転生して勇者を倒すために育てられた俺が、いつの間にか勇者の恋人になっている話

ぶんぐ

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「はぁ」

 カイはため息をついた。

 あれから、『水の都』からクララが仲間に加わり、旅は順調に進んでいた。

 そして俺は今、『アランとクララをくっつけるぞ大作戦』をしている。…その成果は全くないが。

 ジャックがクララのことを好きなのは、流石の俺でも分かったが、これはゲームを元にした世界。勇者の心の支えという存在は、例え俺が裏切らなくても必要だ。そのためには、アランとクララは惹かれ合わないといけない。ジャックには申し訳ないが、俺は世界のためにもこの作戦を実行しなければならないのだ。

 しかし、作戦はことごとく失敗した。



「モンスターが出たぞ!後方気をつけろ!」
「カイ、危ない!」
 (ああ、アラン!俺より先にクララを庇え!)
「皆無事か?!」
(クララが敵をなぎ倒す。)
「全く問題ないわ。ああ、楽しい~」
「クララって本当強いんだな~。でも怪我がないか見せてよ」
「…ありがとう、ジャック」

「…アラン。夜の見張り代わるよ」
「カイ、疲れてないのか?今夜の当番は俺とジャックだから休んでて大丈夫だよ」
「…俺あんま戦ってないから…こういう時に力になりたい。見張りはジャックと俺でやるから…」
「うーん…俺は体力まだまだ残ってるから、余裕なんだけどなぁ。じゃあさ、俺と一緒に見張りしない?もっと話したいし。…どうかな、ジャック」
「もちろんいいぜ!俺はむしろ代わってくれたら超助かる!」
「…え、あ、」
「やった!カイ、じゃあこっち来て。隣座って話そう」
「…う、分かった」

「…なぁ、アラン」
「ん?どうしたの?」
「アランって好きなタイプとかあるのか?」
「カ、カイ俺の好きなタイプ気になるんだね」
「え、ま、まぁ、うん」
「そうだな~。…ツンデレだけど、デレの破壊力がすごい。隣にいると落ち着く。ちょっと暗い顔が可愛い。戦う姿がカッコいい。黒髪で──」
(…まずいな。全然クララの特徴と違う…なんかむしろ、黒髪で暗い顔とか俺に似て──いやいやいや!だから!違うって!)
「──あと、俺の全部さらけ出しても良いって思える人、かな」
「っ、そうなのか」
「急にどうしたの、カイ?もしかして俺のこと気になってくれてる?」
「へ?いや別に!そういうわけじゃ!」
「(あ~ツンデレ可愛い~)ふ~ん。じゃあカイの好きなタイプは?」
「!お、俺の?」
「うん。聞きたいな」
「あ、う、そうだな。……お、俺のこと気づいてくれる人…かな」
「………それだけでいいの?」
「今あまり思い浮かばない」
「俺は、結構カイのこと見てるけど(ボソ)、なるほど、そっか。…頑張るよ」
(何に…?)



 とまぁ、作戦は失敗し続けた。…何でだ。

 こんなこと考えていられるくらい、旅は楽しいものだった。…本来の目的を俺は忘れかけていた。そして、ついに俺は、俺の運命を思い知ることになる。
 
 それは、『ノースランド』と『ミッドシティ』の中間地点にある街、『アイスガルド』に着いて、それぞれの宿の部屋で休んでいた時だった。

 ガタガタ

 とカイの部屋の窓が突如開き、するりと何かが入り込んできた。
 その何かには見覚えがあった。黒くて小さいドラゴンの、ワイバーンだった。このワイバーンは、イーブルの使い魔だ。

「久しぶりガオ。お前にイーブル様から伝言があるガオ」

 ワイバーンは、小さい紫の炎を吹きながら生意気そうに言った。そして、魔法の力によって、イーブルの伝言を再生する。久しぶりに聞くイーブルの声に、体がこわばるのを感じた。

『…カイ。お前がもうすぐノースランドに到着することは分かっている。どうやら、勇者とは仲良くやってるようじゃないか。お前も愛想がないくせに、あそこまで取り入るとは中々やるな。…しかし、忘れるんじゃないぞ。お前の役割は、勇者を殺すことだ。変に絆されてるんじゃないだろうな?いいか、計画を実行しなかったら、お前に地獄の苦しみを与えた後始末してやるからな…死にたくなければ、俺の言う通りにすることだな』

 ワイバーンからの音声が止まり、俺はやっと息ができるようになった。どうやら俺は、イーブルの声にさえ怯えてしまうらしい。嫌な記憶が蘇りそうになって、慌てて頭を振った。

「聞いたガオ?お前も命が惜しかったら言うこと聞いた方がいいガオ」

 ワイバーンはフン、と鼻を鳴らして言う。
 カイはため息をつくと、頷いてみせた。そして、ベッドのそばに置いていた果物を取ると、ワイバーンに投げてやる。
 ワイバーンはそれをキャッチして後、ちょっと躊躇したがペロリと平らげた。

「…またお前食べ物もらってないんだろ。もっといるか?」
「も、もういいガオ。ふん、食べ物くらい自分で取れるけど、今回はもらってやるガオ」

 ワイバーンはツン、と顔を背けたが、尻尾は嬉しそうに揺れていた。
 カイがイーブルの元に居た頃も、ワイバーンにはこうして時々少ない食べ物を分けてあげていた。イーブルは極悪非道で、使い魔にさえ満足な物を与えず放置していたのだ。

 ワイバーンは生意気で強がりだが、カイとは幼い頃から共に育った者同士であり、カイにとっては仲間のように思っていた。ワイバーンも、少しは心を開いてくれているようだが。

「…また来るガオ。…あと──」

 珍しくワイバーンが言い淀んだので、カイは首を傾げる。

「──いや、いいガオ。と、とにかく、勇者の故郷に近づいたら、気をつけるガオ」

 ワイバーンはそう言い残すと、窓から出ていった。
 カイは、重苦しい気持ちでベッドに丸くなった。ギュッと自分の体を守るように腕を回して縮こまる。冷水を浴びせられたかのように、頭が冷えていくのを感じた。
 
 勇者を殺さなかったら、自分が殺される。

 それは最初から分かっていたことだが、俺は勇者を殺しもしないし、自分が殺されるのも嫌だった。勇者を裏切っても、結局は勇者に自分は倒されるのだ。

 自分が生き残るためにも、絶対勇者を裏切らない。

 これは転生に気づいた時に、誓ったことだ。
 でも今では、勇者のために、絶対裏切りたくはなかった。勇者に生きて欲しかった。彼のことが好きだから。

 ん?

 そうだ。俺は……アランのことが好きだ。
 
 仲間としてじゃなくて、友人としてでもなくて、恋愛という意味で。

 カイはそれに気づくと、涙が出てくるのを感じた。いつの間に好きになっていたのだろう。いや。好きになる要素はたくさんあった。アランの優しいところも、強いところも、陰ながら努力するところも、たくさんある。そして、俺のことを1番に気づいてくれるところもだ。アランだけだ。前世でも、この世界でも、俺は常に孤独感を感じていた。その壁をぶち破って近づいてきてくれたのは、アランだった。
 
 きっと叶わない恋だ。恋をしたのなんて、何十年ぶりだが、これだけは分かった。それでも、俺は想い続けよう。前世では持つことのなかったこの想いを、今度こそ大事にしたかった。

 だが、決意は固まった。

 俺は、好きな人を守るために、どんなことがあっても裏切らない。…例えそれで俺が死んでも。

 


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