透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第五章 迷子のドラゴン

156 マキトたちの旅立ち

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 隠れ里でひとしきり遊んだマキトたちは、森の神殿に戻ってきた。
 するとそこには、待ち望んでいた客人が来ており、ユグラシアとともに帰ってきたマキトたちを出迎えたのだった。

「やぁ、久しぶりだな」
「ディオンさん!」

 まさかの再会にマキトたちは驚きを隠せない。周囲を見渡すと、建物の脇に寝そべっているドラゴンの姿が確認できた。ちょうど帰ってきた方向からだと死角になっていたため、見えなかったのだということが分かる。

「――グルゥ」

 ドラゴンも片目だけを開けて、鳴き声で挨拶をしてきた。マキトが笑みを浮かべて手を振ると、ニヤッと口元を動かして、ドラゴンは再び目を閉じる。

「ハハッ……やっぱりキミは、随分とアイツに気に入られているようだな」

 やはり他人に対して反応を返すのは珍しい――相棒であるディオンからしても、改めて驚かされるほどだった。
 しかし今の彼には、そんなことよりも驚くべき部分があった。
 具体的には、マキトの肩にしがみついている、小さな存在について――

「ほう。それが手紙に書いてあった、竜の子供ってヤツか」

 ディオンが興味深そうに顔を近づけながら、子ドラゴンをまじまじと見る。

「なるほど。これはまた随分と懐かれているように見えるな。全く、マキト君には驚かされっぱなしだよ」

 ケタケタと笑うディオン。そんな彼に子ドラゴンは緊張している様子であった。マキトたちの味方であることは読み取れていたが、それでも見知らぬヒトとなれば警戒せずにはいられない。
 それはディオンも分かっているため、察しつつ何も言わなかった。
 すると――なにやら情けない音が鳴り響いた。

「くきゅ~」

 その直後に子ドラゴンが脱力するかのような鳴き声を出す。

「お腹空いたのか?」
「くきゅ」

 苦笑しながら尋ねるマキトに、子ドラゴンは項垂れながら首を縦に振る。それを見たユグラシアも、あらあらと言わんばかりに優しい笑みを浮かべた。

「それじゃあ、まずはお昼ごはんにしましょうか。もう用意はしてあるわよ」
「くきゅ? くきゅくきゅーっ♪」

 ご飯というワードに、子ドラゴンは急に元気を取り戻し、マキトの肩から勢い良く飛び上がる。そのまま嬉しそうに翼を羽ばたかせて旋回し出し、それを見たマキトたちも、ついつい笑ってしまっていた。
 そんな彼らの姿に、ディオンは改めて驚きの表情を浮かべる。

(確かまだ、保護して二日目とか言ってたよな? 完全に馴染んでるじゃないか)

 ドラゴンライダーとして、正直信じられない気持ちでいっぱいであった。
 マキトやラティたち魔物だけに懐くならまだしも、ユグラシアやノーラにも完全に打ち解けている様子であった。
 普通ならば珍しいを通り越して、あり得ないと言いたいくらいだ。
 もはや例外という言葉で済ませられるレベルではない。何か特別な奇跡が折り重なっているとしか思えない。

(奇妙な予感がしたから、無理を言って早めに駆けつけてみたが……同僚たちがこの光景を見たら、果たしてどんな反応をするだろうかな?)

 ある意味、それを実際に見てみたい――殆ど現実逃避に等しい気持ちのまま、ディオンは苦笑するのだった。


 ◇ ◇ ◇


 昼食を終えたマキトたちは、リビングにて子ドラゴンのことを話していた。
 最初はきょとんとしていていた子ドラゴンも、自分の故郷がどこにあるかについての話だとマキトから教えられるなり、真剣な表情で耳を傾けている。
 しっかりと手懐けているもんだとほくそ笑みながら、ディオンは語った。

「オランジェ王国に、竜の山という場所がある。そこで最近、異変が生じているとの情報があった。もっとも詳しくは、まだ調査されていない状態らしい」
「じゃあ、ドラゴンちゃんはその竜の山という場所から?」
「まだ、断定できるワケじゃないがな」

 ラティの問いかけに苦笑しつつ、ディオンは続ける。

「そして同時期、人間族の盗賊らしき集団が、怪しげな態度でウロウロしている姿も確認されているそうだ。まるで何かをこっそり運んでるかのようにな。数日かけて国境を渡り、この近くまで移動していたそうだ。そして……」

