上 下
105 / 252
第三章 子供たちと隠れ里

105 それぞれの夢

しおりを挟む


 サミュエルとメラニーの魔法ショーは大盛況という形に終わった。
 魔物たちも解散し、マキトたちはのんびりと雑談を楽しむ。この隠れ里に来てからの行動と、それぞれの夢について語っていった。

「へぇ、じゃあリリーは、その病気のスライムを助けてたんだ」

 リリーが解熱ポーションの錬金を頑張っていたことを知り、メラニーが軽く驚きの表情を見せる。

「アンタがそこまで頑張ったのって、もしかして初めてなんじゃない?」
「……かもね」

 恥ずかしそうにリリーがはにかんだ。

「自分でも驚いてるよ。とにかく夢中だったんだ。なんとか助けたいって」
「でも、その甲斐はあったんでしょ? 今まで作った中で、最高の出来栄えになったって聞いたけど」

 サミュエルにそう尋ねられたリリーは、手を左右に振りながら苦笑する。

「あくまで質は普通のだよ。プロの錬金術師なら簡単に作れちゃうレベルだもん」
「それでも、今のリリーの腕で一番ってのは確かなんだろ? だったらそれは凄いことなんじゃねぇのか? もっと自信を持てよ」

 ジェイラスがニカッと笑うと、サミュエルとメラニーも笑顔で頷く。それは気遣いでもなんでもない、本当にそう思っているが故の表情であった。

「その話を聞いたときは驚いたけど、今はお前のことを見直してるんだぜ? ずっと俺たちの後ろに隠れているだけのヤツだと思ってたからな。意外といい根性してるんじゃねぇか」
「そうね。リリーにとって、いい成長になったのも確かなんじゃない?」
「……うん、ありがと」

 ジェイラスに続いてメラニーからの言葉に、リリーは嬉しそうに笑った。そして表情を引き締めつつ、今の素直な気持ちを口に出す。

「今回の件で改めて思ったんだ。たとえ魔物さんが相手でも、助けられるなら助けてあげたいって。それができるように、私は【回復色】の錬金術師として、ポーションを極めていきたいの」
「それが、新しく抱いたリリーの夢ってこと?」
「うん!」
「――そっか」

 迷いなく頷いたりリーに、メラニーは優しい笑みを浮かべる。そして彼女も、改めて自分の目指す道を思い描いていく。

「あたしも、もっと炎の魔法の腕を磨いて、お母さんを越える魔導師になる。そしてさっきみたいに、魔物ちゃんたちを笑顔にさせるのも、アリかなってね」
「僕の夢は決まっているよ。目指すは宮廷魔導師さ!」
「……サミュエルもブレないわねぇ」
「当然じゃないか♪」

 呆れた表情を浮かべるメラニーだったが、サミュエルはそれに気づいていないかのように、誇らしげに胸を張った。

「将来はエステルさんの後継者として、シュトル王国に――いや、全世界中に、僕の名を轟かせてやるのさ! 夢を持つなら、でっかく持たないとってね!」

 握り拳を掲げ、熱く語るサミュエル。いつもの勢いに乗った口調ではあったが、本気で言っていることは、幼なじみ組にはよく分かっていた。
 故にメラニーも、ここでは流石に、適当にあしらうつもりはなかった。

「いいんじゃない? アンタはヘタレだけど、魔法の腕は確かだし」
「そうそう。僕はヘタレ――って、ヘタレは余計だと思うんですけどねぇ!?」
「……ますますノリツッコミに磨きがかかってきてない? それこそ、どうでもいいにも程あるけど」
「なっ、なにおうっ!?」

 しかし結局いつものやり取りと化してしまう。幼なじみクオリティと言えばそれまでかもしれないが、果たしてそれでいいのかどうかは疑問でしかない。
 もっとも、彼ららしいと言えば、それもまた言い得て妙なところではあるが。

「さぁて、次はいよいよ、俺様の語る番だな」

 ジェイラスが鼻息を鳴らしながら、意気揚々と切り出した。

「俺様の夢は、勿論――」
「誰よりも強い最強になりたいんでしょ?」
「小さい頃からずっと言い続けていることだもんねぇ……聞かなくても分かるよ」

 誇らしげに語り出した瞬間、メラニーとサミュエルに割り込まれ、ピタッと表情ごと動きを止める。
 そして忌々しそうに、ジェイラスは二人を睨みつけるのだった。

「ぐっ、勝手に口を挟むんじゃねぇ! それにそんな単純じゃねぇんだ!」
「じゃあどんな夢なんだ? 強くなりたいとかじゃないってこと?」

 黙って聞いていたマキトが尋ねる。彼の胸元に抱きかかえられたフォレオも、どうなのと言わんばかりにコテンと首を傾げていた。
 それに対してジェイラスは、熱が冷めるかの如く落ち着きを取り戻す。

