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第三章 子供たちと隠れ里

099 変身お披露目の結果

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「こ、これはまた……」

 ラティの華麗なる変身に、流石の長老ラビットも驚きを隠せない。

「ワシも話には聞いておったが……まさか本当じゃったとは」

 実のところ、連絡を受けた際も半信半疑であり、相当話を盛っているのだろうとすら思っていたほどだった。
 妖精がヒトと同じくらいの姿に変身する――それを予備知識もなく真っ向から信じろというのも、無茶な話と言えなくもないとは思われるが。

「マジで!? あんな小っちゃかった妖精が……うえぇーーっ!?」
「信じられない。夢でも見てるとかは……ないわよね?」

 サミュエルとメラニーも、口をあんぐりと開けて呆然としている。いくら妖精に対する情報が殆どなく、何かしらの不思議さがあると思っていたとはいえ、これは流石に予想外だと言いたくて仕方がなかった。
 そんな彼らの様子を見たラティも、少し申し訳なさそうに苦笑する。

「あやや……驚かせすぎちゃったみたいなのです。それでは、っと……」

 ラティは目を閉じて集中すると、再び体が光り出し、元の小さな妖精に戻った。それはそれで初見の者たちを驚かせる中、マキトたちも別の意味で驚いていた。

「へぇ、自分で元に戻れるようになったんだ?」
「そうなのです。もう変身した後に眠っちゃうこともないのですよ」
「ん。ラティのパワーアップは、無事に大成功。実にめでたい」

 ノーラがラティの小さな頭をよしよしと撫でる。嬉しくなったラティは、えへへと蕩けるような笑みを浮かべた。

『よーし、それじゃぼくも、おひろめたーいむ!』

 ラティと同じく、魔力をたっぷりと吸収していたフォレオも、気合いを込めて変身を始める。森で行った時よりもスムーズに姿形を変え、あっという間にその姿が披露されるのだった。

『どうどう? すごいでしょー♪』

 声だけ聞けば変身前と全く同じだが、その姿は前よりも更に凄くなっており、マキトたちを驚かせた。

「凄いじゃないかフォレオ。今までの変身よりも大きくなってる!」
「ん。少なくとも一回りは大きくてたくましい。魔力が上手く馴染んでる」
『えへへー♪』

 フォレオも嬉しそうに笑い、元の小さな霊獣の姿に戻る。それをノーラが優しく抱き上げ、頭を撫でると、フォレオも気持ち良さそうに身をよじらせた。
 するとそこにロップルも駆け寄ってくる。ロップルも魔力を吸収して、能力が強化されたことが、ラティの通訳により明かされるのだった。

「魔力スポットでパワーアップに成功……目的は達成された感じだな」
「ですね♪」

 マキトの言葉にラティが嬉しそうに頷いた。

「この力をいつでも使いこなせるよう、もっと精進するのです!」
『ぼくもがんばるよー!』
「キュウッ!」
「ん。皆その意気。ノーラも応援する」

 魔物たちが嬉しそうに声を上げ、マキトとノーラも笑顔になる。長老ラビットも良かった良かったと、微笑ましそうに見守る隣で、サミュエルとメラニーは、未だ驚きから解放されることなく、口を軽く開けて呆けていた。

「あの妖精ちゃんも、何かしらの特別な力があるとは思ってたけどさぁ……」

 メラニーが棒立ちのまま呟いた。

「まさかスタイル抜群な大人のお姉さんに変身しちゃうなんて、予想外にも程があるってもんよね」
「全くだよ」

 メラニーとサミュエルが、揃って大きなため息をつく。
 フォレオの変身だけでも凄いと思っていたのに、まさかラティまでとは――改めて見ても、やはり小さな妖精や霊獣の姿から、勇ましい狼や色気溢れる大人の女性に結び付かない。
 世の中には不思議な存在がたくさんあるということは聞かされていたが、こうして実際に出くわすとは思いもしなかった。

「はぁ……世界が広いってことなのかしらねぇ」
「僕たちが冒険者になったら、もっとたくさん知ることができるんだろうね」
「想像もつかないわ……それはそれでちょっと楽しみだけど」

