女の子を拾ったら毎日楽しくなりました。

山中波音

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1話

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王都から馬車でだいたい一日の距離にあるこの街の名はネーエグリエ。王都から近いこの街は、目の前には海が広がり海から馬車で半刻ほどの所の高台に領主も住んでいることもありこの街は栄えている。

 この街に1人でアクセサリーのお店を切り盛りしている女性がいる。彼女は腰ぐらいまであるアッシュゴールドの髪を高い位置で1つで纏め、つり目ではないがキリッとした目は珍しい青と緑のオッドアイの瞳にスラリとした体にやや美人な顔。年は16歳の成人を超えた17歳。成人してまだ一年しか経っていないのに店を切り盛りしているのにも理由がある。
 この店は彼女が12歳から見習いで働いており半年前に店主の女性が老齢のため天に召された為。店主は独身で親族とは縁を切ってもう繋がりはないそうで、店主は彼女に店を託した。

「ふぅ…疲れた…さ、家に帰りましょう」

 彼女はそう言って店を閉め、夕暮れ時の空の中、飲み屋にある看板横に着いている、オレンジ色のほんのり暖かい魔石の灯りを頼りに家路についた。

 家まで後もう少しと言うところで家と家の間の路地に誰かが倒れているのが見えた。きっと孤児で路上生活をしている子だろう。普段は心を鬼にして通りすぎるのだが、その子供の髪の長い灰色が目に焼き付いた。通りすぎ家の鍵を開けようとしても、脳裏にチラチラと先程の子供が頭をかすめる。

「……ぁぁー、もう!」

 あまりにも気になりそう叫んだ後急ぎ足で先程の場所に戻った。そこにはまだ先ほどの子供がまだ倒れていた。

「…はぁ………うん」

 まだ悩んだが決心をしその子供に近づいた。

「…ねぇ…ねぇ、起きれる?…」

「………」

 少し揺さぶってみたが起きる気配がない。意識がないので仕方がないと子供を抱き抱えると思っていたよりもとても軽かった。

(もう、お医者様は閉まってるわね…)

 もう宵の口。彼女はそのまま子供を抱いたまま道に出て家まで歩いていると怪訝な顔をして見る人や色んな視線を向けられたが無視をし、街からほんの少し離れたところにぽつぽつある家の1つに彼女は帰った。


 家に着いた後子供を布団に寝かせ、キッチンで朝の残りのパンを使ってパン粥を作った。路上生活している子供はよく腹を空かせており、とくにこの子供は身長の割に軽くあまり食事にありつけていないと想定されたためである。

 ガタン……ガタ…バタバタバタバタ……ガチャ…

 自分の夕食を窓際にあるダイニングテーブルに置いていると、大きい音がした後走る音がし、寝室の扉が開いたのでそちらを見ると先程の子供がこちらを向いた。灰色の前髪の隙間からエメラルドグリーンの瞳がチラリと見えた。

「あっ、起きた?パン粥がちょうどさっき出来たから食べる?」

「…………」

 子供は扉を握りしめたままじっとこちらを睨んでいる。寝ている所を黙って家に連れて帰ってきたのだから警戒するのも仕方がない。どうしたものか困っていると子供が口を開いた。

「何故私を連れてきたの?私を売るため?子供は玩具じゃないのよ?それでも大人?無理矢理誘拐して何するつもりよ!!!」

 可愛らしい声だが何処か冷えた声が段々大きくなり最後は叫んだ。5歳ぐらいの子供とは思えない思考に女性は驚き、そしてこの子は女の子だと気がついた。

「そうね、路上で寝てたとはいえ勝手に連れてきたのだから誘拐と思われても仕方ないわね」

「……」

「…私はエルザ。君の名前は何て言うの?」

 女の子はエルザを睨んだまま黙っており、言う気はないようだった。

「………街で雑貨屋をやってるの。帰り道に貴方を見つけて気になったから連れてきたの。別に売ろうなんて考えてないわ。お金にはそんなに困ってないしね。とりあえず、パン粥作ったから食べて?何も入れてないわ……食べたら出ていっても良いしここにいてもいいわ……」

 エルザは自己紹介をし女の子を見つけた経緯を伝え、好きにしていいという思いを伝えた。事実連れてきたはいいがどうすればいいかなど考えていなかった。自己満と言われればそうなのかもしれない。責任取れないのならば連れて帰ってきてはいけない事は頭では分かっていたが、何故かわからないがこの子供を連れて帰らないと、だと思ったのだ。

 エルザは自分の席の前にパン粥を置いた。

「……お腹空いてない」

 ……キューグルグル…

 「「………」」

 盛大なお腹の虫の音が少し離れたエルザにも聞こえ、女の子は耳まで真っ赤になり俯いた。エルザは席に着き夕食を先に食べ始め、その姿を見た女の子は顔を顰め諦めたのか言った。

「……頂きます」

 そう言ってエルザの前に座りパン粥を食べ始めた。始めはエルザを怪しむように見ながら少しづつ食べたが、エルザは無言で夕食を食べていたので女の子は段々とエルザを気にせずパン粥に集中しすくう手を早めた。

「ゲホッ……ゲホゲホ……」

「ほら、かきこみすぎよ…いっきに食べたらお腹がビックリするからゆっくりお食べ」

 席を立ち女の子の背中をさすりながらそう言って女の子が咳が止まったのを見て、エルザは食べ終わった食器をもちキッチンに行き洗い片した。それをジッと見つめていた女の子は何もしてこないエルザを睨みながらパン粥をまた少しづつ食べ始めた。


 

 
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