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第一章 一つ目の剣
1話「目覚めの紅」
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______バシャッ。何かが水上から跳ね、水飛沫が額に垂れる。
……鳥だ。見上げれば、紅く煌く天上が翼もろとも吸い込んでいく。視線を下に落とすと、鏡のように眩しい紅を反射する水面。
これは……泉か? どこからかこんこんという音が聞こえてきそうなほど、澄んだ水だ。右手を延ばすと、覚めるような冷たさが鋭利に襲う。
…………これは僕の手か? 大きな掌に、血管の浮き出た太い手首。それより、先ほどから後ろにいるのは誰だ。水面に映っている顔立ちに少しの心当たりもない……。いや、待て。どうして真後ろにいる人間の顔が映る。
振り返ってみても、誰もいない。自分の頬に手を当てると、水面に映るそれも同じ行動をとる。…………寝ぼけているのか、僕は。それとも、まだ夢の中なのか。訝しげに顔をしかめる表情をよく観察する。右瞼の痛ましい傷跡に似合わない、高貴さを感じる面立ち。吸い込まれそうな澄んだ瞳。
そもそも、さっきまで僕は何をしていたっけ。だんだんと目が覚めてきた。気がついたら片膝を立てたままここにいた。取り敢えず姿勢を崩そう。
どっかりと胡座をかく。…………なんだこの強烈な違和感は。足が長い。靴がでかい。なにより、僕の知らない筋肉が体中至るところにくっついている。
立ち上がってみる。でかい。明らかに目線が高い。つーか、何だこの拳。人一人一振りで殺せそうな凶悪な大きさをしているぞ。
……思い出した。確か、滝壺から声が聞こえてつい飛び込んでしまったんだっけ…………。僕泳げないんだった。よく生きてたなぁ僕。
いや、おかしいだろ。まずどこだここ。明らかに飛び込んだ滝壺とは別の場所だ。巨木が盛大に繁茂しているし、全く人の手が込んでいない。何というか、自然そのままといった風貌だ。
そして今何時だ。これは朝焼けなのか夕焼けなのか。つーかなんだこの服。寝巻きとして使っている高校時代のジャージじゃないし……。スマホも見当たらない。
そもそも。何だこの体。二メートルはありそうな身長に、隆々とした肉体。そして高貴さがどこか滲み出ている面立ち。なんだか、僕とは正反対な気がする。
…………やっぱりもう僕は死んでいるのか。死因は溺死だろう。ここは天国か。志半ばで死んだ若者にせめてもの救いとして屈強な体をプレゼントしてもらったとかそういう……、
『君にしかできないことがある、太刀未来』
「!!」
また思い出した。あの時、そんな言葉を聞いたんだった。
『太刀未来。君の全てを投げ出せとは言わない。君は、また同じ生活を歩むことができる。もし、私の頼みを承諾してくれるなら、ただ、全てを投げ出す覚悟で臨んで欲しい。……君に期待している』
多分、一言一句違わない。それだけ僕の心に響いた言葉だったということだろう。
また同じ生活を歩むことができる……つまり元の場所に帰れるってことだろうか。勿論前の貧弱な体も元通りに。
…………いや頼みってなんだ。体を改造されたことか。そもそも元はこれ僕の体だったのか。不良には絡まれなさそうだけど、デカすぎて善良な人にも避けられそうなんだが。
何か説明書的なものはないものかと辺りを見回す。すぐ近くに手荷物らしきものを見つける。流石に着の身着のままで(僕の服じゃないけど)放置する訳もないだろうし、胸を撫で下ろす。
……………………マジか。剣が十本だけ。何か短い剣が十本だけ。そのほかには何もない。
僕は一体何をすればいいんだろう。思えば、コミュニーケーションがあまり得意ではなくて高校時代の文化祭の準備も手持ち無沙汰だった。でも今回は僕に非はない。
……取り敢えず他にすることもないので短剣をいじってみる。というか十本もいらなくないか。半分くらい買取に出しても良くないかと相場も知らないのに算用しながら、一本引き抜いてみた。
『……ッ』
視界が血で滲む。多分、目前まで死が迫っている。本能がそう察知してやまない……。
いや違う。これは、俯瞰だ。俯瞰で死際を見下ろしている。今まさに息絶えようとしているのは、先ほど水面に映った男だ。
激しい剣戟が繰り広げられたのだろうか、顔や腕に幾つもの生傷がある。何より、胴体と足が分かれている。とっくに雌雄は決されていた。
『私は失敗した。…………剣を手放すな』
男は虫の息でそう呟いた。
「…………ハッ!?」
何だ、今の。脳内に、直接映像が映し出されたような……。
腰回りを確かめてみる。特に傷跡や治療跡は見当たらない。
他の一本を手に取り、力を込め引き抜こうとしても……抜けない。他のを試してみても、同様に抜けない。
