61 / 252
第二章 ガーディアンフォレスト
061 霊獣を保護しました
しおりを挟む時は少し遡る――
どういうわけか封印が解かれたガーディアンフォレストに、マキトと魔物たちは戸惑いの表情を浮かべていた。
「大きさは……ロップルぐらいかな?」
「見た感じはカワイイのです」
顎に手を添えながらまじまじと見つめるマキトの隣で、ラティが早速その姿に頬を緩ませている。
確かに見た目は、デフォルトされた二足歩行兼四足歩行の小動物もどき。目が覚めたばかりの小さな子供の如く、ぼんやりとした表情で周囲をキョロキョロと見渡すその姿は、とても封印されるような狂暴性があるとは思えない。
「やっぱりマキトは凄い。ノーラの目に狂いはなかった」
淡々と言いながらマキトを見上げてくるノーラ。表情の変化は乏しいが、声からして興奮しているのは明らかであった。
「これであとは、マキトがこの子をテイムすればオールカンペキ!」
「……テイムすればって言われてもなぁ」
正直、未だにこの状況が理解できていないのも確かであった。故にどうしても戸惑ってしまう。
そんなマキトの様子に、ノーラは首をかしげていた。
「この子をテイムするのがそんなに嫌なの?」
「いや、別にそーゆーワケじゃ……」
「なら問題ない。早くして」
有無を言わさないノーラの視線が、マキトに突き刺さる。妙な威圧感に、ラティやロップルも思わず委縮してしまうほどであった。
一方、その威圧感はどういうわけが霊獣には影響がないらしく、ちょこんと座ったままきょとんとした表情でマキトたちを見上げている。
「……分かったよ」
とりあえずやるだけやってみようと、マキトはそう思うことにした。
そして霊獣に視線を向けながら近づいてみた瞬間――
「――っ!!」
霊獣は驚いて逃げ出し、祠の陰に隠れてしまう。そしてチラッと顔半分だけ覗き出してきていた。
マキトは伸ばしかけた手を止め、戸惑いながら様子を伺う。
「これ……完全に警戒されてるな」
「霊獣の反応としては、むしろ普通とも言えるのです」
そしてラティも、苦笑しながらマキトを見る。
「わたしやロップルは例外だったと、そう思ってもらったほうがいいかもですね」
「そっか……」
マキトは手を下ろしつつ、少しだけ気持ちを落ち込ませる。
正直、今回も割とすんなりいくと思っていた。最初は警戒されようと、すぐに笑顔を見せて懐いてくれるんじゃないかと。
スライムを始め、森の魔物たちがこぞって懐いてきた。ラティやロップルも、あっさりと懐いてくれたため、妖精や霊獣でもこんなもんかと、軽い気持ちを抱いていたのは確かだ。
しかし、ここに来て思い知らされた。
簡単に心を許してこない魔物も、確かに存在するということを。
現に今も、霊獣は完全に警戒心全開で睨んできている。とてもじゃないが、ここからすぐに表情を変えて懐いてくるとは思えない。
「――むぅ!」
ノーラが分かりやすいくらいに頬を膨らませてくる。
「期待して損した。マキトならイケると思ってたのに……ガッカリ」
そしてぷいっと顔を逸らしてしまう。完全に機嫌を損ねてしまったことだけはなんとなく分かるのだが、そんなこと言われてもなぁというのが、マキトの正直な気持ちであった。
申し訳なさは、全くと言っていいほど感じない。それでいて怒りも感じない。
何を勝手なことを――みたいな気持ちは、全く湧いてこなかった。なんか勝手に期待されて勝手にがっかりされたなぁ、ぐらいの感じである。
とどのつまり興味がないのだ。
戸惑いこそ抱いたが、あくまでそれだけだ。これがもしアリシアならば、なんとか取り繕わねばと慌てていたことだろう。
しかしマキトは、どこまでも平然としていた。自分の身に降りかかっていることでありながら、完全に他人事のような気持ちとなっており、特にここから何かを巻き返したいという思いもない。
そしてそれは、ラティやロップルも同じだったりする。
「……とりあえず、あの子を落ち着かせないとですね」
「キュウッ!」
ラティの言葉にロップルが反応し、マキトの頭から勢いよく飛び降りる。そして妙に気合いの入った様子で、警戒している霊獣の元へ向かった。
同じ霊獣として放っておけないと思ったのだ。
マキトも無意識ながら、ここはロップルに任せたほうが良さそうだと思った。そのほうが相手の警戒心も薄れる可能性が高いだろうと。
その目論見どおり、霊獣の表情から睨みが薄れ、近づいてくるロップルに戸惑いを示していた。
もしかしたら上手くいくかもしれない――そう思った時だった。
「――にゅぅ」
か細い鳴き声とともに、霊獣は急にパタッと倒れてしまった。これには流石のマキトやノーラも、駆けつけずにはいられなかった。
初めにラティが飛んでいき、意識を失った霊獣の様子を確認する。
「……気を失っているだけなのです。でも、かなり弱っている感じですね」
「無理もない。ずっと封印されていたのが急に解けたから、体力もかなり減っている状態だったと思う」
そう言いながらノーラは、霊獣を優しく抱きかかえる。
「神殿に戻る。ユグラシアに診せれば、きっとこの子は良くなる」
「よし、じゃあ急ごう!」
マキトの声に、ラティやロップルも強く頷いた。そしてノーラを先頭に、神殿目指して駆け出すのだった。
しばらく森の中を走り続けるマキトたち。
一見、特に何事もない光景が続いていたのだが――
「なんだか……変な感じなのです」
ラティが飛びながら、神妙な表情で周囲の様子を伺う。
「森の魔力が、妙にざわめいているような……」
「恐らくユグラシアのしわざ。この森で何かが起きている証拠」
やはり顔色一つ変えず、ノーラは淡々と言い切る。それを聞いたマキトは、走りながら顔をしかめた。
「何かが起きてるって……ヤバいんじゃないのか?」
「ヤバい。だから急ぐ」
「お、おぅ」
断言するノーラに、マキトは戸惑いながら頷く。口調は同じだったが、妙な圧を感じたのだった。
「恐らく――悪い誰かが森に入ってきた」
ノーラが表情を険しくする。
「それをユグラシアが察知して、森の結界を強めたりしているんだと思う。悪い人たちを追い払うために」
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
めちゃくちゃ馬鹿にされたけど、スキル『飼育』と『組み合わせ』は最強中の最強でした【Return!】
Erily
ファンタジー
エレンはその日『飼育』と『組み合わせ』というスキルを与えられた。
その頃の飼育は牛や豚の飼育を指し、組み合わせも前例が無い。
エレンは散々みんなに馬鹿にされた挙句に、仲間はずれにされる。
村の掟に乗っ取って、村を出たエレン、そして、村の成人勇者組。
果たして、エレンに待ち受ける運命とは…!?
成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~
m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。
書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。
【第七部開始】
召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。
一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。
だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった!
突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか!
魔物に襲われた主人公の運命やいかに!
※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。
※カクヨムにて先行公開中
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる