透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第五章 迷子のドラゴン

176 新たなる変身

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「くきゅっ、くきゅくきゅーっ!」

 頂上の広場に戻ってきたマキトたち。待機していた親ドラゴンに、子ドラゴンが説得を試みていた。
 親ドラゴンは微動だにしないまま話を聞き続け、やがてのそりと動き出す。

「――霊獣よ。そなたは姿形を変えられる能力を持っておるようだな?」
『うん。そうだよー♪』

 その迫力に臆する様子もなく、フォレオは無邪気に答える。一方、親ドラゴンはふむと頷き、フォレオをジッと見つめていた。

「なるほど……霊獣特有の力を使い、我の脳に直接語り掛けてきているのか。まぁそれはともかくとして、だ……」

 親ドラゴンはマキトに視線を向ける。

「少年よ。その霊獣が強くなりたいそうだな?」
「え? あぁ、まぁ……」
「そのためにここの魔力スポットを使いたがっていたそうだが」
『うん、そうなの!』

 マキトに割り込む形でフォレオが答える。

『いままでまりょくすぽっとのまりょくをあびて、つよくなってきてたの。だからここのすぽっともつかいたかったの!』
「なるほどな」

 必死に言葉を放つフォレオに、親ドラゴンが小さく笑う。小さな子を可愛く思う父親のような姿だと、リスティは目を丸くした。
 すると親ドラゴンは、表情を引き締めつつマキトに視線を戻す。

「我らを助けてくれた礼を、まだそなたたちに与えていなかったな。少年よ、従えている魔物とともに我の背に乗るがよい。ある場所へ案内する」
「え、ある場所って?」
「それは行けば分かることだ」

 ここで全てを明かすつもりはないようであった。親ドラゴンが何をしたいのかは分からないが、妙に気になるし、興味が湧いてきているのも確かであった。

「――折角だし、ちょっと行ってみようか」
「ですね」
「キュウッ!」
『いこーいこーっ♪』

 問いかけるマキトに、ラティたちも笑顔で頷いた。すると、ノーラが子ドラゴンを抱きかかえ、慌てて親ドラゴンの元へ駆け寄る。

「ノーラたちも行っていい?」
「くきゅ、くきゅっ!」
「分かった分かった。特別に許可しよう」
「やった♪」
「くきゅーっ♪」

 ノーラは小さくガッツポーズし、子ドラゴンは嬉しそうに万歳をする。そしてマキトたちは意気揚々と親ドラゴンの背に乗った。
 そして見上げてきているディオンとリスティのほうに視線を下ろす。

「じゃあ、ちょっと行ってくる」
「あぁ。俺たちはここで待ってるよ」

 ディオンが頷いたところで、親ドラゴンは翼を広げ、それをゆっくり大きく羽ばたかせていった。

「行くぞ!」

 ばさっ、ばさっ、と大きな音を立て、親ドラゴンがゆっくりと飛び上がる。やがてあっという間に空を飛び出し、そのままゆっくり地移動を始めた。
 これからどこへ行くのかと思いきや、向かうのは同じ山の裏手のほうだった。
 山の頂上から中腹にかけての場所にそこはあった。
 崖が切り込まれて小さな隙間となっており、そこには洞窟があった。
 正規ルートでは決して辿り着くことのできないその場所は、まさに秘密の隠れ家と呼ぶにふさわしい。
 大きなドラゴンが作り上げたのだろうか――親ドラゴンぐらいの大きさが二、三匹は余裕で入れるほどの広さが、その洞窟にはあった。

「へぇー、こんな洞窟があったんだ。しかもなんか光ってるし」
「ん。これは魔力。なかなか神秘的な感じ」

 ノーラの言うとおり、それは魔力の粒子であった。たくさん舞っているそれは、明かりの役割も果たしており、松明なしでも十分に明るいほど。
 しかし、洞窟の奥へ進んでいくと、明るさは更に増した。
 魔力の粒子が多くなったからではない。それ以上の何かがこの先にある。マキトたちは自然と表情が引き締まった。

「……この奥から、強い魔力を感じるのです」
「キュウッ!」
『まりょくすぽっとみたいだけど、なんかちがうかんじー』

 ラティたちがそれぞれ周囲を見渡しながら、体をソワソワさせる。その様子に親ドラゴンは、小さな笑みを浮かべた。

「フッ、流石は妖精と霊獣……魔力に対する勘の働きは流石のようだな」
「じゃあやっぱり、この奥になんかあるってことか」
「それは着いてのお楽しみだ」

 マキトの呟きに対しても、やはり親ドラゴンは答えをはぐらかすばかりだった。どうしても彼らを驚かせたいということだろう。そんな悪戯っぽい笑みを浮かべていることに、子ドラゴンを含めてマキトたちは気づかない。
 やがて一行は、洞窟の最奥へとやってくる。
 そこには――

「うわ、こりゃまた凄いな」
「キレイなのですー♪」
「キュウッ!」
『きらきらだー!』

 少しだけ開けているそこには、魔力が湧き出る小さな水晶の欠片が、壁のところかしこに埋められていた。
 その中央には、岩から生えている植物があった。
 高山植物の類にも見えるそれは、ぼんやりと淡い光を放っている。どこをどうとっても普通の植物ではないと、マキトたちは即座に思った。

