転生して勇者を倒すために育てられた俺が、いつの間にか勇者の恋人になっている話

ぶんぐ

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…熱い。

 周りは真っ赤な火で囲まれている。
 どうすることもできず、腕の中の小さな体だけを守ろるように身を縮めた。

 ああそうだ、これは何度も見たことがある光景だ。…夢で。…いや夢だけか?

「怖いよぉ…お兄ちゃん、助けて」

 腕の中で小さな声がする。
 大丈夫だ、きっとお兄さんの所に送り届けるから。

 …この子だけでも…







チチチチチ

 何の音だ?

 …さっきまであんなに熱かったのに…あれ。

チチチチ

 小鳥の声か。こんな時間に起きるなんて、久しぶりだなぁ。
 えーっと、今日は…確か、会議あったっけ。やばいな、何も思い出せない。でも、急がないと…。

「ん~ふぁ~」

 伸びをして起き上がって、はたと違和感を覚える。
 まるでファンタジーの中のような内装のこじんまりした部屋の、木で出来たベッドに寝ていた。

あれ?

あ………俺………



ゲームの世界に転生してたんだった…!!











 あれから、カイは城の食堂へやってきた。食堂は朝ごはんを食べに、城の兵士たちが集まってガヤガヤしている。

 これから、剣士学校を卒業した者は基本的に城の聖騎士団に入る。中には、カイのように冒険者になる者もいるが。

 その冒険者になるためには、まず、適正ランクを知るための大会に出なければならない…この世界では常識だが…正直ゲームの世界ではこんな設定なかったので、今から不安だ。
 まぁ内容は、城の外にある『迷いの森』の中でモンスターと戦い、その倒したモンスターの強さによってランクが決まる、といった具合だ。
 カイは、ここで勇者と同じランクになる必要がある。その方が、同じパーティに入りやすいからだ。本来、パーティはギルドに集まった冒険者たちが自由に組むのだが、勇者は世界を救う希望なので、特別に勇者のいるパーティは大会の結果を採用して決められることになっている。
 
 とにかく、カイはこの大会で好成績を出さなければならないのだ。

 そんなことを考えながら、カイは食堂の朝ごはんを受け取って、席に着いた。
 すると、近くにいた者が自然と遠くへ移動していく。気がつくと、カイはぽつんと1人で座ることとなってしまった。

 居心地が悪い……

 カイは俯いたまま、もそもそと朝ごはんのパンを頬張った。
 
 …この世界のシナリオを変えるため、今度はもっと皆と仲良くなるつもりだったが、これは前途多難だ。
 正直、今まで気にしてなかった周りの険しい視線に泣きそうだった。
 …俺、何かしたのかな。記憶が蘇る前は、どう振舞っていたのか思い出せない。

カタ

 と、その時、カイは隣に急に置かれた皿にびっくりして目を上げた。
 
「…ここ座ってもいい?」
 
 アランだ。急に現れた美形の勇者に驚く。朝から眩しいイケメンさだ。
 隣にはジャックもいて、申し訳なさそうな顔をして言う。

「急にごめんな、オレたちと一緒に食べない?」
「……」

 俺は、願ってもない申し出に、必死に動かない表情筋を動かして笑おうとした。

「…俺はお前たちとなんか一緒に居たくない」

 …あぁ、なんてことだ。口が正反対のことを言ってしまう!
 動け、俺の表情筋!笑え!

 途端にカイの顔を見たジャックが、ヒッと震え上がる。
 カイは笑ったつもりだったが、その顔は引き攣るように口を歪めただけの凶悪なものだった。アランだけは、妙にじっとカイの顔を見つめている。

「…おい見ろよ。アランがカイに絡まれてないか…」
「せっかくアランが話しかけてるのに…アラン可哀想よね」

 周りからそんな小声が聞こえてきて、カイは居た堪れなくなる。

「…えーっと、じゃあ明日、明日来るよ」

 ジャックも周りに目立ち始めたのを気にして、向きを変える。
 
 …ダメだ、行ってしまう。
 本当にいいのか?このままで。前世でも、俺は空気を読んで自分の主張を押し込めてきた。…もう嫌なんだ。この世界に来て、やっと生まれ変わろうと思ったんだ。
 引き止めろ。頑張れ、俺!

 カイは、咄嗟に離れて行こうとしたアランの服の端を掴んでしまった。

 …やべ。ドン引きされたか?

 しかし予想外に、恐る恐る見上げたアランの顔はポカンとしており、嫌悪感はなかった。それどころか、次第に目を見開いたアランの顔が赤くなっているように見える。怒ったと言うわけでもなく、なんだかこう、照れているような…

「…え、どうしたの、カイ」

 ジャックも戸惑ったような顔で戻ってくる。

「……ッ」

 カイは、口を開けばすぐ出てきそうな悪態をなんとか押しとどめた。

「…い、一緒に食べてやってもいい」

 なんとか出てきたのがこの言葉だ。我ながら、なんと愛想のない……
 しかし、アランとジャックは驚いた顔をした後、嬉しそうに笑って隣に座ってきた。

「嬉しいな。カイともっと話してみたかったんだ」
「……」

 ニコニコと楽しそうなアランと、陽気に色んな話をするジャック、そしてずっと黙っているカイという異様な空間だったが、和やかな時間は進んだ。
 
 目の前で親しげに話すアランとジャックを眺める。
 アランとジャックのこの2人は、ゲームよりも関わりが深いようだ。昔、故郷を失ったアランを、ジャックがこの街に連れてきたらしい。
 このアランという勇者は、ゲームでもこの世界でも、過酷な経験をしている主人公だ。
 というのも、アランの故郷は暴走したモンスターによって、全滅したのだ。アランが村から離れていた時、村は襲われて、彼が戻ってきた頃には全てが破壊されていた。それを差し向けたのは、魔王らしい。らしい、というのも、その村で生き残ったのは、アランの妹だけだったのだ。その妹も、その後生き別れてしまい、どこにいるかは分かっていない。
 この辺はゲームの設定でもあったことだ。
 カイは何があったかは知らない。これは、カイも少年だった頃の出来事だからだ。

 …しかし、本当に俺は関係ないのか?今朝も見た、あの火の中にいる夢はなんだろう?あれは、アランの故郷と関係あるのだろうか。
 カイはイーブルの元にいた時から、何度も何度もあの夢を見ていた。…それがどうしても気になった。

「…なぁ、カイさぁ」
 
 2人の話を聞きながら考えていると、ふとジャックがカイをしげしげと見つめながら言う。
 
「なんか雰囲気変わったよな。…最近。前は、もっと近寄り難い感じだったけど、こうやって話せて楽しいぜ。みんなも、話してみれば分かるのにな」

 ギクッとしてカイは身を固めたが、ジャックの口ぶりは、話せて嬉しい、という感じだった。…俺はほぼ会話してないがな…。
 
「カイ。これからも俺たちと話してくれる?」

 アランが、なんとも優しげな笑みを浮かべながら、カイを見つめる。
 それに、カイは黙ったまま頷くのが精一杯だった。




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