上 下
234 / 252
第七章 魔法学園ヴァルフェミオン

234 大暴れするマキトたち

しおりを挟む


 魔法陣の組み込まれた扉、そして立ちはだかる魔導ゴーレム。
 いずれもヴァルフェミオンの研究者たちが、長年かけて研究し続け、常に最新の状態を更新している。
 それらは簡単に打ち破ることはできないと言われていた。
 故に、研究者たちは信じられなかった。
 自分たちの努力の結晶たちが、いとも簡単に打ち破られるなど――

「んしょっ、と」

 通路を塞ぐ大きな扉に、ノーラがピタッと手を触れる。扉は瞬く間に動き出し、先への道が開かれる。

「はああああぁぁぁーーーーっ!!」

 変身したラティの魔弾が、待ち構えている魔導ゴーレムを次々と破壊する。更に獣姿となっているフォレオの魔弾も、追撃を忘れない。
 もはや相手に攻撃する隙すら与えておらず、爆発音と砕け散る音が絶えず進行方向から響き渡る。段々とリズムに乗って発生しているようにすら思え、マキトはなんとなくいい気分を味わっていた。

「ラティ、フォレオ! 念のために聞くけど大丈夫か?」
「もういっちょー、っと! えっ、何か言いましたか、マスター?」
「……大丈夫かって聞いてんだよ」

 思わずマキトの口からため息が出る。ラティはとても楽しそうな表情で、全く無理をしている様子はなく、もはや聞くまでもないような気がしていた。
 それでも確認ぐらいはしないと――と思っていると、ラティが笑顔で振り向きながらブイサインをしてきた。

「調子ならすこぶる快調なのですっ♪ まだまだぶっ放せるのですよぉーっ!」
『ぼくもいけるよー! だからますたーたちは、あんしんしてぼくのせなかでのんびりしててね♪』

 フォレオも口調からして、本当に調子が良さそうであった。
 もう一時間くらいぶっ通しだというのに、ガス欠どころかみるみる調子が乗ってきているように見えてならない。
 その要因は、マキトもなんとなく見えていた。

「うーん、これも魔力スポットの影響か?」
「ん。多分それ」

 ノーラがコクリと頷く。ちなみに今、彼女がいる位置はマキトの前――すなわち彼に抱きかかえられるような形でフォレオの背に乗っていた。
 妙に機嫌の良さげな表情を浮かべているのも、まんざら無関係ではないだろう。

「向こうから流れてきているだけじゃない。ここらへん一帯が魔力に満ちている。ラティたちにとって、常に魔力が回復されている状態」
「……それであんなに元気なのか」
「でもやり過ぎは禁物。だから適度に休憩を取りながら進んでる」
「確かにな。限界超えてぶっ倒れたら、シャレにならないし」

 改めてマキトは、暴れているラティを見つめる。

「こうして戦っていなければ、気づかなかったかもだな」
「ん。最初の何時間かは進むだけだったから、魔力の消費も殆どなかった。それに扉を開けるだけなら、ノーラでも簡単にできるし」

 言われてみればとマキトは思い返す。最初は広い通路全体を塞ぐ扉がいくつも立ち塞がっていたが、それを全てノーラがいとも簡単に開けていた。
 本当に手を少し触れただけで、である。
 その際に淡い光が解き放たれていたことから、魔力が関係していることぐらいはマキトにも分かる。しかしノーラが手を触れたときと、ラティたち魔物が手を触れたときとでは、明らかに反応が違っていたことも確かだった。
 その違いについては、未だ推測の域を出ていない。

「あの扉、魔力の種類によって開けやすさが変わってるって感じかな?」
「多分。ノーラが見る限り、あの扉自体が魔力の塊だから、フツーの魔力を流したところで開けるのは相当大変だと思う」
「ノーラが楽勝で開けられるのは、やっぱりカミサマの魔力だからってこと?」
「ん。特殊な魔力だから」

 立ち塞がる扉だけではない。現在進行形で迫りくる魔導ゴーレムにも、同じようなことが言えていた。
 もっともゴーレムに対しては、ラティやフォレオだけで十分に事足りている状態であり、今のところ他の出番は一切ない。
 それはすなわち――

「キュウ~!」
「やることなさ過ぎてヤベェよなぁ、ったくよぉ!」

 他二匹の魔物たちが、暇を持て余す結果にも繋がってしまっていた。
 無論、いざというときのために力を温存する意味もあり、それ自体は最初のほうで説明はされている。
 しかしそれで納得できるかと言われれば、話は別であった。

「なぁ、あるじー! オレにも少しやらせてくれよぉー!」
「キュウッ!」
「って言われてもなぁ……」

 不満を漏らすリウとロップルの気持ちも分からなくはない。しかしマキトは、改めて現在の状況を見渡しながら、困ったように頭を掻く。

「リウもロップルも、相手の攻撃を利用するカウンター向きだからなぁ」
「ん。ラティやフォレオが遠距離射撃したほうが、手っ取り早いのも事実。待つことも大切な戦い」
「そりゃあ、分かってるけどよー!」