『ねーねー、ここってまりょくすぽっと?』

 フォレオがはしゃぎながら、親ドラゴンに向かって質問する。

『これだけまりょくがきらきらしてるんだもん。ぜったいにそうだよね!』
「いや、残念ながら違う」
『えーっ?』

 しれっと言い放つ親ドラゴンの答えに、フォレオは不満そうな声を出す。ラティやロップルも期待していたのか、それを聞いて肩を落としていた。
 そんな魔物たちの傍で、マキトは呆気に取られている。

「いや、でもこれ……もう殆ど魔力スポットにしか見えないんだけど」
「ん。ノーラも同感」

 マキトの隣でノーラもコクリと頷いた。表情には殆ど出てないが、彼女もちゃんと驚いている。
 親ドラゴンはそれを感じており、実に満足そうな笑みを浮かべていた。

「ハッハッハッ。そんなに驚いてくれたか。さっきも言ったとおり魔力スポットではないが、それに近い存在でもある」
「……似てはいるのか」

 軽く脱力しながらマキトが言う。親ドラゴンがあまりにもしれっと『違う』と言ってきたため、魔力スポットとは程遠い存在だと思ってしまったのだ。

(それならそうと、早く言ってくれりゃいいのに……)

 思わず文句を言いたくなるマキトであった。
 もっとも、親ドラゴンは確かに魔力スポットではないとは言ったが、魔力絡みではないとも言っていないため、嘘はついていない。
 故にここで文句を言ったところで、あまり意味はなかっただろう。
 マキトの場合、脱力して言う気すらなくしていたのが、ある意味で幸いだったと言えるのかもしれない。

「ここは、魔力スポットに何かがあった時のために作った場所。あそこと酷似する魔力が漂っておるのだ。我が完全に意識を失わずに耐えられていたのも、これのおかげと言える」
「へぇー」
「もっとも我の自我が極端に強かったことも、相まってのことだがな。ハハッ」
「なるほどねぇ」

 さりげなく自慢を入れてきた親ドラゴンであったが、マキトは目の前の光景に夢中となっており、話の半分以上も聞いていない。ついでに言うと、親ドラゴンも自身の武勇伝を語るのに夢中で、マキトの反応を殆ど気にも留めていなかった。
 まさにどっちもどっち。ここにリスティがいれば、何かしらのツッコミが放たれていたことだろう。
 残念ながら今の時点では、ツッコみ役がいるようでいない状態であった。
 しかしながら誰も困っていないのだから、不思議なものである。

「――ふむ。一個だけ残っていたか」

 親ドラゴンは植物をガサガサとかき分けていき、何かを摘み取る。それをフォレオの前に差し出した。

「なんだこれ……木の実か?」

 マキトが覗き見ると、確かにそれは赤くて丸い木の実だった。

「くれるのか?」
「あぁ。こいつには魔力スポットがたっぷりと含まれている。口から摂取することで、そなたの望むぱわーあっぷとやらが、もしかしたらできるやもしれん」

 親ドラゴンの言葉に、ノーラがふむと頷く。

「可能性は高い。魔力スポットに似た魔力の木の実なら、食べてみる価値アリ」

 それを聞いた瞬間、ラティとロップルも目をギラッと光らせて、親ドラゴンに詰め寄った。

「わたしにもくださいなのですっ!」
「キュウキュウッ!」
「済まんな。残っていたのは、これ一個だけであった」
「えー?」
「キュウーッ!」

 親ドラゴンの返事に、あからさまな不満を見せるラティとロップル。しかし数秒ほど悩み、深いため息をつくのだった。

「仕方ないのです。今回はフォレオに譲るのです」
「キュウッ」
『わーい、ありがとーっ♪』

 そしてフォレオは、無邪気な反応を見せつつ親ドラゴンから木の実を受け取り、迷いなく口の中へと放り込む。
 もっしゃもっしゃと口を動かしながら、その味を楽しむ。

『ん~、あまずっぱくておいし……うっ!』

 しかしすぐさま、体の奥底からドクンと脈打つ感触があった。
 フォレオは何が起こったのか全く分からない。体が熱くなってきており、何も考えられなくなっていく。自身の体が眩く光り出していることにすら、全く気づけていないでいた。

「フォレオ!」
「な、何が起こってるのですか?」

 マキトたちが驚く中、フォレオは光と化す。そしてその光は、みるみる大きさを増しつつ、形を変えていった。
 やがて光が収まり、マキトたちが恐る恐る目を開けてみると――

「なっ!」

 マキトは『その姿』に驚くあまり、喉の奥から音に等しい声を鳴らす。ノーラやラティたちに至っては、完全に口を開けて呆けていた。
 子ドラゴンもマキトの頭の上に乗り、目をパチクリとさせている。親ドラゴンだけが興味深そうに、ほぉと呟きながら笑っていた。

『うーん、びっくりしたー! いったいなんだった……あれっ?』

 フォレオはなんともないと思いながら体を動かしてみると、すぐに気づいた。
 あからさまにいつもの感じと違う。恐る恐る視線をしたに下げつつ、自身の手足と体をよく見てみる。
 そして――

『な、なにこれえぇーっ!?』

 大きなドラゴンと化した自身の姿に、フォレオは大きな声を上げるのだった。

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