透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第一章 色無しの魔物使い

024 スライムの亜種

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 赤いスライムを連れて帰ってきたマキトたちの姿に、アリシアは唖然とした。
 水ではなく魔物を持ってくることもそうだが、なにより見たこともないスライムと遭遇してきたことに驚きを隠せない。
 とりあえず空腹をどうにかしなければならないということで、アリシアは用意していたパンやサラダなどを差し出してみる。しかし赤いスライムは、フルフルと顔を左右に振るばかりであった。

「困ったわねぇ。好き嫌いが激しい子なのかしら?」

 アリシアは深いため息をつく。マキトとラティも同じ気持ちであった。
 ちなみにいつも入り浸っているスライムは、今日はいない。気まぐれに森の中へ帰っていくことがあり、昨夜から今日にかけてがまさにそれだった。

「とりあえず今度は、温かいお茶でも出してみましょうか」

 アリシアは新しい湯を沸かすべく、水を入れたやかんに火をつける。
 その瞬間――

「――ピィッ!!」

 赤いスライムが勢いよく飛び上がった。そしてすかさず、火のついたコンロに向かって飛び跳ねていく。

「ピィピィ! ピィーッ!」
「……その火が食べたいと言ってるのですけど」
「火を?」

 ラティに通訳に、マキトは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

「どういうことなんだ? いや、そもそも火って食べるようなもんだっけ?」
「流石に違う……と、言いたいところだけど、相手は魔物だからねぇ」

 ヒトと同じ常識が通用しないのも、魔物の大きな特徴だ。火そのものを好む魔物がいたとしても、何ら不思議ではないだろう。
 子供たちに例えとして教えられる事柄として用いられる言葉だが、それを目の当たりにする日が来るとは、流石のアリシアも思っていなかった。

「――まぁ、とにかく用意してみるわ」

 そう言ってアリシアが作ったのは焚き火だった。
 当然、場所は外だ。流石に家の中でそれをすることはできない。幸いアリシアの家の周囲には他の家がなく、草が生えていない地面を選べば、焚き火をするには苦労しなかった。
 そして、いざ焚き火が出来上がると――

「うわぁ」
「こりゃ凄い」
「ふぇー」

 アリシア、マキト、ラティがそれぞれ関心の目つきでそれを見つめる。
 赤いスライムが焚き火の炎を、一心不乱に吸い込んでいるのだ。
 『あー』という擬音が聞こえてきそうな大きな口に、パチパチと爆ぜるオレンジ色の炎が一直線に飲み込まれる。
 見ていると、なんだか面白くなってくる気さえしていた。
 やがて赤いスライムは、炎を吸い込むのを止める。同時にケプッと可愛い音を口から出した。
 そして満面の笑みをマキトたちに向ける。

「ピィピィ! ピピピピィピィッ!」
「助けてくれてありがとう――と言っているのです」
「ハハッ、そうか。元気になって良かったよ」
「ホントね」

 ラティの通訳にマキトとアリシアが笑みを浮かべる。
 そして赤いスライムは、これまでの経緯をラティの通訳を通して語り出した。
 元々は、そこらへんのスライムと同じ水色の体をしていた。しかしある日、体の色が急に変わってしまい、同時に食べる物の好みも激変したのだという。
 いつもの食事が全く美味しくなくなり、食べたいとも思わなくなってしまった。そこで美味しい食べ物を求めて、森の中を彷徨ううちに迷ってしまい、遂には空腹で倒れてしまった。
 そこにマキトたちが通りかかり、今に至るとのことであった。

「なるほどねぇ。でも、それってもしかして――」

 赤いスライムの話を聞いて、アリシアは一つの可能性に思い当たった。

「体が突然変異を起こしたのかもしれないわね。魔物の中には、ごく稀にそういったケースがあるらしいのよ。俗に『亜種』と呼ばれてるわ」
「へぇ、じゃあこの赤いスライムも?」
「多分そうかもね」

 マキトの問いかけにアリシアは頷く。するとここで赤いスライムが、ラティに話しかけていた。

「――えぇっ! それじゃあ、あなたは里のスラちゃんだったのですかーっ!?」
「ピィッ」

 そうだよ、と言わんばかりに頷く赤いスライム。もしかして知り合いだったのかとマキトは感じ取った瞬間、ラティがゆっくりと振り向いてくる。

「この子……わたしの知り合いだったのです」
「だと思ったよ」

 マキトが苦笑すると、更に赤いスライムがラティに話しかけていた。するとラティは慌ててマキトのほうに飛んでくる。

「わ、わたしはもうマスターと一緒にいると決めたのです! だから隠れ里には帰るつもりなんてないのですっ!」
「ピィーッ! ピィピィッ」

 ラティは声を荒げるが、赤いスライムも納得していない様子であり、更に鳴き声で呼びかける。それを聞き取ったラティは、顔をしかめるばかりであった。

「長老さまが心配している……うぅ、それはホントに申し訳なく……」
「ピィッ!」
「あぁもう、分かったのですよ。隠れ里に帰って長老さまに話してやるのです!」

 どうやらラティは何かを決めたようだと、マキトとアリシアは悟る。
 その『隠れ里』なる場所がキーワードであると思っていると、赤いスライムがマキトたちに視線を向け、見上げてきた。

「ピィッ! ピィピィピキキィーッ!」
「え、マスターたちも一緒に?」

 ラティが目を見開いた。その反応を聞いて、マキトも笑みを浮かべる。

「もしかして、その隠れ里って場所に連れてってくれるのか?」
「ピキャッ♪」
「そうだよ、と言ってるのです。助けてもらった恩もあるとかで……」

 流石に想像していなかったらしく、ラティは大きな戸惑いを見せていた。

「あの、本当にマスターたちも一緒に良いのですか?」
「ピキキキィッ、ピィピィピキィーピィ」
「マスターのことは見ていて安心する……確かにその気持ちは分かるのです」

 そんなやり取りを聞いたアリシアは思った。またしてもマキトが、魔物使いとしての力を発揮したのだろうと。
 赤いスライムとのフラグも、しっかり建ててしまったのだと。
 それを自覚しているのかいないのか、マキトは機嫌よく笑みを浮かべる。

「じゃあ、早速その隠れ里に――」

 ――グウウウゥゥーーッ!
 その瞬間、盛大な音が鳴り響く。同時にマキトは腹を押さえた。

「そういえば、まだ朝ごはん食べてなかった」
「まずはご飯食べて、しっかり準備してからじゃないとね」

 アリシアは苦笑しながら、項垂れるマキトの頭をポンポンと撫でる。
 何はともあれ、今日の予定が決まった瞬間であった。

 それからマキトたちは朝食と準備を済ませ、改めて赤いスライムに連れられて隠れ里へ向かうこととなった。
 当然アリシアも、簡易錬金セットを持って同行することに。
 そしていざ出発しようとしたその時――

「ポヨーッ♪」

 いつものスライムが遊びにやってきた。ここで赤いスライムの存在に気づき、ラティから話を聞く。
 そしてスライムも、一緒に行きたいと言い出した。

「……ピィッ」
「ポヨ♪」

 好きにしろ――多分赤いスライムはそう言ったんだろうなと、マキトは思わず笑みを浮かべてしまう。
 赤いスライムがピョンピョンと飛び跳ねながら進み出す。
 その後ろを辿る形で、マキトたちも歩き出した。

(魔物たちの隠れ里か……どんな場所なんだろ? 楽しみだなぁ♪)

 ザッザッと足音を立てて歩きながら、待ち受けているであろう未知なる光景に、マキトは想いを馳せるのだった。

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