透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第七章 魔法学園ヴァルフェミオン

249 サリア~消失した世界

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「――ここは?」

 サリアは気が付いたら、見たことがある風景のど真ん中にいた。
 住宅街の隅っこで、森みたく木が生い茂っており、小さい頃はよく母親と遊びに来ていた思い出の場所であった。

「家の近くにある公園じゃない! えっ……てことは私、帰ってきたの!?」

 思わず声に出すほど、サリアは驚いていた。理由は分からないが、地球の日本に帰ってこれた。しかもそこは、自分の生まれ育った町であった。

「やった――こんな奇跡ってあるんだ」

 サリアは口元を抑えつつ、ポロポロと涙を零す。
 ずっとこの日を待ちわびていた。十六年もかかってしまったが、長年の夢を果たすことができた。今日ほど神様に感謝する日はないだろうと、心からそう思えてしまうほどに。

「でも……」

 サリアは改めて周囲を見渡してみる。

(いつもなら子供の姿があるのに、今日は一人もいないのね? それに、滑り台とかブランコとかも、なんか全部なくなっちゃってるし……)

 確かにそこは馴染みの場所ではあるのだが、今はただ、木が生い茂っているだけの広場となっていた。
 遊ぶには少々寂しい印象が強く、わざわざここに来て遊ぶ子供たちはいないと言われても、何ら不思議ではないように思えてしまう。

(まぁ、十六年も経ってるんだから、これぐらいは無理もないかもね)

 とりあえずそう納得し、サリアは早速歩き出す。両親の待つ家を目指して。

(お父さんたち、元気にしてるかな? 多分、叱られるよね……急にいなくなっちゃった私が悪いから、そこは仕方がないんだけどさ)

 それでもサリアは立ち止まらず、むしろ歩くスピードを速めている。大好きな両親に再び会えるのならば、数時間の説教など安いものであった。
 むしろ別の意味で泣いてしまうかもしれない。
 親から叱ってもらえることが、どれほどありがたいことだったのかを、この十六年間で強く思い知った。異世界のことを、正直に話しても信じてもらえない可能性は高いだろうが、それでもちゃんと話そうとサリアは考えていた。
 ――と、ここでサリアは気づいた。

(そういえば私、ヴァルフェミオンのローブを着たままだったっけ)

 妙に景色に合わないフワフワした感触だなぁと思っていた。色が地味なため、ギリギリ変わった私服で誤魔化せるかもしれない。
 周りに人がいなくて助かったと思いつつ、サリアは再び速足で歩き出す。
 歩く度にワクワクしていた。十六年ぶりなのに、割と変わってない風景に、思わず涙が出そうになる。

(もうすぐだ。そこの曲がり角を曲がれば、懐かしい私のお家が――)

 記憶に残っている一軒家が見える――そのはずだった。
 しかし、そこにあったのは更地だった。
 もうずっと長いこと手が加わっていないらしく、雑草が生い茂っている。ロープを張って立ち入らないようにしているが、既にそれもボロボロ。記憶の中に残っているその風景は、本当に影も形もなくなってしまっていた。

「あれ? なんで……確かここのハズなのに……」

 一瞬、道を間違えたのかと思ったが、向かいの家は十六年前と変わっておらず、確かにここだとサリアは認識する。
 それ故に、まるで意味が分からなかった。
 自分の暮らしていた実家は、一体どこへ行ってしまったというのか。何故、実家のあった場所だけが、こんなにも変わってしまっているのか。
 疑問という疑問が頭の中をグルグルと渦を巻き、サリアは落ち着こうにも落ち着けないでいた。
 すると――

「あの、どうかなされましたか?」

 向かいの家から、一人の真っ白な髪の毛の女性が出てきた。声をかけられたサリアが呆然としたまま振り向くと、その姿に目を見開く。

(お、お向かいのオバサンだ……かなり老けちゃってるけど間違いない!)

