91 / 252
第三章 子供たちと隠れ里
091 ヒトの世界、魔物の世界
しおりを挟む「妖精と霊獣をテイムした【色無し】の魔物使い……ホントにいたんだ」
メラニーの呟きは、五人の子供たち全員が一致させていた気持ちでもあった。
森の中で遭遇した少年が、噂に聞いた人物そのものだった。まさか本当にいたとは思わなかったと、驚きを隠せない。
それだけ信じていなかったことを意味するのだが、無理もないと言えるだろう。
野生の魔物が懐くか否かはともかくとして、滅多にお目にかかれないと言われている妖精や霊獣を次々と従えるなど、信じるほうが馬鹿馬鹿しいと思うのは、至って自然なことだからだ。
無論、マキト自身にそんな自覚は微塵にもなかったが。
「ハ、ハハッ……ぼ、僕を騙そうとするなんて、いい度胸じゃないか」
サミュエルは無理やり笑顔を取り繕い、震えた声で言う。
「その群がっている魔物たちも、きっとマキトが小さい頃から育ててきた魔物に違いないさ。いや、きっとこの森に住んでいる全ての魔物がそうなんだよ! 野生の魔物がヒトに懐くなんてあり得ないからね! アレクだって、こんな光景は見たことがないだろう!?」
「た、確かに……少なくともシュトル王国では、見たこともないな……」
くわっと見開かれた目で問いかけてくるサミュエルに、アレクは思わず押されながらも頷いた。
目の前の光景は、にわかにも信じがたい。何か裏があるのではないか――むしろそうであってほしいと願いたくなる。それぐらいアレクも、内心では戸惑いに満ちていたのだった。
「けどよぉ……」
しかしそこに、腕を組みながらジェイラスが首を傾げてきた。
「冒険者のパーティが、森で魔物狩りをして帰ってきたところを確かに見たぞ?」
「あ、あぁ、そう言えばそうだったな」
ネルソンたちに連れられて、森の村に入った時だった。冒険者パーティが、巨大な猪の魔物を仕留め、どうだ凄いだろうと意気揚々と笑っていたのだ。
――突然襲い掛かって来てビビっちまったが、このとおり仕留めてやったぜ。
確かにそう言っていた。
シュトル王国でも度々見かけられた光景であり、この森でも冒険者は活発に活動しているんだと――そう思ったのだった。
「ということは、サミュエルの理論は成り立たない……ということか?」
「あたしでもそうとしか思えないわね」
戸惑うアレクの問いかけに、メラニーが同意する。
「どうやってあんなでっかい魔物を仕留めたのか、この目で見てみたかったって思っちゃったわよ」
「ちょ、ちょっとメラニー! よりにもよってここでそんなこと……」
「――あっ!」
リリーに慌てて指摘されたところで、メラニーもようやく拙いことを口走ってしまったと気づいた。
理屈はどうあれ、魔物たちとまったりと仲良くしている場面なのは確かだ。下手をすれば、自分たちがここにいる魔物を仕留めようと思われかねない。むしろそう判断するのが自然だとすら思えてくる。
しかし――
「確かに、でっかい魔物さんを仕留める人って凄いのです」
「どうやって仕留めてるんだろうな?」
「ある意味不思議なこと」
「キュウッ」
マキトたちも、そしてラティたち魔物も、気にしている様子はなかった。むしろメラニーの意見に同意すらしている。
そんな、なんともあっけらかんとしている反応に、メラニーは戸惑っていた。
「ね、ねぇ……あたし、アンタたち魔物を倒すみたいな発言したんだけどさ……」
恐る恐るメラニーが尋ねると、ラティがきょとんとした表情で振り向く。
「えぇ、それがどうかしたのですか?」
「どうかしたって……その、なんか嫌な気分にさせたかなって……」
視線を右往左往させ、しどろもどろになるメラニー。
それに対して、ラティは――
「気にすることはないのですよ。魔物の世界では、弱肉強食が基本ですから」
笑顔であっけらかんと答えるのだった。
「確かにわたしからすれば、魔物さんは立派な同胞なのです。でも倒されたからといって、倒した相手を恨むことはしないのです。倒された魔物さんが弱かっただけの話なのですから」
例え罠に嵌められようと不意打ちを受けようと、倒されたほうが負け。倒されずに逃げるか返り討ちにするかすれば勝利――それだけの話である。
これはロップルやフォレオも、全くの同意見であり、その場にいる魔物たちの総意とも言えていた。
故に、メラニーの言葉で嫌な気分になることは決してない。
そんなドライさを見せつけた魔物たちに対し、アレクたちは改めて驚いてしまうのだった。
するとここで、サミュエルがハッと気づいた反応を示す。
「で、でもでもっ! それと魔物たちが懐くことは別問題だよねっ! 話をすり替えようとしたってそうはいかないよっ!!」
