透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

文字の大きさ
上 下
27 / 252
第一章 色無しの魔物使い

027 別行動と再認識

しおりを挟む


 微妙な空気と化し、魔物たちの散り散りとなってしまった。
 しかしそれも仕方のないこと――そうマキトたちは捉えており、割り切っているつもりでいたが、やはり沈む気持ちは拭えない。

「まぁ、お主たちはワシが認めた客人じゃ。すぐに出て行けとは言わんよ」

 長老スライムがそう語りかける。淡々とした口調ながら、今までで一番気を遣ったような優しさが出ている――アリシアはそんな気がしてならなかった。

「……どうも」

 その一言しか出てこなかった。どう返していいか分からなかったのである。もう少し何かあるんじゃないかと思ったが、やはり何も浮かんでこない。
 なんとも言えない気まずい空気が漂っているところに――

「にゃあ」

 緑色の小さな猫のような魔物が近づいてきた。
 何故かアリシアをジッと見上げており、そして長老スライムに向かって鳴き声で何かを語りかける。

「――なんと! それは本当か?」
「にゃっ!」

 驚く長老スライムに、猫の魔物はコクリと頷く。自分に対してそんなに驚く要素があるだろうかと、アリシアは首を傾げる。

「あの……私が何か?」
「おぉ、すまん。ちと尋ねるが――」

 ポヨンと弾みながら、長老スライムが振り向いてくる。

「お主、魔力を持っておるな? しかも普段は魔力を使うような者でない」
「――っ!?」

 アリシアが目を見開く。どうして分かったのかという無言の訴えが、長老スライムを笑いに誘った。

「またえらく顔に出ておるの」
「あ、いや、それは別にどうでも……てゆーか、何で……」
「分からんのか? こやつが教えてくれたんじゃよ」

 長老スライムが猫の魔物に視線を向ける。

「こやつは少々特殊でな。相手が魔力を持っておるかどうか、どんなふうに魔力を使うのかを見抜く力を持っておるんじゃ」
「へぇ……もしかして、霊獣?」
「そうではない。あくまで『グリーンキャット』の亜種に過ぎんよ」

 サラリと紹介される事実に、アリシアは再びポカンと呆けてしまう。

「亜種、だったんですね」
「そうじゃ。何も見た目が変わるだけが亜種ではないぞ」

 してやったりと言わんばかりに長老スライムがニヤリと笑った。
 すると――

「その猫も亜種なの?」
「見た目だけじゃ分からないのです」

 マキトとラティが近づいてきて、興味深そうにグリーンキャットを見つめる。原種と見た目が全く同じであり、見分けが全くつかない。
 そこに長老スライムが、ホッホッホッと笑いながら言った。

「あくまで魔力を読み取れる能力があるだけじゃ。魔法そのものは使えん。何かと役に立っておることも確かじゃがな」
「へぇ、そっかー。お前もなかなか凄いんだな」
「にゃあ♪」

 マキトに頭を撫でられ、グリーンキャットは嬉しそうに鳴き声を上げる。大人しくて逃げる様子が全く見られない。どうやらマキトに懐いたようだと、アリシアは思っていた。
 明らかに我が道を行くスタイルを貫き通している。
 その姿はまさに『猫』と言ったところか。

「あ、そういえば――」

 ここでマキトが思い出しつつ、顔を上げて周囲を見渡す。

「一緒に来たスライム、どこへ行ったか知らない?」
「へっ?」

 そう言われて、アリシアもようやく気づいた。この場にいるスライムは、赤いスライム一匹のみであることに。
 隠れ里に来た時は、ついてきた青いスライムも確かに一緒だった。
 なのにいつの間にか姿を消していた。
 赤いスライムや長老スライムでさえも気づいていなかったのか、揃って驚きを示しながらキョロキョロと見渡す。

「ピキィー」
「うむ。もしかしたら、里の奥へ行ってしまったのかもしれんな」

 長老スライムが視線を向けた先には、明るく光が差し込んでいた。すると赤いスライムがポンポンと弾み出す。

「――ピキィッ、ピキピキピキィ!」
「ん? お主が少年たちを?」
「ピキャッ♪」

 赤いスライムが長老スライムに呼びかけたのち、マキトの元へやってくる。

「ピキィー、ピキキィ」
「どうやら案内してくれるみたいなのです」
「そっか、頼むよ」

 ラティの通訳にホッとした表情を浮かべるマキトだったが、ここで数分前の出来事を思い出す。

「……でも、いいのか? 俺らが里の奥へ入るのはマズい気がするけど」
「少しくらいなら大丈夫じゃよ」

 答えたのは長老スライムだった。

「案内役がしっかりしておれば尚更じゃ。警戒する魔物もほんの一部。さっきみたく一気に懐かれるお前さんなら、恐らく心配いらんじゃろうて」
「そ、そうかなぁ?」

 確かに長老スライムの言うとおりではあるだろう。しかしマキトからすれば、魔物に懐かれるという自覚があるのかないのか微妙なところであり、自身を持って頷くことはできなかった。

