透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第六章 神獣カーバンクル

186 ライザックからのプレゼント

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「頼むからいきなり宙に浮いてこないでくれない?」
「ホントなのです! あれじゃ、ビックリさせるだけなのですよ!」

 ため息交じりにマキトが文句をつけ、ラティがあからさまに憤慨しながら、腕を上下にパタパタと振っている。
 しかしそれに対して、ライザックはというと――

「あはは、それはどうも失礼しました」

 軽く流すかのように笑うばかりであった。
 ちなみにマキトたちは今、森の中の河原に下りて、ライザックも交えて皆で腰を落ち着けている形だ。
 フォレオもドラゴンから狼へと、姿を切り替えている。もし何かがあればすぐに戦えるようにするためだった。
 これも全ては、ライザックを警戒しているからに他ならない。
 そんな心配はいりませんよとライザックは苦笑気味に言っていたが、フォレオは信用しようとしなかった。ついでに言えば、マキトやノーラ、そして他の魔物たちも同様である。
 いきなり魔法で宙に浮いて近づき、驚かせてくるような魔導師を、どうやって信用すればいいのか――マキトが実際にそう言うと、ライザックも肩をすくめた。
 確かにそのとおりですよねと、どこまでも他人事のような口調とともに。

「はぁ……まぁ、さっきのことはもういいよ。それで? 俺たちに何の用だ?」

 これ以上気にしたところで話は絶対に進まない――そう判断したマキトは、ため息をつきながら問いかけた。
 するとライザックは、赤い切れ長の瞳をスッと細くした。

「キミたちは、魔力スポットに興味があるそうですね?」
「…………」

 いきなり何を聞いてくるのかと、マキトは思う。そしてどう答えたものかと悩んでしまう。
 ここは惚けたほうが――そう思ったが、いい言い訳が思い浮かばない。
 結局マキトは、そのまま素直に答えることに決めた。

「まぁね。ないと言えばウソになるよ」
「ん」

 目を閉じながら答えるマキトに続いて、ノーラも無表情のまま頷いた。
 内心では居心地が悪い。早く解放されないだろうかと、心の中でひっそりとマキトが願っていると、ライザックがニヤッと笑う。

「そうですか。そんなキミたちに朗報です♪」

 ピンッ、と人差し指を立てながらライザックは踊るような声を出す。

「この森からそう遠くない山奥に、魔力スポットがあるんです。是非とも行ってみることをおススメしますよ」
「魔力スポットねぇ」

 マキトは腕を組みながら、ライザックを見つめる。怪しい何かを見るようなしかめっ面を浮かべており、あからさまに気乗りしていないことがよく分かる。

「……しょーじき全然信じたくないんだけど」
「それは困りましたねぇ」

 ライザックは大げさに肩をすくめる。

「僕としても、どうか信じてほしいとしか言えないのですが」
「いや、だって信じる要素ゼロだし」
「ん。どこからどう見ても怪しさ満点。カンタンに信じろというほうがムリ」
「同感なのです!」
「キュウッ」
『そーだそーだー!』

 ノーラに続いて、魔物たちも次々と声を上げる。厳しい視線を向けられたライザックは、これまた大げさ気味に目を見開いた。

「おやおや。また随分と嫌われてしまっていますねぇ。無理もありませんが」
「……まさかの自覚してた?」
「勿論ですとも」

 呆然とするノーラに、ライザックはクスッと笑う。

「人を客観的に見る前に、まず自分を客観的に見れるようにする――常識ですよ」

 そう言いながら、ライザックは懐をまさぐり、小さな六角形の箱みたいな物を取り出した。

「キミたちにこれを授けましょう。信じる信じないは、どうぞご自由に」

 ライザックは箱みたいな物をマキトに手渡し、スッと立ち上がる。そして踵を返して歩き出した。

「それでは僕はこれで。また会える日を、楽しみにしていますよ♪」
「えっ、ちょ、ちょっと待っ――」

 マキトが座ったまま手を伸ばすが、ライザックは忽然と姿を消してしまった。
 そのまましばらく、皆して呆然と座り尽くしていた。聞こえてくるのは川が穏やかに流れる音と、風で木の葉の揺れる音のみ。たっぷり数十秒が経過し、マキトがようやく口を開いた。

