156 / 252
第五章 迷子のドラゴン
156 マキトたちの旅立ち
しおりを挟む隠れ里でひとしきり遊んだマキトたちは、森の神殿に戻ってきた。
するとそこには、待ち望んでいた客人が来ており、ユグラシアとともに帰ってきたマキトたちを出迎えたのだった。
「やぁ、久しぶりだな」
「ディオンさん!」
まさかの再会にマキトたちは驚きを隠せない。周囲を見渡すと、建物の脇に寝そべっているドラゴンの姿が確認できた。ちょうど帰ってきた方向からだと死角になっていたため、見えなかったのだということが分かる。
「――グルゥ」
ドラゴンも片目だけを開けて、鳴き声で挨拶をしてきた。マキトが笑みを浮かべて手を振ると、ニヤッと口元を動かして、ドラゴンは再び目を閉じる。
「ハハッ……やっぱりキミは、随分とアイツに気に入られているようだな」
やはり他人に対して反応を返すのは珍しい――相棒であるディオンからしても、改めて驚かされるほどだった。
しかし今の彼には、そんなことよりも驚くべき部分があった。
具体的には、マキトの肩にしがみついている、小さな存在について――
「ほう。それが手紙に書いてあった、竜の子供ってヤツか」
ディオンが興味深そうに顔を近づけながら、子ドラゴンをまじまじと見る。
「なるほど。これはまた随分と懐かれているように見えるな。全く、マキト君には驚かされっぱなしだよ」
ケタケタと笑うディオン。そんな彼に子ドラゴンは緊張している様子であった。マキトたちの味方であることは読み取れていたが、それでも見知らぬヒトとなれば警戒せずにはいられない。
それはディオンも分かっているため、察しつつ何も言わなかった。
すると――なにやら情けない音が鳴り響いた。
「くきゅ~」
その直後に子ドラゴンが脱力するかのような鳴き声を出す。
「お腹空いたのか?」
「くきゅ」
苦笑しながら尋ねるマキトに、子ドラゴンは項垂れながら首を縦に振る。それを見たユグラシアも、あらあらと言わんばかりに優しい笑みを浮かべた。
「それじゃあ、まずはお昼ごはんにしましょうか。もう用意はしてあるわよ」
「くきゅ? くきゅくきゅーっ♪」
ご飯というワードに、子ドラゴンは急に元気を取り戻し、マキトの肩から勢い良く飛び上がる。そのまま嬉しそうに翼を羽ばたかせて旋回し出し、それを見たマキトたちも、ついつい笑ってしまっていた。
そんな彼らの姿に、ディオンは改めて驚きの表情を浮かべる。
(確かまだ、保護して二日目とか言ってたよな? 完全に馴染んでるじゃないか)
ドラゴンライダーとして、正直信じられない気持ちでいっぱいであった。
マキトやラティたち魔物だけに懐くならまだしも、ユグラシアやノーラにも完全に打ち解けている様子であった。
普通ならば珍しいを通り越して、あり得ないと言いたいくらいだ。
もはや例外という言葉で済ませられるレベルではない。何か特別な奇跡が折り重なっているとしか思えない。
(奇妙な予感がしたから、無理を言って早めに駆けつけてみたが……同僚たちがこの光景を見たら、果たしてどんな反応をするだろうかな?)
ある意味、それを実際に見てみたい――殆ど現実逃避に等しい気持ちのまま、ディオンは苦笑するのだった。
◇ ◇ ◇
昼食を終えたマキトたちは、リビングにて子ドラゴンのことを話していた。
最初はきょとんとしていていた子ドラゴンも、自分の故郷がどこにあるかについての話だとマキトから教えられるなり、真剣な表情で耳を傾けている。
しっかりと手懐けているもんだとほくそ笑みながら、ディオンは語った。
「オランジェ王国に、竜の山という場所がある。そこで最近、異変が生じているとの情報があった。もっとも詳しくは、まだ調査されていない状態らしい」
「じゃあ、ドラゴンちゃんはその竜の山という場所から?」
「まだ、断定できるワケじゃないがな」
ラティの問いかけに苦笑しつつ、ディオンは続ける。
「そして同時期、人間族の盗賊らしき集団が、怪しげな態度でウロウロしている姿も確認されているそうだ。まるで何かをこっそり運んでるかのようにな。数日かけて国境を渡り、この近くまで移動していたそうだ。そして……」
ディオンが子ドラゴンに視線を向ける。
「それから程なくして、そのおチビ君がこの森で保護されたという感じだ」
「時系列的に辻褄は合っていると?」
「そういうことになります」
神妙な表情のユグラシアに、ディオンも小さく頷いた。あくまで確定してはいない状態だが、殆どそれに等しいレベルだと、二人は心の中で思っていた。
「仮にそれが正しければ、この子は相当長い距離を移動させられてきたということになるわね」
「えぇ。よくもまぁ、元気に生き延びていたもんですよ」
ユグラシアとディオンの表情に、怒りが宿る。特にディオンは、ドラゴンを相棒に持つ身として、より許せない感情が湧いてきて仕方がない。
