アーヤと魔法の鞄

れのひと

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王都へのお使い

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駅に向かって歩くこと30分。途中ちょっとした食べ物などを買い込んだりはしたがそれ以外特に問題もなくアーヤは駅に到着した。列車を使うことがめったにないアーヤは駅に着いたとたん少しだけ顔が引きつっていた。それは目の前にある列車の時刻表と料金、そして到着までの日数がかかれている張り紙を目にしたからだ。

『本日王都行き:6の時 料金:銀貨5枚(クズ魔石10個) 到着予定:2日半』

現在時間はすでに7の時を過ぎている。つまり急いできたのに今日はもう列車で王都へは向かえないということだ。それと料金が高すぎることに驚いていたのだ。こうなってくると料金のところに書かれているクズ魔石を集めてくるしかないわけなのだが、アーヤはそもそも魔石を落とす生き物を狩ったことがないのだ。

「師匠のあほおお~…」

駅に備え付けられているイスに腰掛けアーヤはため息をついた。それでもまだ方法はあるので今アーヤの視線はそちらに釘付けにされている。アーヤの視線のさきにあるのは乗り合い馬車だ。各方面へと向かってくれる馬車なのだが、まだそこに王都行きの馬車がやってこないのでそれが来るのをぼんやりと眺めながら待っているのだ。

「明日の王都行きの列車でもいいんだろうけど…クズ魔石10個集めるの厳しいよね~」

アーヤは普段モルアガナの下で魔法を習ってお使いをしたり、食事や掃除などの雑用をこなしていた。なので買い物に必要な分しかお金は渡されることはなかったので基本お金は持っていないのだ。馬車に乗るとしてもお金は必要になってくるのだが、もちろんそれはアーヤにもわかっている。つまり馬車を待っているのはその馬車に乗るためではないということになる。

「あ、来た来た」

それから数十分ほど待つと王都行きの馬車がやってきた。早速アーヤは馬車に近づき降りる人たちがはけるのを待つ。その後ちらほらと王都行きの馬車にお金を払い乗り込む人たちが現れ次々と馬車に乗り込んでいく。

「すみません。この馬車どのくらいに出発しますか?」

アーヤはちょうど馬の世話をしていた御者に声をかけた。話しかけられた御者はちらりとアーヤを眺めると少しだけ眉を寄せたが、聞かれた内容にはちゃんと返事を返してくる。

「9の時を過ぎたら出発する予定だ」
「わかりましたありがとうございます」

軽く頭を下げお礼の言葉を言うとアーヤは馬車から少し離れたところに座り込んだ。それからアーヤは馬車を乗り降りする人、馬車の周りで動き回る人をじっくりと観察していた。確認しているのは客として乗り込んでいる人の人数、交代要員を含めた御者の数、それとこの馬車を護衛する人たちの人数だ。
馬車を眺めている間にアーヤと同じように座り込んで眺めている人が増えてきた。もちろんアーヤはこの人数もチラリと確認しているが、こちらは正確に数える必要はない。

ほとんど人の動きがなくなったころ馬車の扉が閉められた。それを見たアーヤは立ち上がりお尻についた砂誇りを払い落とす。同じく座り込んでいた人たちも同様だ。
9の時を過ぎて馬車が走り出した。歩く速度より少しだけ早いくらいだが、馬車の中にいる人たちは座っているだけなのでそれだけでも十分楽なので誰も文句は言わない。その馬車の周りを鎧や武器を手や腰に下げた人たちがついて歩く。護衛達は馬車と同じ速度でついて歩けるほどの者たちなのだ。もちろん休憩も途中あるが普通の人達だとこうはいかないだろう。

出発した馬車の最後尾には先ほど座り込んでいた人たちがついて歩く。もちろん馬車の速度なので大変だ。だけどお金がない人たちはこうでもしないと危なくて王都まで歩いてなんて行くことができないのだ。アーヤもその一人ということになる。この最後尾を歩く人たちは護衛対象には入らないので道中動物や盗賊などに襲われても守ってもらえない。それどころかついてこれない人たちは置いて行かれてしまう。まあ自己責任というやつなんだろう。

馬車が出発して2時間くらい過ぎたころ、最初の休憩所へと到着した。この休憩所は森を移動する人たちが休むための場所で少しだけ開けていて水場があるくらいなのだが、この場所だけは魔物除けの簡易結界が設置されているので休憩するのに向いているのだ。もう長いこと使われている場所なので最初に簡易結界を置いた人が誰なのかは知られていない。

「つ…疲れたあ~…」

アーヤは休憩所につくとそのまま地べたに座り込んだ。普段家に閉じこもって魔法の勉強ばかりしていたせいで、ここにきて運動不足が足に来ていた。軽く足全体をもみほぐし水で濡らした布を足に巻き付け少しでも足を休ませようとする。その後鞄から水筒を取り出し喉を潤し、水を補給しておく。

「そうだっ」

ぽんっと左手の手のひらを右手の拳で軽く叩いた後アーヤは鞄から小さな瓶を取り出した。その小瓶のコルク栓を引き抜くと短めの呪文を唱える。アーヤはまだ見習いとはいえ魔法が使えるのだ。簡単なものなら焦らず使うことも可能だ。
アーヤの呪文が唱え終わると小瓶からふわりと花の香りが周辺を漂い始める。この香りで気持ちを落ち着け少しだけ疲れをとることができるので、アーヤが常備しているものの一つなのだ。
近くに座り込んでいた人達もその香りに気が付いたのか気持ちアーヤのそばに寄ってきた。この魔法の効果は香りが届く範囲だけなので少しでもそれにあやかりたいのだろう。もちろんアーヤも勝手に振りまいた匂いを吸うなとは言えないし、こんなとこでもめたらこの先まだ長いので仲良くしておきたい。

「いい香りね」
「あ、はい。少しでも疲れが取れるのでとても便利ですよ。布に染み込ませて火をつけるだけでも効果でますしね」

すぐ横で座っていた女性がアーヤに話しかける。その女性はフードを深くかぶっているためあまり顔がよく見えない。でもここまでの距離を歩いてこれたくらいだからそれほど年は取っていないとアーヤは判断した。女性は女性でアーヤの手に持っている小瓶をじっと眺め視線をそらさない。流石にその視線に気が付いたアーヤは小瓶を軽く持ち上げた。

「えーと…おひとつ売りましょうか?」
「あら、催促したみたいで悪いわね。そうねひとつ…いえふたついただきたいのだけどいいかしら?」
「はい、ひとつ銅貨1枚ですけどいいですか?」

アーヤは小瓶の残りを確認しながら値段を提示した。それを聞いた女性はうなずくと鞄から銅貨を2枚取り出しアーヤへと差し出した。
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