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第五章:春望
第四十七話
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季節は巡り、万松柏が目覚めたときにはいっぱいに咲き誇っていた蓮花たちも次第に花弁を落とし始めた。
目が覚めてもしばらくは寝たきりだった万松柏も、日が経つにつれて起き上がれるようになり、歩けるようになり、部屋から出歩けるようになっていった。無忌は相変わらず万松柏に付きっきりでどこへ行くにもついてくるが、仙師たちもその風景に慣れてきたらしく、警戒の目が少し緩んでいる。
万松柏は医務室から移され、他の客間から離れた静かな部屋に泊まっていた。三方が湖に面しているこの部屋は眺めも良く、窓を開け放てば蓮の残り香を含んだ風が部屋中に満ちる。中央の卓子に座り、万松柏は目を閉じて、吹き抜けるそよ風を存分に吸い込んだ。
「うーん、良い匂いだけど、花の時期を逃したのは惜しかったな。蓮が咲く季節の美しさは仙門でも一番なのに」
万松柏がため息混じりにぼやくと、反対側に座る無忌が悲しげに顔を伏せてしまった。ずっと病床にいたせいで咲き誇る蓮の花を見られなかったことを万松柏以上に悔いているようだ。万松柏はふっと笑みを浮かべると、元気づけるように言った。
「……ま、今年は仕方なかったさ。また来年見に来ようぜ」
「蓮の茶を淹れてもらえるか、聞いてこよう」
「いいって。茶葉が乾けば向こうで勝手に用意してくれるさ」
比連もそうだが、一度魔偶の身を経ると感情の起伏がかなり見えなくなる。よほど激昂することがあれば感情も分かりやすくなるが、無忌の場合は人が変わったように激怒しているか、万松柏のことを気に病むあまり冷静さを欠いているかのどちらかだ。平時は表情や口調から感情の機微を察するしかないが、万松柏にはそれが手に取るように分かった。
「俺は茶より蓮の実が食いたいな。昔師尊の使いで来たときに出してもらったことがあるんだが、ありゃ美味かった」
ふと湧いた悪戯心を口に出せば、案の定無忌は窓の外をじっと凝視する。冗談だよ、と万松柏は笑い、卓に置かれた手を軽く握った。
「実が採れたら嫌でも飯に蓮の実が出るさ。お前が行ってずぶ濡れになることはないよ」
「そうか」
無忌は金色の目をゆっくりと瞬き、万松柏の手を握り返した。
「……いつか、お前の望むものを、私も味わいたいものだ」
ぽつりと呟き、引き寄せた手に口付けをする。万松柏がねだるように笑いかけると、無忌は身を乗り出して万松柏の唇に口付けた。
ちゅ、と軽い音を立てて無忌の顔が離れる。金色の目が暗い光を帯びている――その目を覗き込んだとき、万松柏はどくんと胸が跳ねるのを感じた。
体の芯が疼く。万松柏は吸い込まれるように無忌に顔を寄せ、次の口付けを受け入れた。
割り込んできた舌に自分の舌を絡め、熱い息と唾液を交換する。ふと身体が浮き、無忌に抱きかかえられたことを悟ったが、万松柏はされるがままにすることにした。
牀にそっと横たえられた万松柏の目の前に、仄かに上気した無忌の顔が現れる。無忌は万松柏に覆いかぶさるように口付けを繰り返し、衣の分け目に手を入れてはだけさせていく。万松柏も応えるように無忌の首に手を回し、焦らすような熱に身をよじりながら無忌の身体を撫で返す。
ふと、無忌が左胸の傷痕に触れた。ぴくりと身をすくませる万松柏に、無忌の動きも止まり、不安そうに万松柏を覗き込んだ。
「……なあ、俺は大丈夫だ」