「……これ、どーすりゃいいんだ?」

 とりあえず疑問にしてみたが、この場で答えられる者はいなかった。


 ◇ ◇ ◇


「これは魔法具ね」

 神殿のリビングにて、ライザックからもらった箱みたいな物をあらゆる角度から眺めるユグラシア。
 あれからすぐにマキトたちは神殿に戻り、ユグラシアに全て話したのだった。
 マキトがライザックという名前を出した瞬間、スッと空気が冷え、ユグラシアの周りを吹雪が舞っていたように見えた。しかしすぐにそれは鳴りを潜め、マキトが手渡した物を念入りに調べ始めたのである。
 きっと幻でも見たのだろうと、マキトたちは思うことにした。
 これ以上余計なことを考えてはいけない――そう体中で感じ取ったことを、必死に記憶から除外しながら。

「恐らく、ここに魔力を注げば――」

 箱の一部分にユグラシアが手を添える。箱が淡く光り出し、瞬時に一枚の大きな紙へと変化を遂げた。
 マキトたちは揃って、うわっと驚きの声を発してしまう。

「な、何なんだ、これって?」
「魔法具で地図を収納していたのよ。大切な物を運ぶときなんかに、よく使われている代物ね」

 軽く説明しながら、ユグラシアが地図をテーブルの上に広げる。それをマキトたちが興味深そうに顔を近づけた。

「へぇ、そんなのがあるんだ」
「不思議なのですー」
「特定の魔力を注がないと、取り出せない仕組みなのよ。かなり複雑な魔力が組み込まれているから、そう簡単には手に入らない魔法具なのだけど……」

 そう語るユグラシアの表情が、段々と神妙なそれに切り替わっていく。マキトたちは物珍しそうに地図を眺めるばかりで、気づいていない。

(ライザックともなれば、むしろ不思議でもなんでもないわね)

 この魔法具の出所を知った以上、色々な意味で見過ごせないと思っていた。なによりマキトたちと接触したという事実に驚かされた。しかも自分の『魔力』という名の目が届く場所で。
 もっとも、相手が相手でもあるため、すり抜けられるのも仕方がない。
 しかしユグラシアからすれば、そんな一言で済ませたくないのもまた事実。完全にしてやられたという気持ちでいっぱいだった。

(あの男、一体何を考えているのかしら? 特に危険性はなさそうだけど……)

 顎に手を当てながら、ユグラシアは複雑そうな表情で考える。しかしすぐさま顔を左右に振り、考えることを放棄した。
 考えたところで分かるわけがないと思ったからだ。
 それだけライザックという男は、意味不明という言葉がピッタリなのである。
 数少ない同じ神族であることは認めるが、できる限り相容れたくない――心の底からそう思うほどであった。

「マスター。地図のここに印が付けられてるのです」

 ラティの声に、ユグラシアが我に返る。視線を向けてみると、ラティが地図のとある部分を指さしており、それにマキトたちが注目していた。
 ユグラシアも後ろから覗いてみると、確かに地図の一部分に赤い印が見えた。

(この場所は、確か……)

 それを見た瞬間、ユグラシアは眉をピクッと動かす。そんな彼女の様子に気づくこともなく、ラティはマキトのほうを見上げた。

「もしかしてここに、その魔力スポットがあるんじゃないですかね?」
「うん。なんかそれっぽい感じするな」

 マキトもどこかワクワクした表情を浮かべて頷いた。

「森がここだから……確かにそんな遠くないや」
「ん。フォレオに乗って空からいけば、サクッと行けそうな感じ」

 ノーラがソファーでぐっすり眠っているフォレオに視線を向ける。たくさん飛び回って疲れたのだ。
 ちなみにロップルも、付き合いで一緒に昼寝をしていた。ここまで会話に混ざってこなかったのもそのせいである。

「これだけ見れば、ライザックの言ってたとおりではあるけど……」
「ん。魔力スポットが本当にあるかどうかは分からない」
「だよなぁ」

 ノーラの言うとおりだと思い、マキトは小さなため息をついた。
 これならちょっと行って帰ってこれるかも――そんなことを考えていたのが、急に冷めてきてしまった。
 すると――

「いいえ、この地図と印は間違いなく本物よ」

 ユグラシアの凛とした声が、リビングに響き渡った。

「確かにこの場所には魔力スポットがある。今回に限っては、ライザックの情報は正しいと言えるわね」

 その表情は、いつもの優しい笑みではなかった。まるで何か思うところがあると言わんばかりの神妙さが出ており、マキトたちは思わずきょとんとする。

(何だ? 魔力スポット以外に何かあるってのか?)

 なんとなくそんな気がしてならず、少し尋ねてみようとマキトが口を開きかけたその瞬間、ユグラシアがいつもの優しい笑みを浮かべてきた。

「いい機会だし、あなたたちでこの魔力スポットに行ってみてはどうかしら?」

 そして急にそう言い出し、マキトたちは呆気に取られてしまうのだった。

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