サミュエルはそう捲し立て、改めてマキトにビシッと指を突き立てた。
「そうやって魔物が懐いているのは、キミが小さい頃から魔物を育ててきているからじゃないと――本気でそう言うつもりか!?」
「うん」
険しい表情で糾弾するように叫ぶサミュエルに対し、マキトはあっさりと頷く。
「だって俺、この森に来たの、ついこないだのことだし」
「言いがかりもいいところなのです」
「キュッ」
『しつれいなひとだよね』
ラティとロップル、そしてフォレオまでもが、半目でサミュエルを睨む。その圧を感じた彼は、軽く息を飲みながら身を硬直させた。
するとここでラティが、ふんっと息を鳴らしながら口を開く。
「マスターが魔物さんに懐かれているのは、マスターの魔物使いとしての力が、存分に発揮されているからなのです」
「そ、その力とやらが、魔物を惹きつけているとでも?」
「なのです!」
戸惑いながら問いかけるサミュエルに、ラティが腰に手を当てながら、誇らしそうに頷いた。
「現にマスターがいなくなった瞬間、それまでのんびりしていた魔物さん同士がケンカを始めることだって、そう珍しいことじゃありませんし」
「あぁ、なんかそう言ってたよな」
マキトも話には聞いていたため、それほど驚かず苦笑していた。流石に自分が立ち去った後のことは、その目で見ることはできない。
「随分と割り切ってるのね? 争ってほしくないとかって思わないの?」
メラニーがマキトに疑問を投げかける。魔物使いであれば、魔物同士が争うのも嫌うのではないか――そんな率直な考えが浮かんでのことであった。
するとマキトもまた、軽く笑いながら答える。
「そりゃあるよ。ケンカしてるとこなんて見たくもないさ」
でも――と、マキトは続ける。
「魔物たちにとっての普通は、俺らみたいなヒトの普通とは違うんだろうから、仕方のない部分も多いって思うようにはしているよ」
どこかで割り切らないといけない――そうマキトは思っていた。魔物と心を通じ合わせることができるとはいえ、魔物は魔物であることに変わりはない。大きな考え方の違いがあることは、分かっているつもりであった。
もっともこう考えるようになったのも、ラティやユグラシアから指摘されたおかげでもあるのだが。
「……ところで、皆さんはどこから来たのですか?」
不意にラティが問いかける。それに続いて、ノーラもコクリと頷いた。
「ん。それはノーラも気になってた。この森の人じゃない感じ」
ジッとまっすぐ見つめてくるノーラの視線は、まるでアレクたち五人を射抜こうとしているかのようであった。
サミュエルやメラニー、そしてリリーは言葉を詰まらせる。
(ど、どうしよう? この子たちが課外活動に直接関係あるとは思えないけど)
メラニーの額から冷や汗が一筋流れ落ちる。
(バカ正直に言うのもなぁ……抜け出してきてることは間違いないし)
サミュエルが思わず視線を逸らす。平然を保とうと意識しすぎているが故に、表情が完全に硬直しており、むしろ違和感満載となっていることに、当の本人はまるで気づいていない。
(何も答えないのも、それはそれで怪しまれるよねぇ……)
リリーも視線を逸らしながら気まずそうにする。上手い言い訳が、全くといっていいほど思い浮かばなかった。
すると――
「俺たちはシュトル王国から来たんだ。冒険者見習いとしてね」
アレクが爽やかな笑顔でマキトたちにそう言った。
「それで今は、皆でこの森を探索している途中なんだよ。たまたま見かけたスライムを追いかけていたら、キミたちがいたってワケさ」
「へぇ、そうだったのか」
「なるほどですね」
マキトたちも、その説明にすんなりと納得する。確かに言っていること自体に間違いはない――そうこっそりと、メラニーとリリーで耳打ちし合っていた。
「それはともかくとして、マキト君。同じヒトとして忠告させてもらうけど――」
するとアレクは、突然表情を厳しくしてきた。
「そうやって魔物とばかり仲良くなるのは、正直止めたほうがいいよ」
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
めちゃくちゃ馬鹿にされたけど、スキル『飼育』と『組み合わせ』は最強中の最強でした【Return!】
Erily
ファンタジー
エレンはその日『飼育』と『組み合わせ』というスキルを与えられた。
その頃の飼育は牛や豚の飼育を指し、組み合わせも前例が無い。
エレンは散々みんなに馬鹿にされた挙句に、仲間はずれにされる。
村の掟に乗っ取って、村を出たエレン、そして、村の成人勇者組。
果たして、エレンに待ち受ける運命とは…!?
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる