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第三章 子供たちと隠れ里

094 増える同行者

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「キュー、キュイッ!」

 一匹のホーンラビットが茂みの中から姿を見せる。そしてノーラの姿を確認し、彼女の元へ一直線に駆けていった。

「ん。戻ってきた」

 ノーラもそれに気づき、飛び込んできたホーンラビットを出迎える。角に気をつけながら抱きかかえ、毛並み豊かな体を優しく撫でた。
 ホーンラビットも気持ち良さそうにしており、その光景がアレクたちを改めて驚かせている。

「……なんか、ノーラちゃんのペットみたいな感じだね」
「ん。ペットじゃないけど仲良し。だから似たよーな感じ」

 語りかけるリリーにノーラが淡々と答える。それ以上の会話は続かず、リリーは少しだけ気まずい気持ちに駆られた。
 一方ノーラは、それを気にも留めずに、胸元のホーンラビットに視線を落とす。

「そんなことより、見つかった?」
「キュイッ!」

 ホーンラビットが自信満々に返事をする。そして鳴き声で語り出し、それをラティがふんふんと頷きながら聞く。

「そこの長老さまに許可をもらったから案内する――って言っているのです」

 ラティの言葉にアレクたちが反応を示す中、マキトが尋ねる。

「ってことは、近いのか?」
「多分、最初の隠れ里と同じくらいかと」
「遠くはなさそうだな」
「ですね」

 ラティがニッコリ笑顔で頷くと、ホーンラビットがズイッと頭を伸ばす。

「キュキュイッ、キュイキュイ!」
「あぁ、そうですよね。探してくれて助かったのです」
「ありがとうなー」

 ラティに続き、マキトも優しく体を撫でながら礼を言う。頭の角が一気に近づいてきて驚いたのはここだけの話だ。

「マキト、早く行こ」
「そうだな。じゃあ早速案内を――」

 ノーラに促され、動き出そうとマキトが立ち上がった、その時であった。

「――なぁ。お前ら、これからどこかへ行くのか?」

 ジェイラスが腕を組みながら尋ねてきた。振り向いていると、アレクたち四人も無言のまま、そうなのかと問いかけてきている感じがしてならなかった。

「俺たちもこの森を探索してるんだが、どこへ行こうか決めてねぇ感じでよ。なんかさっき『隠れ里』なんて面白そうな言葉も聞こえたし、ちょいとばかし興味が湧いちまってんだよなぁ」
「あー……」

 余計なことを口走ったかなと、マキトは少しだけ後悔する。秘密の場所へ行こうとしているのは確かであり、口止めこそされていないが、あまり他人に話さないほうが良さそうであるとも思ってはいた。
 すると――

「ん。魔物たちの隠れ里へ行こうと思ってた。そこには魔力スポットもある」
『魔力スポットぉ!?』

 ノーラがサラリと答えてしまい、そのまさかの回答にアレクたち五人は、驚きで大きな声を揃えてしまう。
 一方、マキトはマキトでノーラに対して戸惑っていた。

「お、おい、ノーラ……そんなあっさりと喋っちゃっていいのか?」
「別に構わない。隠すほうが面倒」
「面倒って……まぁ、そりゃ確かにそうかもだけど……」
「ここでのんびり目立つようなマネもしてたし、迂闊だったことは間違いない」
「うーん、それを言われちまうとなぁ……」

 確かにノーラの言うとおりではあった。
 もう一つの隠れ里の場所を探してもらうよう、森の魔物たちに頼んでいた。マキトたちがここにいたのは、その情報待ちだったのである。
 しかしいつ情報が来るか分からない。故に暇を潰す意味も兼ねて、森の魔物たちとのんびり遊び始め、気がついたらいつものように、魔物たちに埋もれてまったりするという状況となっていた。
 滅多に人なんか来ないから大丈夫――そう高を括っていたのも確かだ。
 やはり迂闊だったと言わざるを得ないだろう。

「魔力スポット……僕も話には聞いたことあるが……」

 アレクが顎に手を当てながら、驚きに満ちた表情でため息をつく。

「本当にそんなのが存在しているんだな」
「昔の冒険者が、場を盛り上げるために作ったおとぎ話じゃなかったのね」
「流石に予想外だよ」

 メラニーとリリーも、信じられないと言わんばかりの驚きとともに頷き合う。サミュエルも「歴史的発見だ……」とか呟きながら笑っており、不気味と表現するのがぴったりな姿であったが、何故か誰も相手にしようとすらしていない。

