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第七章 魔法学園ヴァルフェミオン
246 さらば、ヴァルフェミオンよ
しおりを挟む――ずがああああぁぁぁーーーーんっ!!
神竜の口から放たれたブレスが、一撃で壁を打ち抜く。その衝撃で、ガラガラという派手な音とともに、大きな穴が開けられた。
ひゅおおおぉぉ――と、風の吹きこむ音が聞こえてくる。
マキトたちが急いで駆けつけると、その正体はすぐに判明したのだった。
「マスター、外なのですっ!」
ラティが嬉しそうな声を上げる。薄明るくなりつつある空と海、そして大地。ずっと追い求めていた光景が広がっていた。
その壮大さに、マキトは思わず呆けた表情を浮かべてしまう。
「ずっと地下にいたと思ってたけど、実際はこんな高い場所にいたんだな」
「ん。流石はヴァルフェミオンといったところ」
ロップルとフォレオを抱きかかえながら、ノーラも嬉しそうな表情を見せる。
「ここから空を飛べば、ノーラたちは脱出できる」
「ふむ。ようやくここまで来たな」
神竜も満足そうに頷く。そしてマキトたちのほうに視線を下ろした。
「では主らよ。再び我の背に乗るが良い。助けてくれた礼に、我が主らを帰るべき場所まで送り届けてやろう」
「ホント? 助かるよ、ありがとう!」
提案を素直に受け入れるマキト。再び神竜の背中に乗れる嬉しさのほうが、明らかに勝ってしまった形だ。それはノーラや他の魔物たちも同じであり、一同揃って大喜びである。
「んじゃ、早速――」
大きな神竜の背にマキトたちが乗り込もうとした、その時であった。
「見つけたぞ! 曲者はあそこだ!」
ヴァルフェミオンの魔導師たちが、数人を束ねて駆けつけてくる。マキトたちを睨みつける傍ら、彼らの傍にいる大きな存在にも、注目が集められていく。
「おい、なんかでっかいドラゴンもいるぞ?」
「恐らくヤツらの仲間だろう。まとめて一網打尽にするんだ! これ以上、我がヴァルフェミオンで好き勝手をさせるな!」
「おぉっ!」
「やってやるぜえぇーっ!」
「たかがドラゴン如きに引けは取らねぇぞおぉーっ!」
そんな魔導師たちの叫びに対し、マキトたちはげんなりとする。どうしてこのタイミングで出てくるかなぁ――彼らの中で一致した率直な感想であった。
「喰らえーっ!」
魔導師の一人が魔法を打ち込んでくる。すかさずリウが前に飛び出し、魔弾を跳ね返して相手に命中させた。
小さな爆発とともに相手は倒れるも、すぐに立ち上がってしまう。
「怯むな! 必ず曲者たちをひっ捕らえるんだーっ!」
「ゲッ……さっきみてぇに泣きながら逃げるんじゃねーのかよ?」
予想外の反応に、リウは顔をしかめる。どうやら根性だけは人一倍らしく、余計に面倒な展開になってきたと思わざるを得ない。
「あーもう、とにかくこの状況を――ん?」
苛立っていたその時、マキトはたまたまズボンのポケットの部分に手が触れる。そこに何かが入っている感触があった。
「何だ、これは?」
マキトがポケットをまさぐると、球体らしき『何か』に触れた。その瞬間、そういえばと思い出し、マキトはすぐさまそれを取り出した。
そしてそれを思いっ切り、相手の魔導師たちに向かって投げつける。
「えぇいっ!」
「ふん、悪あがきなど見苦しいっ!」
マキトが投げたそれを撃ち落とすべく、魔導師の一人が魔法を解き放つ。しかしその魔弾が命中した瞬間、ボールが破裂し煙が噴射される。
「うおっ!?」
「な、なんだあぁっ?」
外から吹き込む風も相まって、煙は軒並み魔導師たちに向かって流れてゆく。魔導師たちは煙を吸い込み、瞬く間にバタバタと倒れてしまう。
煙が晴れると、魔導師たちは皆、いびきをかいてぐっすり眠りこけていた。
「マスター。今投げたのって……」
「ジャクレンからもらったアイテムなんだけど、こりゃ凄い効果だな」
――もしこの先どこかで、強力な魔法を打ってくる敵と出会ったら、試しにそれを投げてみてください。きっとキミたちを助けてくれるでしょう。
確かにそのとおりだとマキトは思った。
ある意味、ずっと忘れていたおかげと言えなくもない。妙なところで運に救われたと言ったところだろうか。
「よく分からんが、とにかく今のうちだな。我の背に乗るが良いぞ!」
「お、おう!」
神竜の言葉に返事をしつつ、マキトとノーラは魔物たちを抱え、大急ぎで神竜の背に飛び乗った。
全員乗ったことを確認し、神竜は勢いよく大きな翼を羽ばたかせる。
ばっさばっさと音を立てながら、大きな壁の穴から大空へと飛び出していく。夜明け前の冷たい風が、マキトたちをいい気分にさせてくれた。
「わーい♪ ヴァルフェミオンから脱出できたのですー♪」
「キュウキュウッ!」
『やったねー!』
「オレたちの完全勝利だぜーっ♪」