 口に出して言うには失礼な言葉を、心の中で叫ぶサリア。それだけ衝撃を受けているということだった。

「えっと、その……ここに一軒家があったハズなんですけど……」

 動揺するあまり、サリアは名乗りもせず、いきなりそう尋ねてしまう。しかし女性はその質問に驚きを示した。

「あっらー! もしかしてここに住んでいたお宅の知り合いの方だったのぉ?」
「え、あの、なんてゆーか……」
「久しぶりに会いに来たとかそんなところかしら? でも残念ね。見てのとおり、ここに住んでいた人たちは、もうずっと前に家を売って引っ越したのよ」

 サリアの表情を気にしないどころか、彼女の正体に気づきもせず、女性は懐かしそうに語り出す。

「もう十五年か六年になるかねぇ? ここに住んでいたお嬢ちゃんが、いきなり姿を消してしまったのよ。それが引き金となってしまったのよねぇ」
「引き金、ですか?」
「あぁ。なんたって――」

 ここだけの話だけどねと言わんばかりに、女性は顔を近づけ、小声で話す。

「そのお嬢ちゃんのご両親……ずっと不仲だったんだから」

 女性から話を聞かされたサリアは、本気で耳を疑った。
 再婚してよりを戻したと思っていた両親の仲は、水面下ではずっとマイナスを辿る一方だったらしい。
 そもそも最初に結婚する前から不仲だった。
 結婚せずに別れるはずが、うっかりサリアを妊娠してしまったが故に、お互いの両親が「結婚しなければ許さんぞ」と言われてしまい、仕方なく結婚せざるを得なかったのだという。
 溝をこしらえたままの結婚が、そう長続きするはずもなかった。
 娘の前では仲良しを装っていたが、娘の見ていないところでは言い争いを始めとする喧嘩が絶えなかった。
 最初に離婚したと知った女性を含む近所の人々も、遅かれ早かれそうなるだろうと思っていたらしい。

「あそこの夫婦の離婚は、どう頑張っても避けられなかった。しかしご両親が別れてしまったことを、お嬢ちゃんは大いに悲しんでねぇ。学校の成績にも大きく影響したそうよ」

 それを聞いたサリアは思い出していた。両親が離れ離れになった寂しさから、世界が灰色になってしまい、学校にも行きたくなくなってしまったことを。
 中学に入っても引きずってしまい、テストの成績も散々だった。
 友達もできず、部活もいきなり幽霊部員状態となり、このままだと不登校と化すのも時間の問題だと、周りから思われていた。

「ご両親も流石にそれを見かねたらしくて、再婚に踏み切ったそうよ。正直アタシは驚いたわよ。お嬢ちゃんが大人になるまでとはいえ、ヨリを戻したワケでもないのに籍を入れ直すなんてさ」

 女性だけでなく、近所の誰もが驚いたという。やはり親として、娘に対する情はあったのだと感心すらしていた。
 しかしそれも、サリアが姿を消したことで、瞬く間に瓦解してしまった。
 所詮は娘を保たせるために演じていただけの関係であり、消えた娘を心配こそしてはいたが、両親の仲は険悪になる一方だったという。
 どんなに探しても見つからず、警察の捜索も打ち切られてしまった。
 同時に、両親の心は限界を超えてしまった。

「あそこの奥さんがアタシに愚痴をこぼしたこともあったのよ。娘のせいで私の人生は振り回されっぱなしだ……ってね」

 そしてそれは、父親のほうも同じ気持ちだったらしく、両親揃って娘に対する情も消え去ってしまった。
 もう口喧嘩すらしなくなっていた。同じ家を住まいとしているだけで、両親は家を空けることが多くなった。仕事が忙しくなったと近所には説明していたが、果たしてどこまで本当なのかは不明だという。

「お嬢ちゃんが姿を消してから、あっという間に七年が経過した。そこであの夫婦は遠慮なく動いたのよ」
「動いた、とは?」
「そんなの決まってるじゃない」

 声を震わせながら尋ねるサリアに、女性はあっけらかんと答える。

「失踪届を提出したのよ。お嬢ちゃんはもう、死んだことになってるんです」

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