透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

文字の大きさ
上 下
24 / 252
第一章 色無しの魔物使い

024 スライムの亜種

しおりを挟む


 赤いスライムを連れて帰ってきたマキトたちの姿に、アリシアは唖然とした。
 水ではなく魔物を持ってくることもそうだが、なにより見たこともないスライムと遭遇してきたことに驚きを隠せない。
 とりあえず空腹をどうにかしなければならないということで、アリシアは用意していたパンやサラダなどを差し出してみる。しかし赤いスライムは、フルフルと顔を左右に振るばかりであった。

「困ったわねぇ。好き嫌いが激しい子なのかしら?」

 アリシアは深いため息をつく。マキトとラティも同じ気持ちであった。
 ちなみにいつも入り浸っているスライムは、今日はいない。気まぐれに森の中へ帰っていくことがあり、昨夜から今日にかけてがまさにそれだった。

「とりあえず今度は、温かいお茶でも出してみましょうか」

 アリシアは新しい湯を沸かすべく、水を入れたやかんに火をつける。
 その瞬間――

「――ピィッ!!」

 赤いスライムが勢いよく飛び上がった。そしてすかさず、火のついたコンロに向かって飛び跳ねていく。

「ピィピィ! ピィーッ!」
「……その火が食べたいと言ってるのですけど」
「火を?」

 ラティに通訳に、マキトは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

「どういうことなんだ? いや、そもそも火って食べるようなもんだっけ?」
「流石に違う……と、言いたいところだけど、相手は魔物だからねぇ」

 ヒトと同じ常識が通用しないのも、魔物の大きな特徴だ。火そのものを好む魔物がいたとしても、何ら不思議ではないだろう。
 子供たちに例えとして教えられる事柄として用いられる言葉だが、それを目の当たりにする日が来るとは、流石のアリシアも思っていなかった。

「――まぁ、とにかく用意してみるわ」

 そう言ってアリシアが作ったのは焚き火だった。
 当然、場所は外だ。流石に家の中でそれをすることはできない。幸いアリシアの家の周囲には他の家がなく、草が生えていない地面を選べば、焚き火をするには苦労しなかった。
 そして、いざ焚き火が出来上がると――

「うわぁ」
「こりゃ凄い」
「ふぇー」

 アリシア、マキト、ラティがそれぞれ関心の目つきでそれを見つめる。
 赤いスライムが焚き火の炎を、一心不乱に吸い込んでいるのだ。
 『あー』という擬音が聞こえてきそうな大きな口に、パチパチと爆ぜるオレンジ色の炎が一直線に飲み込まれる。
 見ていると、なんだか面白くなってくる気さえしていた。
 やがて赤いスライムは、炎を吸い込むのを止める。同時にケプッと可愛い音を口から出した。
 そして満面の笑みをマキトたちに向ける。

「ピィピィ! ピピピピィピィッ!」
「助けてくれてありがとう――と言っているのです」
「ハハッ、そうか。元気になって良かったよ」
「ホントね」

 ラティの通訳にマキトとアリシアが笑みを浮かべる。
 そして赤いスライムは、これまでの経緯をラティの通訳を通して語り出した。
 元々は、そこらへんのスライムと同じ水色の体をしていた。しかしある日、体の色が急に変わってしまい、同時に食べる物の好みも激変したのだという。
 いつもの食事が全く美味しくなくなり、食べたいとも思わなくなってしまった。そこで美味しい食べ物を求めて、森の中を彷徨ううちに迷ってしまい、遂には空腹で倒れてしまった。
 そこにマキトたちが通りかかり、今に至るとのことであった。

「なるほどねぇ。でも、それってもしかして――」

 赤いスライムの話を聞いて、アリシアは一つの可能性に思い当たった。

「体が突然変異を起こしたのかもしれないわね。魔物の中には、ごく稀にそういったケースがあるらしいのよ。俗に『亜種』と呼ばれてるわ」
「へぇ、じゃあこの赤いスライムも?」
「多分そうかもね」