早く次に進みたい万松柏だったが、無忌は暗い記憶にふけるようにじっとしている。
「……あと少し逸れていたら、閻南天に殺されていた」
「え……」
万松柏は思わず言葉を失った。たしかに、腕のいい医者の閻南天なら、急所を一突きするなど造作もないはずだ。
「背中から刺したせいでわずかに狙いが逸れたのだろうと師叔は言っている。……内傷もひどかった。助かったのは奇跡だ」
金色の瞳が潤み、両目がくしゃりと歪む。万松柏は今にも泣きそうな無忌を抱き寄せると、「大丈夫だ」と言って背中を軽く叩いた。
「助かったんだからいいじゃないか。そんなことより今は俺と……」
言いかけてから、万松柏はカッと顔が赤くなった。途端に窓を開け放った部屋で何をしようとしているのかに気付き、火を吹きそうなほどの羞恥心に襲われる。
途端にもじもじと落ち着きを失った万松柏を見て、無忌もそのことに気付いたらしい。ちらりと窓の方に目を向けた無忌だったが、備え付けの帳を勢いよく引いて牀を隠すのみで、再び万松柏の服を脱がそうとした。
「ちょっと待て!? これじゃあ何も隠せてないじゃないか!」
慌てて声を上げた万松柏の口に、無忌が三度唇を押し当てる。長々と呼吸を奪ってから、無忌は再び暗い光をともした目で万松柏を見つめた。
「誰も来ない。私たち二人だけだ」
帳を下ろしただけの閨にくぐもった声が漏れだす。万松柏は服を脱がされ、天を突かんとそり立ったものを無忌に扱かれていた。
「ぅうっ……っん、無忌ッ……」
先端からこぼれた液体が無忌の手を汚し、その下の敷布にも垂れている。万松柏は触られるたびに漏れる声を必死で押さえ、快感が走るたびにきつく敷布を握りしめた。万松柏の陽物はすでに限界まで張り詰め、溜め込んだ欲望を吐き出したいと切に訴えているようだ。
「なっ、無忌……ッ、おれ、もうッ……!」
「出る」という言葉を思い浮かべた途端に目の前に火花が散った。悲鳴を飲み込み、全身を痙攣させて万松柏は吐精した。絶頂が過ぎて力の抜けた身体を敷布に預け、詰めていた息を吐く。
その瞬間、尻にべたつくものが押し当てられた。思わず甲高い声を上げた万松柏は驚いて身を起こし、無忌のしようとしていることを見てさらに絶句した。なんと白濁をまとった無忌の指が、あろうことか己の後ろの出口に押し当てられて、今にも中に入ろうとしているのだ。
「むっ、無忌……そんなところ触るなよ……!」
しかも無忌の指にべっとりと付いているのは、先ほど己が出したものではなかったか。頭が爆発しそうな気分だったが、反射的に引いた腰を無忌にがっしりと掴まれ、ひっくり返すように菊門を露わにされてしまう。
混乱と恥ずかしさで言葉を失った万松柏に、無忌は一言こう言った。
「大丈夫だ。以前したことがある」
「以前って……まさかあのとき……? 嘘だろ!?」
無忌と初めて繋がったのは魔界を逃げていたときのことだったが、万松柏が覚えているのは無忌の陽物を尻の中に入れられていたことだけだ。意識のない間にこれをされていたのかと思うととんでもなく恥ずかしい。
「だが、やらないと先に進めない」
無忌は拒絶されたと思ったのか、悲しそうに手元に目線を落とす。万松柏は唖然としたが、深呼吸をひとつして心を決めた。
「分かった。お前に、任せるよ」
無忌は金色の目をわずかに見開き、合意を示すように頷いた。
整った指が二本揃えられ、普段は出すばかりの穴に入っていく。無忌は指についた白濁を塗りたくるように指を動かし、万松柏の中を刺激している。奇妙な感覚に万松柏は眉をひそめた――この違和感を外に出したいと思うほどに肉壁が収縮を繰り返し、むずがゆいような、もどかしいような気分になるのだ。これだけでは足りないと本能が訴えている、そんな感覚だった。
