透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第三章 子供たちと隠れ里

084 特訓は隠れ里の魔力スポットで

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 早朝の森は、ひんやりとした空気に包まれている。そこに日の光が差し込めば、心地良いことこの上ない。
 木漏れ日を見つけてはそこへ向かい、暖かな光を浴びる。吸収される光が、まだ完全に目覚め切っていない体を起こしてくれるような感じがしていた。
 しかし、それとは別に暖かな場所があることを、マキトたちは改めて知った。
 隠れ里の魔力スポットである。
 森の木々で、空は完全に覆われている。しかしその場所だけは、何故か心地良い暖かさが広がっていたのだ。
 前に来た時は、初めて見た驚きもあって気づかなかったのだろう。
 二度目の来訪でもある今回だからこそ、落ち着いて魔力スポットの様子を観察できるといっても過言ではなかった。

「あー、なんかあったかくていいなー、ここ」

 思いっきり両腕を伸ばしながら、マキトがうーんと声を出す。

「魔力の粒子が、森を程よく温めてくれておるんじゃよ。寒い冬でもポカポカしておるんじゃ」

 長老スライムがニコニコ笑顔で解説する。

「この隠れ里だけでなく、大森林全体が過ごしやすい環境にあるのも、他ならぬ魔力スポットのおかげなんじゃよ」
「へぇー、そうなんだ」

 マキトは頷きながら前方の光景を見つめる。
 ラティとフォレオが、魔力スポットの前でジッと目を閉じ、瞑想をしていた。魔力スポットの魔力を吸収して、自由に変身できるようにならないかどうか、確かめているのである。
 要するに、パワーアップするための修行じみたことをするために、マキトたちは朝早くに神殿を出発し、隠れ里へやってきたのだった。
 ちなみに――

「ここの魔力はホントにあったかい。天然の暖房とはこのこと。素晴らしい」
「キュウ」

 ノーラもしっかりとマキトたちについてきていた。今もマキトの隣に座り、両腕でロップルを抱きしめ、頭を撫でてモフモフ感を味わっている。
 もはや慣れてしまったのか、ロップルも大人しく受け入れるようになっていた。

「吊り橋が壊れたって聞いていたから、少し不安だった」
「あ、そう言えば直ってたな」

 何事もなかったかのように橋が架かっていたため、普通に気づかなかった。ノーラに言われなければ、気づかないままだったかもしれないほどに。

「誰かが橋を直したんだ?」
「うむ。ディオン殿率いるドラゴンライダーたちが駆けつけてくれてな。あの手際の良さは実に見事じゃったわい」

 長老スライムがしみじみと頷きながら語る。そしてチラリと、視線だけをマキトのほうに向けた。

「時にお主……近頃ユグラシア様とともに暮らし始めたそうじゃの?」
「まぁね。知ってたんだ?」
「風のウワサでな。本当かどうかは半信半疑じゃったが」
「本当だよ。アリシアが森を出ることになったから、神殿に誘ってくれたんだ」
「ん。ノーラが誘った」

 そこだけは絶対に端折ってはならない――そう言わんばかりに、ノーラが口調を少しばかり強くする。

「おかげでそれから毎日がもふもふ。実に大満足♪」
「キュウ……」

 ノーラが至福そうな様子でロップルを抱きしめると、胸元からゲンナリとしたような鳴き声が放たれた。
 結局そこに行きつくのかと、そう言わんばかりであった。

「ホッホッホッ、まぁ楽しく過ごしておるようで、なによりじゃな」

 実際、長老スライムの言うとおりではあった。
 森の神殿で暮らすようになって数日――マキトも魔物たちも、その生活にすっかり馴染んでいた。
 あれから特に大きな事件もなく、平穏な日々が続いているおかげでもあるが。

「――キュウッ!」

 ロップルが前方に手を伸ばしながら声を上げる。
 マキトたちもそれにつられて見ると、特訓をしているラティとフォレオの体が、ぼんやりと光を帯びていた。
 何かが起こっているのかとマキトが思っていたその時――

「っ、まさか!」

 ラティとフォレオの体が眩く光り出し、マキトは思わず息を飲んだ。
 この光景は、少し前にもその目で見たことがあり、今回の特訓でラティたちが目指していた結果でもあった。

「――ふぅ、成功なのですっ♪」
「ガウッ!」

 スタイル抜群な大人の女性と化したラティと、立派な狼と化したフォレオが、マキトたちの目の前に君臨する。
 アリシアが錬金した特性魔力ポーションを使わずに変身する――それをラティたちは見事成し遂げた。
 しかし――

「あや?」
「ガ、ガウッ!?」

 たった数秒で、再びラティたちの体が光り出し、元の姿に戻ってしまう。前の時みたいに、変身が解けたら眠りにつくことこそなかったが――

「……これでは成功したとは言えんかのう」

 重々しく言い放つ長老スライムの言葉が聞こえたのか、ラティとフォレオは振り向きながら、がっくりと肩を落とした。
 そしてそのままトボトボと、マキトの元へと戻って来た。

