12 / 29
12
しおりを挟む
少しだけ古ぼけた建物の前にあるドアノッカー、俺はそれを手に取り音を鳴らす。コンコンと鈍い音がすると、その扉の向こうから声が聞こえてきて少しして扉が開いた。
「来たね」
「来たというか呼んだのはそっちだと思うんだけど?」
「細かいことはどうでもいいよっ さっさとおあがり」
ほとんどが白髪へと変わってしまった女の人が家の中に入るように言うので俺はその後をついて入り、扉を閉めた。ここが指名された今日の俺の仕事先だ。
「じゃあまずは前と同じように掃除を頼むよ」
「いいけど、まだそれほど日はたっていないよ…もうそんなに汚れたの?」
「うるさい子だね~ 依頼人がやれって言ってんだ、大人しく仕事をすればいい」
「はぁ…まあいいけど」
まずはこの女の人の家を掃除する。それが前回俺が受けた仕事だ。もちろん今回も内容は同じ…一つ違うとすると指名されているということ。前回仕事が被ってしまって他の人と一緒にここで掃除をすることになったんだ。実はそのもう一人の人に指名をして、俺が受けたのはその人が来なかったらやってもらいたいという形だった。だけど偶然同じ日にその仕事を受けてしまったため半分ずつ仕事をやると言うことで話がまとまる。その時にちょっとしたもめ事もあったんだよね~ よし、まずは掃除を終わらせてしまおうか。
この家は平屋で2階はない。だけどそれなりに広くて、今住んでいるのは一人なのに個人で使用する部屋が5つもあるんだ。その5つの部屋と居間、調理場、食堂、厠、さらに風呂までついている。結構裕福な家だよね。一般家庭に風呂は普通ついていないらしいし。
順番に部屋を回り廊下も含めてクリーンをかけていく。スキルでちゃちゃっと終わるので時間はそんなにかからない。
「終わったよー」
食堂を最後にクリーンしてから調理場にいる女の人に声をかけた。
「本当に早いね! こっちはまだ準備できていないというのにっ」
「あー手伝うよ」
「そうかい」
初めからそのつもりだったのか、女の人は俺の言葉にニヤリと笑った。
2人で準備をし、それらを食堂へと運ぶ。去り際に調理場にもクリーンをかけておいた。これで掃除は完了だね。
テーブルの上にカップを並べ、お湯を注ぐ。次にお菓子が入った皿をテーブルに置いた。
「そろそろいいんじゃないか?」
「そう?」
俺はお湯が入ったカップの中に入っているお湯を別の器に移し、ティーポットを手に取る。蓋を押さえながらゆっくりとさっき温めていたカップに注いだ。まあ身長が足りないのでちょっと行儀が悪いが椅子の上で立ち上がっての作業なのは仕方がない。
「よっと」
カップにお茶を注ぎ終わった後、椅子から一度降りてティーポットなどを片付けた。それから椅子に座りなおす。まああれだ。一人暮らしのお年寄りの家を掃除するついでに一緒にお茶を飲みながら話し相手をする。これが俺が受けた仕事になる。
「相変わらずいい香りだね」
「ふんっ いっちょ前に違いが判るって言うのかい」
「あのね。子供だって香りの違い暗いわかるってもんだよ」
「どうだかね」
そう言いながらも女の人はどことなく楽しそうに口の端をあげている。内容は何でもいいんだ。こうやって会話をすることに意味がある。
「…あの子ももうちょっとこうやって話し相手になってくれればいいのに」
また前と同じことは口にした。あの子って誰だろうか? 女の人はチラリと飾られている絵に視線を向けた。確かあれは自分の子供の小さなころの絵だという話。つまりあの子とはその子供のことなんだろう。もしかするとろくに話し相手になってくれないのかもしれない。だからこうやって代わりに俺との会話を求めているってところか。
ダンダンダンダン!!