無忌は指をもう一本増やし、三本の指で万松柏の中に精液を塗り広げていたが、やがて指を全て引き抜いた。排便のような感覚に万松柏が眉をひそめていると、無忌は静かに帯を解いて服を脱ぎ始めた。
一番上の長袍が脱ぎ捨てられ、下に着ている単袍もまた剥ぎ取るように牀の下へと放り投げられる。露わになった下履きは中心が大きく張り出し、粗相でもしたかのような染みができていた。
万松柏は胸がうるさいほどに高鳴るのを感じた。欲情しているのは分かっていたが、改めてそれを見せつけられると平静を保てない。
無忌は下履きも脱ぎ、ついに反り返った陽物を露わにした。
「入っても、いいか」
そうしたいことは丸わかりだというのに、無忌はぎらつく瞳を万松柏に向けて尋ねてくる。万松柏が頷くと、無忌は万松柏の太ももを抱え、先ほどまで指が入っていたところに太く硬い先端を押し当てた。
――熱い。入ってくる前から、脈打つ興奮が伝わってくるようだ。
無忌は深呼吸すると、ついに万松柏の中に入ってきた。
「――ッ! ぅ、ぁあッ……!」
固い。熱い。太い。痛みとともに挿入されたそれは、指とは比べ物にならないほどの存在感を放っている。万松柏は思わず無忌の背中にしがみついた。
「痛いか?」
無忌が心配そうに尋ねる。万松柏は小刻みに首を横に振った。
「いや、だいじょうぶっ……」
痛いというよりも、この違和感がたまらない。外に出そうと体が反応して収縮するが、そのたびに無忌の熱が伝わって、腹の奥がズンと疼くのだ。
無忌は万松柏を慰めるように口付けをすると、ゆっくりと陽物を引き抜いた。それをまた押し込み、ゆっくりと抽挿を繰り返す。ずぷ、ずぷといやらしい音がするたびに万松柏は敷布を握りしめた。出したこともないような卑猥な声が漏れそうになり、萎えていた陽物が触られてもいないのに首をもたげている。
無忌は呻き声のような吐息をこぼし、思いつめたような表情で歯を食いしばっている。次第に抽挿が激しくなり、指が届かなかった奥まで無忌が入ってくる。違和感は今や快感に変わり、無忌がまだ入っていない最奥がせがむように疼いている。
「んんっ、っは、ぁっ、無忌、もっと……ッ、もっと、」
万松柏はうわ言のように繰り返し、半勃ちのものに手を伸ばした――が、見越したように無忌の手が先に万松柏のものを捕まえてしまった。たまらず悲鳴じみた声を上げた万松柏だったが、先ほどよりもやや乱暴に扱かれる快感に残った理性は溶けていった。
浮かされるように腰を持ち上げれば、無忌が叩きつけるように応えてくる。腕を伸ばせば体をかがめ、口付けを求めれば応えてくれる。万松柏は無忌の腰に両脚で絡みつき、名前を何度も呼んだ。無忌の先走りが胎の中を濡らしているのも、無忌のものが限界まで張り詰めているのも、よく鍛えられた腹筋に擦られて自分の興奮もまた頂点に達しつつあるのも、全てが愛おしくてたまらない。
やがて、無忌が間の抜けた呻き声を上げて万松柏の中に陽物を思い切り突き込んだ。熱い液体が最奥で爆ぜ、無忌はぎゅっと万松柏を抱きしめて射精した。
「ああっ……! ッう、ふっ……!」
無忌の痙攣につられて万松柏も小刻みに震える。その先端は、二度目の欲望を吐き出していた。
万松柏は大きく息を吐き、心地良い疲労感に身を委ねた。隣に無忌がドサリと横になり、両手で顔を拭いながら大きく息を吐く。
無忌はそのまま寝返りを打ち、万松柏を真正面から見据えた――金色の瞳が幸せそうにきらりと輝いたこのとき、自分にしか聞こえないように発せられた言葉を、万松柏はいつまでも覚えている。