 ディオンが子ドラゴンに視線を向ける。

「それから程なくして、そのおチビ君がこの森で保護されたという感じだ」
「時系列的に辻褄は合っていると?」
「そういうことになります」

 神妙な表情のユグラシアに、ディオンも小さく頷いた。あくまで確定してはいない状態だが、殆どそれに等しいレベルだと、二人は心の中で思っていた。

「仮にそれが正しければ、この子は相当長い距離を移動させられてきたということになるわね」
「えぇ。よくもまぁ、元気に生き延びていたもんですよ」

 ユグラシアとディオンの表情に、怒りが宿る。特にディオンは、ドラゴンを相棒に持つ身として、より許せない感情が湧いてきて仕方がない。

「――コイツの故郷の山には、魔力スポットがあるらしいんだ」

 マキトが子ドラゴンを抱きしめる力を強めた。

「今朝、近くの隠れ里へ連れてった時に、コイツがそう話してくれた。山の頂上に同じようなのがあるって」
「そうか……だとしたらこりゃあ、ビンゴかもしれないぞ」

 ディオンは顎に手を当て、軽く目を見開く。

「その山はたくさんのドラゴンたちが住処としているため、人が無暗に立ち入れるような場所じゃない。でも俺たちドラゴンライダーは例外として、何回か足を運んだことがある。そこには確かにあったよ――魔力スポットがな」
「確かドラゴンちゃん、ある日お父さんたちから、無理やり山を追い出されたって言ってましたよね?」
「くきゅっ!」

 確認してくるラティに、子ドラゴンが鳴き声とともに頷いた。話のピースが揃ったことを感じながら、ユグラシアは神妙な表情を見せる。

「この子の親が異変を察知して、子供だけでもと逃がしたのでしょう。そこを運悪く盗賊に見つかり、捕まってしまったのね」
「えぇ。俺もそう思います。仲間たちが集めた情報と一致する部分も多いですし、まず間違いはないかと」

 ディオンは頷き、そしてゆっくりと立ち上がった。

「この件につきましては、こっちでなんとかしてみせます。ドラゴンライダーとしての底力を、今こそ見せてやりますよ」
「よろしくお願いするわね」
「はい。そのおチビ君も俺のほうで預かります。必ずや親御さんを探して、元の住処で一緒に暮らせるようにします。さぁ――俺と一緒に行こう!」

 そしてディオンは、子ドラゴンに向けて両手を差し出した。その爽やかな笑顔からは敵意を一切感じさせない。これならばドラゴンも安心できるはずだと彼は確信していた。

「……くきゅっ!」

 しかし子ドラゴンは、ディオンを一瞥するなり、アッサリと視線を逸らした。
 ディオンは両手を広げたままピシッと笑顔のまま硬直し、リビングにはなんとも微妙な空気が流れる。
 流石のマキトも気まずそうな表情を浮かべ、自身の胸元に引っ付いている子ドラゴンを見下ろす。

「なぁ、チビスケ。ディオンさんはお前の味方だよ。この人と一緒に行けば、お前は故郷へ帰ることができるんだ」
「そうなのです。お父さんやお母さんも助けてくれるのですよ」
「くきゅっ! くきゅくきゅくきゅーっ!」

 マキトとラティが説得するも、子ドラゴンは受け入れる様子がなく、マキトの服に強くしがみついてしまう。
 子ドラゴンの声を聴いたラティが、これまた気まずそうにマキトを見る。

「えっと、その……マスターと離れるのやだーって……」
「コイツが言ってるのか?」

 問いかけるマキトに、コクリとラティが頷く。改めて視線を下ろすと、子ドラゴンが潤んだ目で訴えるかのように、ジッと見上げてきている。
 試しに自身から離そうとしてみたが、その度に子ドラゴンが力を込める。
 絶対に離れてやるもんかと、そう言わんばかりであった。

「はは……こりゃ、俺じゃあ絶対に無理だな」

 ディオンは諦めの意味を込めて苦笑し、肩を大きくすくめる。

「マキト君がおチビ君を連れて、竜の山へ向かうしか方法はなさそうだ」
「……俺?」
「ん。マキトしかいない」

 呆然としながら自分を指さすマキトに、ノーラが満足そうな笑みを浮かべる。

「大丈夫。ノーラやラティたちもちゃんと付いていく。寂しくなんかない!」
「そうなのですよ、マスター! わたしたちにお任せなのですっ!」
「キュウッ!」
『うん。いまこそぼくたちのちからをみせるとき!』

 ノーラに続き、ラティたち魔物もやる気満々であった。もはや話は決まったも同然の雰囲気を醸し出しており、マキトも答えは一つしかないと思った。

「――分かったよ」

 ため息交じりに頷き、その声を聴いた子ドラゴンもきょとんとしながら、しがみつく力を緩める。そしてマキトは気を取り直して表情を引き締め、強気の笑みを浮かべながら、子ドラゴンを正面に抱え上げた。

「チビスケ。俺たちがお前を、竜の山まで連れてってやるからな」
「くきゅ……くきゅーっ♪」
「わぷ、ちょ、急に飛びついてくんなって!」

 嬉しくなって顔面に抱き着く子ドラゴンに、マキトはてんやわんやする。その様子を周りが楽しそうに見守る中、ディオンがユグラシアに言う。

「ユグラシア様。マキト君たちの引率は、俺が責任をもって引き受けますから」
「はい。よろしくお願いします」

 スッと立ち上がり、ユグラシアは丁寧な態度で深々とお辞儀をする。
 かくしてマキトたちは、森の外へ旅に出ることが決まった。
 森からの馬車は出払ってしまっている状態だったが、獣に変身したフォレオに乗っていけば大丈夫だということで、足の問題も難なく解決したのであった。

 そして翌日――マキトたちはフォレオに乗り、ディオン先導の下、竜の山を目指して旅立つのだった。

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