扉が乱暴に叩かれる音が聞こえてきた。女の人は顔をしかめるだけで、返事も返さない。
「出ないの?」
「どうせ勝手に入ってくるさね」
なんだろう? 何もなかったかのようにお茶を飲んでいるんだけど。本人が僧院だからこれ以上俺が聞いたって何も話してくれないかもしれないな。
「母さん!!」
いきなり扉が開いて男の人が入ってきた。
「うるさい子だね。お茶もゆっくり飲めやしない」
「そう思うならさっさと出てくれればいいのに」
「最近ちょっと耳が悪くなってきたせいかもしれんね」
突然やってきた男の人がその言葉に顔をしかめた。
「まあいいよ。それよりいい加減俺に権利を譲ってくれないか?」
「…いやだね」
「母さん何度も言うけどこのまま母さんが死んでしまったら、すべてなくなってしまうんだよ? そうなる前に絶対俺に渡すべきだって」
「こっちも何度もいったさね。お前にはやらないと」
すると男の人はチラリと先ほど見た飾られている絵を見た。そういえば子供の小さなころの絵ってことはこの人なのかなこの絵。少しも似てないような気もする。
「いつまでもこんな絵を…」
男の人は絵に近づくとそれを手に取った。
「母さん…権利はこれと交換だ!!」
絵を抱え男の人は家を飛び出していく。あれ…なんかちょっと変じゃないか?? ちょっと意味が分からないんだけど。ずっと黙ってその様子を眺めていた俺は女の人の方を見た。
「来たね」
「来たというか呼んだのはそっちだと思うんだけど?」
「細かいことはどうでもいいよっ さっさとおあがり」
ほとんどが白髪へと変わってしまった女の人が家の中に入るように言うので俺はその後をついて入り、扉を閉めた。ここが指名された今日の俺の仕事先だ。
「じゃあまずは前と同じように掃除を頼むよ」
「いいけど、まだそれほど日はたっていないよ…もうそんなに汚れたの?」
「うるさい子だね~ 依頼人がやれって言ってんだ、大人しく仕事をすればいい」
「はぁ…まあいいけど」
まずはこの女の人の家を掃除する。それが前回俺が受けた仕事だ。もちろん今回も内容は同じ…一つ違うとすると指名されているということ。前回仕事が被ってしまって他の人と一緒にここで掃除をすることになったんだ。実はそのもう一人の人に指名をして、俺が受けたのはその人が来なかったらやってもらいたいという形だった。だけど偶然同じ日にその仕事を受けてしまったため半分ずつ仕事をやると言うことで話がまとまる。その時にちょっとしたもめ事もあったんだよね~ よし、まずは掃除を終わらせてしまおうか。
この家は平屋で2階はない。だけどそれなりに広くて、今住んでいるのは一人なのに個人で使用する部屋が5つもあるんだ。その5つの部屋と居間、調理場、食堂、厠、さらに風呂までついている。結構裕福な家だよね。一般家庭に風呂は普通ついていないらしいし。
順番に部屋を回り廊下も含めてクリーンをかけていく。スキルでちゃちゃっと終わるので時間はそんなにかからない。
「終わったよー」
食堂を最後にクリーンしてから調理場にいる女の人に声をかけた。
「本当に早いね! こっちはまだ準備できていないというのにっ」
「あー手伝うよ」
「そうかい」
初めからそのつもりだったのか、女の人は俺の言葉にニヤリと笑った。
2人で準備をし、それらを食堂へと運ぶ。去り際に調理場にもクリーンをかけておいた。これで掃除は完了だね。
テーブルの上にカップを並べ、お湯を注ぐ。次にお菓子が入った皿をテーブルに置いた。
「そろそろいいんじゃないか?」
「そう?」
俺はお湯が入ったカップの中に入っているお湯を別の器に移し、ティーポットを手に取る。蓋を押さえながらゆっくりとさっき温めていたカップに注いだ。まあ身長が足りないのでちょっと行儀が悪いが椅子の上で立ち上がっての作業なのは仕方がない。
「よっと」
カップにお茶を注ぎ終わった後、椅子から一度降りてティーポットなどを片付けた。それから椅子に座りなおす。まああれだ。一人暮らしのお年寄りの家を掃除するついでに一緒にお茶を飲みながら話し相手をする。これが俺が受けた仕事になる。
「相変わらずいい香りだね」
「ふんっ いっちょ前に違いが判るって言うのかい」
「あのね。子供だって香りの違い暗いわかるってもんだよ」
「どうだかね」
そう言いながらも女の人はどことなく楽しそうに口の端をあげている。内容は何でもいいんだ。こうやって会話をすることに意味がある。
「…あの子ももうちょっとこうやって話し相手になってくれればいいのに」
また前と同じことは口にした。あの子って誰だろうか? 女の人はチラリと飾られている絵に視線を向けた。確かあれは自分の子供の小さなころの絵だという話。つまりあの子とはその子供のことなんだろう。もしかするとろくに話し相手になってくれないのかもしれない。だからこうやって代わりに俺との会話を求めているってところか。
ダンダンダンダン!!
扉が乱暴に叩かれる音が聞こえてきた。女の人は顔をしかめるだけで、返事も返さない。
「出ないの?」
「どうせ勝手に入ってくるさね」
なんだろう? 何もなかったかのようにお茶を飲んでいるんだけど。本人が僧院だからこれ以上俺が聞いたって何も話してくれないかもしれないな。
「母さん!!」
いきなり扉が開いて男の人が入ってきた。
「うるさい子だね。お茶もゆっくり飲めやしない」
「そう思うならさっさと出てくれればいいのに」
「最近ちょっと耳が悪くなってきたせいかもしれんね」
突然やってきた男の人がその言葉に顔をしかめた。
「まあいいよ。それよりいい加減俺に権利を譲ってくれないか?」
「…いやだね」
「母さん何度も言うけどこのまま母さんが死んでしまったら、すべてなくなってしまうんだよ? そうなる前に絶対俺に渡すべきだって」
「こっちも何度もいったさね。お前にはやらないと」
すると男の人はチラリと先ほど見た飾られている絵を見た。そういえば子供の小さなころの絵ってことはこの人なのかなこの絵。少しも似てないような気もする。
「いつまでもこんな絵を…」
男の人は絵に近づくとそれを手に取った。
「母さん…権利はこれと交換だ!!」
絵を抱え男の人は家を飛び出していく。あれ…なんかちょっと変じゃないか?? ちょっと意味が分からないんだけど。ずっと黙ってその様子を眺めていた俺は女の人の方を見た。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる