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第三章 子供たちと隠れ里

083 ゴールデンコンビのウワサ

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「へっ、流石は俺たちのリーダーだな! どこまでもそれらしいことを言ってくれるじゃねぇかよ」

 どこか小馬鹿にしている感じを隠そうともしていない物言いだったが、そんなジェイラスに対し、アレクは気にも留めずに爽やかな笑みを返す。

「ただ気合いを入れているだけだよ。ジェイラスだってそうだろ?」
「はんっ! 俺はいつだって気合いマックスよ! 魔物でもなんでも、バンバンかかってきやがれってなぁ!」

 拳を連続で突き出すジェイラス。風を切る音が響き渡り、それだけ彼が鍛えていることが改めて分かり、アレクたちは呆気にとられる。

「……頼りになりそうでなによりだよ」
「おう、任せとけ!」

 ニカッと笑うジェイラスは、アレクが何を考えていたのかを全く読んでいない。元から人の考えなど読んだ試しがないのも、また確かではあるのだが。

「まぁでも、小さい頃から魔法を教わっていた僕からしてみれば、課外活動を乗り切るなんて楽勝もいいところだけどね」

 サミュエルが両方の手のひらを上にして掲げながら、肩をすくめる。

「全く、今から楽しみでならな――ひぃっ!?」

 ――ブウウゥーンッ!
 小さな虫が耳元を通った瞬間、サミュエルは叫び声とともに飛び退き、そのまま尻餅をついてしまう。無論、それだけのことだったのだが、一体何が起きたんだと言わんばかりにサミュエルはあちこち周囲を見渡す。
 なんとも情けない姿に、他の四人からため息が聞こえてくると、サミュエルは慌てて立ち上がった。

「なっ、い、今のは違うからね!? 凶悪な敵が襲ってきたと思って、応戦しようと身構えただけなのさ! 思わず勢いづいちゃったけど、まぁなんともなかったみたいで本当に良かったよねぇ。いやー、参った参った、あははははっ♪」

 サミュエルは必死に誤魔化そうとするも、全くもって意味を成していないことは言うまでもない。そしてそれもまたいつものことであるため、他の四人は揃って誰も真剣に聞いてすらいなかった。
 そんな状態に気づいてすらいないサミュエルは、延々と言い訳を述べ続ける。
 なんとも空しい状況であることもまた、言うまでもないだろう。

「あ、ねぇ、ところでさぁ――」

 その傍らで、メラニーがふと思い出した反応を示した。

「今回の課外活動って、あのネルソンさんとエステルさんが、あたしたちの引率を務めてくださるんですって!」
「騎士団長と宮廷魔導師のゴールデンコンビか……相手にとって不足はねぇな」
「いや、別に戦う相手とかじゃないから」

 拳をバキバキと鳴らすジェイラスに、すかさずメラニーがツッコミを入れる。そこにリリーが、首を傾げながら疑問を投げかけた。

「でもメラニー。そんな情報、どこで知ったの?」
「王宮に勤めているあたしのお母さんから♪」
「あ、そっか。メラニーのお母さんって、魔法研究者だったっけ?」
「うん。しかもエステルさん直属の部下になったらしくてね。こないだからテンション上がりっぱなしなのよ」

 やれやれと肩をすくめるメラニー。家で子供のように笑顔ではしゃぐ母の姿を思い出したのだった。

「まぁでも、お母さんが喜ぶのも無理ないよ。若くてイケメンな宮廷魔導師は、女性の間じゃ有名だもん」
「うん……ネルソンさんもだよね」
「あの人はむしろ、ワイルドって言葉がお似合いっぽいけど♪」

 宮廷魔導師のエステル、そして騎士団長のネルソン。
 二人とも年は三十半ばであり、下手をしたら子供たちの親よりも若い。年功序列をすっ飛ばして大出世を成し遂げた二人とくれば、有名にならないほうがおかしいと言えるだろう。
 それでいながらどこまでも謙虚で、どこまでも向上に対して貪欲――そんな二人の姿は、男女問わず子供たちの憧れでもあった。