「愛している……私の松柏」
目が覚めてもしばらくは寝たきりだった万松柏も、日が経つにつれて起き上がれるようになり、歩けるようになり、部屋から出歩けるようになっていった。無忌は相変わらず万松柏に付きっきりでどこへ行くにもついてくるが、仙師たちもその風景に慣れてきたらしく、警戒の目が少し緩んでいる。
万松柏は医務室から移され、他の客間から離れた静かな部屋に泊まっていた。三方が湖に面しているこの部屋は眺めも良く、窓を開け放てば蓮の残り香を含んだ風が部屋中に満ちる。中央の卓子に座り、万松柏は目を閉じて、吹き抜けるそよ風を存分に吸い込んだ。
「うーん、良い匂いだけど、花の時期を逃したのは惜しかったな。蓮が咲く季節の美しさは仙門でも一番なのに」
万松柏がため息混じりにぼやくと、反対側に座る無忌が悲しげに顔を伏せてしまった。ずっと病床にいたせいで咲き誇る蓮の花を見られなかったことを万松柏以上に悔いているようだ。万松柏はふっと笑みを浮かべると、元気づけるように言った。
「……ま、今年は仕方なかったさ。また来年見に来ようぜ」
「蓮の茶を淹れてもらえるか、聞いてこよう」
「いいって。茶葉が乾けば向こうで勝手に用意してくれるさ」
比連もそうだが、一度魔偶の身を経ると感情の起伏がかなり見えなくなる。よほど激昂することがあれば感情も分かりやすくなるが、無忌の場合は人が変わったように激怒しているか、万松柏のことを気に病むあまり冷静さを欠いているかのどちらかだ。平時は表情や口調から感情の機微を察するしかないが、万松柏にはそれが手に取るように分かった。
「俺は茶より蓮の実が食いたいな。昔師尊の使いで来たときに出してもらったことがあるんだが、ありゃ美味かった」
ふと湧いた悪戯心を口に出せば、案の定無忌は窓の外をじっと凝視する。冗談だよ、と万松柏は笑い、卓に置かれた手を軽く握った。
「実が採れたら嫌でも飯に蓮の実が出るさ。お前が行ってずぶ濡れになることはないよ」
「そうか」
無忌は金色の目をゆっくりと瞬き、万松柏の手を握り返した。
「……いつか、お前の望むものを、私も味わいたいものだ」
ぽつりと呟き、引き寄せた手に口付けをする。万松柏がねだるように笑いかけると、無忌は身を乗り出して万松柏の唇に口付けた。
ちゅ、と軽い音を立てて無忌の顔が離れる。金色の目が暗い光を帯びている――その目を覗き込んだとき、万松柏はどくんと胸が跳ねるのを感じた。
体の芯が疼く。万松柏は吸い込まれるように無忌に顔を寄せ、次の口付けを受け入れた。
割り込んできた舌に自分の舌を絡め、熱い息と唾液を交換する。ふと身体が浮き、無忌に抱きかかえられたことを悟ったが、万松柏はされるがままにすることにした。
牀にそっと横たえられた万松柏の目の前に、仄かに上気した無忌の顔が現れる。無忌は万松柏に覆いかぶさるように口付けを繰り返し、衣の分け目に手を入れてはだけさせていく。万松柏も応えるように無忌の首に手を回し、焦らすような熱に身をよじりながら無忌の身体を撫で返す。
ふと、無忌が左胸の傷痕に触れた。ぴくりと身をすくませる万松柏に、無忌の動きも止まり、不安そうに万松柏を覗き込んだ。
「……なあ、俺は大丈夫だ」
早く次に進みたい万松柏だったが、無忌は暗い記憶にふけるようにじっとしている。
「……あと少し逸れていたら、閻南天に殺されていた」
「え……」
万松柏は思わず言葉を失った。たしかに、腕のいい医者の閻南天なら、急所を一突きするなど造作もないはずだ。
