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07 明かされる真意
しおりを挟む『全く……アレンは本当に、都合のいい存在ってもんですよ』
聞こえてきたのは男性の声。アレンもよく知っている、村で幾度となく面倒を見てくれた兄のような存在であった。
いつもは優しく、時には厳しく声を張り上げることはあっても、人を貶すような声は聞いたことがなかった。
まさに今、魔法具から聞こえてくるような声は――
『ミッシェルのことは、我々も昔からかなり手を焼いてましてね。もうどうにもならないんじゃないかと言われてたんですよ。けれどまぁ、結婚相手に困らなかったってだけでも、良かったですよ』
『その、ミッシェルさんの結婚相手というのは?』
尋ねたのはディアドラの声だった。恐らく声を記録しながら二人で話しているのだろうとアレンは思う。
『――決まってるじゃないですか。アレンですよ』
そんな中、魔法具からは彼の声が続けて聞こえてきた。明らかに鼻で笑うような感じの声がしっかりと再生され、思わずアレン本人も脳内で、そんな彼の姿がありありと想像できてしまう。
『ミッシェルはアレンに依存してましたからね。こちらとしても、都合のいいお目付け役を押し付けて、正直かなり助かってたんですよ。両親を亡くして塞ぎ込んでいたアレンを、叱咤して表に出した甲斐があったってもんですわ』
あはは、と軽快に笑う声が聞こえてくる。それを聞いているアレンの表情は、完全に呆然としていた。
何を聞かされているのだろうか、これは冗談ではないのか、頼むからそうであってくれ――そんな願いが、無意識に心の中で放たれる。
しかしそれは、儚いものでしかなかった。
『アレンがまっすぐな性格で良かったですよ。おかげで俺たちの思惑どおりに、アイツはミッシェルをなんとかしようと頑張ってくれてましたからね』
『彼が諦めるとは思わなかったのですか?』
『最初はね。けれど、その心配はすぐに吹き飛びましたよ』
声からして彼は笑っている。手のひらを平らにして、やれやれのポーズとともに肩をすくめる姿が、アレンの中で浮かび上がった。
『アイツって、自分の決めたことに対しては、てんで諦めが悪いんですわ』
『確かにそーゆー人も、珍しくはないとは思いますが……』
『でしょう? しかも我々は、アレンを陥れているワケじゃない。むしろアイツに生きがいを与えてきたという自負があるんです。これはアイツの親代わりである長老様も認めていますからね』
その瞬間、アレンは目を見開いた。
「えっ、長老様が!?」
『へぇ、長老様が?』
その場にいるアレンの声と、魔法具から聞こえるディアドラの声が、一部を除いてシンクロした。
ディアドラは思わず唇を釣り上げそうになったが、なんとか持ちこたえる。
『あの人も常々おっしゃってたんですよ。アレンは向上心こそ高いが、男としてはどうにも情けないってね』
ため息交じりに放たれる彼の声。聞いているアレンも、緊張が走っている様子を醸し出していた。
『何せアイツときたら、料理や掃除とかの家事ばかり腕を上げてるんですよ? 男なら普通、狩りを中心とした外仕事の能力を身に付けますからね』
『生き方は人それぞれかと思いますが……』
『暗黙のルールってヤツですよ。この村では、当たり前のようにあるんです』
それは確かに聞いたことはあった。しかし止めろとも言われなかった。むしろ料理や掃除を練習し、腕を上げれば褒められたものだった。
(みんな、僕の料理を美味しいって食べてくれてた。出張で家の掃除をすれば、笑顔で感謝してくれていた。それも全部、裏では貶してたってことか?)
特にここ数年は、アレンも自分なりにたくさん働いたという自負がある。自分には自分のできることがあるのだと、嬉しく思ったものだ。
そしてアレンはもう一つ、強く心に抱いていることもあった。
(きっとこれは、何かの間違いだ! 現にスタンピードが起きた時、僕が率先して魔物を引き付けると言った時、長老様も済まないって、涙を流していたんだ。あれが演技だなんて思えない!)
自然と拳をギュッと握り締めながら、アレンは心の中で、ここにはいない彼に対して反論する。
しかし――
『これはここだけの話ですがね? 実は勇者セオドリック様が、アレンを始末しようとしてるらしいんですよ』
衝撃の事実が、アレンを更なる驚きという名の沼に突き落とした。流石に何も考えられなくなってしまい、口を開けたまま硬直するが、魔法具からは容赦なく続きの言葉が放たれる。
『どうも聖女に選ばれたミッシェルの中で、まだアイツの存在が大きいらしく、それが邪魔みたいなんですわ』
『……それもまぁ、よくある話と言えなくもなさそうではありますね』
『やっぱりそう思われますか? まぁとにかく、勇者の狙いはあくまでアレン一人だけらしく、ヤツさえどうにかできれば村は見逃すと、そう言ってきたんです』
段々とアレンの中から表情が消えていく。怒りも悲しみも、そして恐怖や戸惑いすらも抜け落ちた――まさに『無』そのものへと変化していった。
『アレンに内緒で我々は会議を開き、すぐに結論は出ました。アレン一人の命で、村を救ってもらおうとね』
『つまり、切り捨てることにしたと?』
『これでも我々なりに、致し方ないとは思っていますよ。重ねて言いますが――』
『分かっています。全てはここだけの話としておきますから』
『ご理解いただけてなによりです』
そんな彼の穏やかな一言を最後に、魔法具の光がスッと消えた。それ以降、何も言葉は聞こえてこない。
「――とまぁ、真相はこんな感じだったのよ」
魔法具を懐にしまいながら、ディアドラは淡々と言う。
「今回のスタンピードも、アレンを始末するために仕組まれたことだった。あなたは故郷から捨てられてしまったのよ。辛いでしょうけれど、その事実はどう取り繕っても変わらないわ」
「……そっか」
アレンは呟くように言う。表情は力のない笑みが浮かんでいた。
「流石にちょっとショック過ぎたけど……まぁ、事実なら仕方ないよね、ハハッ」
そして微かな笑い声を漏らす。明らかな自虐であったが、彼の目からは涙は浮かび上がってすらいなかった。
「なんか……意外ね」
ディアドラが目を見開きながら言った。
「てっきり私は、あなたが泣き喚くと思ってたわ」
「あぁ、どういうことだよー、とか言いながら叫びまくるみたいな感じで?」
「えぇ」
「ハハッ、なるほどね」
何気に失礼だなぁとは思いつつも、アレンはそれを指摘するつもりはなかった。今の気持ち的に、それは些細なことでしかなかったのだ。
「僕も不思議なんだけどね。なんか胸の奥がスッキリしてるんだよ」
「そういえば……なんか心なしか、表情も晴れやかになってきているわね?」
「まぁね」
ディアドラの問いかけを証明するかの如く、アレンはニカッと笑う。そして立ち上がりながら、思いっきり両腕を天に向けて突き伸ばした。
「あーもう、なんかバカバカしくなっちゃったな。もうあんな村、どうなろうと知ったこっちゃなくなったよ」
そう言い放つアレンの表情に、迷いの二文字は浮かんでいなかった。
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