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第七章 魔法学園ヴァルフェミオン

222 リスティ、姉探しを手伝う

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「――ふぅん、なるほどねぇ。お姉さんがいなくなったから探してたんだ?」
「はい」

 助けてもらったことに対して礼を言ったメイベルは、そのまま経緯をリスティたちにかいつまんで説明した。
 そこで粗方話を聞いた二人は、神妙な表情で頷いていた。

「キミとアリシアが姉妹だということは、ユグラシアさんから聞いていたよ。心配する気持ちは、俺も分かるつもりだ」
「うん。私も同感だよ」

 ディオンに続いて、リスティもしっかりとした笑みを見せる。

「もし大切なこの子がいなくなったりしたら、真っ先に飛び出すからね!」
「くきゅー♪」

 リスティに撫でられて、ガリューも嬉しそうに鳴き声を上げる。一方のメイベルはというと、予想外だと言わんばかりに呆けていた。

「……怒らないんですか? 私、フツーにルール違反してるんですけど」
「言ったでしょ? 気持ちは分かるって」
「あ、いえ、それはそれで嬉しいんですけど……」

 リスティの言葉に慌てて弁解しつつ、リスティはそもそもの部分を尋ねる。

「あなた方は警備兵として雇われてるんですよね? 私を助けるのは、仕事内容に違反してしまうんじゃないですか?」
「あぁ、そういうことか。言われてみりゃ、確かにそのとおりだわな」

 ディオンはケタケタと笑う。その様子はまるで、最初からこの学園を警備する気がないようだと、メイベルには見えていた。
 それが決して間違っていないことを、すぐさま思い知ることとなる。

「実は俺たち、この学園を『調査』するために来たんだ」
「臨時警備兵に雇われた冒険者として、絶賛潜入中ってワケよ♪」

 ディオンとリスティの迷いなき明るい笑みに、メイベルはポカンと口を開けた。その反応も想定内だったのか、ディオンたちも特に慌てる様子はない。

「とりあえず話だけでも聞いてもらうぞ? もしかしたら、キミのお姉さんも関わっちまってる可能性があるからな」
「お姉ちゃんが――えぇ、分かりました。話を聞かせてください」

 一瞬驚きを示すも、メイベルはすぐさま冷静さを取り戻し、表情を引き締める。流石は名家の次期当主だと言ったところだろうか。
 それを知らないディオンたちも、メイベルの強さだけは汲み取っており、話しても大丈夫そうだと判断する。
 まず最初に口を開いたのは、リスティからであった。

「私たちがここで調査したいと思っているのは――『神竜』についてなんだ」

 先日、オランジェ王国の竜の山にある魔力スポットが、何者かに汚染された。その件について色々と調べているうちに、ヴァルフェミオンのある場所が、大昔に神を司る竜が封印された場所でもあることが判明した。
 通称、神竜と呼ばれるそれは、今やおとぎ話としてしか扱われていない。
 しかし――

「その神竜が実在していて、塔のような断崖の中――すなわちヴァルフェミオンの地下に封印されているとしたら?」
「ちょ、ちょっと! ちょっと待ってくださいっ!」

 右の手のひらを突き出しながら、メイベルがなんとか言葉を発する。ひどく狼狽えてはいたが、それでもツッコミを入れずにはいられなかった。

「神の竜? そんな存在がこの学園の中に!? じょ、冗談にしては……」

 メイベルの乾いた笑みは、次第に鳴りを潜めていく。メイベルもディオンも、きょとんとした表情を浮かべてはいたが、決してふざけてなどいないという意思表示も確かにされていた。
 それを察してしまったメイベルは、認めるしかなかった。
 二人は本当のことを言っているだけなのだと。
 もっとも、内容が内容だけに、そう簡単に信じることもできなかった。せめてそれだけは伝えなければと思っていたその時、苦笑する二人の声が聞こえてくる。

「まぁ、そうだよな。いきなりこんな話を聞かされちゃ、信じないほうがフツーってもんだろうよ」
「ゴメンね、メイベル。ちょっといきなり過ぎちゃったかもしれないわ」

 でもね――とリスティが続ける。

「今の話は全て本当なんだよ。とりあえず、最後まで聞いてもらっていいかな?」

 穏やかに、それでいて意志の強さが込められた声に、メイベルは完全に押されながらコクリと頷く。どこまで話に付いていけるか自信はなかったが、それでも耳を傾けないわけにはいかなかった。

「――ありがとう」

 話を聞く姿勢を見せてくれたメイベルに、リスティが改めて礼を言う。

「話を元に戻すね? ヴァルフェミオンの地下に神竜がいる――そう考えれば、竜の山の魔力スポットを使って、実験をしたのも頷ける。スケールは違えど、竜という見た目が同じであることに変わりはないから」

 もっとも神を司っている時点で、もはや普通の竜と大きく異なる点は否めない。どちらにせよ、調べてみる価値はあると思った。
 ヴァルフェミオンに潜入するべく、リスティは動き出したのであった。