「へぇ、なんか面白そうじゃねぇか。俺も一緒に行くぜ!」

 ニカッと笑いながら、ジェイラスは言う。

「見たことがねぇもんを見に行く……これぞまさしく、冒険の醍醐味ってヤツだ。お前らもそう思うよな?」
「――あぁ」

 周りが戸惑う中、アレクがフッと小さく笑いながら頷いた。

「折角こうして探索に来たんだ。俺としても未知のモノを見てみたいな」
「だよな。流石は俺たちのリーダーだぜ♪」

 ジェイラスが調子良さそうに笑う。実際のところ、理屈は殆ど建前に等しい。ようやく冒険らしい冒険ができそうでワクワクしているというのが、彼らの中で一致している気持ちであった。
 そしてそれは、なんだかんだで他のメンバーにも言えることでもあった。

「僕も賛成だねっ! 一流の魔導師を目指す者としては、魔力スポットを是非とも見ておきたいし」
「今回ばかりは、あたしも同意見。なんだか面白くなりそうだね、リリー♪」
「う、うん……そだね」

 サミュエルとメラニー、そしてリリーがそれぞれ発言する。リリーに至っては、周りに呑まれている感が強いように見えるが、隠れ里という存在に興味を抱いていることも確かであり、行きたいという気持ちに嘘はない。

「決まりだな。僕たちも隠れ里へ同行させてもらおうじゃないか!」
『おぉーっ♪』
「お、おー……」

 アレクの力強い掛け声に、ジェイラスとメラニー、そしてサミュエルが、元気よく拳を突き上げる。リリーも恥ずかしそうに顔を赤らめつつ、控えめに拳を掲げて返事をしていた。
 そんな盛り上がりを見せる五人の姿に、マキトたちは冷めた視線を向けていた。

「……なんか一緒に来るみたいだな」
「うるさいのは勘弁なのに」
「でも、言ったところで聞くような人たちにも思えないのです」
『だよねぇー』
「キュウ」

 マキトと魔物たちは、こぞってため息をつく。騒がしい連中が付いてくるのは避けられない――そんな諦めの気持ちを込めてのものだった。

「まぁ、いっか。とにかく隠れ里へ行こうぜ」
「そうですね。ホーンラビットさん、道案内をよろしくお願いするのです」
「キュイ♪」

 ホーンラビットが片手――片足というべきか?――を上げながら、返事をする。そして意気揚々と動き出したその瞬間――茂みが動き出す。

「ん?」

 ――ドサアァッ!
 大きな影が茂みから飛び出し、マキトたちの前に着地する。
 空気が変わった。
 やや戸惑いの入り混じった明るい空気が、一瞬にしてピリッと張り詰めた緊張のそれと化してしまった。
 森の魔物たちの殆どは、その場から逃げ出している。残っているのは、案内役を務めようとしていたホーンラビットと、ジェイラスとケンカをしていたスライムぐらいであった。
 無理もない話だろう。飛び出してきたのは紛れもない魔物――それも体だけは大きい部類に入る、アースリザードだったのだから。

「ア、アースリザード? 狂暴性が強くて危険だと言われている魔物だぞ!」

 流石のアレクも、若干の恐怖を感じていた。メラニーがリリーを庇うようにして前に出るも、足はすくんでいる。ジェイラスも拳を構えてはいるが、普段の強気な様子は出しきれていない。サミュエルは完全に震えており、言葉を発する余裕すら見られなかった。
 そんな中、マキトとノーラ、そしてラティたち魔物は、驚きこそすれど比較的冷静な態度を示していた。
 特にマキトは、アースリザードを見て、即座に疑問を抱くほどであった。

「お前……もしかして、あの時のアースリザードなのか?」

 マキトが問いかけると、そのとおりだと言わんばかりに、アースリザードが鳴き声で何かを語る。
 それを聞き取ったラティは、マキトに通訳した。

「ここで会ったが百年目、お前たちを地獄へ送ってやる――だそうなのです」

 明らかにうんざりとした声であった。マキトも恐怖は抱いておらず、またかよと言わんばかりに、深いため息をつくのだった。

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