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第3話 【イズンの林檎】~黄金の果実~
第6章 約束
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医師との約束の時間となり、佳樹は、医師と仕事の話をしながら、ふと、先ほどの夢のことが気になった。
「・・・先生、話の腰を折って申し訳ないのですが、こちらの病院に田中由美子という女性は入院していますか?」
「田中由美子さん?・・・いえ、こちらの病院にそのような名前の方は入院されていないはずですが、何か?」
「いえ・・・先ほど院内で、知人に似た方を見かけたので、もしかしたらそうではないかと思いまして・・」
「・・・他人の空似ですか。まぁ似ている人は沢山いますからね。」
「そうですね、違う人をその人に重ね合わせてしまったのかもしれません。その人は、私にとって、とても大切な人で、辛いときや、仕事に行き詰ったときは、その人のことを考えてしまうんです。もう二度と会うことの出来ない人なんですがね。」
佳樹は、苦笑しながら、医師にこれまでのことを打ち明けた。
医師は、佳樹をじっと見つめながら、黙って話を聞いていた。
一通り話が終わり、佳樹は、席を立った。
「先生、本日は、ありがとうございました。」
「立花さん。」
医師は、佳樹を呼び止めた。
佳樹が振り返ると、医師はしばらく何かを思案し、意を決した表情でおもむろに話し始めた。
「立花さん、約束をしてください。今から私がお話することは、この病院の医師としてではなく、一人の人間としてあなたにお話することです。この部屋を出たら、私が話したことは、きれいさっぱり忘れてください。」
突然の医師の申し出に、きょとんとしながら、佳樹は、「はい。」と短い返事をしていた。
「一年ほど前に東京の病院から、ひとりの患者さんが転院されてきました。その患者さんは、二年ほど前に、結婚を約束した婚約者とのドライブ中に、不慮の事故に逢い、植物状態となってしまいました。幸い、婚約者は一命を取り留めました。しかし、その患者さんは、以前からご家族に対し、ひとつのお願いをしていました。もしも自分に何かあって、自分の愛する人を苦しめるようなことがあれば、迷わずに嘘を付いて欲しい、と。自分の愛する人の重荷になるようなことはやめて欲しい、と。」
医師は続けた。
「この病院に、その患者さんが転院されてきたとき、ご家族は私どもに二つのお願いをされました。ひとつは、もしこの病院に、その患者さんを訪ねてくる人がいても、絶対に通さないで欲しいということ、そして、病室に、花を・・そう、ハミウリの花を飾って欲しいと。」
佳樹は、そこまで聞いて、目を閉じた。
大きく深呼吸して、やっとのことで声を絞り出すように呟いた。
「先生・・・ありがとうございました。」
佳樹は静かな足取りで部屋を出た。
しばらく、ゆっくりとした足取りで廊下を歩き、ふと足を止めた。
佳樹は、もう自分が、泣いているのか笑っているのか、分からなかった。
「・・・先生、話の腰を折って申し訳ないのですが、こちらの病院に田中由美子という女性は入院していますか?」
「田中由美子さん?・・・いえ、こちらの病院にそのような名前の方は入院されていないはずですが、何か?」
「いえ・・・先ほど院内で、知人に似た方を見かけたので、もしかしたらそうではないかと思いまして・・」
「・・・他人の空似ですか。まぁ似ている人は沢山いますからね。」
「そうですね、違う人をその人に重ね合わせてしまったのかもしれません。その人は、私にとって、とても大切な人で、辛いときや、仕事に行き詰ったときは、その人のことを考えてしまうんです。もう二度と会うことの出来ない人なんですがね。」
佳樹は、苦笑しながら、医師にこれまでのことを打ち明けた。
医師は、佳樹をじっと見つめながら、黙って話を聞いていた。
一通り話が終わり、佳樹は、席を立った。
「先生、本日は、ありがとうございました。」
「立花さん。」
医師は、佳樹を呼び止めた。
佳樹が振り返ると、医師はしばらく何かを思案し、意を決した表情でおもむろに話し始めた。
「立花さん、約束をしてください。今から私がお話することは、この病院の医師としてではなく、一人の人間としてあなたにお話することです。この部屋を出たら、私が話したことは、きれいさっぱり忘れてください。」
突然の医師の申し出に、きょとんとしながら、佳樹は、「はい。」と短い返事をしていた。
「一年ほど前に東京の病院から、ひとりの患者さんが転院されてきました。その患者さんは、二年ほど前に、結婚を約束した婚約者とのドライブ中に、不慮の事故に逢い、植物状態となってしまいました。幸い、婚約者は一命を取り留めました。しかし、その患者さんは、以前からご家族に対し、ひとつのお願いをしていました。もしも自分に何かあって、自分の愛する人を苦しめるようなことがあれば、迷わずに嘘を付いて欲しい、と。自分の愛する人の重荷になるようなことはやめて欲しい、と。」
医師は続けた。
「この病院に、その患者さんが転院されてきたとき、ご家族は私どもに二つのお願いをされました。ひとつは、もしこの病院に、その患者さんを訪ねてくる人がいても、絶対に通さないで欲しいということ、そして、病室に、花を・・そう、ハミウリの花を飾って欲しいと。」
佳樹は、そこまで聞いて、目を閉じた。
大きく深呼吸して、やっとのことで声を絞り出すように呟いた。
「先生・・・ありがとうございました。」
佳樹は静かな足取りで部屋を出た。
しばらく、ゆっくりとした足取りで廊下を歩き、ふと足を止めた。
佳樹は、もう自分が、泣いているのか笑っているのか、分からなかった。
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