「そこで協力してくれたのが、私のお兄様だったんだ」
「あぁ。彼女の兄上から連絡を受けてな。俺が護衛役に選ばれたってワケだ。ちなみに臨時警備兵として潜入するって案を出したのは、この俺だ」
「私はディオンの提案に賛成だったんだけど、お兄様が難色を示してね」
「結局はあっちが折れたんだがな」
「あんなの、単にお兄様がワガママだっただけだよ」

 そんなリスティとディオンの話を、メイベルは呆けながら聞いていた。色々と疑問はあるが、最後まで話を聞くことを受けた以上、まずは結論をしっかりと確認しなければならない。

「それでお二人は、見回りをしながら学園内を探られていたというワケですか」
「あぁ。大体そんなところだ。理解してくれたようでなによりだ」
「いえ……」

 ディオンからの微笑みに対し、メイベルは戸惑いながら頷く。数ヶ月前の時はドキドキしていたが、今はそれどころではなかった。

「えっと、一つ質問よろしいでしょうか?」
「ん? なに? 遠慮しないでなんでも聞いてよ」
「じゃあお言葉に甘えて――リスティさんって、何者なんですか? 少なくとも普通の平民とかじゃないですよね?」

 会話の節々から、上流階級の匂いを感じてならなかった。同い年と言えど、家柄の違いは確実にある気がしてならず、敬語抜きで喋るのが微妙に怖い。
 そんなメイベルの予測は、見事な当たりと言えていた。

「――そうだよ。私はオランジェ王国の王女でもあるんだよねぇ♪」

 人差し指を口元に充てながら、可愛らしくウィンクをして見せるリスティ。彼女なりの茶目っ気のつもりだったのだろうが、メイベルは青ざめた表情で冷や汗を流しながら、完全に硬直していた。

「お……王女、さま?」
「そうだよ。あぁでも、今はただの冒険者のリスティだから、敬語とかも不要ね」

 再びウィンクをするリスティだったが、大して効果は出ていなかった。本当にいいのかどうか迷っている様子を見せるメイベルに、ディオンがフッと小さく笑いながら助け舟を出す。

「心配する必要はどこにもないさ。リスティがこう言ってるんだから、そのとおりにすればいいよ。後で不敬罪とかにもならないから、大丈夫だ」
「は、はぁ……」

 正直、納得しきれていないが、少なくとも二人とも本心で言っているのだということだけは、ようやく分かったような気がした。
 故にメイベルも、ここは素直に受け取るべきだと思った。

「分かったよ、リスティ。これでいいんでしょ?」
「うん♪」

 リスティが嬉しそうに微笑む。どうやら普通に正解だったようだと、メイベルもようやく安心感を覚えた。
 しかし――

「そうだ! 驚かせちゃったお詫びに、私もお姉さんを探すのを手伝うよ!」

 いきなり思いついてきたリスティの言葉に、メイベルは再び呆気に取られる。これは流石に予想外だったのか、ディオンも目を丸くしていた。
 急に何を言い出すのか――そう問いかけようとしたが、既にリスティの目はやる気に満ちていた。

「ただブラブラ見て回るのもつまんないから、ここは手伝わせてよ、ね?」
「あ、はい……」

 思わず反射的に頷いてしまった。もしここで一度断っても、なんとなくあれこれ言葉を並べて説得させられていたような気がする。
 これはもう、リスティのお言葉に甘えるしかない――メイベルはそう思った。

「よし、だったらここからは、二手に分かれましょう!」

 そこにリスティが、更なる提案をしてくる。

「三人で固まっていたら逆に目立っちゃうもんね。それに私も、メイベルと一緒に行動してみたかったし……いいでしょ?」
「え、まぁ……」
「じゃあ決まりだね。ディオン、あなたはあなたで動いてちょうだい!」

 曖昧な返事しか返せないメイベルは、殆ど流されるままリスティに手を引かれ、訳が分からないまま茂みから出る。
 そしてそのまま、暗闇の学園内へと再び繰り出していくのだった。

「……俺が返事する間もなく、行っちまったよ」

 しょうがないなぁと思いながら、ディオンがため息をつく。完全に一人取り残された状態と化してしまい、とりあえず茂みから出てみた。

(ったく、仕方のないお姫様だことで……んなことより、俺はどうするかな?)

 とりあえず見回りがてら、気になりそうな何かでも探してみるかと、そう思いながら歩き出そうとした時だった。

「あれ? もしかしてディオンじゃねぇのか?」
「ホントですね。これはまた、なんとも奇遇なことで……」

 妙に聞き覚えのある声が聞こえてきた。まさかと思いながら振り向くと――

「ネルソン、それにエステルも!」

 かつて苦楽を共にした旧友二人が、それぞれ自分と同じような冒険者らしい装いを身に付け、カンテラを片手に立っていたのだった。

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