「背中から刺したせいでわずかに狙いが逸れたのだろうと師叔は言っている。……内傷もひどかった。助かったのは奇跡だ」
金色の瞳が潤み、両目がくしゃりと歪む。万松柏は今にも泣きそうな無忌を抱き寄せると、「大丈夫だ」と言って背中を軽く叩いた。
「助かったんだからいいじゃないか。そんなことより今は俺と……」
言いかけてから、万松柏はカッと顔が赤くなった。途端に窓を開け放った部屋で何をしようとしているのかに気付き、火を吹きそうなほどの羞恥心に襲われる。
途端にもじもじと落ち着きを失った万松柏を見て、無忌もそのことに気付いたらしい。ちらりと窓の方に目を向けた無忌だったが、備え付けの帳を勢いよく引いて牀を隠すのみで、再び万松柏の服を脱がそうとした。
「ちょっと待て!? これじゃあ何も隠せてないじゃないか!」
慌てて声を上げた万松柏の口に、無忌が三度唇を押し当てる。長々と呼吸を奪ってから、無忌は再び暗い光をともした目で万松柏を見つめた。
「誰も来ない。私たち二人だけだ」
帳を下ろしただけの閨にくぐもった声が漏れだす。万松柏は服を脱がされ、天を突かんとそり立ったものを無忌に扱かれていた。
「ぅうっ……っん、無忌ッ……」
先端からこぼれた液体が無忌の手を汚し、その下の敷布にも垂れている。万松柏は触られるたびに漏れる声を必死で押さえ、快感が走るたびにきつく敷布を握りしめた。万松柏の陽物はすでに限界まで張り詰め、溜め込んだ欲望を吐き出したいと切に訴えているようだ。
「なっ、無忌……ッ、おれ、もうッ……!」
「出る」という言葉を思い浮かべた途端に目の前に火花が散った。悲鳴を飲み込み、全身を痙攣させて万松柏は吐精した。絶頂が過ぎて力の抜けた身体を敷布に預け、詰めていた息を吐く。
その瞬間、尻にべたつくものが押し当てられた。思わず甲高い声を上げた万松柏は驚いて身を起こし、無忌のしようとしていることを見てさらに絶句した。なんと白濁をまとった無忌の指が、あろうことか己の後ろの出口に押し当てられて、今にも中に入ろうとしているのだ。
「むっ、無忌……そんなところ触るなよ……!」
しかも無忌の指にべっとりと付いているのは、先ほど己が出したものではなかったか。頭が爆発しそうな気分だったが、反射的に引いた腰を無忌にがっしりと掴まれ、ひっくり返すように菊門を露わにされてしまう。
混乱と恥ずかしさで言葉を失った万松柏に、無忌は一言こう言った。
「大丈夫だ。以前したことがある」
「以前って……まさかあのとき……? 嘘だろ!?」
無忌と初めて繋がったのは魔界を逃げていたときのことだったが、万松柏が覚えているのは無忌の陽物を尻の中に入れられていたことだけだ。意識のない間にこれをされていたのかと思うととんでもなく恥ずかしい。
「だが、やらないと先に進めない」
無忌は拒絶されたと思ったのか、悲しそうに手元に目線を落とす。万松柏は唖然としたが、深呼吸をひとつして心を決めた。
「分かった。お前に、任せるよ」
無忌は金色の目をわずかに見開き、合意を示すように頷いた。
整った指が二本揃えられ、普段は出すばかりの穴に入っていく。無忌は指についた白濁を塗りたくるように指を動かし、万松柏の中を刺激している。奇妙な感覚に万松柏は眉をひそめた――この違和感を外に出したいと思うほどに肉壁が収縮を繰り返し、むずがゆいような、もどかしいような気分になるのだ。これだけでは足りないと本能が訴えている、そんな感覚だった。
無忌は指をもう一本増やし、三本の指で万松柏の中に精液を塗り広げていたが、やがて指を全て引き抜いた。排便のような感覚に万松柏が眉をひそめていると、無忌は静かに帯を解いて服を脱ぎ始めた。