「まぁ、とにかく行ってみるのですよ」

 ここでラティが、気を取り直すかの如く明るい声を出す。

「スライムさんを見つけたら、すぐに戻って来ればいいだけの話なのです」
「それもそうか。じゃあ案内よろしくな」
「ピキィー♪」

 赤いスライムが飛び跳ねながら、お任せあれと返事をする。早速向かおうとマキトも動き出そうとするが、アリシアは佇んだままだった。

「私は待っているわ。ついて行ったところで騒がれるだけだろうし」
「あぁ、分かった」
「行ってくるのですー♪」

 マキトとラティもアッサリそれを受け入れ、赤いスライムについて行く形で歩き出していった。
 彼らを見送ったアリシアに、長老スライムが近づいてくる。

「時にアリシアよ。普段のお前さんは何をしておるのかね? 魔力を使わん働きをしていることは読めておるのじゃが……」
「錬金術師です。薬草とか色々な素材から、モノを生み出すんですよ」

 アリシアは補足がてら、ここ数日で行ってきたことの簡単な説明をする。それを聞いた長老スライムは目を見開いた。

「ほう、魔力を素材にモノを生み出すか……こりゃまた面白いことをするな」
「マキトのアイディアのおかげなんですけどね」
「なるほどな。あの少年は、閃きにも冴えておるということかの」
「えぇ……あっ!」

 アリシアが頷いたところで、あることが頭に浮かんだ。

「勿論アレですよ? ここの素材を無暗に持ち帰ったりするとか、そーゆーことはしませんから!」
「ホホッ、そうしてもらえると助かる。外に広まってもいかんからな」

 長老スライムも驚きを隠しながら笑った。割と必死なアリシアを見て、少しだけ安心したのは彼の中だけの話である。
 そこに――

「にゃあ!」

 グリーンキャットが呼びかけた。そういえばいたんだっけと思いながら、アリシアが視線を合わせる。

「なぁに? どうしたの?」
「にゃ!」

 アリシアが問いかけると、グリーンキャットはすぐさま走り出す。しかしすぐに立ち止まり、チラリと振り向いてきた。
 それが何を示すのか、アリシアも長老スライムもすぐに理解する。

「ふむ。どうやらアイツは、ある場所をアリシアに紹介したいようじゃ」
「ある場所?」
「行ってみてのお楽しみじゃよ。ワシも同行しよう」

 そう言って長老スライムもポヨポヨと弾みながら動き出す。
 あまりにも警戒心がなさ過ぎやしないかと思い、アリシアは目を細くした。

「……いいんですか? 誰かに話すかもしれませんけど?」
「構わんよ」

 しかし長老スライムは冷静だった。そしてピタッと止まり、振り返りながらニヤリと笑う。

「そうなったらそうなったで、魔物たちが黙っておらんじゃろうな。あまり魔物を甘く見るでないぞ」
「――っ!」

 その瞬間、アリシアは背筋が震えた。
 すっかり忘れていた。自分たちヒトからすれば、魔物とは本来、途轍もなく恐ろしい存在と言われているのだ。
 その気になればいつでも命を刈り取れる――たとえスライムでも油断は禁物。
 アリシアは今更ながら、それを改めて思い出した。
 同時にこの数日で、すっかり自分の中で魔物に対する認識が変わってしまっていたことを痛感する。
 その原因は、もはや考えるまでもない。
 目を離した隙に魔物と仲良くしてしまう少年の顔が、思わず浮かんできた。

「えっと、まぁその……ご心配なく」

 なんとか気持ちを落ち着けながら、アリシアは言う。

「私もこんな綺麗な場所を汚すようなマネは、したくありませんから」
「うむ。それを聞いてワシも安心したぞ♪」

 長老スライムはニッコリと笑い、再びポヨポヨと弾みだす。スライムとグリーンキャットに連れられる形で、アリシアもゆっくりと歩を進めるのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

天才ピアニストでヴァイオリニストの二刀流の俺が死んだと思ったら異世界に飛ばされたので,世界最高の音楽を異世界で奏でてみた結果

yuraaaaaaa
ファンタジー
 国際ショパンコンクール日本人初優勝。若手ピアニストの頂点に立った斎藤奏。世界中でリサイタルに呼ばれ,ワールドツアーの移動中の飛行機で突如事故に遭い墜落し死亡した。はずだった。目覚めるとそこは知らない場所で知らない土地だった。夢なのか? 現実なのか? 右手には相棒のヴァイオリンケースとヴァイオリンが……  知らない生物に追いかけられ見たこともない人に助けられた。命の恩人達に俺はお礼として音楽を奏でた。この世界では俺が奏でる楽器も音楽も知らないようだった。俺の音楽に引き寄せられ現れたのは伝説の生物黒竜。俺は突然黒竜と契約を交わす事に。黒竜と行動を共にし,街へと到着する。    街のとある酒場の端っこになんと,ピアノを見つける。聞くと伝説の冒険者が残した遺物だという。俺はピアノの存在を知らない世界でピアノを演奏をする。久々に弾いたピアノの音に俺は魂が震えた。異世界✖クラシック音楽という異色の冒険物語が今始まる。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 この作品は,小説家になろう,カクヨムにも掲載しています。

処理中です...