「――コイツの故郷の山には、魔力スポットがあるらしいんだ」
マキトが子ドラゴンを抱きしめる力を強めた。
「今朝、近くの隠れ里へ連れてった時に、コイツがそう話してくれた。山の頂上に同じようなのがあるって」
「そうか……だとしたらこりゃあ、ビンゴかもしれないぞ」
ディオンは顎に手を当て、軽く目を見開く。
「その山はたくさんのドラゴンたちが住処としているため、人が無暗に立ち入れるような場所じゃない。でも俺たちドラゴンライダーは例外として、何回か足を運んだことがある。そこには確かにあったよ――魔力スポットがな」
「確かドラゴンちゃん、ある日お父さんたちから、無理やり山を追い出されたって言ってましたよね?」
「くきゅっ!」
確認してくるラティに、子ドラゴンが鳴き声とともに頷いた。話のピースが揃ったことを感じながら、ユグラシアは神妙な表情を見せる。
「この子の親が異変を察知して、子供だけでもと逃がしたのでしょう。そこを運悪く盗賊に見つかり、捕まってしまったのね」
「えぇ。俺もそう思います。仲間たちが集めた情報と一致する部分も多いですし、まず間違いはないかと」
ディオンは頷き、そしてゆっくりと立ち上がった。
「この件につきましては、こっちでなんとかしてみせます。ドラゴンライダーとしての底力を、今こそ見せてやりますよ」
「よろしくお願いするわね」
「はい。そのおチビ君も俺のほうで預かります。必ずや親御さんを探して、元の住処で一緒に暮らせるようにします。さぁ――俺と一緒に行こう!」
そしてディオンは、子ドラゴンに向けて両手を差し出した。その爽やかな笑顔からは敵意を一切感じさせない。これならばドラゴンも安心できるはずだと彼は確信していた。
「……くきゅっ!」
しかし子ドラゴンは、ディオンを一瞥するなり、アッサリと視線を逸らした。
ディオンは両手を広げたままピシッと笑顔のまま硬直し、リビングにはなんとも微妙な空気が流れる。
流石のマキトも気まずそうな表情を浮かべ、自身の胸元に引っ付いている子ドラゴンを見下ろす。
「なぁ、チビスケ。ディオンさんはお前の味方だよ。この人と一緒に行けば、お前は故郷へ帰ることができるんだ」
「そうなのです。お父さんやお母さんも助けてくれるのですよ」
「くきゅっ! くきゅくきゅくきゅーっ!」
マキトとラティが説得するも、子ドラゴンは受け入れる様子がなく、マキトの服に強くしがみついてしまう。
子ドラゴンの声を聴いたラティが、これまた気まずそうにマキトを見る。
「えっと、その……マスターと離れるのやだーって……」
「コイツが言ってるのか?」
問いかけるマキトに、コクリとラティが頷く。改めて視線を下ろすと、子ドラゴンが潤んだ目で訴えるかのように、ジッと見上げてきている。
試しに自身から離そうとしてみたが、その度に子ドラゴンが力を込める。
絶対に離れてやるもんかと、そう言わんばかりであった。
「はは……こりゃ、俺じゃあ絶対に無理だな」
ディオンは諦めの意味を込めて苦笑し、肩を大きくすくめる。
「マキト君がおチビ君を連れて、竜の山へ向かうしか方法はなさそうだ」
「……俺?」
「ん。マキトしかいない」
呆然としながら自分を指さすマキトに、ノーラが満足そうな笑みを浮かべる。
「大丈夫。ノーラやラティたちもちゃんと付いていく。寂しくなんかない!」
「そうなのですよ、マスター! わたしたちにお任せなのですっ!」
「キュウッ!」
『うん。いまこそぼくたちのちからをみせるとき!』
ノーラに続き、ラティたち魔物もやる気満々であった。もはや話は決まったも同然の雰囲気を醸し出しており、マキトも答えは一つしかないと思った。
「――分かったよ」
ため息交じりに頷き、その声を聴いた子ドラゴンもきょとんとしながら、しがみつく力を緩める。そしてマキトは気を取り直して表情を引き締め、強気の笑みを浮かべながら、子ドラゴンを正面に抱え上げた。
「チビスケ。俺たちがお前を、竜の山まで連れてってやるからな」
「くきゅ……くきゅーっ♪」
「わぷ、ちょ、急に飛びついてくんなって!」
嬉しくなって顔面に抱き着く子ドラゴンに、マキトはてんやわんやする。その様子を周りが楽しそうに見守る中、ディオンがユグラシアに言う。
「ユグラシア様。マキト君たちの引率は、俺が責任をもって引き受けますから」
「はい。よろしくお願いします」
スッと立ち上がり、ユグラシアは丁寧な態度で深々とお辞儀をする。
かくしてマキトたちは、森の外へ旅に出ることが決まった。
森からの馬車は出払ってしまっている状態だったが、獣に変身したフォレオに乗っていけば大丈夫だということで、足の問題も難なく解決したのであった。
そして翌日――マキトたちはフォレオに乗り、ディオン先導の下、竜の山を目指して旅立つのだった。
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる