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「見つけた!」 と心の中で歓喜した。見た目だけで見たらあの髪の色はきっと間違いないだろう。手持ちのスキルを使用し確認もしてみたからあっている…はず。深呼吸をしてまず気持ちを落ち着けてから話しかけてみた。話しかけてからなんて切り出すか迷った挙句、先ほど見た少し変わった光景について聞いてみた。実はそれは本人かどうかははっきりと見てはいない。ただ、髪の毛の色が似ていただけ。まあ話のきっかけに使うだけだから間違っていようと構いはしない。
少し話をしてみて自分自身にがっかりとする。対面してみて思ったほどの感情が沸き上がってこないのだ。あれほど恨んでいたのに、だ。すっかり幼くなり見た目も全く違う相手。本人だという確信が持てないのだから仕方がないとも思う。だから少しづつ近づいてい本人だという確信を求めよう。それがはっきりしたときにきっとその感情が戻ると信じて。というか戻ってくれないと困る。そうでなければこの世界へ来た意味がない。
困ったことになった。たくさんいる人を順番に眺めていたらもう一人候補が現れた。こっちはさらに外見が違いすぎる。服装からして貴族だと思われるので慎重に進めなければならないだろう。それにまだ2人だけとも限らないし、どうせなら間違わないようにちゃんとここにいる人全部を確かめておきたい。あと、対象者と再び会える機会を作らなければ意味もなくなる。せめて学園に合格。まずはここから…あの2人は多分受かる。1人はすでに戦闘技能で好成績なのを確認済み。もう1人も先ほど魔法の腕を見せてもらった。あの分なら周りが微妙だから大丈夫だと思いたい。
自分の番が回ってきた。さあ、どんな魔法を使おうか。
*****
飛び交っている魔法をぼんやりと眺めていると、見知った人が的から離れた線の前に立った。さっきまで近くにいたジェシカだ。どうやら彼女の番がやって来たらしい。ほんの少し会話しただけだけど一応知り合い。どんな魔法を使うのかも興味がある。
ジェシカが右手を前に出した。俺は魔法が発動されるのを待つ。そして驚いた。今まで見てきた中で一番威力がある魔法だったことに。それは雷属性の魔法だった。魔法は前に打ち出すものではなく指定の場所に落とすタイプのもので、的の上から雷が落ちバチバチと的全体に雷がまとうような威力だった。それに対し魔法の効力が切れた後の的は静かな物だった。何事もなかったかのように綺麗なまま。余程頑丈に出来ているみたいだね。それが気に入らなかったのか若干ジェシカが的を睨んでいるようにも見えた。きっと彼女は受かるに違いない。
その後も試験は続いていく…的の数が少ないのもあるけど、安全性を考えたうえでの配置だろうから時間がかかるのも仕方がないと思う。だけどやっぱり自分が最後だとわかっているというのはこの待ち時間が長く感じるわけで…
「528。528番はいないのか!」
「え、はいっ」
ぼんやりと飛んでいる魔法を眺めていたらなぜか俺の番号を呼ばれた。周りから注目されながら俺は呼ばれた方へと向かうと、試験が始まる前に説明をしていた男の人だった。
「使える魔法は?」
「えっ…と、火、水、風、土、氷、雷、光、闇…の攻撃魔法は使えます」
「なるほどな」
…? なるほどってどういう意味だ。顎に手を当て何やら考え込んでいる。
「よし、複合魔法って言うのは知っているか?」
「知らないですね。名前からして複数の魔法を合わせた魔法ですか?」
「…しかも賢いときたか。ああそんな感じだ。お前が最後だから全部の的へ向けて何か一発複合魔法を試してみないか?」
ちらりと的の方を見ると確かにもう誰も魔法をうっていなかった。というか表示されている番号が全部528…ってなにこれ?? 男の人の方に向き直るとニヤニヤと笑いながらこっちを見ている。つまりこれは…
「失敗して試験に落ちるとかいやなんですけど…」
「問題ない。この結果は反映されない。ほらやってみろ」
「それならいいんですが」
半ば無理やり的の前まで連れてこられた俺はその間にどんな魔法を使おうか考えていた。一番すぐに浮かんだのはやっぱりわかりやすいファイアートルネード。火と風を合わせた魔法だ。だけどそれはこんな建物の中で使うのは普通に危険。一気にこの室内の空気を消耗することになるので、気絶者が出てくるだろう。そういえば全部の的って言っていた。ということは風は外せないとして…うん、決めた!