 メラニーがそう言った瞬間、サミュエルがニンマリと笑みを浮かべる。

「気が合うね。僕もだよ♪」
「アンタとだけは気が合いたくないわね」
「なっ、なにおう?」

 サラッと言ってのけるメラニーに、サミュエルが噛みつく。もはや出会ったばかりのマキトたちですら、何回も見てきた光景であった。

「ふぅむ……見たところ、本気でいがみ合っておるようではなさそうじゃが……」

 長老ラビットが、二人の様子を冷静に分析する。そしてたまたま傍にいたノーラに問いかけた。

「あの二人は恋の関係にでもなっておるのか?」
「ん。可能性は高い。あーゆーラブラブ仲良しも珍しくはないから」

 その瞬間、二人の動きがピタッと止まる。そしてサミュエルが、顔を真っ赤にしてズカズカと向かってきた。

「なっ、なななな何言ってんだよ!? そんなバカなこと――」
「やーねぇ。別にそんなんじゃないわよぉ♪」

 必死に否定するサミュエルに被せる形で、メラニーがケラケラと愉快そうに笑いながら言う。
 照れ隠しなどではなく、本当に心の底からそう思っているが故の笑顔。馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに本気で笑っている――それをマキトたちも、無意識に感じ取ったのか、唖然としながらも頷いた。
 そして――

「……なんだよぉ。そんなハッキリ言わなくてもいいじゃんかよぉ」

 サミュエルもそれを感じ取り、本気でいじけていた。メラニーとは単なる喧嘩友達という認識であるが、年頃故に少しだけ期待していたのだろう。だからこそ彼女の反応に、それ相応のショックを受けたのだった。
 女の子と一緒に居るのに、なんで自分はモテないんだ、と。
 サミュエルは気づいていないが、これもまた一種の『弊害』と言えるだろう。
 幼馴染として、常に一緒に過ごしてきた。当たり前すぎるが故に、そういった認識に辿り着かないのだ。
 残念ながら、よくある話と言わざるを得ない。
 仮にそれをサミュエルに告げたところで、余計なダメージを与えるだけなのは間違いないだろうが。

「まぁ、とにかく……良かったわね。魔物ちゃんたちがパワーアップできて」

 メラニーは気を取り直しがてらマキトたちに声をかけた。いつまでも驚いていたところでどうにもならないと、そう思ったのだった。

「あたしもここで少し魔力を浴びていくわ。何かご利益があるかもだし♪」
「ぼ、僕だって浴びるぞ! もしかしたら何か凄い魔法を得て、アレクたちをアッと言わせられるかもしれないからなっ!」
「アンタじゃ無理よ」
「なにおう!?」

 再びいがみ合う二人――否、からかってくるメラニーに、サミュエルが突っかかる構図が再び出来上がってしまった。
 楽しんでいるのかどうかはともかくとして、周囲からしてみれば、ため息をつきたくなる以外の何物でもない。

「仲がいいのか悪いのか、よく分からん二人じゃのう」

 呆れた様子で言う長老ラビットに、マキトたちは揃って確かにと頷いた。
 最初からしてきたことだが、いちいち相手にするつもりはない。ついでに言えばこの光景を、律儀に見届ける気すらなかった。

「……ひとまずワシは見回りに向かうぞ。お主たちは好きに過ごすがよい」

 そう言い残して、長老ラビットはさっさと走り去ってしまった。
 マキトもノーラや魔物たちと無言で頷き合い、何食わぬ顔で歩き出し、魔力スポットを後にする。
 何かしらの言い合いをしている二人の声は、しばらくの間、聞こえ続けていた。
 そしてそんな二人に気づかれないまま、マキトたちは隠れ里の入り口の広場まで歩いて戻って来た。

「さてと……ここからはのんびりと、あちこち散策でもしてみようか」
「ん。何があるのか楽しみ」

 マキトの提案にノーラが頷く。まずはどこから行こうか、皆で周囲を見渡していたその時であった。

「ピキィ、ピキィーッ!」

 里で暮らしている一匹のスライムが、切羽詰まった様子で飛び跳ねてくる。
 どうやら只事ではなさそうだ――そう思ったマキトたちは顔を見合わせ、無言で頷き合うのだった。

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