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第3話 【イズンの林檎】~黄金の果実~
第7章 黄金の林檎
しおりを挟む五年後。
あのときの出張が縁で、佳樹と、医師の交流は続いていた。
ある日、医師から、あの病院が建て替えにより取り壊しすることになったとの連絡が届いた。
佳樹は、五年ぶりにあの病院を訪れた。
病院の隣には、新病棟を建設中で、完成途上のその姿は、近未来を思わせるような造形であった。
陽射しの眩しい日だった。佳樹は、古びた旧病棟を眺めながら、在りし日に思いを馳せた。
何故か、脳裏に浮かぶのは、由美子と過ごした日々の思い出ばかり。
「由美子、俺は君の望んだ通りに前に進めているのかな。」
フッと小さな溜息が漏れ、佳樹は小さく微笑んだ。
そして、それは一瞬の出来事だった。
凄まじい轟音と共に、佳樹の体は大きな鉄の塊に飲み込まれた。
佳樹は、なんの前触れもなく頭上から落ちてきた建築資材の下敷きになった。それは、クレーン車の操作ミスだった。
しかし、不思議と痛みも、苦しみも、感じなかった。
―― 佳樹は、その事故が原因で、植物状態になってしまった。
由美子と佳樹は、今日も同じ病室でベッドを隣り通しに並べ、眠り続けている。
「やっと一緒になることが出来た。」
その安堵感からか、その寝顔は、どこか優しさと幸福に包まれた表情を浮かべているように見える。
黄金の林檎で繋がれた二人の、ある愛の話。
あのときの出張が縁で、佳樹と、医師の交流は続いていた。
ある日、医師から、あの病院が建て替えにより取り壊しすることになったとの連絡が届いた。
佳樹は、五年ぶりにあの病院を訪れた。
病院の隣には、新病棟を建設中で、完成途上のその姿は、近未来を思わせるような造形であった。
陽射しの眩しい日だった。佳樹は、古びた旧病棟を眺めながら、在りし日に思いを馳せた。
何故か、脳裏に浮かぶのは、由美子と過ごした日々の思い出ばかり。
「由美子、俺は君の望んだ通りに前に進めているのかな。」
フッと小さな溜息が漏れ、佳樹は小さく微笑んだ。
そして、それは一瞬の出来事だった。
凄まじい轟音と共に、佳樹の体は大きな鉄の塊に飲み込まれた。
佳樹は、なんの前触れもなく頭上から落ちてきた建築資材の下敷きになった。それは、クレーン車の操作ミスだった。
しかし、不思議と痛みも、苦しみも、感じなかった。
―― 佳樹は、その事故が原因で、植物状態になってしまった。
由美子と佳樹は、今日も同じ病室でベッドを隣り通しに並べ、眠り続けている。
「やっと一緒になることが出来た。」
その安堵感からか、その寝顔は、どこか優しさと幸福に包まれた表情を浮かべているように見える。
黄金の林檎で繋がれた二人の、ある愛の話。
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