「最強になりてぇってのは間違っちゃいねぇよ。ただ単純に誰かを倒して勝つだけじゃダメってことだ」
「――キィ?」

 ジェイラスに視線を向けられたスライムが、どうしたのと尋ねる。それを見た彼は小さな笑みを深め、そして改めて拳をグッと握り締めた。

「魔物たちとも戦いつつ、ときには分かり合えるような真の最強――そんな男に、俺はなりてぇのさ」
「……それが、今日の経験を経て、キミが考えて出した結論ってことかい?」
「あぁ。断じてその場のノリで考えたワケじゃあねぇ」

 重々しく頷きながら答えるジェイラス。それだけ彼が真剣であることは、サミュエルやメラニー、そして他の皆にもしっかりと伝わっていた。
 そんな中、マキトは一つの疑問を浮かべていた。

「やっぱり大工にはならないのか?」
「――あぁ」

 ジェイラスは強い意志を込めて頷く。

「やっぱり俺は、冒険者の道を突き進みてぇんだよ。誰がなんと言おうが、これだけは絶対に譲れねぇんだ。けどよ――」

 そして、汲み上げたばかりのブランコに視線を向ける。

「大工そのものについては、別に悪いもんでもねぇ……少しはそう思えたぜ」

 えっ――という声が、数人同時に発せられた。ジェイラスが顔をしかめながら視線を向けてみると、幼なじみたちがこぞって硬直し、目を見開いていた。

「……んだよ?」
「いや、なんてゆーか……凄い気の変わりようだなぁって思ったのよ」

 メラニーがそう言うと、サミュエルとリリーも揃ってうんうんと頷く。

「確かにねぇ。仇のように恨んでいたくらいだったし」
「私も経緯は聞かせてもらったけど、未だに何があったのって思っちゃうよ」
「テメェらなぁ……」

 幼なじみたちの反応に苛立ちを募らせるも、ジェイラスはそこで怒りを爆発させることはなかった。息を整えつつ、どこか釈然としない表情を浮かべる。

(まぁでも、実際俺も、何でそう思えたのかは分からねぇんだよな。けど……)

 ジェイラスはマキトたちとスライムに視線を向ける。

(コイツらに出会えたから、ってのはあるかもしれねぇな)

 スライムと派手に喧嘩をしなかったら、マキトたちにくっ付いて隠れ里まで来ることがなかったら――果たして今と同じ考えに至っただろうか。
 少なくともジェイラスには想像もつかないし、考えても考え切れなかった。
 ジェイラスは気を取り直しがてら、いつも自分たちの傍にいるはずの人物にも質問することにした。

「なぁ、アレク。オメェはやっぱり、って――そういや、アイツいねぇな」

 周囲を見渡すジェイラスに、その場にいた全員がはたと気づく。
 幼なじみたちも顔を見合わせるが、アレクの姿は誰一人見ていない。それはマキトたちも同じであった。

「ふぅむ、この里は広いからのう。迷子になってなければいいが……よし!」

 ずっと黙って話を聞いていた長老ラビットが、ピョンと前に躍り出た。

「里の魔物たちに、見つけたら知らせるよう頼んでおこう」
「あぁ、頼む。俺たちも探しに行こうぜ!」

 勢いよく立ち上がるジェイラスに、幼なじみたちは表情を引き締めて頷く。その姿を見たマキトとラティたちが無言で頷き合い、ジェイラスを見上げる。

「俺たちも手伝うよ」
「みんなで探せば早く見つかるのです」

 マキトとラティの声に続いて、ノーラやロップル、そしてフォレオも、やる気に満ちた表情を見せていた。
 それに対して心強さを覚えたジェイラスは、マキトたちに笑みを向ける。

「すまねぇ、恩に着るぜ!」

 そしてマキトたちは、アレクを探すべく動き出すのだった。
 何か面倒なことが起きなければいいけど――そんな淡い期待を込めながら。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一
ファンタジー
 健康マニアのサラリーマン宮原優志は行きつけの健康ランドにあるサウナで汗を流している最中、勇者召喚の儀に巻き込まれて異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先の世界で勇者になるのかと思いきや、スキルなしの上に最底辺のステータスだったという理由で、優志は自身を召喚したポンコツ女性神官リウィルと共に城を追い出されてしまった。  しかし、実はこっそり持っていた《癒しの極意》というスキルが真の力を発揮する時、世界は大きな変革の炎に包まれる……はず。  魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ! 【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】  ※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

処理中です...