 マキトの問いかけにアリシアは頷く。するとここで赤いスライムが、ラティに話しかけていた。

「――えぇっ! それじゃあ、あなたは里のスラちゃんだったのですかーっ!?」
「ピィッ」

 そうだよ、と言わんばかりに頷く赤いスライム。もしかして知り合いだったのかとマキトは感じ取った瞬間、ラティがゆっくりと振り向いてくる。

「この子……わたしの知り合いだったのです」
「だと思ったよ」

 マキトが苦笑すると、更に赤いスライムがラティに話しかけていた。するとラティは慌ててマキトのほうに飛んでくる。

「わ、わたしはもうマスターと一緒にいると決めたのです! だから隠れ里には帰るつもりなんてないのですっ!」
「ピィーッ! ピィピィッ」

 ラティは声を荒げるが、赤いスライムも納得していない様子であり、更に鳴き声で呼びかける。それを聞き取ったラティは、顔をしかめるばかりであった。

「長老さまが心配している……うぅ、それはホントに申し訳なく……」
「ピィッ!」
「あぁもう、分かったのですよ。隠れ里に帰って長老さまに話してやるのです!」

 どうやらラティは何かを決めたようだと、マキトとアリシアは悟る。
 その『隠れ里』なる場所がキーワードであると思っていると、赤いスライムがマキトたちに視線を向け、見上げてきた。

「ピィッ! ピィピィピキキィーッ!」
「え、マスターたちも一緒に?」

 ラティが目を見開いた。その反応を聞いて、マキトも笑みを浮かべる。

「もしかして、その隠れ里って場所に連れてってくれるのか?」
「ピキャッ♪」
「そうだよ、と言ってるのです。助けてもらった恩もあるとかで……」

 流石に想像していなかったらしく、ラティは大きな戸惑いを見せていた。

「あの、本当にマスターたちも一緒に良いのですか?」
「ピキキキィッ、ピィピィピキィーピィ」
「マスターのことは見ていて安心する……確かにその気持ちは分かるのです」

 そんなやり取りを聞いたアリシアは思った。またしてもマキトが、魔物使いとしての力を発揮したのだろうと。
 赤いスライムとのフラグも、しっかり建ててしまったのだと。
 それを自覚しているのかいないのか、マキトは機嫌よく笑みを浮かべる。

「じゃあ、早速その隠れ里に――」

 ――グウウウゥゥーーッ!
 その瞬間、盛大な音が鳴り響く。同時にマキトは腹を押さえた。

「そういえば、まだ朝ごはん食べてなかった」
「まずはご飯食べて、しっかり準備してからじゃないとね」

 アリシアは苦笑しながら、項垂れるマキトの頭をポンポンと撫でる。
 何はともあれ、今日の予定が決まった瞬間であった。

 それからマキトたちは朝食と準備を済ませ、改めて赤いスライムに連れられて隠れ里へ向かうこととなった。
 当然アリシアも、簡易錬金セットを持って同行することに。
 そしていざ出発しようとしたその時――

「ポヨーッ♪」

 いつものスライムが遊びにやってきた。ここで赤いスライムの存在に気づき、ラティから話を聞く。
 そしてスライムも、一緒に行きたいと言い出した。

「……ピィッ」
「ポヨ♪」

 好きにしろ――多分赤いスライムはそう言ったんだろうなと、マキトは思わず笑みを浮かべてしまう。
 赤いスライムがピョンピョンと飛び跳ねながら進み出す。
 その後ろを辿る形で、マキトたちも歩き出した。

(魔物たちの隠れ里か……どんな場所なんだろ? 楽しみだなぁ♪)

 ザッザッと足音を立てて歩きながら、待ち受けているであろう未知なる光景に、マキトは想いを馳せるのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...