一番上の長袍が脱ぎ捨てられ、下に着ている単袍もまた剥ぎ取るように牀の下へと放り投げられる。露わになった下履きは中心が大きく張り出し、粗相でもしたかのような染みができていた。
万松柏は胸がうるさいほどに高鳴るのを感じた。欲情しているのは分かっていたが、改めてそれを見せつけられると平静を保てない。
無忌は下履きも脱ぎ、ついに反り返った陽物を露わにした。
「入っても、いいか」
そうしたいことは丸わかりだというのに、無忌はぎらつく瞳を万松柏に向けて尋ねてくる。万松柏が頷くと、無忌は万松柏の太ももを抱え、先ほどまで指が入っていたところに太く硬い先端を押し当てた。
――熱い。入ってくる前から、脈打つ興奮が伝わってくるようだ。
無忌は深呼吸すると、ついに万松柏の中に入ってきた。
「――ッ! ぅ、ぁあッ……!」
固い。熱い。太い。痛みとともに挿入されたそれは、指とは比べ物にならないほどの存在感を放っている。万松柏は思わず無忌の背中にしがみついた。
「痛いか?」
無忌が心配そうに尋ねる。万松柏は小刻みに首を横に振った。
「いや、だいじょうぶっ……」
痛いというよりも、この違和感がたまらない。外に出そうと体が反応して収縮するが、そのたびに無忌の熱が伝わって、腹の奥がズンと疼くのだ。
無忌は万松柏を慰めるように口付けをすると、ゆっくりと陽物を引き抜いた。それをまた押し込み、ゆっくりと抽挿を繰り返す。ずぷ、ずぷといやらしい音がするたびに万松柏は敷布を握りしめた。出したこともないような卑猥な声が漏れそうになり、萎えていた陽物が触られてもいないのに首をもたげている。
無忌は呻き声のような吐息をこぼし、思いつめたような表情で歯を食いしばっている。次第に抽挿が激しくなり、指が届かなかった奥まで無忌が入ってくる。違和感は今や快感に変わり、無忌がまだ入っていない最奥がせがむように疼いている。
「んんっ、っは、ぁっ、無忌、もっと……ッ、もっと、」
万松柏はうわ言のように繰り返し、半勃ちのものに手を伸ばした――が、見越したように無忌の手が先に万松柏のものを捕まえてしまった。たまらず悲鳴じみた声を上げた万松柏だったが、先ほどよりもやや乱暴に扱かれる快感に残った理性は溶けていった。
浮かされるように腰を持ち上げれば、無忌が叩きつけるように応えてくる。腕を伸ばせば体をかがめ、口付けを求めれば応えてくれる。万松柏は無忌の腰に両脚で絡みつき、名前を何度も呼んだ。無忌の先走りが胎の中を濡らしているのも、無忌のものが限界まで張り詰めているのも、よく鍛えられた腹筋に擦られて自分の興奮もまた頂点に達しつつあるのも、全てが愛おしくてたまらない。
やがて、無忌が間の抜けた呻き声を上げて万松柏の中に陽物を思い切り突き込んだ。熱い液体が最奥で爆ぜ、無忌はぎゅっと万松柏を抱きしめて射精した。
「ああっ……! ッう、ふっ……!」
無忌の痙攣につられて万松柏も小刻みに震える。その先端は、二度目の欲望を吐き出していた。
万松柏は大きく息を吐き、心地良い疲労感に身を委ねた。隣に無忌がドサリと横になり、両手で顔を拭いながら大きく息を吐く。
無忌はそのまま寝返りを打ち、万松柏を真正面から見据えた――金色の瞳が幸せそうにきらりと輝いたこのとき、自分にしか聞こえないように発せられた言葉を、万松柏はいつまでも覚えている。
「愛している……私の松柏」
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