 不満を隠そうともしないリウであったが、言っていることは間違っていないと理解しているつもりでもいた。
 それ故に不貞腐れながらも、大人しくノーラの前でフォレオにしがみついている状態は続けており、ロップルも同じくであった。
 ノーラがそんな二匹を優しく撫でる中、マキトは改めて、ラティたちによってなぎ倒されていく魔導ゴーレムを見る。

「あのゴーレムも、ラティとフォレオの魔力が効果抜群だもんなぁ」
「ん。あれも魔力の塊みたいなもの。でも精霊の魔力に弱い」

 ついでに言えば、ノーラの魔力でも特攻効果が出ている。しかし威力的に、ラティやフォレオのほうが圧倒的に強いため、素直に扉を開ける役目に徹することとしたのであった。
 それを表明した際、ラティとフォレオは大いに喜んでいた。
 いっぱい大暴れできることが嬉しいからだ。
 そんなラティたちの姿を見て、ロップルとリウが不満そうにしており、それをマキトとノーラで慰めたのは、ここだけの話である。

「魔力の違いってだけで、ああなるもんなのか?」
「そこはノーラにも分からない。でも結果が示している。こうして楽々切り抜けられているのが全て」
「確かに……分かんないこと気にしてても、しょーがないか」

 そんなマキトの言葉を聞いたノーラは、フッと小さな笑みを零す。

「ん。それでこそマキトらしい」
「なんだよそりゃ」

 即座にツッコミを返すも、言われて不快な気分にはなっていなかった。確かにあれこれ気にするのは自分らしくない――今までも割とそうだったと、マキトは改めて思うのだった。

「それはともかく――」

 ここでノーラが視線をラティたちに戻す。

「ある意味、ここはラティたちにとって、都合のいい訓練場所になっている」
「はは、そりゃ言えてるや」
「オレたちはただヒマしてるだけだけどな」
「キュウキュウッ!」
「はいはい。そう不貞腐れるなって。お前たちの出番もきっとあるから――ん?」

 マキトがリウたちを宥めていたその時、目の前に大きな存在が現れた。
 見た目は魔導ゴーレムなのだが、これまで相手にしてきたのと比べると、その大きさは数倍以上と言える。
 少なくとも、その迫力は段違いであった。

「なーんかすっごいデカいヤツが出てきちまったなぁ」
「ん。これまでの経験上、見掛け倒しの敵が出てくるとも思えない」
「――だったらここはオレたちの出番だぜっ!」

 すかさずリウが気合いを入れつつ、声を上げた。

「オレとロップルも出れば、あんなデカブツなんざ楽勝だぜ!」
「キュウッ!」

 リウに続いてロップルもやる気を見せる。そんな二匹の姿に、マキトは仕方ないなぁと言わんばかりに苦笑した。

「分かった分かった。フォレオ、止まってくれ。俺たちもいったん降りよう」
『りょーかーい!』

 マキトの指示に従い、フォレオはゆっくりと停止する。マキトとノーラがフォレオの背から降りるとともに、ラティもマキトたちの元へ下りてきた。

「ラティ、フォレオ、ロップル、リウ!」

 不敵な笑みを浮かべ、マキトが魔物たちに呼びかける。

「お前たちがこれまで特訓してきた力を、アイツに思いっきり見せてやれ!」

 その掛け声に、四匹の魔物たちが威勢のいい声で応えるのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

めちゃくちゃ馬鹿にされたけど、スキル『飼育』と『組み合わせ』は最強中の最強でした【Return!】

Erily
ファンタジー
エレンはその日『飼育』と『組み合わせ』というスキルを与えられた。 その頃の飼育は牛や豚の飼育を指し、組み合わせも前例が無い。 エレンは散々みんなに馬鹿にされた挙句に、仲間はずれにされる。 村の掟に乗っ取って、村を出たエレン、そして、村の成人勇者組。 果たして、エレンに待ち受ける運命とは…!?

転生したらついてましたァァァァァ!!!

夢追子
ファンタジー
「女子力なんてくそ喰らえ・・・・・。」 あざと女に恋人を奪われた沢崎直は、交通事故に遭い異世界へと転生を果たす。 だけど、ちょっと待って⁉何か、変なんですけど・・・・・。何かついてるんですけど⁉ 消息不明となっていた辺境伯の三男坊として転生した会社員(♀)二十五歳。モブ女。 イケメンになって人生イージーモードかと思いきや苦難の連続にあっぷあっぷの日々。 そんな中、訪れる運命の出会い。 あれ?女性に食指が動かないって、これって最終的にBL!? 予測不能な異世界転生逆転ファンタジーラブコメディ。 「とりあえずがんばってはみます」

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

処理中です...