透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第七章 魔法学園ヴァルフェミオン

244 リウとサリア

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 見間違いなんかじゃない――リウは理屈抜きにそう思った。
 記憶の中にある太陽のような笑顔には程遠く、どこか妙に疲れ切ったかのようなその表情は、よくよく見れば全然似ていないようにも感じられる。
 それでもリウは、その顔を見た瞬間思ったのだ。
 やっと会えた――と。
 それ自体は凄く嬉しいことだ。ずっと胸の中でモヤモヤしていたことが、ここに来てようやく解決されようとしているのだから。
 しかし――

(何なんだ? サリアに会えたってのに、なんかおかしいぞ?)

 リウは戸惑っていた。念願叶った再会だというのに、どうしてこんなにも違和感があるのだろうか。
 再会したらすぐに駆け寄りたい、飛びついて抱きとめてほしい――そんな気持ちでいっぱいだったというのに、何故か足が動かない。
 緊張とかではなく、本当にそうしたいという意思が全く働かないのである。

「あ、あの、リウ?」

 様子がおかしいことを察しつつ、ラティが恐る恐る問いかける。

「ホントにあそこにいる人が、サリアさんなのですか?」
「あぁ……」

 なんとも曖昧な返事しか返さないリウに、魔物たちもどう反応していいか分からない様子であった。
 それは、マキトやノーラも同じくであった。
 サリアのことは話でしか聞いたことがない存在なのだ。マキトの場合は物心がつく前に離れ離れとなっており、実際に会ったことがまるでないも同然。つまり顔を知っているのはリウだけということだ。
 なんとも言えない空気がその場をしーんと漂わせる。
 そこに――

「何を立ち止まっておるのだ?」

 後ろから神竜の首が、ニュッと伸びてきた。

「そんなところでボーッとしとらんで、我を早く広い場所に出させてくれ」
「あ、あぁ、ゴメン……」

 マキトが魔物たちを連れて、慌てて道を譲る。神竜はのそりと動き出し、大広間に入ってきたのだった。
 どすどすと重々しい足音を立てつつ、神竜は周囲を見渡す。

「ほぅ。地下にこのような場所があるとは……む?」

 すると神竜は、大広間の中央に広がる黒焦げの残骸に気づいた。
 まだ煙が昇っており、所々で燃えかすが崩れ落ちている。どう見ても今しがたこうなったとしか判断できないものだった。
 一体そこで何が起こったのか――神竜はすぐさま心当たりに辿り着く。

「なるほど。さっきの我のブレスでああなってしまったようだな」

 魔導ゴーレムごと扉そのものをぶち抜くため、渾身のブレスを解き放った。その目論見は大成功であり、勢い余ってその先の部屋まで貫通させてしまう手ごたえを感じてはいたが、まさかこんなことになるとは神竜も予想外であった。
 しかしそれに対して、神竜は反省するつもりもなかった。
 そもそもここは敵地であるため、最初から手加減する予定などないのだ。故に何が破壊されようが、知ったことではない。
 誰かが巻き込まれた場合も、同じ考えであった。

「ふむ、どうやらそこの女も巻き込まれそうになったようだ」
「えらくサラリと言うなぁ……」

 あっけらかんとしている神竜に、マキトが苦笑する。
 咎めるつもりはない。むしろこの程度で済んで良かったと思うべきだろう。最初はこのヴァルフェミオン全てを、徹底的に破壊しかねなかったのだから。

「無事だったのだから別によかろう。そんなことよりも、なにやらカーバンクルはあの女と知り合いのようだが?」
「知り合いというか、マスターのお母さんなのです」
「なんと!」

 ラティの返答に神竜は素直に驚いた。しかしそれならそれで、新たな疑問が浮かんでくる。

「母親がそこにいるにしては、主の反応がやけに薄いようだが?」
「あぁ。実は俺も会ったことがないんだよ。正直、顔も知らないくらいで」
「そうだったのか。それは失礼なことを聞いてしまったな」
「いやまぁ、別にいいよ」

 マキトは笑いながら流した。そもそも母親がいるという実感が全くないため、気にしようがないというのが正直なところである。
 それよりも、マキトは別のことが気になっていた。

「リウ、大丈夫か? 折角会えたのに、話しかけなくていいのか?」
「え……あぁ、えっと……」

 マキトに気遣われたリウだったが、どう返答したらいいか分からなかった。そもそも今の自分の気持ちすら、白い靄にかかっている状態なのだ。
 昨日まではあれほど会いたいと思っていたのに、どうしてしまったのか。足が動かないどころか、視線を向けるのにも戸惑いを覚えてしまう。
 ここに来て急な迷いが生じてしまった。
 頭の中でグルグルと考えが渦巻き、ちゃんとした答えが浮かびそうにない。

「――サリア殿がおられたぞーっ!」

 するとそこに、ヴァルフェミオンの魔導師たちが駆けつける。そしてすぐさま、サリアを庇うようにしてマキトたちを睨んできた。

「キサマら! サリア殿に何をしたんだ!?」
「ご無事でなによりです。お怪我などはございませんか?」
「なんだ、あのでっかい竜は!」
「気を引き締めろ! 子供だからと言って油断するな!
「あんなにたくさんの魔物を連れているとは……相当な手練れのようだな!」