「うぅ……ちゃんと魔力スポットの魔力を取り込んだのに……」
『ちゃんとからだになじませたのにー』

 マキトにひしっと抱き着きながら嘆く魔物たち。中途半端に成功したからこそ、余計に悔しくて仕方がないのだった。

「ん。確かにそれはできていた。でもまだ全然足りてない感じ」
「そのようじゃの」

 ノーラの指摘に長老スライムが頷く。それを聞いたマキトは、頭の中にある予想が思い浮かんだ。

「ってことは、もっと魔力をたくさん吸収すればいいんじゃないか?」

 マキトがそう尋ねてみると、ラティが力なく首を左右に振る。

「多分、難しいのです。さっきもできる限り吸収してみたのですけれど、ある一定を超えたあたりで途端に魔力が入ってこなくなったのです」
『ぼくもおなじー』

 フォレオも項垂れながら言うが、意を決したように顔を上げた。

『でも、こんどはできるかも。ぼくちょっとやってみる』
「わたしもなのです。レッツチャレンジなのです!」

 そして、フォレオとラティが再び魔力スポットから魔力を浴び始めるが――

「……吸収できる感じがしないのです」
『ぼくもー』

 やはりいい結果は出なかったようであった。

「ふむ、まぁここの魔力スポットだけで解決できるほど、簡単な話ではないということじゃろうな。世の中というのは、そう甘いモンじゃないからの」

 長老スライムの言葉に、ラティとフォレオは更に肩を落とす。折角強くなれたと思ったのに――そんな期待が崩れ落ちた間隔であった。

「だったら、もう一つの魔力スポットに行けばいい」

 突如、ノーラがそう言い出した。それを聞いたマキトは軽く目を見開く。

「もう一つあるのか?」
「ん。間違いない。ユグラシアが言ってた」

 ジッとまっすぐ見上げてくる目から、嘘を言っていないことがよく分かる。まさかもう一つあったとは――マキトがそう思っていたところに、長老スライムがぽよんと軽く弾んできた。

「ふむ。ワシも聞きかじり程度ではあるが……魔力スポットごとに、発生しておる魔力は微妙に違うらしいぞ」
「ん。相乗効果に期待。別々の魔力を吸収することで、高い効果を得る」
「それができれば、ラティたちがパワーアップできるかもしれないってことか」

 可能性という名の道が開けたことで、マキトとノーラは笑みを零す。そして、この話に一番関係している、ラティとフォレオはというと――

「マスター! 早速そこへ行ってみるのです! パワーアップのためにも!」
『いこうよますたー! いますぐに!』

 物凄い勢いでマキトに詰め寄ってきたのだった。胡坐をかいて座っている状態ではあったが、あまりの迫力に背中から倒れてしまいそうになる。

「わ、分かった。分かったから、少し落ち着けって。な?」

 軽く手を掲げてラティたちをなんとか抑え、マキトは心の中でホッとする。そしてこの隙を逃すまいと、ノーラのほうに視線を向けた。

「ノーラ。そのもう一つの魔力スポットって、どこにあるんだ?」
「この森のどこかに、魔物たちの隠れ里がもう一つある。魔力スポットもそこにあるって聞いた」
「そっか。じゃあその隠れ里に行けば……」
「でも――」

 ノーラは少しだけ俯く。

「どこにあるかは分からない。この森は広いから、探すだけでもかなり大変」
「うむ。魔力スポットがあるからには、恐らくこの隠れ里と同じく、魔力による結界が張られておるじゃろう。魔物たちの住処である以上、魔物の出入りはそれほど制限されてはおらんと思われるがな」
「どのみち、簡単には見つからないってことか……」

 そもそも『隠れ里』と称するくらいだから、簡単に行ければ苦労はしない。だが全く方法がないわけでもない――それもまた確かであった。

「探すとしたら、森の魔物たちに片っ端から聞いていくのが一番じゃな。原始的な方法じゃが、下手にあれこれ手を尽くすよりかは確実じゃろうて」
「……そうする以外なさそうだな」

 長老スライムの意見に、マキトは頷く。そして勢いをつけて立ち上がった。

「よし、じゃあ早速、森の魔物たちに聞きに行こう!」
「ん。このへんの魔物たちなら、ノーラたちに協力してくれる。もしかしたら早めに見つかるかもしれない」

 ノーラもロップルを抱きしめたまま、スッと立ち上がる。

「運が良ければ今日中に見つかって、夜までに行って帰ってこれるかも」
「……そう上手くいくかな?」
「ん。可能性はある」
「だといいけど」

 軽く肩をすくめ、マキトはノーラや魔物たちを見渡す。

「とにかくやることは決まった。急ごうぜ」
「ん、行こう」
「もう一つの魔力スポット目指して出発なのです!」
『おー♪』
「キュウッ!」

 それぞれが元気よく――約一名は大人しい感じだったが――反応を示し、長老スライムに別れを告げて隠れ里を出る。
 まだ見ぬ隠れ里に思いを馳せ、ワクワクする気持ちが抑えきれない。
 そんな表情を、マキトたちは浮かべていたのだった。

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