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第二章 ガーディアンフォレスト

061 霊獣を保護しました

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 時は少し遡る――
 どういうわけか封印が解かれたガーディアンフォレストに、マキトと魔物たちは戸惑いの表情を浮かべていた。

「大きさは……ロップルぐらいかな?」
「見た感じはカワイイのです」

 顎に手を添えながらまじまじと見つめるマキトの隣で、ラティが早速その姿に頬を緩ませている。
 確かに見た目は、デフォルトされた二足歩行兼四足歩行の小動物もどき。目が覚めたばかりの小さな子供の如く、ぼんやりとした表情で周囲をキョロキョロと見渡すその姿は、とても封印されるような狂暴性があるとは思えない。

「やっぱりマキトは凄い。ノーラの目に狂いはなかった」

 淡々と言いながらマキトを見上げてくるノーラ。表情の変化は乏しいが、声からして興奮しているのは明らかであった。

「これであとは、マキトがこの子をテイムすればオールカンペキ!」
「……テイムすればって言われてもなぁ」

 正直、未だにこの状況が理解できていないのも確かであった。故にどうしても戸惑ってしまう。
 そんなマキトの様子に、ノーラは首をかしげていた。

「この子をテイムするのがそんなに嫌なの?」
「いや、別にそーゆーワケじゃ……」
「なら問題ない。早くして」

 有無を言わさないノーラの視線が、マキトに突き刺さる。妙な威圧感に、ラティやロップルも思わず委縮してしまうほどであった。
 一方、その威圧感はどういうわけが霊獣には影響がないらしく、ちょこんと座ったままきょとんとした表情でマキトたちを見上げている。

「……分かったよ」

 とりあえずやるだけやってみようと、マキトはそう思うことにした。
 そして霊獣に視線を向けながら近づいてみた瞬間――

「――っ!!」

 霊獣は驚いて逃げ出し、祠の陰に隠れてしまう。そしてチラッと顔半分だけ覗き出してきていた。
 マキトは伸ばしかけた手を止め、戸惑いながら様子を伺う。

「これ……完全に警戒されてるな」
「霊獣の反応としては、むしろ普通とも言えるのです」

 そしてラティも、苦笑しながらマキトを見る。

「わたしやロップルは例外だったと、そう思ってもらったほうがいいかもですね」
「そっか……」

 マキトは手を下ろしつつ、少しだけ気持ちを落ち込ませる。
 正直、今回も割とすんなりいくと思っていた。最初は警戒されようと、すぐに笑顔を見せて懐いてくれるんじゃないかと。
 スライムを始め、森の魔物たちがこぞって懐いてきた。ラティやロップルも、あっさりと懐いてくれたため、妖精や霊獣でもこんなもんかと、軽い気持ちを抱いていたのは確かだ。
 しかし、ここに来て思い知らされた。
 簡単に心を許してこない魔物も、確かに存在するということを。
 現に今も、霊獣は完全に警戒心全開で睨んできている。とてもじゃないが、ここからすぐに表情を変えて懐いてくるとは思えない。

「――むぅ!」

 ノーラが分かりやすいくらいに頬を膨らませてくる。

「期待して損した。マキトならイケると思ってたのに……ガッカリ」

 そしてぷいっと顔を逸らしてしまう。完全に機嫌を損ねてしまったことだけはなんとなく分かるのだが、そんなこと言われてもなぁというのが、マキトの正直な気持ちであった。
 申し訳なさは、全くと言っていいほど感じない。それでいて怒りも感じない。
 何を勝手なことを――みたいな気持ちは、全く湧いてこなかった。なんか勝手に期待されて勝手にがっかりされたなぁ、ぐらいの感じである。
 とどのつまり興味がないのだ。
 戸惑いこそ抱いたが、あくまでそれだけだ。これがもしアリシアならば、なんとか取り繕わねばと慌てていたことだろう。
 しかしマキトは、どこまでも平然としていた。自分の身に降りかかっていることでありながら、完全に他人事のような気持ちとなっており、特にここから何かを巻き返したいという思いもない。
 そしてそれは、ラティやロップルも同じだったりする。

「……とりあえず、あの子を落ち着かせないとですね」
「キュウッ!」

 ラティの言葉にロップルが反応し、マキトの頭から勢いよく飛び降りる。そして妙に気合いの入った様子で、警戒している霊獣の元へ向かった。
 同じ霊獣として放っておけないと思ったのだ。
 マキトも無意識ながら、ここはロップルに任せたほうが良さそうだと思った。そのほうが相手の警戒心も薄れる可能性が高いだろうと。
 その目論見どおり、霊獣の表情から睨みが薄れ、近づいてくるロップルに戸惑いを示していた。
 もしかしたら上手くいくかもしれない――そう思った時だった。

「――にゅぅ」

 か細い鳴き声とともに、霊獣は急にパタッと倒れてしまった。これには流石のマキトやノーラも、駆けつけずにはいられなかった。
 初めにラティが飛んでいき、意識を失った霊獣の様子を確認する。

「……気を失っているだけなのです。でも、かなり弱っている感じですね」
「無理もない。ずっと封印されていたのが急に解けたから、体力もかなり減っている状態だったと思う」

 そう言いながらノーラは、霊獣を優しく抱きかかえる。

「神殿に戻る。ユグラシアに診せれば、きっとこの子は良くなる」
「よし、じゃあ急ごう!」

 マキトの声に、ラティやロップルも強く頷いた。そしてノーラを先頭に、神殿目指して駆け出すのだった。
 しばらく森の中を走り続けるマキトたち。
 一見、特に何事もない光景が続いていたのだが――

「なんだか……変な感じなのです」

 ラティが飛びながら、神妙な表情で周囲の様子を伺う。

「森の魔力が、妙にざわめいているような……」
「恐らくユグラシアのしわざ。この森で何かが起きている証拠」

 やはり顔色一つ変えず、ノーラは淡々と言い切る。それを聞いたマキトは、走りながら顔をしかめた。

「何かが起きてるって……ヤバいんじゃないのか?」
「ヤバい。だから急ぐ」
「お、おぅ」

 断言するノーラに、マキトは戸惑いながら頷く。口調は同じだったが、妙な圧を感じたのだった。

「恐らく――悪い誰かが森に入ってきた」

 ノーラが表情を険しくする。

「それをユグラシアが察知して、森の結界を強めたりしているんだと思う。悪い人たちを追い払うために」

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