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第一章 色無しの魔物使い
028 魔力スポット
しおりを挟むグリーンキャットと長老スライムに連れられて、アリシアは里を進む。
周囲の木が密集して壁状態であり、見上げてみると枝葉が密集。さながら森のトンネルのようであった。
不思議な場所を歩いている感じがしてならなかった。
心なしか、さっきと比べて魔力が濃くなっているような気さえしてくる。
きっと気のせいだろうと思うことにした。緊張して余計なことを考えてしまっているだけに違いないと。
しかしその直後、ある意味正解だったことが発覚するのだった。
「にゃあ!」
「ふむ、着いたぞ」
そこは泉が広がっていた。日の光が差し込んでおり、生い茂る草に透き通る水辺がとても綺麗である。
普通ならばその光景に感動していたかもしれない。
しかしアリシアは、言葉を失いかねないほどの驚きを示していた。
「な、何これ……凄いたくさんの魔力で溢れかえっている……」
恐らく『それ』さえなければ、森の綺麗な泉という説明だけで片付いただろう。
泉の中央に存在している青白く光る水晶のような物体。そこから止めどなく湧き出るオーラのような何か。
そこからアリシアは、とある一つの単語が頭の中に浮かんできた。
「――魔力スポット?」
「そのとおりじゃ」
あっけらかんと長老スライムが答える。
自然界の魔力が半永久的に湧き出る場所。それは世界にいくつか存在しており、ここがその一つなのだった。
一口にスポットと言っても、その形は定められていない。
この森のどこかにも魔力スポットが存在すると聞いたことはあったが、アリシアを含む誰もが、それを見たことはなかったのだった。
「まさかこんなところに……てゆーか、ホントにこの森にあったのね」
「ホッホッホッ、随分と驚いておるようじゃのう♪」
ドッキリ大成功と言わんばかりに、長老スライムが楽しそうに笑った。
「これこそが森の魔力の源。これを守ることも、ワシらの役目の一つなんじゃよ」
「なるほど」
呆然と頷きながら、アリシアは魔力スポットの周囲にも注目する。
泉の水も、そして水辺に生えている草も、たくさんの魔力を帯びている。それはすなわち錬金素材としても、非常に大きな価値があると言えた。
アリシアは衝動を抑えきれなくなっていた。
「長老さま。ここの水と草を錬金素材に使わせてもらえませんか?」
「それは構わんが、無暗に里の外へ持ち出されるのはのう……」
「ご心配なく!」
アリシアは自信満々に答えつつ、持参したバッグを下ろして中を開いた。
「こんなこともあろうかと、簡易錬金セットはちゃんと持ってきてますから!」
「……準備が良いな。まぁこの場で作る分にはいいじゃろう」
ここに来て急に威勢の良くなったアリシアに、長老スライムは押されていた。しかしちゃんと確認しておきたいこともあり、厳しい表情を浮かべる。
「一応聞くが、危険な代物を作るつもりは――」
「私、ポーションみたいな回復系のアイテムしか錬金できないので!」
「そうか……なら安心、でよいのか? お主らの事情は正直よく分からんが」
アリシアの答えに、長老スライムは戸惑いを見せる。とりあえずこの場で、その姿を確認する他ないと判断した。
深いため息をつく傍で、アリシアは意気揚々と動き出していた。
簡易錬金セットの準備を済ませ、小さなカップで泉の水を汲み上げる。水辺の草も採取し、それらを使って早速錬金を開始する。
泉の水と草が錬金素材となり、アリシアの技術によって一つと化していく。
生き生きとした表情で手を動かし続ける彼女の姿に、長老スライムもグリーンキャットも呆気に取られていた。
大人しくて控えめなのかと思いきや、こんなにもアクティブな一面があるとは。
しかしながら、長老スライムはこうも思った。
魔物たちの中にも似たようなのはたくさん存在している、そこらへんはヒトも魔物も大差ないのかもしれない、と。
「~♪」
アリシアから鼻歌が聞こえてくる。恐らく無意識なのだろう。それだけ錬金術が好きなのだということを、全身で示していた。
「にゃー……」
「うむ。あれがきっと、本来の彼女の姿なのやもしれんな」
グリーンキャットと長老スライムが、アリシアの錬金をジッと見守る。もはや彼女は周囲など見えていない。目の前の錬金に、全集中力を注いでいることがひしひしと伝わってくる。
ある意味、魔物に夢中となるマキトと似ている部分はあるかもしれないと、なんとなく思えてくるほどだった。
「あとは、こうして……」
――ぼわんっ!
小さな爆発音が起き、長老スライムとグリーンキャットが背筋を震わせる。
しかしアリシアは相変わらず夢中となっており、取り敢えずは大丈夫そうだと思うことにした。
そして――遂にそれは出来上がった。
「よし、これで完成……だけど……」
完全に困惑した様子で、アリシアが出来上がった錬金物を見つめる。気になった長老スライムも、近づきながら尋ねてみることにした。
「なんじゃ? 上手くいかんかったのか?」
「上手くいったような、そうでもないような……」
「ハッキリせん言い方をするのう」
「ポーションを作ってたら、何故か『これ』が出来上がってしまいまして……」
アリシアは長老スライムにその成果を見せる。
それは間違いなく――青い粉であった。
「うぅむ……確かにこれは、ポーションとは言い難い代物じゃな」
ポーションの実物は、長老スライムもよく知っている。だからこそアリシアの戸惑う理由も分かる気はしていた。
狙いどおりという意味では成功していないが、あからさまな失敗作かと言われれば微妙だろう。なんとも判断しがたい結果が生み出されてしまった――アリシアとともに悩ましく思っていた、その時だった。
「にゃあっ!」
グリーンキャットが飛びついてきた。僕にも見せてと言わんばかりの勢いは、とても凄まじいの一言であり――
「わっ、ちょ、いきなり飛びつかな――きゃっ!?」
急な動きに反応できず、アリシアはバランスを崩してしまった。その衝撃で、手に持っていた粉も離してしまう。
そのまま派手に後ろへのけぞるように転んだアリシアに、長老スライムが慌てて飛び跳ねながら近寄る。
「大丈夫か!?」
「私はなんともないですけど……」
起き上がりながら、アリシアはグリーンキャットのほうを見る。
魔力が反応しているのか、舞い散る粉はキラキラと光り、それはグリーンキャットを包み込んでいるように見えていた。
そして――
「うぅ~、いきなりボフッてなるからビックリしちゃったよぉ~」
聞き慣れない声が聞こえてきた。
まだ年齢が一桁くらいの、声変わりしていない男の子の声――例えるならばそんなところだろうか。
やがてその正体が明らかとなり、アリシアと長老スライムは目を丸くする。
それを見た『それ』は、きょとんとしながらコテンと首をかしげた。
「あれあれ? ちょーろーさまもアリシアもどしたの?」
「いや、お主それ……」
「?」
何を言われているのか分からず、『それ』は首を逆方向に傾ける。明らかに自分の事態に気づいておらず、余計にアリシアたちを戸惑わせていた。
(グリーンキャットが二本足で立って、ヒトの言葉を話してる……ナニコレ?)
そんな目の前の現象が理解できず、混乱を極めるアリシアであった。
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