 サリアを介抱しつつ、マキトたちを敵とみなす魔導師一同。完全にマキトたちがこの状況を作り出したと思い込んでいた。
 もっとも、それはそれで正しいことではあるので、否定のしようもないが。

「侵入者たちを迎え撃てっ!」

 一人の魔導師の掛け声に、他の魔導師たちも一斉に魔法を放とうとする。
 その時――リウがハッと我に返った反応を示す。

「待ってくれ! サリア、オレだよ! 前に一緒にいたカーバンクルだ!!」

 リウがマキトたちの前に躍り出ながら、必死に叫ぶ。虚ろな表情のまま視線を向けていることを確認しつつ、リウは呼びかける。

「オレ、ずっと会いたかった! 今はサリアの息子にテイムされてるけど、オマエのことを忘れたことなんて一度もなかった! なぁ、答えてくれよ!」
「あ、あぁ……」

 必死の呼びかけに、サリアは小刻みに体を震わせる。しかし次の瞬間、ギリッと歯を噛み締め、怒りの表情を浮かべた。

「あの連中を排除なさい! 私の研究を台無しにした極悪人よ!」
「――はっ!」
「承知いたしましたあぁっ!」

 魔導師たちが意気揚々とマキトたちを睨みつける。それに対してリウは、負けじと再び呼びかけようとする。

「サリア! 頼むからオレたちの話を聞いて――」
「うるさいうるさい、うるさぁーいっ!」

 しかしそれは、サリアの叫びによって遮られてしまうのだった。

「あれは私の計画をメチャクチャにしたバケモノたちよ! 私の知り合いに魔物なんているワケがないわ! デタラメを言うのもいい加減にしなさいよ!!」
「――サリア殿の言うとおりだ! 見苦しいぞ!」

 魔導師の一人が、ビシッとマキトたちに指を突き出しながら言い放つ。それに続いて周りに控えている魔導師たちも、それぞれ口を開いてきた。

「お前たちは我々の魔法で跡形もなく消し去ってやる!」
「そうだそうだ!」
「俺たち魔導師に怖気づいたんだったら、さっさと負けを認めりゃいいんだよ!」
「子供だからと言って、容赦するつもりなんてないからな!」

 敵視していることに加えて、どこか余裕すら見せている様子の魔導師たち。神竜を除けば、とても戦力になるとは思えない小動物じみた魔物しか連れていない二人の子供ともなれば、そう感じてしまうのも無理はないと言えるだろう。
 魔導師たちの中に『敗北』の二文字はない。
 むしろ点数を稼ぐ絶好のチャンスだとすら思っていた。ここで活躍を示し、理事であるサリアに取り入らなければと。

「行くぞ皆! 全員……撃てえええぇぇーーーっ!」

 掛け声とともに、魔導師たちが一斉に魔法を解き放つ。何種類もの魔弾が次々とマキトたち目掛けて襲い掛かってきていた。
 しかし――

「させるかあぁっ!」

 リウが前に躍り出て、その魔弾を全て跳ね返してしまうのだった。

「ぎゃああああぁぁぁっ!」

 ――ずどおぉんっ!
 跳ね返された魔弾の全てが、魔導師たちに直撃し、大爆発を起こす。白い煙が晴れると、着用しているローブがボロボロと化した姿が現れた。

「なんだよ……一体なんなんだよ、アレは!?」

 魔導師の一人が叫ぶ。それに答えられる魔導師たちは、一人もいなかった。
 簡単に勝てると思い込んでいたら、まさかの反撃による総崩れ。想定外の結果に誰もが冷静さを失いつつあった。

「う、うわああぁっ!」
「よせ! 無暗に魔法を打つな!」

 止めようとするも、時すでに遅し。魔弾が再びマキトたちに迫るが――

「うおおりゃあっ!」

 リウがそれを渾身の力で跳ね返してしまう。一瞬だけ受けとめ、ちゃんと威力を倍増させたうえで。
 大きさの変化はないが、魔導師たちの足元に着弾した際に起きた大爆発は、彼らの想定を完全に超えているものであった。

「ウ、ウソだ……こんなのウソなんだあああぁぁーーーっ!」

 魔導師の一人が涙を流しながら逃げ出してしまう。それを皮切りに、他の魔導師たちも慌てて立ち上がり、マキトたちに背を向けて走り出す。

「バケモノだあぁっ!」
「俺たちの魔法が通じないなんて、ありえねーーっ!」
「ちくしょおぉ! 覚えてやがれぇ!」
「うわぁん! 助けて、おかーさあぁぁーんっ!」

 そして他の魔導師たちも、こぞってその場から逃げ出していく。残されたサリアは呆然としつつ、腰を抜かしたまま体を震わせていた。

「やっと……やっとオレも目が覚めたぜ……おい、サリアあぁっ!」

 そんな彼女に向けて、リウは鋭い視線で睨みつける。

「よくもオレの大切なあるじを傷つけようとしやがったな! 絶対許さねぇぞ!」

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