どうやら僕は、とんでもないものに首を突っ込んでしまったようだ。
……鳥だ。見上げれば、紅く煌く天上が翼もろとも吸い込んでいく。視線を下に落とすと、鏡のように眩しい紅を反射する水面。
これは……泉か? どこからかこんこんという音が聞こえてきそうなほど、澄んだ水だ。右手を延ばすと、覚めるような冷たさが鋭利に襲う。
…………これは僕の手か? 大きな掌に、血管の浮き出た太い手首。それより、先ほどから後ろにいるのは誰だ。水面に映っている顔立ちに少しの心当たりもない……。いや、待て。どうして真後ろにいる人間の顔が映る。
振り返ってみても、誰もいない。自分の頬に手を当てると、水面に映るそれも同じ行動をとる。…………寝ぼけているのか、僕は。それとも、まだ夢の中なのか。訝しげに顔をしかめる表情をよく観察する。右瞼の痛ましい傷跡に似合わない、高貴さを感じる面立ち。吸い込まれそうな澄んだ瞳。
そもそも、さっきまで僕は何をしていたっけ。だんだんと目が覚めてきた。気がついたら片膝を立てたままここにいた。取り敢えず姿勢を崩そう。
どっかりと胡座をかく。…………なんだこの強烈な違和感は。足が長い。靴がでかい。なにより、僕の知らない筋肉が体中至るところにくっついている。
立ち上がってみる。でかい。明らかに目線が高い。つーか、何だこの拳。人一人一振りで殺せそうな凶悪な大きさをしているぞ。
……思い出した。確か、滝壺から声が聞こえてつい飛び込んでしまったんだっけ…………。僕泳げないんだった。よく生きてたなぁ僕。
いや、おかしいだろ。まずどこだここ。明らかに飛び込んだ滝壺とは別の場所だ。巨木が盛大に繁茂しているし、全く人の手が込んでいない。何というか、自然そのままといった風貌だ。
そして今何時だ。これは朝焼けなのか夕焼けなのか。つーかなんだこの服。寝巻きとして使っている高校時代のジャージじゃないし……。スマホも見当たらない。
そもそも。何だこの体。二メートルはありそうな身長に、隆々とした肉体。そして高貴さがどこか滲み出ている面立ち。なんだか、僕とは正反対な気がする。
…………やっぱりもう僕は死んでいるのか。死因は溺死だろう。ここは天国か。志半ばで死んだ若者にせめてもの救いとして屈強な体をプレゼントしてもらったとかそういう……、
『君にしかできないことがある、太刀未来』
「!!」
また思い出した。あの時、そんな言葉を聞いたんだった。
『太刀未来。君の全てを投げ出せとは言わない。君は、また同じ生活を歩むことができる。もし、私の頼みを承諾してくれるなら、ただ、全てを投げ出す覚悟で臨んで欲しい。……君に期待している』
多分、一言一句違わない。それだけ僕の心に響いた言葉だったということだろう。
また同じ生活を歩むことができる……つまり元の場所に帰れるってことだろうか。勿論前の貧弱な体も元通りに。
…………いや頼みってなんだ。体を改造されたことか。そもそも元はこれ僕の体だったのか。不良には絡まれなさそうだけど、デカすぎて善良な人にも避けられそうなんだが。
何か説明書的なものはないものかと辺りを見回す。すぐ近くに手荷物らしきものを見つける。流石に着の身着のままで(僕の服じゃないけど)放置する訳もないだろうし、胸を撫で下ろす。
……………………マジか。剣が十本だけ。何か短い剣が十本だけ。そのほかには何もない。
僕は一体何をすればいいんだろう。思えば、コミュニーケーションがあまり得意ではなくて高校時代の文化祭の準備も手持ち無沙汰だった。でも今回は僕に非はない。
……取り敢えず他にすることもないので短剣をいじってみる。というか十本もいらなくないか。半分くらい買取に出しても良くないかと相場も知らないのに算用しながら、一本引き抜いてみた。
『……ッ』
視界が血で滲む。多分、目前まで死が迫っている。本能がそう察知してやまない……。
いや違う。これは、俯瞰だ。俯瞰で死際を見下ろしている。今まさに息絶えようとしているのは、先ほど水面に映った男だ。
激しい剣戟が繰り広げられたのだろうか、顔や腕に幾つもの生傷がある。何より、胴体と足が分かれている。とっくに雌雄は決されていた。
『私は失敗した。…………剣を手放すな』
男は虫の息でそう呟いた。
「…………ハッ!?」
何だ、今の。脳内に、直接映像が映し出されたような……。
腰回りを確かめてみる。特に傷跡や治療跡は見当たらない。
他の一本を手に取り、力を込め引き抜こうとしても……抜けない。他のを試してみても、同様に抜けない。
どうやら僕は、とんでもないものに首を突っ込んでしまったようだ。
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