「うおおぉいっ! ちょっとは僕の話を聞いてくれよおぉーーっ!」

 その瞬間、なんとも情けない声が響き渡り、ぼんやりといい気分に浸っていたメラニーが冷たい表情と化す。

「……サミュエル、アンタ少しは空気を読むってことを覚えたほうがいいわよ?」
「なんだよ? そんなワケの分からな――」

 噛みつこうとするサミュエルだったが、メラニーの様子を見るなり、ピシッと表情事動きを止めてしまった。
 そして瞬く間に、ダラダラと大量の冷や汗を流し始める。

「いや、あの、メラニーさん? どうしてあなたは、両手に魔力を宿すようなポーズを取ってらっしゃるのでございましょうか?」
「大丈夫よ。痛いのは一瞬だけだから、すぐ楽になれると思うわ♪」
「いやいやいや、それって答えになってませんよねぇ!?」

 このままだとやられる――そう恐れをなしたサミュエルは、なんとかこの状況を打開できないかと、必死に頭の中をフル回転させる。
 そして一つの情報が浮かび、しめたと言わんばかりに、軽く表情を綻ばせる。

「あ、そ、そうだ! 課外活動で行く場所は、ユグラシアの大森林だよね?」
「それがどうかしたの?」

 サラッと冷たい声で言い放つメラニー。両手の魔力は解除されておらず、まだ危機が全然去っていないことを如実に表している。
 サミュエルは背筋を震わせながらも、なんとか笑顔を取り繕った。

「その大森林に、最近オモシロイ魔物使いが現れたって話だよ。なんでも僕たちと同い年ってことらしいんだなぁ、これが♪」
「えぇ、たくさんの魔物に好かれていて、なおかつ妖精や精霊をテイムしているっていうんでしょ?」
「そうそう。メラニーもよく知って――えっ、あれ? 知ってたの?」
「結構ウワサになってるもん」

 ポカンと呆けるサミュエルに、メラニーは軽くため息をつく。同時に脱力してしまったせいか、宿していた魔力も消えてしまった。

「まぁ、あたしもアレクから教えてもらったんだけどさ」
「課外活動がユグラシアの大森林だって聞いて、情報を集めてたら、たまたまその話を耳にしたんだよ。他の参加者たちとも話をしてみたら、割と広まっていたことが判明したのさ」

 つまりアレクも、噂を広めた大勢の一人に等しいということだ。そんな衝撃の事実に言葉を失うサミュエルだったが、当のアレクはそれを気にも留めずに、つまらなさそうなため息をついた。

「でも所詮はウワサに過ぎないと思うよ。流石に【色無し】はあり得ないさ」
「だな。妖精や精霊をテイムする【色無し】の魔物使いなんて、いるワケねーし」
「ホントよねぇ」

 アレクに続いてジェイラスとメラニーも、完全に信じていない様子であった。するとここでリリーが、わたわたと慌てながら声をかける。

「わ、私はいたらいいなぁと思うよ?」
「ありがとうリリー。その気遣いがなぜか涙を誘ってくるよ……折角僕だけが掴んだ情報だと思ったのにぃー、なんだよちくしょー!」

 サミュエルがめそめそと涙を流し、嘆きの叫びをあげる。しかし覇気はまるでなかったため、やはり情けないイメージは覆らない。
 当の本人には不本意極まりないだろうが、これもまた、アレクたち五人のいつもの光景に他ならないのだった。

「まぁ、とにかくだ――」

 アレクが改めて、気を取り直しがてら咳ばらいをする。

「課外活動はもうすぐ始まる。ここが正念場だ。皆、気を引き締めていくぞ!」
『おぉーっ!』
「おー……」

 ジェイラス、メラニー、そしてリリーが声を張り上げた直後で、サミュエルが力無く拳を突き上げるのだった。
 それから数日が経過し――いよいよアレクたちの課外活動が始まりを告げる。

 そこで新たな出会いと経験があることを、彼らはまだ知る由もない。

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