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第二章 ガーディアンフォレスト
076 三人の正体
しおりを挟むとある深き森の中――木漏れ日が輝く大きな切り株にて、ワインレッドのローブに身を包んだライザックが座っていた。
「あなたもマキト君に接触したんですね」
大木の陰から、紺色のローブに身を包んだジャクレンが、スッと姿を見せる。
「黒幕だということも明かしてしまったようですが」
「そりゃあね。特にこれといって、隠しておく理由もなかったので」
ライザックが飄々とした様子で肩をすくめる。そこにもう一人、緑のローブに身を包んだ女性が姿を現すのだった。
「私からしてみれば、あなたたちが出てきたことに驚きだわ」
「おや、森の賢者サマのご登場ですか」
演技じみた口調のライザックに、ユグラシアが顔をしかめる。
「そのわざとらしい物言いは相変わらずね」
「お褒めにあずかり光栄です♪」
「時間が勿体ないから、今は追及しないでおくわ」
ユグラシアはサラリと流す。それに対してライザックは、おやと言わんばかりに目を見開き、ジャクレンはクスクスと笑い出す。
「何年経っても、変わらないですねぇ」
「むしろ僕たちからすれば、何年というより『何十年』になるけれど」
おどけた口調でライザックは言う。それに対するツッコミは、どちらからも出てくる様子はない。
ライザックはそれに対し、少しだけ寂しそうに笑う。
「あのさぁ、キミたち……もうちっとぐらいノッてくれてもいいんでない?」
それでも二人は反応を示さず、ライザックは注目を集めようと、大袈裟に肩をすくめてみせる。
「折角こうして『神族』である僕たちが集まったんだからさ♪」
その瞬間、ジャクレンとユグラシアの表情がピタリと止まった――気がした。
少なくとも発言した本人にはそう見えた。故に、かかったなと言わんばかりの意地悪そうな笑みが浮かべられる。
「心配しなくとも、神殿にいるあの子たちには、全く明かしてないよ」
「それが賢明と言えるでしょうね」
ジャクレンが即座に頷く。
「何せ『神族』は、その名のとおり神の一族と呼ばれています。例え身内同然の関係にある相手といえど、極力正体を明かすのは控えるべき――ですよね?」
「えぇ」
分かりやすい説明をありがとう――その意味を込めて、ユグラシアは頷いた。
「だからこそ、私はライザックに言いたいのよ。今回の件……いくらなんでもやり過ぎなんじゃないかしら、ってね」
「いやはや、これまた耳の痛い話ですねぇ」
心からそう思っていないかのように、ライザックは苦笑する。
「僕は僕なりに、ちゃあんと人は選んだつもりですよ? 現にダリル君は、どうせ放っておいても自滅していたでしょうからね」
サラッと語るライザックに、ユグラシアは眉をピクッと動かした。
「随分な物言いね」
「そーゆーあなたこそ、それなりに予感くらいはしてたんじゃありませんか?」
ライザックはなんてことなさげに、ユグラシアに笑みを向ける。
「もう何を言ったところで、空回りするだけの人物。腹黒いギルドマスターの悪事に加担した結果、最重要人物と見なされて指名手配となり、逃亡生活を強いられて成り上がるどころじゃなくなってしまう。故に――」
笑みを深めながら、ライザックは目を閉じた。
「あそこで人生に幕を閉じられて、むしろ幸運だったと思いますよ、僕は」
しみじみと、どこまでも相手を思うかのように言い放つライザック。そんな彼の姿を見るユグラシアは、無言のまま厳しい表情を崩さなかった。
何も言い返してこない彼女に、ライザックはニヤリと笑みを深める。
あなたもそう思いますよね――と、問いかけるかのように。
「……まぁ、いいわ。過ぎた話をいちいち掘り返しても、仕方がないことだもの」
ユグラシアは深いため息をつく。これ以上は何を言っても無意味――そう判断してのことであった。
「えぇ、僕も同感ですね」
ずっと黙って聞いていたジャクレンも、ここでようやく口を開く。
「そんなことよりもずっと注目したい点が僕にはあります」
「何故、マキト君が触れた瞬間、ガーディアンフォレストの封印が解けたのか?」
「正解です♪」
ライザックの棒読み気味な言葉に、ジャクレンは人差し指を立てながら笑う。
「もっともこれについては、ユグラシアさんが一番よく知ってそうですが」
「そうですよねぇ。キミともあろう者が、あの子たちの行動を全く知らないままでいたとは、到底思えませんし」
ジャクレンとライザック――二人からのねちっこい笑みに、ユグラシアは思わず後ずさりしたくなる。
しかしそれを、なんとか気力で持ちこたえ、ユグラシアは平然を保つ。
「……おっしゃるとおり、としか言えないわね」
ユグラシアは軽くため息をつき、空を仰ぐ。
「ガーディアンフォレストは、元々リオという男がテイムしていた霊獣だった。そのリオが死亡したため、あの霊獣との契約も断ち切られた――」
それからユグラシアの手によって、霊獣は封印される。それから十年後、リオの息子であるマキトが現れた。
ユグラシアは運命を感じずにはいられなかった。
これはきっと、偶然などではないと。
「あの時、私にできたのは封印することだけ。暴れるあの子を、無理やり抑えつけて眠らせることしかできなかった。でも、マキト君なら――そう思った」
十年経過した封印は、元々弱まっていた。そこにリオの血を引くマキトが封印の地に足を踏み入れ、無意識に霊獣が反応したことで、封印が解かれた。
しかし、霊獣はマキトに対し、なかなか心を開かなかった。
恐らくリオの面影を無意識に感じ取ったのだ。
「マキト君を見る度に、嫌な光景を思い出していたのも、恐らくそのせいね」
そしてユグラシアも思い出す。十年前の出来事を。
ガーディアンフォレストを封印するに至った、あの悲しい事件を――
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