「えーとそろそろうってみますね?」
「お、ちょっとまってくれ」
そういうと男の人は声を張り上げてこんなことを言い出す。
「本日最後の受験者による初複合魔法チャレンジだ―! 失敗しても成功しても拍手を送ってやってくれっ」
ほれ、と言いたげにこっちに視線を向ける男の人。というかすごい見られていて結構これは恥ずかしいのだけどっ
軽く頬に熱を感じながら俺は的を見つめ使用したい魔法を思い浮かべる。5つの的に当てるために範囲を広げたくて選択した風と、俺が最初に覚えてたくさん練習した氷…この2つを合わせた魔法を。
「…ブリザード!」
的周辺に冷気と氷の粒が荒れ狂う。範囲を指定しているとはいえこれは思ったよりも…寒い。今が暑い季節だからまだきっとましなんだろう。これが寒い季節だと自分まで凍ってしまいそうだ。次第に魔法が収まっていく…時間としては長く感じたけれども多分本当に短い時間だった。やっぱり慣れない魔法というのは思い通りにはいかないものだね。
風がやむと的の一部が氷に覆われていた。
少し話をしてみて自分自身にがっかりとする。対面してみて思ったほどの感情が沸き上がってこないのだ。あれほど恨んでいたのに、だ。すっかり幼くなり見た目も全く違う相手。本人だという確信が持てないのだから仕方がないとも思う。だから少しづつ近づいてい本人だという確信を求めよう。それがはっきりしたときにきっとその感情が戻ると信じて。というか戻ってくれないと困る。そうでなければこの世界へ来た意味がない。
困ったことになった。たくさんいる人を順番に眺めていたらもう一人候補が現れた。こっちはさらに外見が違いすぎる。服装からして貴族だと思われるので慎重に進めなければならないだろう。それにまだ2人だけとも限らないし、どうせなら間違わないようにちゃんとここにいる人全部を確かめておきたい。あと、対象者と再び会える機会を作らなければ意味もなくなる。せめて学園に合格。まずはここから…あの2人は多分受かる。1人はすでに戦闘技能で好成績なのを確認済み。もう1人も先ほど魔法の腕を見せてもらった。あの分なら周りが微妙だから大丈夫だと思いたい。
自分の番が回ってきた。さあ、どんな魔法を使おうか。
*****
飛び交っている魔法をぼんやりと眺めていると、見知った人が的から離れた線の前に立った。さっきまで近くにいたジェシカだ。どうやら彼女の番がやって来たらしい。ほんの少し会話しただけだけど一応知り合い。どんな魔法を使うのかも興味がある。
ジェシカが右手を前に出した。俺は魔法が発動されるのを待つ。そして驚いた。今まで見てきた中で一番威力がある魔法だったことに。それは雷属性の魔法だった。魔法は前に打ち出すものではなく指定の場所に落とすタイプのもので、的の上から雷が落ちバチバチと的全体に雷がまとうような威力だった。それに対し魔法の効力が切れた後の的は静かな物だった。何事もなかったかのように綺麗なまま。余程頑丈に出来ているみたいだね。それが気に入らなかったのか若干ジェシカが的を睨んでいるようにも見えた。きっと彼女は受かるに違いない。
その後も試験は続いていく…的の数が少ないのもあるけど、安全性を考えたうえでの配置だろうから時間がかかるのも仕方がないと思う。だけどやっぱり自分が最後だとわかっているというのはこの待ち時間が長く感じるわけで…
「528。528番はいないのか!」
「え、はいっ」
ぼんやりと飛んでいる魔法を眺めていたらなぜか俺の番号を呼ばれた。周りから注目されながら俺は呼ばれた方へと向かうと、試験が始まる前に説明をしていた男の人だった。
「使える魔法は?」
「えっ…と、火、水、風、土、氷、雷、光、闇…の攻撃魔法は使えます」
「なるほどな」
…? なるほどってどういう意味だ。顎に手を当て何やら考え込んでいる。
「よし、複合魔法って言うのは知っているか?」
「知らないですね。名前からして複数の魔法を合わせた魔法ですか?」
「…しかも賢いときたか。ああそんな感じだ。お前が最後だから全部の的へ向けて何か一発複合魔法を試してみないか?」
ちらりと的の方を見ると確かにもう誰も魔法をうっていなかった。というか表示されている番号が全部528…ってなにこれ?? 男の人の方に向き直るとニヤニヤと笑いながらこっちを見ている。つまりこれは…
「失敗して試験に落ちるとかいやなんですけど…」
「問題ない。この結果は反映されない。ほらやってみろ」
「それならいいんですが」
半ば無理やり的の前まで連れてこられた俺はその間にどんな魔法を使おうか考えていた。一番すぐに浮かんだのはやっぱりわかりやすいファイアートルネード。火と風を合わせた魔法だ。だけどそれはこんな建物の中で使うのは普通に危険。一気にこの室内の空気を消耗することになるので、気絶者が出てくるだろう。そういえば全部の的って言っていた。ということは風は外せないとして…うん、決めた!
「えーとそろそろうってみますね?」
「お、ちょっとまってくれ」
そういうと男の人は声を張り上げてこんなことを言い出す。
「本日最後の受験者による初複合魔法チャレンジだ―! 失敗しても成功しても拍手を送ってやってくれっ」
ほれ、と言いたげにこっちに視線を向ける男の人。というかすごい見られていて結構これは恥ずかしいのだけどっ
軽く頬に熱を感じながら俺は的を見つめ使用したい魔法を思い浮かべる。5つの的に当てるために範囲を広げたくて選択した風と、俺が最初に覚えてたくさん練習した氷…この2つを合わせた魔法を。
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風がやむと的の一部が氷に覆われていた。
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