て、カイは身構えた。

 ッ、魔王はイーブルを信じた…!
 このままでは、あの強力な攻撃を受けてしまう。

 同時に気づいたアランが、咄嗟に防御魔法の光を放とうとするのが目の端で見える。
 カイも防御魔法を発動させながら、衝撃を恐れて目をギュッと閉じた。

 ──しかし、予想していた攻撃は襲ってこなかった。

 ドォン!

 とすごい音がして目を開くと、魔王の魔法はカイたちの方ではなく、背後に立つ者へと飛んでいくのが見える。そして、後ろに立っていたイーブルは地面に押さえつけられた。

「ッ?!な、何をするのですか、魔王様?」

 イーブルが顔を歪めて魔王を睨みつける。
 魔王は、ゆっくりイーブルに向き直った。

「──イーブル、おかしいとは思っていたのだ。最初に思ったのは、お前の使い魔たちがぞんざいに扱われていることを知った時だ。そして、世界各地でモンスターたちが暴れていることも、ワシは不可解に思っていた。だが、ワシはこの城から離れられない。昔あった大戦で力を使い果たしてから、ワシはこの城に篭って力を蓄え続けた。何十年もかかった。…それもおかしかったのだ。イーブル、お前ワシに呪いをかけていたな?ワシの力が少しずつ弱まる呪いを。だから、ワシはこの城から出られない時が続いたのだ」

 イーブルは、地面に伏せながらも憎々しげに魔王を見上げた。その態度が全てを物語っていた。

「──お前は、そういった呪術に長けている。使い方を間違わなければ、お前は魔族にも人間にも慕われる存在にもなったはずだ。しかし、お前は別の方法で人々を支配しようとした。何がお前をそうさせたのだ?」
「何がそうさせた、ね。全てだよ。昔の大戦で、私は人の欲望をたくさん見た。醜い、欲にまみれた人間を見て、私は絶望したのだ…!こんな人間をまともにできるのは、支配することだけだと思った。私ならそれができる。魔王、アンタは優しすぎる。魔族と人間が共存できるわけがない。実際、暴走したモンスターを前に、人間どもは排除することしかしなかったのだぞ!」
「…人間にも、魔族と共存できる者はいる。お前は、それを知らなかったのだ。ワシも昔、そういう人間に助けられたことがある。──そこにいる『光の勇者』、彼は世界が脅威にさらされた時、誕生すると言われた存在だ。だが、彼は悪を倒すだけの存在ではない。これからの、魔族と人間を繋ぐ存在として生まれたのだ。その証拠に、彼らはワシを倒そうとする前に、話し合いをしようとした。彼らなら、お互いを尊重して生きていけるとワシは信じておる」

 イーブルはそれを聞くと、カッと全身から魔法を放ち暴れた。

「腑抜けめ!そんなんだから、この城に引き篭もるしかなかったのだ!人間どもは必ずまた戦をする。お前らが望む平和など簡単に崩れるのだぞ!」
「だがお前のしようとしたことは、昔人間がしたことと同じだ!お前は今まで、いくつもの命を奪った。人間も、同じ魔族のもだ!お前とはここで決着をつけねばならん!」

 そこからは一瞬の出来事だった。
 イーブルは大きく吠えると、巨大な力を爆発させた。イーブルの白かった姿は真っ黒になっていき、本物の悪魔のようなモンスターとなる。
 イーブルは、恐ろしい力を手に入れていた。

「ッ!イーブル、お前はワシの力を弱めるだけでなく、吸い取っていたのだな!」

 イーブルは覚醒した。その黒い姿はむくむくと大きくなり、魔王をも圧倒する。
 2人は同時に紫の光を出して攻撃をぶつけ合ったが、イーブルの力の方が少し上回っていたようだった。

 あっと思った時には、魔王のバリアを破ってイーブルの出した鋭い刃のような光線が魔王を襲った。

 ──しかし、その光線は魔王に届く前に真っ二つに割れて消える。

 光の力を身に纏ったアランが、ふわりと飛び上がって剣を抜き、光線を打ち消したのだ。
 
 カイは目を見張ってアランを見た。

 アランは、光の勇者として完全に覚醒していた。アランからは、あの安心する温かい光の力を感じた。自分より何倍も大きなイーブルの周りを舞いながら、彼はイーブルを圧倒する。
 だがイーブルの力は強大だ。次の瞬間、アランの背後からイーブルの放った攻撃が襲ってくる。

──!

 カイは咄嗟に飛び上がると、アランの体に飛びついて攻撃を避けた。アランがハッとしたようにカイの体を抱き寄せる。

「はははは!カイ、お前もこの場で始末してやる!」

 イーブルの嘲笑が響き渡り、頭上から巨大な紫の光線が降ってくる。
 だが、その光線はまたも横から飛んできた別の光線に打ち消された。

 魔王が再び立ち上がったのだ。
 
 魔王とアランの力が爆発し、2人の力が合わさって紫と白に輝く光が一直線にイーブルに向かっていった。
 イーブルは防ごうとしたが、その2つの力は圧倒的に強く、やがてイーブルは大きく吠えながら光に包まれていった。

 全てが終わった時、イーブルは光に飲み込まれて消えていた。

 カイは唖然としながら、目の前の光景を最後まで見ていた。
 ふと、目の前に手が現れて、カイは顔を上げる。
 アランが肩で息をしながらも、カイの前に立って手を差し伸べていた。その手を取り、ヨロヨロと立ち上がる。

「──カイ、ようやく全てが終わったね」

 アランは、カイの頬にそっと触れた。その目は愛おしい者を見るようにとても優しかった。

「最後まで守ってくれてありがとう」

 カイは胸が熱くなりながら、アランの手に手を重ねた。

「…俺の方こそ。最後まで俺を信じてくれてありがとう」



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