嬉しそうな魔物たちの声を聞きながら、マキトはチラリと後ろを振り返る。今のところ追手が来る様子はなかった。
(助かったよ、ジャクレン)
マキトは心の中で魔物研究家の青年に礼を言う。その流れで、ここに至るまでの展開を軽く思い出していたら、とある大事なことに気づいてしまった。
「――そういえば俺たち、まだじいちゃんとはぐれたままじゃなかったか?」
「あ」
声を出したのはノーラだった。ラティや他の魔物たちも、そういえばと言わんばかりに口を開けている。
とどのつまり、皆揃って忘れていたということだ。
「うっかりしてたのです。おじーちゃん、無事なのでしょうか?」
「でもよぉ。今更あっちに戻るってのもなぁ……」
ラティとリウが、困ったように顔を見合わせる。ロップルとフォレオも、なんとも微妙な表情をしていた。
すると――
「おい、何かこっちに来るぞ?」
神竜の声に、マキトも合わせて視線を向ける。確かに何かが羽ばたきながら、近づいてきているようであった。
「ドラゴンのようだな。背に誰か乗っているようだが、我らの敵か?」
「えっと――いや、あれは違う! 味方だ!」
目を凝らしてみると、それは自分たちの知り合いであることにマキトは気づく。そして嬉しそうな表情を浮かべるのだった。
「ディオンさーん! ディオンさんでしょーっ?」
マキトが思いっきり手を振りながら叫ぶと、向こう側も手を振り返してくる。確かにその正体は、マキトの言うとおりの人物であった。
しかも彼の後ろにはもう一人、見知った顔の女性が乗っていた。
「マキトくーん! やっほーっ!」
「くきゅー♪」
その女性と、小さな翼を一生懸命羽ばたかせている子供の竜もまた、嬉しそうな笑顔を浮かべてきている。
そんな相手に、神竜は首を傾げていた。
「どうやら主の知り合いのようだが?」
「あぁ。ちょっと話したいから、近づいてくれるか?」
「分かった」
マキトの頼みに従い、神竜がディオンたちに近づいていく。そして久々の対面を果たすのだった。
「やっぱりディオンさんだったんだ。それにリスティとチビスケも……」
「くきゅーっ♪」
甲高い鳴き声とともに、リスティの肩からマキトに向かって飛びついてくる。それをマキトは難なく受け止めた。
「おっと。はは、久しぶりだなー」
「くきゅくきゅっ♪」
久々の感触にマキトは嬉しくなり、子供の竜もご機嫌な様子であった。するとリスティが、声を張り上げてマキトたちに伝えてくる。
「その子は今、ガリューって名前を付けてるの。改めてよろしくしてあげてね」
「そっか。いい名前をもらえて良かったな、ガリュー」
「くきゅっ!」
マキトにそう言われ、ガリューも笑顔で頷く。そこにディオンが、マキトたちを乗せている存在について注目してきた。
「そのドラゴンは神竜だな? マキト君たちが助け出してくれたのか」
「何だ? 我のことを知っておるのか?」
「……喋れるんだな」
「無論だ」
ナチュラルに人語を扱う神竜に、ディオンは軽く驚いてしまう。しかしあり得なくはない話だとも思い、ここはひとまず流すことにした。
すると神竜が、視線を向けたまま口を開く。
「それで、我に何か用か? 今は我が背に乗せている者たちを、家まで送り届けるところなのだが」
「いや。無事だって分かったから、もういいんだ。あ、そうそう――」
ディオンはここで、もう一つ伝えなければならないことを思い出す。
「キミたちと一緒に飛ばされてきたクラーレさんも、ちゃんと無事でいるよ」
「ホントに?」
「あぁ。むしろ俺たち以上にピンピンしていたくらいだったぞ」
「ハハッ、じいちゃんらしいや」
マキトは納得しつつ、クラーレが無事であることを安堵する。ノーラや魔物たちも同じような笑みを浮かべていた。
それを確認したディオンは、改めてマキトたちに告げる。
「とにかくこっちは気にしなくて大丈夫だ。キミたちも、気をつけてな」
「あぁ、ありがとう!」
そしてディオンたちは、またすぐに学園に戻らなければと言って去っていく。その際にガリューが寂しそうに鳴き声を上げていたが、またすぐに会えるからとマキトが優しく告げ、再会を約束するのだった。
学園に向かって飛んで行くドラゴンを、マキトたちは手を振って見送った。
「――ゴメン、待たせたな。こっちも出発しよう」
「うむ」
マキトの声に神竜が重々しく頷き、そして改めて尋ねる。
「それで行き先は、主らが話していた例の大森林で良いのだな?」
「ん。それでよろしく」
「承知した」
そして神竜は、再び翼を大きく羽ばたかせ、大空の中を飛んでゆく。
マキトたちを暖かく見守るかのように、東からゆっくりと昇ってくる朝の光が、眩しく照らしてくるのだった。
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