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1章 由雄と健太の夏休み

第181話 10階層へ

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 いつもにもまして階層の移動がまぶしくて目を開けていられなかった。その光が収まると俺はそっと目を開いた。

「…?」

 白、白、白…真っ白な空間。後ろを見ても真っ白だ。タッチパネルすら見当たらない。唯一あると知れば自分が身に着けているものの色と足元に映る影くらい。

「なんだ…?」

 じっとしていても何も起こらないしそもそも帰るためのタッチパネルもない。どうすればいいんだ? 今出来ることといったら考えることと…

「ああそうか『鑑定』」

 『鑑定』それくらいだな。まずは足元から確認するとどうやらここは10階層であっているみたいだ。10階層の床と結果が出ていた。壁はどこにあるのかわからないが調べても10階層の壁って出るくらいだろうから調べる必要はないだろう。

 となると次は移動をするしかないだろう。とりあえず今向いている方向へ向かうことにしようか。目印として9階層で拾ったものでも置いておこうか。なんかよくわからない毛の塊だけどね。これを足元に置くとスーッと消えてしまった。いや違うか…? 地面と同化したのかもしれない?? まあとにかく見えなくなった。目印は意味がなさそうだ。

「うへぃ…どうしたもんかね。というか健太とファーナさんもいないや」

 進むしかないんだけどね。一歩足を前へ踏み出すとしっかりと硬い感触があるのにも関わらず踏んだ場所から水面の波紋が広がるかのように影が広がっていく。その波紋はだんだんと薄くなり消えていく。一歩二歩三歩…歩くたびに広がる波紋。それが消えずに何かにぶつかるとそこから逆に波紋が反射して広がってきた。自分の体に何かが通過するような感触を感じる。ぞわりと背筋が寒くなり俺は後ろを振り向いた。

「な…っ?」

 驚いて一歩下がるとそいつも一歩下がった。俺と全く同じ姿をした人物…どう見てももうひとりの俺、由雄だ。俺が右手を上げると左手を上げる。左足を前へ…右足が前へ…両手を前に相手の手に触れた。さらに驚き慌てて手を引っ込める。もちろん相手も同じ動きをする。すべて鏡向きだ。

「まさかこれが10階層のボスとかなのか…?」

 相手も同じように口を動かすが声は出ていない模様。まねをするのは動きだけなのだろうか?

「『ウォーターフォール』」

 ザバーッと目の前に水の滝。俺の前にだけだ。相手の前にはない。そうか声が出せないからスキルはまねできないのか。だがもう一つ確認しないといけないだろう。リュックから短剣を取り出す。相手は動きはまねするが短剣は持っていない。荷物も出せないことがわかった。そして俺はその短剣をもう一人の自分の頬に当てゆっくりと動かした。頬に切れ目が走るがそれだけだった。むしろ…

「いてぇ…」

 傷がつき血が流れたのは自分の頬のほうだった。

「まじか…」

 これは中々手ごわそうだ。
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